見ざる聞かざる目撃者(1989年アメリカ)

See No Evil, Hear No Evil

聴力を失った売店の店員と、視力障碍を抱える2人の男が殺人事件に巻き込まれるサスペンス・コメディ。

監督は70年に『ある愛の詩』を大ヒットさせたアーサ・ヒラーで、喜劇を得意とするジーン・ワイルダーに
リチャード・プライヤーの共演で描いた作品で、現代ではおそらく表現することができないであろう作品でもあります。

と言うのも、そもそも障碍がある人をこういうアプローチで描くこと自体、もうタブーになっている感があり、
それを敢えて揶揄的に表現したリチャード・プライヤーの芸風は、今の時代も生き残ることはできなかっただろう。

まぁ、それとは関係なく...僕の中では本作はそこまで期待には応えてくれなかったかなぁ。
もうチョットは笑えるとか、楽しめるかなぁとか、そういう期待は観る前にあったんだけど...そこまでではない。
アーサー・ヒラーの演出は個人的にはドラマで映えると思っていて、こういうコメディではどうにも噛み合わない気が。

まだ売れてない頃のケビン・スペイシーが悪役側で出演していたりして、それなりに見どころはあるんだけど、
それも長続きしない。根本的に盛り上がらないせいか、何を必死に争っているのかもよく分かるようで分からないし、
単にリチャード・プライヤーとジーン・ワイルダーに障碍者をコミカルに演じさせれば面白いだろう・・・というだけに観える。

つまり、コンセプト以上のものは本編では何一つ具現化されておらず、作り手が果たすべき役割を果たしていない。

リチャード・プライヤーの視覚障碍を大袈裟に表現し続けるのも少々しつこく感じてしまうし、
ジーン・ワイルダーに至っては、悪党側のイヴという美女に勝手にキスしたりして、悪ノリする意味がよく分からない。
このイヴ役のジョアン・セベランスという女優さん、背が高くてモデル体型でグラマーな美人女優なんだけど、
なんだか変な役を演じさせられていて、必要性の無いサービスシーンに使われたり、一方的にオッサンにキスされたり、
これはこれで可哀想だ。正直、この辺はジーン・ワイルダーの公私混同な部分も無くはないように観えちゃうのが残念。

まぁ・・・僕のうがった見方がそうさせているだけで、実際の撮影現場はそうではなかったのだろうけど・・・
いずれにしても、本作の作り手が何をどう表現したかったのかが、サッパリよく分からない結果に観えて仕方がない。

個々のギャグも“滑っている”ものが多いように感じましたけど、リチャード・プライヤーとジーン・ワイルダーの
2人が繰り出すギャグが絡み合わずに、それぞれが独立して“滑ってしまう”のが観ていて、なんとも虚しく映る。
やっぱり、この手の映画のギャグというのはもっとテンポを作るものであって欲しいし、分かり易いギャグにして欲しい。

と言うのも、これは障碍のある人が観たらどう思うか?ということを考えると、賛否が大きく分かれるだろう。
アーサー・ヒラーも当時は面白いと思って映画化したとは思うんだけど、揶揄的に描いていると言われても仕方ない。
べつに聴覚障碍、視覚障碍の双方を映画の中で描いてもいいとは思うんだけど、この内容は賛否が分かれますよね。

個人的には、お互いが得られる情報をお互いに補完し合いながら、殺人事件を解決していくというような、
ギャグを織り交ぜたドタバタ劇がありながらも、ポジティヴなコメディとして描いた方が自然に受け止め易かったと思う。

それが、障碍自体をギャグにしてしまっている上に、事件の焦点となっていることがスゴく分かりづらい。
結局、殺人事件の被害者が残したコインがポイントなのかは分かるけど、これってそれほど重要なものなのだろうか?

それは、映画のクライマックスでアンソニー・ザーブ演じるやはり盲目の金持ちが登場してきて、
その重要性を無理矢理上げようとしたのですが、それでも何で必死になっているのかがよく分からないまま進む。
この金持ちの屋敷での攻防にいたっては、かなり無理があるように感じた。ここがクライマックスなのに、実に勿体ない。
映画のこういう雑な部分やテンポの悪さを観ると、アーサー・ヒラーは適任ではなかったのではないかと思っちゃう。

当時はタブーではなかったのかもしれないけど...障碍者である主人公2人が、なんとかして健常者に見せかけて、
ドタバタのギャグを繰り出すという設定自体が現代では賛否が分かれるだろうし、終盤で描かれるホテルを会場とした、
学会で欧州の権威ある婦人科医に扮するというストーリー展開も、これで笑ってくれと言われても、難しい部分はある。

まぁ、リチャード・プライヤーもジーン・ワイルダーもこれまでの彼らが出演したコメディ映画のノリで
普通にやってくれるので、そういったノリを期待する人たちには楽しめる作品でしょうから、その点では安心していい。

