ラスト・シューティスト(1976年アメリカ)

The Shootist

往年の西部劇スターであるジョン・ウェインの遺作となりました。
これは僕の中では、ハリウッドで作られた正統派な西部劇の終焉を象徴した作品というイメージですね。

そんな作品を当時、マカロニ・ウエスタンでスターとなったイーストウッドがハリウッドで師と仰ぐ、
ドン・シーゲルが撮ったというのも、なかなか興味深く、これは内容的にもとても渋い西部劇と言ってもいい。

映画の中身的には、撮影当時、実際に体調がかなり悪かったジョン・ウェインが
自分自身の健康状態と重ね合わせるかのよう役柄で、末期がんに侵された人殺しで有名な老ガンマンを描いていて、
映画が進むにつれて、彼の病状は悪化していき、クライマックスにはまるで最後の賭けであるかのような
ガン・ファイトに老体に鞭打って赴く。ジョン・ウェインは、そんな痛々しいまでの姿をカメラに敢えて撮らせたように観え、
まるで自分自身で西部劇の歴史に、一つの区切りを付けさせるかのように、華々しくも寂しげにエンドロールを迎える。

このクライマックスに居合わせる若者には、後に映画監督として大成するロン・ハワードが出演していますが、
当時のジョン・ウェインには、彼のような若手俳優に西部劇を託したいという意図もあったのかもしれません。
が、しかし...結果的にはやはりこの映画のラストで、ハリウッドの西部劇は一区切りを打たれたという気がします。

これは、ほぼほぼジョン・ウェインの闘病記が重なる映画であると言っても過言ではなくって、
さすがに実際に体調が悪かったのか、ジョン・ウェインの動きも良くはないし、ホントに顔色も悪い感じがします。

実際、本作撮影当時のジョン・ウェインは一旦、癌は寛解していたとのことで、この3年後に他界しています。
動きが良くないように見えたのは、さすがに高齢だったので仕方ない部分もあるかもしれませんので、
役作りをしていたのかもしれませんが、往年の西部劇ファンからすれば、本作はある種の愁嘆場と言っていい作品だ。

興行的には成功しなかったとは聞くけれども、本作の存在はハリウッド映画史に於いて、極めて重要な存在と思う。

主人公が頼るホステトラー医師を演じたのが、『リバティ・バランスを撃った男』で共演したジェームズ・スチュワートで
彼もまた若くはないし、顔色がそんなに良くないんだけど(笑)、この医師が主人公に命が長くはないことを告げます。
すると、主人公はホテルを営む女性の家で部屋を借りて、少しずつ自らの最期を意識して、あらゆる準備をします。

ここで印象的なのは、今の時代では絶対に理解されてない価値観なのだろうけど、
ホステトラー医師は自死を検討することは恥でもなんでもないと、医療の限界を説明しつつ自死を薦めるかのよう。
これは現代で言う、安楽死の感覚に近いのかもしれませんが、現代では医療倫理的には賛否が分かれるだろう。
ただ、医療技術が発達していない時代だと、癌を患っての死はなによりも苦痛であっただろうし、まだ分からないことが
現代医療と比較しても、格段に違う時代で診断技術も発達してませんでした。そんな水準で、苦痛でしかない死と
真正面からぶつかるよりも、穏やかで安らかな死を平穏に迎えるという観点では、一つの選択肢であるということだ。

自分の最期はとても個人的なもので、他人に干渉されたくないとする主人公ではあるものの、
主人公は悪名名高いアウトローとして知られていたために、町の保安官が幾度となく嫌味を言いに来るのですが、
なかなか彼の思う通りに、最期の時間を過ごすことが叶いません。そんな中で、主人公にとって心許せる女性として、
ローレン・バコール演じる宿主との交流が描かれるのですが、彼女との交流も長くは続かないという寂しさがあります。

そんな悪名高い主人公が町にいることを知って、自身の名誉のために彼の命を狙う者が現れ始めます。

年老いても、末期がんに侵されていても主人公の腕っぷしは強いという設定なので、刺客を倒していきますが、
そんな不穏さに女性宿主は当然、快く思うわけがありません。映画で描かれる限りでは、主人公がそこまでの
悪党は思えないけど、たくさんの人間を殺したという事実はあるということなので、過剰にレガシーが磨かれたのだろう。

末期がんに侵された主人公にホステトラー医師が、アヘンチンキを渡しますが、アヘンは言うまでもなく麻薬です。
ただ、そのアヘン末をアルコールに溶かした飲用の薬であり、アメリカでは規制されているわけではないようだ。
日本では「あへん法」があることもあって、かつてから処方されていたが、別な鎮痛作用のある薬に置き換えられ、
メーカーからは既に販売中止が告知され、実質的に日本の医療界でアヘンチンキが使われることはなくなりました。
とは言え、調べたら販売中止になったのは2024年ということなので、ついこの前まで使われたことに驚きでした・・・。

ジョン・ウェイン演じる主人公はそんなアヘンチンキを酒代わりに飲んでいるように観えますけど、
おそらくそんなに旨いものではないのだろう(苦笑)。それでも常習性があるということなので、侮れませんがね・・・。

