黒い絨毯(1954年アメリカ)

The Naked Jungle

バイロン・ハスキンの代表作とも言える、特撮SF映画が流行り始めた時代の古典的作品。

汗臭そうで野性味溢れる男、全開のチャールトン・ヘストンが主演で彼のキャリアでもピークだった頃だろう。
映画は単純明快なストーリー構成になっていて、南米のアマゾン奥地で若い頃からプランテーション農園を経営して
大成功を収めたクリストファーという男が築き上げた王国のような居住地で、100年に1回襲来してくると言われる、
「マラブンタ」と言われる人食い蟻の大群の襲来に備える様子と、彼の結婚に関するドラマを絡めて描いたSF映画だ。

まぁ、このB級テイスト全開な味わいを真正面から楽しめる人が観るべき作品だと思うんだけど、
それを差し引かずとも、僕はこの映画の出来には感心できなかった。特撮の技術が確立して、「あれもできるんだ」と
当時の技術スタッフたちがこぞって、色々な映像を作り上げた歴史を残す作品でもありますが、あまり盛り上がらない。

映画の焦点は「マラブンタ」の襲来のパニックであるにも関わらず、実質的な映画のメインではないのが残念。

上映時間は95分と短い作品ではあるのですが、映画の始まりから約1時間にわたってクリストファーが
兄にお願いしてニューオーリンズに“手配”してもらった結婚相手が単身でアマゾンの奥地までやって来て、
この2人が文明と原始世界の感覚の対立を延々と繰り返し描いていて、60分経ってやっと「マラブンタ」が語られる。
でも、そこからもまだ時間がかかって、「マラブンタ」襲来のパニックという本質を突くのが、ラスト15分のみという構成。
さすがにこれでは、パニックSF映画という体裁を保つのが難しく、まったく別な映画ではないかと疑念を持ってしまう。

特に前半のクリストファーと新妻のやり取りは冗長。ヒロイン役のエリノア・パーカーはキレイな女優さんですが、
野性味溢れるチャールトン・ヘストンとのコンビは少々アンバランスな感が拭えず、彼女がイマイチ輝かないのも残念。

だいたい、このクリストファーという男が開発一辺倒で生きてきたから女性に対して不器用なのはいいとしても、
もの凄い亭主関白な男で、20世紀初頭という時代設定であったとしても、観ていて結構な違和感を持たざるをえない。
やれ「ピアノを弾け」だの「なんで演奏をやめたんだ?」だの「コーヒーを煎れろ」だのと、やたらと命令口調で特長的。

まぁ、この時代だったらあり得るキャラクターではあるんだけど、かなり一方的なクリストファーの振る舞いに
どこまで付いて行けるかがポイント。ヒロインのジョアンナにしても、いくら金持ちだと聞かされていたとしても、
話しに聞いただけで結婚を決めて、文明的な生活を送っていたニューオーリンズから遠く離れた南米アマゾンに
一人でやって来るという、とても勇気のある選択をした女性だ。それでいて、彼女が離婚した経験があると言い、
過去との訣別を決意して強い覚悟も持って来ている。強烈に亭主関白なクリストファーに戸惑いつつも理解しようとする。

いくらクリストファーと意見が衝突しようとも、冷たく扱われようとも、彼女は自分から帰るとは決して言おうとしない。
これは新たな生活に賭ける強い思いがあったからこそで、そんな新たな生活がスムーズにいかないヒロインの
境遇を思うと同情的になってしまいます。それでいてクリストファーの不器用さを理解しようとするなんて、ホントに凄い。

しかし、映画が進むにつれて、「なんでオレの香水を使わないんだ!」とクリストファーが激高したりして、
上手くいかないことを悟ったクリストファーは一方的に、ジョアンナをニューオーリンズへ帰らせるように仕向けます。
これに納得できないジョアンナではありますが、クリストファーは周囲の人々にジョアンナが帰国することを宣言します。
そこでクリストファーはジャングルへ出掛けるついでに、ジョアンナを郵便船に乗り継がせて帰国させようとします。

このお出掛けがキッカケでクリストファーは、噂にあった「マラブンタ」の襲来が間近に迫っていることを察知し、
慌てて自邸へジョアンナを連れて戻ることにしたクリストファーは、「マラブンタ」撃退のための準備を整えようとします。

映画はこの時点で既に上映時間の8割は終わっているような感じで、『宇宙戦争』で大成功を収めた
バイロン・ハスキンとジョージ・パルの名コンビが撮った特撮SF映画となれば、どんなに怖いパニック劇があるのかと
大きな期待を抱かれていたと思いますが、本作は全くそんな感じではなく、最後にオマケ程度にあるだけなんですね。

ありきたりな意見かもしれませんが...やはり本作の場合は、もっと「マラブンタ」の襲来の恐怖を描くべきでした。
あまりに目玉となるはずだった、パニックとグロテスクさが足りずに思わず拍子抜けだったという感想だったのが本音。
双眼鏡で見た、「マラブンタ」の大群が地面を“黒い絨毯”のように覆い尽くす映像だけでは、グロテスクさが伝わらない。
オマケにダメ押しだったのは、「マラブンタ」が人食い蟻という設定で襲われた人間が白骨化しているという設定だ。

