ワールド・ウォー Z(2013年アメリカ)
World War Z
僕は本作を観る前に、勝手に戦争映画なのかと思っていたので、
まさかパンデミックを描いた作品だとは・・・と驚きました。結果から言うと、これはこれで面白かったですけどね。
01年に『チョコレート』で高く評価されたマーク・フォースターがパンデミックの恐怖と混乱を描いたわけですが、
やっぱりマーク・フォースターというディレクターは器用な人だなぁと感心させられたというのが実のところですね。
ただね・・・さすがに、その流行する感染症というのが狂犬病のハイブリット版という感じで、
人間がゾンビ化してしまい、その溢れ出るアドレナリンゆえに他の人間に噛みついて感染を広めていくという、
ほとんど『バイオハザード』のような設定で、この映画自体の出来はそこまで悪いものだとは思わなかったけれども、
この設定がどうしても既視感いっぱいなもので、感染が広がる恐怖を主題としたいのかゾンビの恐怖が主題なのか、
どうにもハッキリとしない映画のコンセプトに映ってしまったのが、なんとも勿体ないなぁと思えてならなかったですね。
主演のブラッド・ピットが製作も兼務した作品であって、彼もかなり強く肩入れしていた企画だったのでしょうが、
彼が主人公を演じるにしても、どことなく優秀な感染症対策が専門の元国連調査員というようにも見えないのがツラい。
まぁ・・・07年の『アイ・アム・レジェンド』とかとも被る部分があったので、ウィル・スミスのような俳優とも比較すると
どちらかと言えば、ファミリー想いな父親像を追求していたのだろうけど、ブラッド・ピットらしさも希薄になったかも。
個人的にはもっとインテリジェンスを感じさせるタイプか、いっそのことアクション・スターに任せた方が良かったと思う。
映画のスケールは地味にデカくて、映画の冒頭でパンデミックが明らかになって、
主人公が暮らすニューアークから脱出して、家族共々、空母に避難するところから映画が動き始めて、
最初に感染が報告された韓国の米軍基地、中東、WHOの研究施設がある欧州と世界を巡りながら進んでいく。
ゾンビの動きが超人的に速いし、なんだかよく分からないうちに襲われてしまうことの恐怖、
得体の知れないウイルス・パニックなど、最新の映像技術を駆使して上手く利用しているようには見えたけど、
主人公が世界中を渡り歩きながらパンデミックを食い止めようとする救世主的な働きが、どうにも盛り上がらないことと、
前述したように物語の前提条件が既視感でいっぱいなこと、そして所々に荒唐無稽なアクションがあるのが難点かな。
上手く感染者を隔離していたように思えた中東地区で宗教的な儀式をするかのように
大音量で非感染者が集会を開いていたところ、隔離されていたゾンビたちが刺激されてアドレナリン全開で
凄まじく高い壁をも乗り越えて、非感染者に襲い掛かるシークエンスの気持ち悪さは秀逸であったものの、
そんなピンチから間一髪逃げた主人公が、旅客機で欧州へ逃げようとする中で、やはり感染者が乗り込んでいて、
主人公が爆弾を使って窮地を脱しようとするエピソードは、あまりにメチャクチャ過ぎて、さすがにこれはどうかと思った。
マーク・フォースターも“007シリーズ”を監督したりとアクション映画も手掛けることがあるけど、
さすがにこの旅客機のシーンはもっと考えて撮って欲しかったなぁ。完全に墜落してしまうのは、さすがに“引いた”。
べつに現実感を出さなきゃいけないということはないんだけど、映画の展開が速い作品なだけに
この一連の中東から脱出して欧州へ行こうとするシーンは、作り手も急ぎ過ぎてしまったようにしか見えなかった。
これは脚本の段階でもっと気を配って欲しいし、このピンチを脱するアイデアにはもっと考え抜いて欲しかったなぁ。
だって、墜落の衝撃も普通は半端ないでしょうし、あんだけガッツリと腹部に刺さり込んでいて、
助けを得ながらとは言え、それなりの距離を歩いて行けるなんて、少々飛躍し過ぎた部分を感じずにはいられない。
それにしても...これだけ強烈な勢いで感染が爆発するウイルスですから、
主人公の家族を安全な場所ということで、空母に避難させるのですが、逃げ場の無い空間であるがゆえ、
この避難先はむしろ危険にも思えるのですが、本作では安全な避難場所として描かれていることは興味深い。
かつてのコロナ禍でもそうでしたが、むしろ感染者を隔離するためにこういった空間を使うことが多いですからねぇ。
とは言え、『アイ・アム・レジェンド』と同様に映画の“落としどころ”となるのは、やはりワクチンということになる。
実際問題として、賛否はあったけれどもコロナ禍の出口を作るキッカケとなったのはワクチンであった、
という解釈はあると思うし、現代技術を以ってしても治療薬を短期間で開発することはほぼほぼ無理なことなんですね。
そう思うと、如何に未知の病原体に効力を持つワクチンを短期間に開発できるか、ということは重要ポイントなのだろう。
(とは言え、ワクチンの副反応に苦しんでいる方々もいますので、医学的な検証は必須だと思いますが・・・)
