ゆりかごを揺らす手(1991年アメリカ)
The Hand That Rocks The Cradle
シアトルに暮らす第2子出産を前にした女性が、初めて診察を受ける産科医から性被害を受け、
勇気をもって告訴したことがキッカケとなって、被告側である産科医が自殺。その産科医の妻は妊娠中で、
この妻が逆恨みすることとなり、偽名を使って住み込みでベビーシッターとして復讐にでる姿を描いたサイコ・スリラー。
監督は後に『L.A.コンフィデンシャル』で高く評価されることになるカーチス・ハンソンで、
70年代から活動していたディレクターでしたが、ヒット作に恵まれずに低迷していて、本作が出世作となりました。
復讐を目的として、正体を隠して一家に侵入して、次第に牙を剥き始めるなんて映画は、
過去にも数多くありましたが、多少なりとも行き当たりばったりなところがあったとは言え、本作で描かれた復讐劇は
ゆっくりと外堀りを埋めながら逃げ場を無くしていく方法で、次第に緊張感が高まっていく感じで良いですねぇ。
復讐を決意するレベッカ・デモーネイ演じるペイトンは、持ち前の美貌で周囲からも振り替えられるくらいだが、
どこか内側に潜めている復讐心を感じさせる表情はあって、彼女をすぐに受け入れた一家も脇が甘いと言えば甘い。
しかし、外向きには有能なベビーシッターを装うことは上手くて、それは彼女自身がなれなかった母親という存在に
肉薄できるという、ある種の彼女の達成感がそうさせたのだろう。本作は彼女に支えられたと言っても過言ではない。
ハッキリ言って、ペイトンの復讐は逆恨みにしかすぎず、見当ハズレな怒りとしか思えず共感性はかなり薄い。
勿論、ペイトンが置かれた境遇には同情の余地があるかもしれないが、少なくとも一家が復讐の対象となるには、
その復讐心の動機としては理解を得られないだろう。これは本作の良さであり、善悪がハッキリしているのが良い。
警戒心が弱いのが気になるけど、アナベラ・シオラ演じるクレアが復讐の対象となるのは、あまりに理不尽なのです。
冷静にツッコミを入れてしまうと、医師という立場を悪用して性加害した奴が悪いということでしかなく、
クレアが原告となったものの、他にも複数名の被害の声が上がっている事実を受け止めると、いくら経済的に破綻し
流産に追い込まれたとは言え、ペイトンは立場的に加害者の家族の一人という見方しかできないが、何故か復讐する。
そういう意味では、ペイトンは善良で悲劇的な市民とは言い難いので、まったく同情の余地がない。
それがゆえに、映画のラストは複雑なラストというわけでもなく、クレアにとって悪夢のような出来事でしかない。
なので、クレアがどんなに追い詰められたとしても、ペイトンをコテンパンにやっつけることに何の躊躇もないだろう。
まぁ、これでクレアに落ち度を描いたり、ペイトンに同情してしまうような余地を残してしまうと、
この映画のラストはあまりスッキリしないだろう。そこをハッキリと善悪を対比させて、描けたことは良かったと思います。
確かに、どこまでペイトンが亡き夫の犯行を把握していたのかは分からないし、贔屓目に見れば信じていたのかも。
とは言え、実際に裁判を起こされて弁護士からも勝訴の見込みがないこと、多額の賠償を求められていることから、
いくらでもペイトンには亡き夫の悪行を知るタイミングがあっただろうし、謝罪が必要な立場であることも分かるだろう。
それでも、ペイトンの頭の中ではクレアが悪いと“変換”されてしまって、具体的な行動にでるわけですから、
逆恨みの恐怖でもあるのですが、やっぱりペイトン自身がトンデモないサイコパスであることの証左であると思う。
僕の勝手な偏見ではありますが...レベッカ・デモーネイはそんな危険な雰囲気を感じさせることもできる女優さんだ。
ただ、欲を言えばこのペイトンの逆恨みが、何故か復讐することに自分の中で正当化されてしまうまでの過程が
あまりに行き当たりバッタリな感じで描かれてしまって唐突に感じられるので、もう少し時間をかけて描いて欲しかった。
映画全体の尺の長さを考えると、これ長くするのはしんどいと思うので、ペイトンが外堀りを埋めていく作業については
もっとテンポ良くサクサク描いても問題はないでしょう。そうすれば、変わらずにジックリと恐怖を描くことができただろう。
特にペイトンの夫が訴えられて、家庭内でどういうやり取りがあって自殺を遂げてしまったのか、
ペイトンが夫に対する疑惑についてどう感じていたのか、この辺の前段階についてはもっとジックリと描いて欲しい。
そうすれば、ペイトンの“変換”が勝手な決めつけなのか、それとも彼女の中で理にかなう部分があるのか分かるはず。
このままだと、どうしてもペイトンのマインドがエスカレートしてしまう契機や流れが、よく分からないのですね。
まぁ、トンデモないサイコパスなのは分かるけど、かなり辛抱強く外堀りを埋めることができるほど思慮深い面があって、
ペイトンは一概に短絡的で感情を抑えられない人間ではないと思うのでね。そうすれば、映画は更に良くなったと思う。
ペイトンの魂胆としては、やはり母親になりたかったということなのだろう。だからこそ、その母親の立場を
