評決(1982年アメリカ)

The Verdict

この映画は何度か観ているのですが、観る度にジワジワと良さが分かってきた気がする。傑作だと思います。

この頃のシドニー・ルメットの監督作品は、作品による振れ幅が大きい印象があったのですが、
本作は社会派映画のお手本のような作りで、派手さはないけれども、しっかりと見せてくれる法廷劇だと思う。
タイトルにもなっている通り、この映画はどういう経緯を経て評決に至るのについてフォーカスして描いています。

本作の主人公は飲んだくれのアルコール依存症である初老の弁護士ギャルビン。
彼はかつて仕事で失敗し、まともに仕事を得られないことから昼間っから浴びるように酒を飲みまくって、
毎夜バーへ通っている。スキマ時間を見つけては新聞に掲載される“お悔み”欄を読んで、勝手に葬儀に参列して、
「何か困りごとがあったら相談してください」と売名のために名刺を置いてきて、遺族から顰蹙をかうという非常識野郎。

ポール・ニューマンが演じるには珍しいくらい、人間的な魅力ゼロという主人公で共感されないキャラクターです。

しかし、そんな彼でも幸運にも舞い込んできた医療ミスに関する事故訴訟で、弁護を担当することになる。
出産時の麻薬投与の医療ミスが疑われる事故で、原告側である患者は意識不明の植物人間状態で、胎児は死亡。
時間も費やされ、経済的にも困窮が予想される展開に、患者の家族は早々に病院側との示談を望んでいる様子。

教会がバックについた病院で起きた医療ミス疑惑であり、教会は示談金として21万ドルという高額な金額を提示。
しかし、それ自体に違和感のあったギャルビンは次第に、彼の中での正義が甦ってきて、原告の家族に無断で
示談を拒否して病院側と対立。スゴ腕弁護士を雇った病院側の、何でも有りな妨害行為に遭って、彼は苦悩します。

ここだけ聞くと、原告家族の意向を無視するかのように、勝手に病院側と対立して
家族に無断で示談を拒否して法廷に持ち込むなんて、現実的にはギャルビンのやっている行為はご法度であると思う。
これは裁判で勝てるからいいとか、ギャルビンの中の正義と合わないとかそういう問題ではなく、クライアントである
患者の家族とロクにコミュニケーションをとらずに、あたかも“自分の裁判”であるかのように扱っているのは問題がある。

とまぁ・・・細かなことを指摘すれば、正直、キリがない映画だとも思うのですが...
それでも、ギャルビンが奮起して仕事にまい進する姿は何とも眩しく映る。そして、弁護のための調査もかく乱され、
挙句の果てには妨害され、そして肝心かなめの法廷を仕切る裁判長はどう見ても病院側の見方しかしない偏りぶり。

普通に考えれば、これで正当な裁判など受けられるはずがなく、審議の結論も決まっているように見える。
いくら裁判員がいても、これでは法廷での論調は恣意的に裁判長が制御してしまうので、まともな裁判にならない。

それでもギャルビンはそんな逆境に抗議しつつも、信念を持って立ち向かっていく。
スタートは問題ありまくりなんだけど(苦笑)、それでも本作でシドニー・ルメットが一貫して描きたかったことは、
酒浸りでどうしようもない人間に落ちぶれていたギャルビンの再起だろう。このアプローチは一貫していて素晴らしい。

そして、この映画、アンジェイ・バートコウィアクのカメラが絶妙だ。まず、冒頭の撮り方からしてシビれるカッコ良さ。

ギャルビンが毎日のように時間つぶしをするバーで、昼間っから彼は酒を飲みながらピンボールに明け暮れる。
そんな様子をローキー撮影で、ギャルビンのシルエットをあぶり出すかのように少し突き放してカメラに映している。
まるで、シドニー・ルメットが「昼間っから、こんなことしてるヤツが弁護士だってよ」と揶揄的に描いているようでもある。

でも、通俗的な言い方にはなってしまうけど...そんなギャルビンの姿がダメ男のカッコ良さとも映る。
天下のポール・ニューマンがこういう男を演じること自体、当時の感覚から言えば、予想外でもあったのではないかと。

そして、もう一つ。映画の中盤にギャルビンが昏睡状態にある患者をポラロイドカメラで撮影するシーンがある。
これもポラロイド写真が急激なスピードでクリアになる。これは今で言うタイムラプスのように早回しで撮ったのか、
どうやって撮ったシーンなのかはハッキリとしませんけど、まるで殺人現場の証拠のように無感情的に撮影される、
そんなやるせなさを象徴させたようなシーンでもあり、他のシドニー・ルメットの監督作品には無かったようなシーンだ。

実際問題として、このシーンは昏睡状態にあって当然言葉を発することがないベッドに横たわる女性患者を見て、
ギャルビンは事務的にポラロイド写真を無言で撮るだけですけど、ただの飲んだくれの自堕落な生活を送っていた
ギャルビンが彼の中での正義が再び奮い立たせられる一つのキッカケが描かれた、とても大事なシーンだったと思う。

