乙女座殺人事件(1989年アメリカ)

The January Man

ヤケに豪華なキャストの映画ではありますが...これはとても残念な出来でした・・・。

市長の娘の友人が殺されるなど、連続婦女殺人事件に悩まされる市長が警察本部長に指示して、
かつてスキャンダルに見舞われて警察を退職して、消防士に転じていた警察本部長の弟を復職させて、
神出鬼没に見える殺人犯の次なる犯行を予測して、なんとかして現行犯で捕まえようとするラブ・サスペンス。

これが何故に“ラブ・サスペンス”なのかと言うと、警察本部長の弟を演じたケビン・クラインが
何故かやたらとモテるという設定で、実は兄である警察本部長の妻と2年前まで交際していて彼女を忘れられない。

そのせいか、お互いに素直になれない兄弟は仲が悪く、兄から復職を告げられた弟はあろうことか、
兄貴の妻と2人っきりで食事することを要求するなど、結構メチャクチャな人間関係にあることから映画が始まる。
しかも、いざ事件の捜査を弟が担当することになっても、事件の保護対象として接触した市長の娘と恋仲になる。

もう、色々と入り乱れちゃっていて、なんだか訳が分からない(苦笑)。あまり説得力が無いんですよね。

前年に『ダイ・ハード』の悪役で強烈なインパクトを残していたアラン・リックマンも登場してくるのですが、
本作では主人公と同じアパートに暮らすエド役として、かなり奇妙な雰囲気で存在感をバリバリ発揮している。
けれども、そこまでの見せ場が与えられずに終わってしまうので、もっと強烈なインパクトを残せたのに勿体ない。
当時、一般化しつつあったパソコンを使って事件のパターンを読み解いていくという重要な部分にも絡んでいるけど、
この推理もかなり無理なものに見えて、ここはもう少し説得力あるものにキチッと描いてもらいたい部分でした。

せっかくのアラン・リックマンもこれでは映えませんね。シナリオの問題もあっただろうとは思いますが、
これは正直言って、パット・オコナーの監督としての判断の問題も大きかったのではないかと感じずにはいられません。

強いて言えば、キャスティングに加えて映画の雰囲気はそこまで悪くはないのですがねぇ・・・。
でも、この中身では支持を得ることは難しいでしょう。ミステリー好きにも、このトンチンカンな展開は賛否があるでしょう。
真犯人の存在も、「実は主人公の近くにいた」というありがちなオチではないにしろ、それでもこれでは盛り上がらない。

個人的にはパット・オコナーの演出がこの手のサスペンス映画に向いていないように感じられてしまったんですよね。
どちらかと言えば、ドラマ系の作品に合っているように思えるし、一つ一つのシーン演出にもメリハリが感じられず、
事件の真相に近づいていくにつれて演出されるべき、緊張感や興奮といったものが全く画面から伝わってこない。

未だに本作の評判は芳しくないようですが、これは確かに良いところを見つけるのがチョット難しいタイプの映画だ。

さすがにメアリー・エリザベス・マストラントニオ演じる市長の娘と恋仲になること自体、問題あるでしょうし、
それに加えて、彼女を囮捜査に使うかのような捜査手法にその意義を感じません。まったく支離滅裂な描き方です。
オマケにいくら主人公が有能であったとしても、連続殺人犯に近づく捜査の相棒が、同じアパートの友人ですからね。
一匹狼風なのは良いにしろ、さすがにこれでは応援を得られるわけがない...と、妙に納得してしまいましたねぇ。

それから、主人公が有能な刑事であるのはいいけど、いくらなんでも周りの警察官たちが無能過ぎる。
市長も困り果てるくらいのスキャンダラスな連続殺人事件の捜査だというのに、あまり熱心に捜査している様子がなく、
しかも映画の後半にある自殺騒ぎで犯人検挙とは言え、この犯人についての裏付け捜査は何一つ進展していない。

それなのに「事件は解決した」と言い切ってしまえる警察って、あまりに頼りなさ過ぎて現実感ゼロ(苦笑)。
そうなってくると、ダニー・アイエロ演じる警視にしても、ハーベイ・カイテル演じる本部長にしてもダメ警察官ですよ。

市長を演じたロッド・スタイガーも宝の持ち腐れですね。彼なら、もっと良い存在感を出すことができたはず。
映画で与えられた見せ場としては、ハーベイ・カイテルに怒鳴り散らしているシーンばかりで、なんだか勿体ない。
てっきり愛娘が主人公と恋仲になっていることに気づいて激怒する展開なのかと思いきや、そんな感じでもない。
映画をかき乱す存在になってくれれば面白かったと思うのですが、そんな感じで扱わなかったというのも理解し難い。
「それならロッド・スタイガーじゃなくても良かったじゃん」と思っちゃう。もっと企画の段階で練って欲しかったですね。

そして、この映画で僕が最も理解し難いと感じたのは、クライマックスの真犯人との攻防のシーンで
ここで突如としてコミカルな音楽、演出に転じてしまう。サスペンス映画だったのは映画の序盤だけという感じで、
中盤はほぼほぼロマンス映画、そして最後は突如としてコメディになってしまう。何が撮りたかったのかが謎なのです。