下積み時代のケビン・スペイシーがスゴ腕の殺し屋という設定で、イヴの片腕で登場してきますが、
正直、まだそこまでの見せ場が無くて、後年の彼の出演作品のような存在感を出しているわけではありません。
最後に車をぶけられたとかで、映画の本筋とは関係ないことで足止めを喰らっていたり、添え物のような扱いですね。
そういう意味では、まだイヴ演じるジョアン・セベランスの方が扱いが良かったように映るのは、少々意外でしたが・・・。
(ケビン・スペイシーの扱いが良くなったのは、やはり90年代半ば以降という感じですかねぇ・・・)

本作は海外ではDVDやBlu−rayとしてリリースされているようですが、日本ではビデオ化で終わってます。
これは内容的なものも大きいのかもしれず、日本で鑑賞するとしたらNetflixなどのサブスクしかないのが現状です。
おそらく今後もそれは変わらないでしょう。ただ、個人的にはそこまで頑張って観るほどでも・・・ない気がしますけど。

この映画があまり大きく支持を得られなかったのは、一見すると障碍をモチーフにしているように見せかけて、
ギャグの本質がそこではなく、障碍というキーワードを隠れ蓑にしているかのような部分にあったのではないだろうか。

映画の冒頭からジーン・ワイルダー演じる聴覚障碍がある売店の店員がニューヨークの市街地を歩くシーンがあって、
多数の車が行きかう交差点で、道路のド真ん中で立ち止まってトラックの走行を妨害しているかのように観えてしまう。
これは聴覚障碍のある方に起こることとは言えない。どちらかと言えば、この男の偏屈な性格が出ているように観える。
映画の冒頭から、いきなりこんな調子で始まるせいか、どこか本作がピント外れたギャグになっている気がしてしまう。

リチャード・プライヤー演じる視覚障碍がある男性も、自身の障碍を頑として認めないというスタンスで、
杖を持たずに一人で歩くと主張し、実質的に妹の介助に頼った生活をしているものの、偏屈な性格は変えようしない。
正直、この2人を応援してくれと言われても、なかなか素直に受け止める難いし、これを笑ってくれと言われても難しい。

地下鉄で盲人だというのに、新聞を読んでいるというのもギャグのつもりだったんだろうけど、
これも単純に笑うというのは難しいと思う。さり気ないところのギャグなんだろうけど、今の時代だったらNGでしょうね。

アーサー・ヒラーにこの辺の感覚を求めるのは難しいのかもしれないけど、コメディはバランス感覚は大事だと思う。
勿論、万人ウケを狙う必要はないけれども、観る人のある程度の割合で不快に感じる人がでる笑いはキツいでしょう。
確かに時代の流れで笑いや遵法意識って変化していくものだと思うけど、89年当時でも本作の笑いは賛否あるだろう。

もう少し気持ち良く笑わせて欲しかったなぁ。ギャグが映画のリズムを作れていないのも致命的だったと感じるし。

というわけで、個人的にはノレない作品ではあったのですが、ジーン・ワイルダーとリチャード・プライヤーの
定型化されたようなコメディ演技合戦が観たい人にはオススメできる作品ですし、下積み時代のケビン・スペイシー、
セクシーなイヴを演じたジョーン・セベランスも悪くない。どちらかと言えば、脇役の方が印象に残るかもしれないです。

不発だったギャグが多いというのが正直な感想だけど、中盤にある警察署から逃げる2人が
盲人の運転で逃げてカー・チェイスになるという一連のシーンはまずまず面白い。手錠がかかっているということもあり、
車の中でオッサン2人がパニックになりながらパトカーから逃げるという流れで、これは結構楽しませてくれます。

それから、クライマックスの富豪の屋敷でのシーンは特にハラハラさせられることのない緩慢なラストで
ここも残念ではあったんだけど、ヘリで逃げようとするイヴらを止めるために、主人公2人がロープを使って上階から
下ってくるというのが、まるでジップラインのよう。こういう“仕掛け”をもっと有効的に見せて欲しかったですねぇ。
全体的に緩慢な演出になってしまったので、何か“仕掛け”を作って窮地を脱出するというような見せ方が欲しかった。

結局、主人公2人が窮地を脱出するのがほとんど力技で、その一つ一つに納得性が弱いからキツくなってしまう。

正直言って、この映画は10年くらい早く製作されていたら、もっと快心の作品になっていたかもしれません。
ギャグの方向性が修正されない限り難しいところもありますが、もっと主演の2人に若々しさがあれば変わっただろうし。
(リチャード・プライヤーは本作撮影当時、既に多発性硬化症を発症しており、体調的に大変だったのでしょう・・・)

(上映時間102分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

監督 アーサー・ヒラー
製作 マービン・ワース
原案 アール・バレット
   アルネ・スルタン
   マービン・ワース
脚本 アール・ベレット
   アルネ・スルタン
   エリオット・ウォルド
   アンドリュー・カーツマン
   ジーン・ワイルダー
撮影 ビクター・J・ケンパー
音楽 スチュワート・コープランド
出演 リチャード・プライヤー
   ジーン・ワイルダー
   ジョアン・セベランス
   ケビン・スペイシー
   アラン・ノース
   アンソニー・ザーブ