キャスティング的にもポール・ニューマンは言うまでもないが、病院側が雇ったスゴ腕弁護士である
コンキャノンを演じたジェームズ・メーソンは名演技で、プロの弁護士という感じ。裁判に勝つノウハウを持っている。
彼の頼もしくも、勝つためなら手段を選ばぬ弁護士稼業のダークサイドを秘めた存在感は、何物にも代え難い。

それから、ギャルビンに近づいてくるミステリアスな女性ローラを演じたシャーロット・ランプリング!
彼女の存在感はピカイチだ。70年代は『愛の嵐』のセンセーショナルさ、『さらば愛しき女よ』の強過ぎるフェロモンなど
彼女の美貌で押し出していたイメージが強かったんだけど...本作でも彼女はキレイとは言え、今までは一味違う。

悪く言えば、中途半端な部分があると言えば、それは否定できないのだけれども、
感情的にギャルビンを支配しようと試みるも、ギャルビンの孤独に触れて、その間で揺れ動く謎の女性を好演している。
あまり語られることはないのだけれども、本作は彼女の出演作の中でも有数の存在感だったと言っていいと思います。

女性キャラクターでこういう存在感を演出したのは、シドニー・ルメットの監督作品ではこれも珍しいように感じます。

それにしても...自分がギャルビンの立場で弁護士として法廷に立っていたら、
あんな裁判長のもとではまともに出来ないでしょうね。事前のすり合わせの時点で示談を強く勧めてくるなど、
まったくもって中立な立場ではなく、被告側に立ってしまっているし、これは裁判に入っても全く変わらないという有様。

幾度となくギャルビンも反発しますが、状況的には圧倒的に不利な立場であることは変わらず、
しかも裁判長という立場を悪用しているようにも見える。この姿を見ていて、傍聴者も誰一人疑問に感じない不思議。
思わず、「こんな不条理なことがあっていいのか?」というメッセージ性がある映画なのかな?と勘違いしちゃう。

しかし、この裁判のおかしさというのは誰しも感じるところだったのだろう。ギャルビンが抱え込んでいた、
怒りや憤りのような感情を晴らすかの如く、最後の最後に人間の良心を描いているのはシドニー・ルメットらしいところ。

普通に考えると、これだけ不利な裁判の情勢だっただけに陪審員がどんな話し合いをして評決に至ったのか、
ある程度はキチッと描いた方がいいと思うところなのですが(笑)、シドニー・ルメットからすれば『十二人の怒れる男』で
それは既に描いてしまったから、全く気にしてなかったのかもしれず、それよりも絶対的に不利な状況であっても、
一人敢然と巨悪に立ち向かう主人公をドキュメントすることで、一人の男の再生を描きたかったのではないかと思う。

でも、これは結果的に正解だったかもしれませんね。あんな酔っ払いの自堕落な弁護士の復活劇なのですから。
やっぱり、最後の評決には驚かされるものがあったし、派手さはないもののラストの渋い味わいは絶妙なものがある。

まぁ、これは本業の弁護士から見れば、ギャルビンはあり得ない存在なのかもしれない。
あまり現実世界に照らし合わせたり、コンプライアンスで考えると本作は否定される部分もあるのだろうけど、
それでも本作のシドニー・ルメットは否応なしにギャルビンというキャラクターを押し通す、強さがあると思うんですよね。

賛否はあれど、本作はシドニー・ルメットの監督作品としては80年代では有数の出来の傑作だと思います。
82年度のアカデミー賞で作品賞をはじめ、主要5部門でノミネートされましたが一つも受賞に至らず、これは残念。
おそらくですが...当時のポール・ニューマンは“無冠の名優”でしたので、並々ならぬ想いはあったでしょうしね。。。
(後の86年に『ハスラー2』でアカデミー主演男優賞を受賞するのですが、本作も十分に良かったんだけど・・・)

どうでもいい話しではありますが・・・
映画の後半でギャルビンが行きつけのバーで、カウンターに置いている生卵を割ってビールに入れて飲んでいる。
これって、いわゆる“エッグ・ビール”というやつで日本では見慣れない飲み方ですけど、カクテルの一種らしい。

もう『ロッキー』ばりの飲み方をするんで、あまりのインパクトの強さに最初に観たときに衝撃を受けましたが、
実際にこういう飲み物があると知って、更に驚かされました。元々は二日酔いを防ぐと言われていたようですね。

(上映時間128分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 シドニー・ルメット
製作 リチャード・D・ザナック
   デビッド・ブラウン
原作 バリー・リード
脚本 デビッド・マメット
撮影 アンジェイ・バートコウィアク
音楽 ジョニー・マンデル
出演 ポール・ニューマン
   シャーロット・ランプリング
   ジェームズ・メーソン
   ジャック・ウォーデン
   ミロ・オーシャ
   エド・ビンズ
   リンゼー・クローズ
   ロクサーヌ・ハート

1982年度アカデミー作品賞 ノミネート
1982年度アカデミー主演男優賞(ポール・ニューマン) ノミネート
1982年度アカデミー助演男優賞(ジャック・ウォーデン) ノミネート
1982年度アカデミー監督賞(シドニー・ルメット) ノミネート
1982年度アカデミー脚色賞(デビッド・マメット) ノミネート