クレアが告訴したことで奪ったと解釈したことで逆恨みし、クレアの家庭環境を乗っ取りたかったということなのだろう。
スゴい飛躍した発想だなぁと思っちゃうんだけど、クレアの夫までも誘惑してモノにしようとするのだから、スゴい執着。
ベビーシッターの面談を受けに来たペイトンは、クレアに印象良く取り入って、なんとか雇われるように取り入る。
でも、家に通いで働きに来る黒人男性ソロモンには、時折、異様な目つきをして邪魔者を追い出そうと牽制するし、
クレアに内緒で、勝手にクレアの第2子に授乳させるという、通常ではあり得ない行動にでる姿があまりに強烈だ。
あんなことされたら、そりゃすぐにクビになるわなぁと思いますが、逆に気づかないクレアの鈍感さもなんだか妙ですね。
いやはや、さすがに母の勘は鋭いと思うので、普通は子どもの様子を見ていると「何か変だ」と勘ぐるとは思います。
まぁ、こういう部分がご都合主義だなぁと感じられる人には向かないタイプの映画かなぁとは思いますけど、
ここはペイトンなりの警戒心の高さで、クレアに気づかれない範囲でやっていたということで、飲み込むしかないだろう。
ここは本作にとって致命的な難点とは言えないと思う。そのギリギリを攻めたカーチス・ハンソンは上手かったですね。
ペイトンの豹変した姿を時折描いているのも良いですね。演じるレベッカ・デモーネイの迫真の芝居も良かったけど。
例えば、クレアの夫が大事な論文を送るようにと預けられたことをペイトンが知って、
トイレの中で感情をむき出しにして論文をビリビリに破りまくって、感情を爆発させるシーンなんて好例ですね。
(まぁ...今の時代であればネットにアップロードして提出なんで、こんなことはあり得ないやり取りではあるけど・・・)
そして、そのペイトンの豹変した表情を隠さずに見せるのが、彼女の正体が暴かれるクライマックスだろう。
ここは完全にホラー映画のような形相で展開する攻防ですが、凄まじい執着ぶりを表現するに相応しい迫力です。
賛否はあるかもしれませんが、本作はペイトンを演じたレベッカ・デモーネイの貢献度はとっても大きかったと思います。
そういえば、この映画には若き日のジュリアン・ムーアが出演していて、少々ビックリさせられました。
そこそこ重要な役どころで、クレアの夫の初恋の相手で、クレア自身の友人という設定ではあるのですが、
かなり独立心旺盛でクレアとは正反対の女性像を体現しているような女性ですが、ペイトンに対して勘が働いていた。
そんな勘が当たったわけですが、まだ脇役扱いだったのかジュリアン・ムーアの扱いは少し雑に見えるかもしれない。
そのジュリアン・ムーア演じる友人はクレアが大事にしていた温室に、ペイトンが小細工したことで
悲劇的なことに見舞われてしまうのですが、この小細工はさすがに警察の捜査でバレてしまうのではないかと
思えなくもないのですが、ここのシーン演出だけはヒッチコックの映画のようになっているのは違和感あったかな。
余談ではありますが...クレアは喘息の発作が持病であることで描かれていて、発作が起きたら吸入を行っている。
おそらくステロイドかなぁと思うのですが、自分も気管支炎をこじらせて「咳喘息」と診断されて治療したことがあって、
しばらくの間、吸入をしていました。見ているとクレアは結構な重症だと思いましたが、吸入剤が無くなってしまったら、
彼女にとっては致命的な事態をもたらすでしょうね。これを無くしてしまうのは、ある意味で殺人行為でもありますね。
(とは言え、現実にはクレアほどの重症であれば吸入剤でなんとかなるとも思えませんが・・・)
日本にも家政婦というものがありますが、核家族化や個人主義などが進んだ現代の日本では、
めっきり少なくなったものであって、欧米でも住み込みのベビーシッターって今はどうなっているのでしょうかね?
かつて色々な犯罪があったのも事実であって、本作で描かれたように自宅の地下室を“提供”して、
他人を住ませてベビーシッターとして雇用するというのは、かなり現代の感覚では難しい在り方のようにも思えますね。
そういう意味では、ペイトンが採用されるまでの過程があまりにイージー過ぎたような気もしなくはないですね。
そういえば、90年代前半はクレア役のアナベラ・シオラも数多くの映画に出演していましたけど、
00年代に入るとすっかり観なくなってしまったなぁ。本作のように母親役を演じさせるとイメージがピッタリ合ってました。
私生活との兼ね合いもあったのかもしれませんが、女優よしての活動ペースが落ちていったのが残念でしたね。
(上映時間110分)
私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点
監督 カーチス・ハンソン
製作 デビッド・マッデン
脚本 アマンダ・シルバー
撮影 ロバート・エルスウィット
編集 ジョン・F・リンク
音楽 グレーム・レベル
出演 レベッカ・デモーネイ
アナベラ・シオラ
マット・マッコイ
ジュリアン・ムーア
アーニー・ハドソン
マデリーン・ジーマ
ジョン・デ・ランシー