人間が襲われるシーンの映像表現も、後半にあるにはあるのですが、どことなく悪い意味でチープで
それは仕方ないにしろ、観ていても五感に訴えるようなグロテスクさを一切感じさせない感覚でしかないことが残念。
ここはもっと観客に瞬間的なショックを与えないと。それは別に見掛け倒しでもいいのです。力強い演出が欲しい。
それが映画の最後の最後まで、本作は控え目。そして、申し訳なさげ程度にがい骨を登場させて、終わってしまう。

これを見て、「グルーバーだ...」と絶句するかのようなチャールトン・ヘストンの芝居も、なんだか虚しい・・・。

地面を覆い尽くして、水攻めにされても水面が真っ黒になるくらいの大群である「マラブンタ」の描写はまずまずかな。
これは当時の特撮技術の集大成でもあったのかもしれませんが、作り手のやりたい画面ではあったのでしょうね。

この「マラブンタ」の退治方法として、クリストファーは堰き止めている水を放出して水死させようとするのですが、
「マラブンタ」も本能なのか何なのか分かりませんが、とても賢く枯葉を伝って、なんとか生き延びようとします。
こういう能力を持っている以上は、「マラブンタ」を撃退することは容易ではない。だからこそ、大群を映した映像は
とても大きな脅威であるような印象を観客に与えなきゃいけないと思うのですが、それは成功した映像だと思いますね。

しかしね...てっきりクリストファーの邸宅内に「マラブンタ」が侵入してくるなどして、
クリストファーと共にジャングルに冒険に出たジョアンナも襲われるシーンがあるのかと思いきや、それはお預け(笑)。
映画の終盤では、邸宅に戻ったジョアンナが寝ている間に、ひとしきりのパニックが終わった後というのが微妙(苦笑)。

そう、欲を言えばチャールトン・ヘストンが「マラブンタ」と格闘するのはお約束だったとしても、
ジョアンナ役のエリノア・パーカーにも何らかの見せ場をあげて欲しかったなぁ。終始、クリストファーと口論になる姿で
そのまま進んでしまって、最後は一緒に冒険に出て夫婦として結束するなんて、彼女については物足りないなぁ。
エリノア・パーカーは不遇な女優さんとして知られていますけど、確かにもっとブレイクできたはず・・・と思えちゃいます。

だからこそ、彼女にもキチッと見せ場を与えて、チャールトン・ヘストンと対等に困難に立ち向かうような様子が
観客にも伝えられていたら、エリノア・パーカーの印象だって大きく変わっていただろうし、その後の活躍も違ったかも。

エリノア・パーカーは50年・51年・55年と3回もアカデミー主演女優賞にノミネートされながらも、
一度もその栄誉に恵まれずに60年代以降はテレビ界に活動の場を移していったので、本作はピークの頃でしょう。
確かに彼女の美貌は光ってるし、決して悪い仕事ぶりではないですが、出演作の“選球眼”の問題はあったのかも。

「マラブンタ」は人食い蟻という設定なので、前述したように生きている人間が襲撃されるシーンはチープだったので、
もう少し工夫を凝らしてショッキングさを強調して欲しかったなぁ。悲鳴や侵食する音を利用する感じではなかったので、
グロテスクさというのは強調されない。映像表現としても出来ることには限界があるとは思いますが、今一つですね。
この時代の映画ですので、昆虫に人間が襲われるという設定だけで衝撃的だったはずなので、もう一押し欲しかった。

監督のバイロン・ハスキンはジョージ・パルとの名コンビで、特撮SF映画で数多くの作品を手掛けました。
特に53年の『宇宙戦争』が超有名ですが、本作もそうだし他にも『白人酋長』などアドベンチャー映画も撮ってます。

一方のジョージ・パルはアニメーターとしても有名で、実写映画に活動の場を移してきたのですが、
本作を観ていると、当時のバイロン・ハスキンといい従来の映画では無かった映像表現にチャレンジするということが
彼らの基本スタンスだったのでしょうね。目指すベクトルが一致していたのだろうし、本作もその一環なのでしょう。

とは言え、僕は色々と物足りない作品で、映像技術的に発展途上だった時期の作品であることは差し引いても、
もっと工夫できた作品だったのではないかと思います。特に本題の「マラブンタ」が登場してくるまでが長過ぎる。
物語の背景として主人公とヒロインの駆け引きを描くのも良いですが、これが上映時間の大半を占めているのは残念。

まぁ、例えば『エクソシスト2』でジョン・ブアマンがイナゴの大群を描いたように、
後年の映画で昆虫によるパニックを描いた作品は何本かありますので、そういった作品のパイオニアですかね。

それにしても、蟻だからと言ってナメたらいけませんね。かの有名なヒアリは毒を持っていると言われますし、
昆虫が媒介する感染症って多く知られていますから、大群の襲来がパンデミックを引き起こす可能性は否定できません。

(上映時間95分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 バイロン・ハスキン
製作 ジョージ・パル
原作 カール・スティーブンソン
脚本 フィリップ・ヨーダン
   ロナルド・マクドゥガル
撮影 アーネスト・ラズロ
美術 フランツ・バチェリン
   ハル・ペレイラ
編集 エベレット・ダグラス
音楽 ダニエル・アンフィシアトロフ
出演 チャールトン・ヘストン
   エリノア・パーカー
   エイブラハム・ソファー
   ウィリアム・コンラッド
   ロモ・ビンセント
   ダグラス・フォーリー
   ジョン・ディークス