プライベート・ライアン(1998年アメリカ)

Saving Private Ryan

あまり言うと...大袈裟だと怒られてしまいそうですが(笑)...
これは何度観ても衝撃的で、且つ戦争映画の標準を変えてしまった映画史に残る傑作だと思いますね。

こういう仕事を観て、やっぱりスピルバーグの偉大さを感じずにはいられない。やっぱり映画はこうでなくちゃ。
これはILMの技術力のおかげでもあるでしょうが、とにかく戦場を観客に強く“体感”させられる作品であります。

かつて戦争映画の名作と言われた作品は数多くあって、衝撃的な作品というのもありましたけど、
本作は冒頭のノルマンディー上陸作戦のエピソードに始まり、終盤のライアンの部隊が守り続けてきた
前線の橋での壮絶な戦闘シーンに至るまで、ずっと観客は3時間近くにわたって緊張状態を強いられる作品であり、
この強烈なまでの一貫性については、他の戦争映画と比較しても明らかに群を抜ている。この芯の強さは本物だ。

ヤヌス・カミンスキーのカメラ技法も特筆に値するのだろうけど、この作品ではかつての戦争映画が
とらなかったようなアプローチを逆手にとって実行している。例えば、撃たれる兵士から血が飛び散るということは
他作品でも数多く表現されてきたことですが、それがカメラのレンズに付着するなんて映像は、多くはなかったこと。

しかし、本作のスピルバーグはそういった、他の映画では積極的採用してこなかった、
ある種のタブーとも共通認識として無意識的に共有されてきたことも、敢えて映像として取り入れることをしている。

少々大袈裟な言い方かもしれませんが、僕は戦争映画の革命ですらあったと思っています。
さすがにこれだけ観客を本格的に戦場に誘う映画というのは、観たことがありません。半端ない臨場感です。
いや、実際は自分も戦争の現実を知っているわけではないので、「戦場に誘う」なんて安直に言うべきではないですが、
思わずそう感じてしまうくらいに、本作の映像表現は他作品と比較しても桁違いに、ランクアップした力を持っている。

実際、この映画の誕生の後でアクション映画のスタンダードは変わっていったように思います。
音はとにかく体感させるための道具に変わったし、本作とよく似た構図で撮ったシーンが他作品でもよく観られます。

映画の序盤のノルマンディー上陸から、頭のヘルメットに銃弾が当たって、その衝撃から思わずヘルメットを
外して弾痕を確認して「ラッキーだった」と呟いた後に、すぐに次に襲ってきた銃弾がノーヘルの頭を貫いて即死する。
そんな様子を実に生々しい(リアルな)音をもって表現されており、こうした力強くも生々しい演出に引き込まれます。

それ以前にも、オマハ・ビーチに着く前の船でのシーンにしても、船酔いもあるのでしょうが、
若き兵士たちが今から命を賭けた戦場の到着を目前にして、緊張のあまり嘔吐する兵士がいたりとパニック状態。
そこから続く戦闘シーンが前述したように凄まじい迫力なのですが、戦場に着く前から異様な緊張感に溢れている。

これだけ力強く、神懸かった演出を見せたスピルバーグはホントに久しぶりって感じがして、
本作を観て、「やっぱりスピルバーグはスゲーなぁ!」と圧倒されたものです。90年代は既にエンターテイメントを
追求する映画監督の代名詞となってましたから、それはそれ良いんだけど...やっぱりこういう側面は隠れていました。
そんな感覚が久しぶりに表に出た快心の一作という感じで、これは映画史に残る傑作と言っても過言ではないと思う。

戦地にはあまりに不条理で不合理な現実がある...まるでそんなことをスピルバーグは描いているかのようだ。

スピルバーグは自身の歴史としてユダヤ人というルーツがありますから、本作の描写にしても
ドイツ軍に対する特殊な感情を見せるシーンがあるのかなと思ってはいたのですが、確かにユダヤ系の米兵が
そんなことを言っているシーンはあったものの、彼自身のイデオロギーに映画が強く影響されることは避けましたね。

強いて言えば、アダム・ゴールドバーグ演じるユダヤ系の米兵がドイツ軍兵士と取っ組み合いになって、
刃物を目の前にされて、「やめてくれ・・・」と懇願しつつも最後に力負けして、ゆっくりと刃物が心臓を突き刺す。
ここは多少なりとも特別な感情はあって描いたのかもしれませんが、映画を壊すような“偏り”は感じませんでした。

それよりも、このドイツ軍兵士は実は途中で捕虜にできたところを慈悲で逃がしたにも関わらず、
「アメリカ大好き♪」みたいな調子だったものが、いざ寝返ると力づくで米兵を殺しにきて、慈悲などかけない皮肉だ。

このドイツ兵を逃がすことに影響を与えたのは、「戦場でいろんなことを超越した友情を記録したい」と
呑気なことを言っていた、戦闘に消極的であった若い米兵が戦争犯罪を主張したことから始まったことであり、
これはこれで正しい主張をしたことだし、この恩は非難されることではないような気もするのですが、それが仇となる。
映画的なエピソードではありますが、これはこれで戦争の現実を直視しているのだろう。決して綺麗事では済まず、
恩をかけたものが必ずしも帰ってくるわけではない。分かり易く言えば、性善説を否定するかのような描写に見える。

そんな正論を吐いていた若い米兵だって、ドイツ兵の鬼気迫る表情に圧倒されて動けなくなるし、
しかし、どこで気持ちが入れ替わったのかは分からないが、不思議と最後は銃口を相手兵士に向けている。