映画のクライマックスでは、本作唯一の激しめのガン・ファイトが描かれるシーンがあります。
ジョン・ウェインの映画ですから当然ではあるのですが、往年のファンからすると多少なりとも物足りなさはあるだろう。
それゆえか、本作は興行的に失敗したのでしょうけど、このクライマックスはジョン・ウェインのラスト・メッセージだ。
まるで、長年彼を応援してくれたファンに対する挨拶であるかのように、印象深い散り際に涙する人もいるでしょうね。

それくらい、本作のエンディングは感慨深いものがあります。既に西部劇のブームは終わっていた頃ですが、
これは敢えて西部劇の黄金時代に一区切りを付けた作品という感じで、それをドン・シーゲルが撮ったから面白い。
確かにドン・シーゲルはアメリカン・ニューシネマで活動していた映像作家ではないけど、西部劇のイメージは強くない。

そんなドン・シーゲルがこんなに渋い西部劇を撮っているのだから驚きだ。もっとソリッドな映画なのかと思いきや、
愁嘆場を迎えつつある老ガンマンの最期を描いている作品で、少々、センチメンタルな気持ちにもさせられますしね。
いろいろな意見はあるかとは思いますが、あまりドン・シーゲルらしい映画を期待すると肩透かしを喰らうと思います。

ただ、どうやら当初は主人公役にイーストウッドという話しも出ていたそうですけど、
僕はこの映画の主人公にジョン・ウェインをキャスティングできたからこそ、その価値が上がったとおもうので、
これで良かったのだと思います。おそらくドン・シーゲルも、西部劇の時代に区切りを打つ作品になると思っていたはず。
だからこそ、主演はジョン・ウェインで描いて初めて意味があると思うのですよね。こんなこと、なかなかありませんよ。

しかし、敢えてこういう言い方をさせてもらいますけど...これは明らかに一般ウケするタイプの作品ではない。
やっぱり西部劇の歴史をトレースしてきた人で、特にジョン・ウェインとジョン・フォードの全盛期を愛する人に送る、
ジョン・ウェインからのラスト・メッセージであり、ドン・シーゲルなりのリスペクトが込められた企画であったのでしょう。
そういった背景を知る人にとっては意義深い作品だと思いますが、そうでない人にとっては内容的にキビしいと思う。

劇場公開当時、本作が興行的に失敗してしまったというのは、既に西部劇がメインストリームに無かったからだと思う。

また、ジョン・ウェイン自身にそういった気があったのかは分かりませんが、本作で象徴させた世代交代として、
血気盛んな若者を演じたロン・ハワードが、俳優ではなく映画監督として大成していくなんて、これも皮肉なものだなぁ。
ひょっとしたら、次世代の役者としてジョン・ウェインもロン・ハワードをプッシュしたいと思っていたのかもしれないです。

映画のクライマックスで、主人公がバーに乗り込んで行くシーンは本作のハイライトなのでしょうが、
冷静に考えれば、半分殺されるのを分かって末期ガンに侵された老ガンマンが飲みに行くなんて理解できない(笑)。
それでも、人生の最期まで自分を貫く姿が尊いというメッセージでもあるのかもしれませんが、共感されにくいだろう。
色々な意見はあるだろうが...もっと上手い描き方はあっただろうし、活劇にこだわって欲しかった気持ちはあります。

名優ジョン・ウェインの遺作としては相応しい作品ではあったのでしょうけど、残念ながら傑作とまでは言えない。

が、しかし...繰り返しになりますが、僕の中ではただそれだけで本作の価値を語るのは尚早な気がします。
おそらく、運命的なものもあったかとは思いますが、西部劇の代名詞であるジョン・ウェインが本作のような内容で
自らの最期を演じるなんて、あまりに出来過ぎた名優のフィナーレと言っていいし、これで西部劇は一つの区切りだ。

おそらく、ジョン・ウェインも健康状態は悪いという自覚はあったのでしょうから、
いつ出演作品が遺作となっても不思議ではないという想いはあったのでしょうから、こういう世代交代をテーマに
老ガンマンの最期を自ら演じるという、これまでのジョン・ウェインが演じなかったような役を引き受けたのでしょう。

それにしても、この頑固者の主人公もホステトラー医師の言うことだったら聞く、ということなんですね。
なんとも物悲しくも皮肉なラストではありますが、このラストの表情にジョン・ウェインの想いが込められていると感じます。

(上映時間99分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ドン・シーゲル
製作 M・J・フランコビッチ
   ウィリアム・セルフ
原作 グレンドン・スウォーサウト
脚本 マイルズ・フッド・スワザウト
   スコット・D・ヘイル
撮影 ブルース・サーティース
編集 ダグラス・スチュワート
音楽 エルマー・バーンスタイン
出演 ジョン・ウェイン
   ロン・ハワード
   ジェームズ・スチュワート
   ローレン・バコール
   リチャード・ブーン
   ヒュー・オブライエン
   ビル・マッキーニー
   ジョン・キャラダイン
   ハリー・モーガン
   スキャットマン・クローザス

1976年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート