さらば愛しきアウトロー(2018年アメリカ)
The Old Man & The Gun
これはなんとも不思議な魅力を持った作品だ。俳優ロバート・レッドフォードの実質的なラスト・メッセージだろう。
年老いた男たちのチームが銀行強盗を繰り返していて、それを一人の刑事が追っていくというストーリーですが、
主人公を演じたロバート・レッドフォードが、少年時代から脱走の名人で不思議と捕まる度に何度も脱獄や脱走し、
一般社会の生活に紛れては捕まって、また脱走するということを繰り返している“アウトロー”な老人を演じています。
映画はどことなく、70年代のニューシネマ期の映画のような古臭さがあって、それがたまらなく良い(笑)。
いや、この古臭いというのは僕なりに褒めてるつもりでして...今となっては、この感覚をなかなか出せないですよ。
個人的には撮影当時、80歳だったロバート・レッドフォードがチョットした恋心にも似た感情を表現する相手役となる、
ハイウェイで車が故障して困っていた女性役でシシー・スペーセクというキャスティングをしただけでも驚いたのですが、
なんと強盗チームの中にトム・ウェイツまでいるじゃないですか。なんか、久しぶりに映画で観た気がして、驚きでした。
ロバート・レッドフォードに、シシー・スペーセク、ダニー・グローバー、トム・ウェイツと魅力的なキャストもありますが、
やっぱりこの映画は何とも言えない“漂っているような”感覚がある映像が良いのではないかと感じていますね。
こういう感覚を持った映画というのは、70年代はスゴく多かった印象です。特に夜の街を映したシーンは独特な感じだ。
刑事から「黄昏れギャング」と名付けられた老人たちの銀行強盗チームは、入念なリサーチを重ねた上で
いつも同じような脅し文句と手口で、静かにお金を奪っていって、騒ぎになる前に颯爽と事件現場を去っていきます。
その犯行手口は鮮やかでありながらも、老獪な部分を兼ね備えていて、そして全く暴力を使うことなく成功させます。
そんなキャラクターにロバート・レッドフォードのスマートなイメージがピッタリという感じなんですけど、
この程よいアウトロー感がレッドフォードが若手俳優の頃から演じ続けてきたキャラクターでもあり、一貫していますね。
そんな若い頃から彼が演じ続けてきたスタイルで、レッドフォードはラスト・メッセージとしたのだからカッコ良過ぎる。
実際、本作でレッドフォードは俳優引退宣言をして実質的な遺作となったのですから、これはこれでドラマチックですね。
この映画のハイライトとも言える、主人公が警察に包囲されて捕まるシーンで手で拳銃を撃つフリをするシーンで
レッドフォードが見せるイタズラっぽい笑みを浮かべた表情こそ、世界中の映画ファンへ向けたラスト・メッセージだろう。
チョット驚いたことに、これは実話をモデルとした物語なのですね。実在の銀行強盗フォレスト・タッカーを
モデルとしていて彼は70歳を過ぎて銀行強盗を行っていて、誰一人傷つけることなく強盗に成功させていたとのこと。
本作で描かれたエピソードがどこまで事実に基づいているのかは分かりませんが、これはスゴいことだと思います。
日本のテレビドラマでもかつて老人だけの強盗を描いたドラマもあったような気がしますけど、本作のカッコ良さは別格。
まぁ、本作は少しコメディ色が入ってますけど年老いた男たちの銀行強盗という要素だけに依存せずに、
主人公の生きざまをキチッと真正面から描いたのが良い。そんな中で、チョットした可愛らしさもエッセンスとして加える。
その塩梅がとても丁度良くって、前述したシシー・スペーセク演じる女性とのチョットしたロマンスもグッとくる情感だ。
そんな女性も捕まった主人公と面会して、無理に脱獄を促さないのも印象的だ。
要は若い頃のようには上手くいかない、これも運命なのよと忠告するかのようだ。やはりオンナは一つ上を行っている。
それだけでなく、主人公が高価なアクセサリーをブティックに見に行くシーンで、試着したまま店を出て行くのですが、
店から歩いて行く途中で彼女がなんとなく目配せして主人公に思い止まらせ、彼女を巻き込めないなぁと思わせて
店に戻るというエピソードも印象的で、主人公も惚れたオンナには勝てず、自分を押し通すことができない少年のよう。
そんな女性も、馬を飼うことに憧れを持っているというのは、如何にもレッドフォードが演じる世界観だ。
これはレッドフォードもカウボーイを演じたりと、70年代からは一つのライフワークであるかのように演じてきた役です。
21世紀を迎え長く時間が経過した時期に製作された作品なので、いささかレッドフォードも年をとり過ぎた感はあるが、
老いてもフロンティア・スピリッツを感じさせる生き方を体現することは、レッドフォードのライフワークでもあったのだろう。
劇場公開当時、本作は評論家筋にも好評でそれなりに評価された作品とのことで、個人的には嬉しいですね。
時代は大きく変わって、ハリウッドをはじめ映画産業も変容しつつありますが、こういう作品が評価されることは嬉しい。
いや、と言うか...こういう映画の良さは不変的であって欲しいし、これこそが奇をてらわない映画の凄みでもある。
思わず原理主義者みたいなことを言ってしまいますが(苦笑)、そう言いたくなるくらい久しぶりに好感を持てた作品だ。
そんな主人公を追い続ける刑事を演じたケイシー・アフレックも悪くない。終始、精神的に疲れてる感じなのも印象的。
この漂っているようなカメラの感覚にシンクロするように、ずっと彼は気ダルそうな雰囲気を醸し出して一貫している。
さすがに、この刑事が妻と夜中に出掛けたダイナーで偶然、主人公と遭遇してレッドフォード側からトイレで接触して
言葉を交わすというシーンはやり過ぎな気がしたけど、まるで親子であるかのように主人公が親しみを感じているよう。
ただ、さすがにレッドフォードも撮影当時80歳を過ぎていたせいか、体力的にキツかったのかもしれない。
見た目にはまだまだ若々しいんだけど、どうしても動きがキツい。そのせいか颯爽と現場を立ち去る姿は良いけども、
チョットしたカー・チェイスなどになると、動きはしんどそうだ。が、そりゃ当然で、だからこそ引退を決意したのだろう。
個人的には80年代以降はどちらかと言えば、映画監督としてやプロデューサーとしての仕事のウェイトを増やして、
70年代までの猛烈な勢いで映画俳優といて活動することが無くなってしまっただけに、ニューシネマ好きとしては
80年代以降のレッドフォードには物足りなさを感じてもいたし、どちらかと言えばメロドラマのような映画に多く出演して、
カリスマ性が失われてしまったようにも思えてならなかったのだけれども、それでも彼の俳優引退宣言は寂しかった。
それだけでなく、まさか本作の引退宣言が最後となり、2025年に他界してしまったとは残念でならない。
勿論、年齢的に考えれば早逝ではなく、素晴らしい人生をまっとうされて、映画界を駆け抜けたことには間違いない。
しかし、個人的な想いがあったからこそ、前述したレッドフォードが包囲する警官隊に向けて
手で銃を撃つフリをするスローモーションのカットには、名残惜しさを感じずにはいられなかったし感慨深かったですね。
監督のデビッド・ロウリーもよく頑張って演出してますが、結局はこの映画、このカットで全てが決まった感がありますね。
この映画に一つだけ自分が求めるものと違ったのが、邦題に“愛しきアウトロー”という文言を使っているだけに、
主人公にある種のピカレスク・ロマンのようなものを感じさせる内容であって欲しかったかな。そんな感じではないので。
そういう意味では、誰も痛めつけないというポリシーは分かるんだけど、主人公の悪党な面ももっと描いた方が良かった。
何度も何度も捕まっても脱走・脱獄を繰り返して、それでもまた強盗を行ってしまう主人公はある意味では病気ですね。
窃盗も依存症のように繰り返す人がいることは報じられてしますが、本作の主人公も似た部分があると思います。
そうなだけに精神依存を繰り返してしまう、若しくは分かっていつつも犯罪に手を染めてしまうダーク・サイドな部分を
もっとしっかりとクローズアップして、主人公の悪党な面もしっかりと描くことで、映画に違った魅力が吹き込まれたかと。
作り手のビジョンそのものがピカレスク・ロマンではなかったのだろうし、実話をモデルにしているので
そこまで派手な脚色もできなかったのだろうとは思いますが、映画にインパクトがあった方が良かったと思いましたね。
同じ年に作られたイーストウッドの『運び屋』も似たような内容でしたが、こういう映画が多く作られるというのは
ハリウッド・スターも高齢化した証左なのかもしれません。特に1930年代生まれで、60〜70年代にかけて活躍した
スターたちは若い頃に不摂生してそうだったけど(笑)、妙に長生きしているスターが多いような気がしますねぇ。
まぁ、レッドフォード自身がプロデュースに参加した作品なので当然と言えば当然ですが...
本作はレッドフォードのために用意された企画という感じですし、こういう引退作品が撮れるというのは幸せなことです。
まるでプロ野球選手の引退試合のような感覚ではありますが、ラストシーンも笑顔で終わるというのも実に素敵なこと。
敢えてレッドフォードも最後に死を演じることは選ばなかったのかもしれませんね。最後は明るくいこうという感じで。
シリアスに描こうと思えば出来たのだろうし、主人公を悪党にしようと思えば出来た。しかし、敢えてそうはしなかった。
これはレッドフォードの意向でもあるのだろう。僕の考えとは違ったけど、これはこれで受け入れられるものではあった。
映画の出来自体も決して悪いものではなく、この老練した作りがなんとも絶妙な塩梅で懐かしい画面だ。
監督のデビッド・ロウリーも企画に恵まれたこともありますが、とてもよく頑張ったと思いますし評価されていいと思う。
(上映時間93分)
私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点
監督 デビッド・ロウリー
製作 ジェームズ・D・スターン
ドーン・オストロフ
ジェレミー・ステックラー
アンソニー・マストロマウロ
ビル・ホールダーマン
トビー・ハルブルックス
ジェームズ・M・ジョンストン
ロバート・レッドフォード
原作 デビッド・グラン
脚本 デビッド・ロウリー
撮影 ジョー・アンダーソン
編集 リサ・ゼノ・チャージン
音楽 ダニエル・ハート
出演 ロバート・レッドフォード
ケイシー・アフレック
ダニー・グローバー
シシー・スペーセク
トム・ウェイツ
ティカ・サンプター