ドラブル(1974年イギリス・フランス・アメリカ合作)

The Black Windmill

名匠ドン・シーゲルが息子を誘拐され窮地に陥ったスパイを超人的な活躍ではなく、
淡々として平凡な手段にフォーカスしてストイックに撮った、地味な雰囲気で綴る渋いクライム・サスペンス。

映画の雰囲気としてはとっても良い感じ。でも、正直言って、映画の完成度はそこまで高くはないかなぁ・・・。
さすがはドン・シーゲルの手腕ですけど、そもそもの物語もなんだか悪い意味でいい加減な感じになっているし、
あれやこれやと意味ありげな“仕掛け”が散りばめられているのだけれども、どうにもそれらがまったく機能しない。
犯人グループの人間関係もよく分からず、あまり詳細に描かれることはないまま映画が終わってしまう不親切さ。

主演のマイケル・ケインは66年の『国際諜報局』から名スパイ、ハリー・パーマーを演じていた過去があるので、
良い塩梅のスパイ・スリラーを期待したのですが、本作はそこまでスリリングな展開というわけでもなく、
劇場公開当時ほとんど話題にならず終わってしまったそうで、ドン・シーゲルも持ち味を出し切れていない気がする。

しかし、まったく見どころのない作品かと言われると、決してそんなことはなくって、それなりには面白い。
良くも悪くもいい加減なところがある映画なので、これが本作のストロング・ポイントにもなっているように見えて、
特に主人公のタラントのオフィスで工作活動を行われたり、一見すると何のためにやっているんだろうか?と
疑問に思えるほどに時間を割いて描いていたりする。でも、こういった地味な描写が生み出す空気感が僕は好き。

今も昔も誘拐事件の交渉って、スゴい難しい対応や決断を迫られることになると思うのですが、
この映画が支持されない理由って、誘拐事件の黒幕の正体を曖昧に描いていることは大きいのではないかと思います。

ハッキリ言って、この映画を観ていても「で、タイトルにもなっている“ドラブル”って何者?」って疑問は拭えない。
しかも、誘拐犯の割りには結構大胆な行動に出ているので説得力があまりないし、他にも整合しない部分が目立つ。
一旦捕らえたタラントを事故を装ってワザともう一回逃がして、密かに殺害してしまおうとか、なんだかよく分からない。
この“ドラブル”たちはまったくもって、非効率かつ行き当たりばったりな犯行を行っている感じで、メチャクチャに映る。

この辺はドン・シーゲルらしからぬ破綻ぶりではあるので、それが本作の魅力とも言えなくはないけど、
少々全体的にやり過ぎてしまった印象でしたね。僕は嫌いになれない作品ではありますが、当時ヒットしなかったという
理由もよく分かる仕上がりで、タラントが感情を表に出さないという設定も良かったんだか、悪かったんだか分からない。

本作が製作された時代は、既にアメリカン・ニューシネマも終わりかけていた時代であって、
監督のドン・シーゲルもその対極にいたような存在でしたので、このプロフェッショナルの流儀みたいなものを
表現しようとしたのは、本作の前に撮った73年の『突破口!』と同じスタイルですが、映画の出来は本作がやや劣る。

勿体なかったのは、物語の舞台となるのが主としてイギリスなんですが、
タラントが“ドラブル”に呼び出されて、わざわざパリまで行ったりするのですが、物語を広く展開する感覚を持つために
もっと移動するシーンなどを多用すればいいのにと思っていたのですが、そういった演出はほぼ無かったことですね。
追いつ追われつ、というチェイス・シーンも皆無でとにかく盛り上がらない。せいぜいタラントが一回捕まるシーンくらい。
これだけでは、さすがに映画のスリルは高揚しないし、あまりに地味過ぎますね。まぁ、現実はこんなもんでしょうけど。

これの地味さが本作の良さでもあり、難点でもある。その良さとしてのポイントはもっと高めて欲しかったなぁ。
もっとタラントの家庭も含めて、彼の背景をしっかりと描いても良かった。余計な部分に時間を割かない方針だろうが、
なんでこんなに淡々と感情を表に出さないキャラクターなのかも含めて、もっとタラントをしっかりと描いて欲しかった。

一方で、タラントの上司であるハーパーを演じたドナルド・プレザンスの胡散クサさは最高に魅力的だ。
オフィスでの神経質な立ち振る舞いといい、如何にも悪いこと考えてますよ〜みたいな雰囲気プンプンなところも良い。
ひょっとすると、この映画の魅力の半分以上はドナルド・プレザンスが持っていたと言っても過言ではないかもしれない。

70年代当時のスパイと言ったら、色々な道具を駆使して世界を股にかけて大活躍するイメージだったと思います。
それこそ“007シリーズ”が世界中で大ヒットし、派生したような作品もヒットしていた時代だったはずなのですが、
本作で描かれたタラントはボンドらとは全く違うタイプのスパイだ。一応は、謎の武器を登場させたりはしているけど。

その謎の武器とは、アタッシュケースの側面に銃が仕込まれているという、チョット変わった構造なのですが、
それはそれで謎に映画の後半に存在感を少しだけ発揮する。ドナルド・プレザンス演じるタラントの上司ハーパーが
このアイテムを自慢げに語っていましたけど、お世辞にもカッコ良いアイテムとは言えず、結構トンデモ系な道具ですね。