本作を撮った頃には新型コロナウイルスの存在は認知されていなかったし、世界的な長時間に及ぶ
パンデミックを引き起こすものがコロナウイルスであるとも予想されていなかったが、一般には潜伏期間が短く、
致死性が高いウイルスであれば宿主が死んでしまうので、隔離が有効で感染爆発にはなりにくいと考えられている。
それを考えると、本作で描かれたウイルスも感染爆発はしにくそうな気もしますが、
よくよく見ると感染者が死に至るようなウイルスでもないのかもしれませんね。ただゾンビからは戻らないけど・・・。
このウイルスはチョット謎で、宿主の致死性は高くなさそうなんだけど、治療も難しそうなウイルス。
しかも噛まれて血液にウイルスが侵入することで、潜伏期間も異様に短く即座に感染するので驚異的な病原体だ。
見た目はゾンビ化して非感染者に襲いかかるのですが、暴れまくったゾンビが死んでしまうというわけでもない。
しかも、近くに非感染者がいなかったら、まるで廃人のように大人しく静かに漂っているだけというのも、なんだか妙。
実際、映画の終盤に描かれた研究所の所員で感染した者は、非感染者がいなくなったら静かにしてるんですよね。
だからこそ、この感染者を駆逐するのが難しく、近くで物音がすると猛スピードで寄ってくるという凄まじい聴力。
ゾンビ化した感染者を仕方なく殺していく行動力が主人公にはあったけど、これをしていても事態は解決しそうにない。
そうなると、主人公が当初考えていた通り、ワクチンや治療薬といったものに頼るしかないということなんですね。
そこで気付いた不思議な現象というのが、ゾンビも病気の人間は襲わないという謎めいた法則なんですね(笑)。
主人公の最後の決断も、素直にスゴいと思う。と言うのも、映画の前半から主人公はなんとか生き抜こうとする。
それは単に彼自身が生き残りたいということだけではなく、勿論、家族のためということもあるけど・・・
何よりも人類を救うために自身の経験を生かして特効薬を見つけるまでは生きなければ、という想いがあったはずだ。
だからこそ、映画の最後に自らが実験台になるという決断があるのだろうが、ほとんどギャンブルなのがスゴい(笑)。
そして、そのギャンブルの結果、まるで英雄のように悠然と歩いてくる主人公の姿が神々しくすら見える(笑)。
この描き方は賛否が分かれるだろうが、僕はOK。ここでようやっとブラッド・ピットを主演にした理由が分かった(笑)。
おそらくこういったシーンでこれだけ神々しく、それでいてカッコ良さを演出できるのはブラッド・ピットが適任でした。
但し、主人公がマイホーム・パパであるというキャラクターは生かし切れなかったと思いますね。
これはマーク・フォースターも予定調和な展開を嫌ったのかもしれませんが、家族の結束を強調する終わり方なのかと
思いきや、そんな感じの帰結でもなかったあたりが僕には不可解に思えて、主流の流れに乗らないのは分かるけど、
それだったら映画の序盤で何故にしきりに主人公の家族との描写を繰り返したのかが、よく分からなかったですね。
賛否はあるでしょうが、この構成ならば主人公の家族が平和を取り戻す感動で、もっと押しても良かったと思う。
どこか尻切れトンボのようなラストで、それが本作の良さでもあるのかもしれませんが、押しの弱さを感じてしまった。
まぁね・・・これは本質的にはゾンビを描いた映画というわけではないのでしょう。
作り手もゾンビが襲い掛かってくる恐怖をメインに描きたかったというわけではなく、世界的なパンデミックの恐怖と
それを人類がどう英知を結集して乗り越えるかということをメインに描きたかったアクション映画のように思える。
それなりの予算を投じた作品なだけあって、映像技術も駆使しまくりだし、ウジャウジャと沸いて出てくるように
大量に溢れるゾンビの造詣も動きも、正しく圧巻の迫力ではありましたが、そのゾンビの描き方に愛着を感じない。
僕にはどうしても、マーク・フォースターが無感情的にゾンビを描いているように見えて、べつにゾンビ化するという
前提でなくとも彼にとっては良かったのではないかと邪推してしまった。勿論、この原作には興味があったのだろうけど。
確かにこの映画は相応の面白さがあった。十分に楽しめる。しかし、ゾンビ好きなら、本作をどう思うのだろうか?
(上映時間115分)
私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点
監督 マーク・フォースター
製作 ブラッド・ピット
デデ・ガードナー
ジェレミー・クライナー
イアン・ブライス
原作 マックス・ブルックス
原案 マシュー・マイケル・カーナハン
J・マイケル・ストラジンスキー
脚本 マシュー・マイケル・カーナハン
ドリュー・ゴダード
デイモン・リンデロフ
撮影 ベン・セレシン
編集 ロジャー・バートン
マット・チェッセ
音楽 マルコ・ベルトラミ
出演 ブラット・ピット
ミレイユ・イーノス
ジェームズ・バッジ・デール
デビッド・モース
ダニエラ・ケルテス
ルディ・ボーケン