取っ組み合いになって、一緒になって階段から転げ落ちる様子を延々とコミカルに描きますけど、
しつこいくらいコメディっぽく描くので、それまでの映画の雰囲気を完全にブチ壊す有様で、なんとも理解できない。

この邦題は推理上、ほぼほぼネタバレのようなタイトルになっているのも気になりましたけど(笑)、
魅力あるミステリーであれば、一つ一つの紐を辿って真相に近づいたり、遠ざかったりしながら進んでいって、
ある程度、外堀を埋めていく様子を描くからこそ楽しめる作品になるのですが、本作はそんな感じでもないのが残念。
当時は最先端だったはずのパソコンを使って事件の推理を行ってますけど、結局はほぼほぼ彼の思いつきでしかない。

それがたまたま当たったような描かれ方をしてしまうと、どうしてもミステリーの魅力も出てこないですよね。
本来的に本作がどういう役割を果たすべきと作り手がどう考えていたかが重要で、それが観ていても伝わってこない。
この時代にありがちなトレンディな雰囲気もある作品ではありましたけど、どう見てもオシャレな映画とも言い難い。

この映画は真犯人の正体はあまり大きな問題ではないという類いだったようで、少々特殊な感じではあります。
やたらと怒りまくる市長、最初っから最後までいがみ合う兄弟、その場の感情で容易に流されてしまう兄の妻、
突如として現れたオッサン刑事と昼ランチしてすぐにホテルで関係を持つ市長の娘、どこか不気味なアパートの隣人。
どれを取っても、どこか変なキャラクターで奇妙な人間関係。この映画は、ただそれだけを描きたかったのかもしれない。

だからこそ、物語のメインに置かれているはずの連続殺人事件の真犯人はあまり大きな問題ではなく、
何故か突如としてドタバタ・コメディのように犯人逮捕の様子を描いたりして、まるで場違いな描かれ方をしてしまう。
しかし、描かれた各キャラクターはどこか支離滅裂に見えてしまい、映画の中で想定していた機能は果たせなかった。
そうなってしまうと、この映画は苦しいですね。きっと、それぞれのキャラと人間関係をメインにしたかったのではないか。

そうじゃないと、この描き方は説明がつかないと思うんですよね。いや、説明がついても良くはないのですがね。

しかし...この映画の原題になっている“The January Man”とはこの事件の犯人をことを示しているんですよね。
タイトルになっているくらいだから、やっぱり作り手は事件の行方をサスペンスとしてドキュメントしたかったのかも。
でも、そうなら...この描き方は理解し難い。製作にクレジットされているノーマン・ジュイソンはどう思ってたのだろう?

いち早く“The January Man”を探し出して、次の被害者となる“The January Woman”を出さないようにしたいと。
どうして、犯人が男性であることが前提条件になっているのかも、何だかよく分からないんだけど、まぁこれはいい(笑)。
しかし、スゴい考え抜いて犯人がターゲットとなる女性を絞り込んでいるというのに、犯行があまりに杜撰でビックリする。

大胆不敵と言えば、聞こえはいいけど...散々報道されて警戒されている中で新たな犯行にでる割りには、
まるで計画性ゼロだし、行き当たりばったりで荒っぽい杜撰な犯行を見ると、凶悪な連続殺人の信ぴょう性が弱い。
と言うわけで、こういうのを列挙していくと...パット・オコナーにチャンスを与えた企画だったとしても、残念な出来だ。

とてもじゃないけど、この映画の作り手の信念が感じられる作品とは言えず、失敗作と言わざるを得ない。

市長の娘を演じたメアリー・エリザベス・マストラントニオも23歳という設定だというのは、さすがに無理に思う。
ケビン・クライン演じるオッサン刑事と簡単にホテルへ行ってしまいますけど、まるで“パパ活”のように見えてしまう。
彼女は80年代〜90年代にかけてメジャーな映画に何本も出演してましたが、もっと出演作品に恵まれていれば、
きっと彼女も大きくブレイクしていたと思うのですがねぇ・・・。本作にしても同様ですが、作品に恵まれていない印象。

とまぁ・・・酷評吹き荒れてしまった作品ではありますが...この時代特有の空気感を味わいたい人は楽しめるかも。
サスペンスの部分も、コメディの部分も期待しない方がいいですけど、このやたらと豪華なキャストが絡み合って、
80年代後半のアメリカの夜の雰囲気を、フィルムに収めることにかけては相応の味わいがある作品だとは思います。

あ、それから上映時間が短くサクッと見れるヴォリューム感なのは良いですけどね・・・。

(上映時間97分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

監督 パット・オコナー
製作 ノーマン・ジュイソン
   エズラ・スワードロウ
脚本 ジョン・パトリック・シャンリー
撮影 ジャージー・ジーリンスキー
編集 ルー・ロンバルド
音楽 マービン・ハムリッシュ
出演 ケビン・クライン
   メアリー・エリザベス・マストラントニオ
   スーザン・サランドン
   ハーベイ・カイテル
   アラン・リックマン
   ロッド・スタイガー
   ダニー・アイエロ
   フェイ・グラント