正直、ドン・シーゲルが自らの監督作品でマイケル・ケインのような役者を主演に据えるというのは、
少々意外というか...あんまりイメージ湧かなかったのですが、思いのほかお互いに上手くフィットしていましたね。
マイケル・ケイン自身も地味なスパイを演じるというのは、彼の中で十八番のようなものだったので適役と言っていい。
だからこそ、もう少しドン・シーゲルにピリッとした演出ができていれば、反主流的なスパイ映画として評価されただろう。
やっぱり本作には映画のメリハリといったものがないし、何か一つでもいいので見せ場となるシーン演出が欲しかった。

クライマックスのアジトを突き止めて対決するシーンにしても、どこかチープな雰囲気ではあります。
これはこれで僕は好きなんだけど(笑)、どこかでタラントの活躍を描くものだと期待していた人からすると肩透かし。
こういった部分を見ても本作、ドン・シーゲルの迷いというか、どこか決め切れないまま撮っていた面はあると思います。

映画の冒頭から、子どもたちのオモチャをイメージするかのようなサイコロを使って、
オープニング・クレジットを展開させるのは、ドン・シーゲルにしては遊び心が感じられる映像表現で面白いですね。

そういう意味では、子どもたちを拉致するシーンでは謎に手の込んだ軍関係者を装っているのですが、
一体何のために誰を騙すためにこんなことをしていたのかは分かりません(苦笑)。でも、アッサリと誘拐は成功し
すぐにタラントの妻に誘拐したと脅迫電話が届くわけですが、この流れは意味ありげで何も回収しないのがスゴい。
本来だったら、それらの意味を少しずつ明かしていくと思うのですが、結局は何一つたりとも説明しない不親切さ(笑)。

これはある意味で、ドン・シーゲルなりの壮大な“ハッタリ”だったのかもしれません。
他作品では、ただただストイックに描き続けてきたドン・シーゲルなだけに、本作はそういった遊び心を感じさせます。
そういった遊び心は是非とも映画に生かしたかったですねぇ。残念ながらも、本作は全てが単発的で生きてこない。

ドラブルと行動を共にする謎の女性も、タラントを誘惑しようとして、それをドラブルが盗撮していたり、
偽装工作にも手が込んでいる様子を描いているけど、これらも映画を最後まで観通すと、この誘拐計画の中で
果たしてリスクを冒してまで、こんな工作活動がホントに必要だったのかと疑問に感じる部分があるのは否定できない。
これらは大したことを描く必要はないと思うのだけど、何か一つ意味があることを示せていれば変わっていたでしょう。

まぁ、単純に所々で見せるドン・シーゲルらしい感覚がカッコいいので、中身は二の次と言える人には最高なんだけど。

正直、本作は60年代に製作されていれば、もっと高く評価されていたのではないかと思う。
しかし、本作が公開された時は既にすこたまスパイ映画が作られていて、ニューシネマ・ムーブメントの到来で
映画界が劇的な変化を遂げていた時期であり、ドン・シーゲルらベテラン監督たちもやりづらい時代だったであろう。

そんな中で職人気質に作ることを志向した本作は、当時の映画界でも言葉悪く言えば、古臭かったかもしれない。
それはおそらく...ドン・シーゲル自身が自覚していたことでもあると思うのですが、どうせ描くなら“ハッタリ”も
もっと壮大なものにしてコメディにした方が面白かったかもしれない。その方が主演のマイケル・ケインも生きたかも。

実際、劇中にタラントがハーパーから誘拐事件の当事者であるのに感情を表に出していないことを指摘され、
「いや、(感情を表に出さないように)育てたのは貴方たちでしょう」と淡々と無表情にツッコミを入れるシーンがあります。
これはこれで、僕はドン・シーゲル的にはギャグとして描いたのかなぁと邪推したところがあったが、そのギャグも微妙。

ひょっとしたら、ドン・シーゲルも独特なユーモアで表現したかったのかもしれず、意図は機能しなかったけど、
僕はこういう微妙なギャグって好きなので、嫌いになれないタイプの映画だなぁと思っていて、大事なしたい作品でした。

ちなみに本作は2026年5月にようやっとNHK−BSで放送されて、僕も観ることができましたが、
20年近く前に待望のDVD化されて発売されましたが、小ロット生産だったのかアッサリと終売&廃版になってしまい、
配信も含めて長らく視聴困難な作品でした。どういう経緯か分かりませんが、この放送はグッジョブ!でしたね(笑)。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ドン・シーゲル
製作 ドン・シーゲル
   リチャード・D・ザナック
原作 クライブ・イーグルトン
脚本 リー・ヴァンス
撮影 オウサマ・ラーウィ
編集 アントニー・ギブス
音楽 ロイ・バッド
出演 マイケル・ケイン
   ドナルド・プレザンス
   ジョン・バーノン
   デルフィーヌ・セイリグ
   ジョス・アクランド
   クライブ・レヴィル
   カトリーヌ・シェル
   ハーマイアニ・バドリー