でも、そうさせてしまうのが戦争というものなのでしょう。だからこそ、戦争の恐ろしさがあるのです。
本作で戦争の全てを分かったような気になることは危険だと思うけど、反面、こういう映画は必要だと思いますね。
露骨に反戦を唱えた映画という論評も正しくないと思うのですが、純粋に戦争の恐ろしさを描いてはいると思います。

べつにスピルバーグも嬉々として戦争の狂気を描いたというわけではないにしろ、
観客の反戦意識を露骨に煽る内容にするというよりも、単純に恐怖心を体感させる映画にシフトしたと感じます。
ですから僕の中では本作は感覚的にホラー映画に近いというのが本音ですね。かなりの“変化球”ではありますけど。

映画の内容を米軍のプロパガンダだという人もいるだろうとは思いますが、そうなのであれば米兵たちを
もっと掘り下げて、彼らの都合ばかりを描いて彼らの正義を主張するだろう。が、僕には本作のスピルバーグは
そんなこと一切興味がなかったようにしか思えず、ただひたすら無感情的に殺し合う人間たちを描いているだけ。
トム・ハンクス演じるミラー大尉にしても、元教師だとしか明かされず、人物像を掘り下げようとする部分が皆無である。

確かに視点としては米軍側ではあるのだけれども、米軍に“全振り”して観れるかと言ったら、そうでもない。
それは各登場人物の掘り下げが甘く、感情移入するものがなく政治的なニュアンスにしても煽られないからである。
でも、これはスピルバーグの意図だったのではないかと思う。まぁ、この辺はどうとでも解釈できてしまいますがね。。。

98年度のアカデミー賞では作品賞を含む主要11部門に大量ノミネートされながら、
監督賞を含む5部門を獲得したものの、作品賞は『恋におちたシェイクスピア』に持って行かれてしまいました。
スピルバーグもオスカーありきではないとは思いますが、ナンダカンダで当時はショックだったのではないかと思う。
それくらい、『シンドラーのリスト』に続く気合の入ったタフな内容の企画だったと思うし、苦労も多かったことでしょう。

僕には映画館で映画を観るという習慣がないのですが、実は高校生から大学1・2年くらいまでは
ちょいちょい映画館へ行っていた時期がありました。大学生のときは当時はまだ盛んだった試写会も行ったもんです。

本作は丁度、高校に入ったくらいに日本で劇場公開されてた記憶がありますが、本作はビデオになってから観ました。
ここまで戦争を体感させる映像、録音なのであれば、環境の整った映画館で観れば良かったですね。少し後悔です。
本作のようなタイプの映画であれば、映画館の性能をフルに実感することができそうで、凄まじい迫力でしょうね。

本作で積み上げたヤヌス・カミンスキーの功績は凄まじく大きい。前述した通り、本作の誕生はアクション映画を変えた。
そう言っても過言ではないくらい、21世紀のアクション映画の表現というのは本作のことを追いかけているように感じる。
そんなスタンダードを作り上げた、ヤヌス・カミンスキーとスピルバーグのタッグは映画史に残るものと言っていいだろう。
オスカーがすべてではないし、どうでもいいことでもあるのだが・・・ホントはこういう映画を表彰して欲しいと思ってます。

だって、これは戦争映画の革命であり、新しい標準を作ったような作品ですから、その価値は絶大なものです。

色々なことを言われるスピルバーグではありますが、こういう革命的な仕事ができる凄みには圧倒される反面、
スピルバーグのようなタイプのディレクターはもう生まれないような気もします。優れたクリエーターはいるでしょうが、
トータル的、且つ映画界全体に及ぼす影響の強さというのは、後世にもその名を残せるだけの力強さがあると思います。

今後のハリウッドは、こういった革命的な映画を撮ることができるディレクターを生むことが課題だと思う。
きっといつか、本作のように観客に強い衝撃を与える作品を撮れる人が、登場してくるのだろうと期待はしてますが。。。

(上映時間169分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 スティーブン・スピルバーグ
製作 スティーブン・スピルバーグ
   イアン・ブライス
   マーク・ゴードン
   ゲイリー・レビンソン
脚本 ロバート・ロダット
   フランク・ダラボン
撮影 ヤヌス・カミンスキー
特撮 ILM
編集 マイケル・カーン
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 トム・ハンクス
   トム・サイズモア
   エドワード・バーンズ
   マット・デイモン
   バリー・ペッパー
   アダム・ゴールドバーグ
   ヴィン・ディーゼル
   ジョヴァンニ・リビシ
   ジェレミー・デイビス
   テッド・ダンソン
   デニス・ファリーナ
   ポール・ジアマッティ

1998年度アカデミー作品賞 ノミネート
1998年度アカデミー主演男優賞(トム・ハンクス) ノミネート
1998年度アカデミー監督賞(スティーブン・スピルバーグ) 受賞
1998年度アカデミーオリジナル脚本賞(ロバート・ロダット、フランク・ダラボン) ノミネート
1998年度アカデミー撮影賞(ヤヌス・カミンスキー) 受賞
1998年度アカデミー音楽賞<オリジナルドラマ部門>(ジョン・ウィリアムズ) ノミネート
1998年度アカデミー美術賞 ノミネート
1998年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート
1998年度アカデミー音響賞 受賞
1998年度アカデミー音響効果編集賞 受賞
1998年度アカデミー編集賞(マイケル・カーン) 受賞
1998年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞
1998年度イギリス・アカデミー賞特殊視覚効果賞 受賞
1998年度ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞 受賞
1998年度ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞 受賞
1998年度ロサンゼルス映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・スピルバーグ) 受賞
1998年度ロサンゼルス映画批評家協会賞撮影賞(ヤヌス・カミンスキー) 受賞
1998年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1998年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(スティーブン・スピルバーグ) 受賞