サルバドル/遥かなる日々(1986年アメリカ)

Salvador

1980年の内戦続くエルサルバドルを舞台に、現地に浮気相手と子どものいるアメリカ人ジャーナリストが
再び現地に入り取材を続けるものの、米軍がバックについた右翼的な現政権と、左翼的な反体制との衝突が激化し、
彼ら諸共巻き込まれてしまい、様々な混乱の中で良心に目覚めるものの、悲劇的な結末へと向かう姿を描きます。

『プラトーン』でベトナム戦争の現実を描写し、世界的に高く評価された社会派監督オリバー・ストーンが
続けて自堕落なアメリカ人ジャーナリストの目を通して、現実の過酷さや残酷さを臨場感たっぷりに描きます。

レーガン政権がまるで裏で糸を引くかのようにエルサルバドルの保守的な政権の強硬な姿勢を強調しますが、
一度内戦状態になってしまうと難しいもので、民主化を目指していたと思われていた反体制勢力も結局は残忍になる。
当初はジャーナリストという立場とは言え、反体制勢力に心情的に肩入れしていた主人公でしたが、失望してしまう。

社会的なメッセージ性がやたらと強いのは、この頃のオリバー・ストーンらしい作風でありますが、
これはシナリオを楽しむよりも、とにかく映画の雰囲気をジックリと味わって欲しい。これは、とっても良く出来ている。
個人的には、オリバー・ストーンの監督作品の中でも本作は屈指の傑作だと思う。それくらいの高みにある作品だ。

正直言って、『プラトーン』よりも遥かに優れた出来の映画であると思うし、ずっと訴求力のある作品だと思う。

多少なりとも、アメリカ政府の暗部にスポットライトを当て、反体制的なメッセージ性も無くはないですが、
それよりも本作では戦争を垣間見たジャーナリストの視点から、現地の現実を描くことに注力した作品という感じです。
従来のオリバー・ストーンの監督作品と比較すると、努めて自らの主張を抑えて描こうとした作品のように観えました。

内戦が激化して、片っ端から民間人が殺害されていると報道されているにも関わらず、
主人公のボイルは自分の車を走らせて、友人を乗せてエルサルバドルへと入国する。命知らずの行動ですが、
そんなボイルがエルサルバドルへ向かうことには、アメリカでは仕事をクビになり、妻子に逃げられてしまい、
経済的にも困窮していたからで、元々取材先であるエルサルバドルに不倫相手と彼女との間に出来た子どもに
会う目的もありました。多少なりとも、内戦を取材したいという野心はあったでしょうが、ハッキリ言って動機は金のため。

そんなボイル役に当時のジェームズ・ウッズはピッタリな役柄でしたが、実生活のジェームズ・ウッズは
熱心な共和党支持者で知られてますから、民主党支持者であるオリバー・ストーンとはまるで反対な政治思想だ。
そんなジェームズ・ウッズがリベラルな反体制派を心情的には支持しているというキャラクターを演じるのは面白い。

ジャーナリストとは言え、ボイルは戦場カメラマンであって危険な場所で取材することに躊躇しません。
取材のためには、現地の危険人物に取り入ったりして彼独自の人脈を作って、命知らずな取材を展開しています。
だからこそ、ボイルの記事や写真はアメリカの新聞社に買ってもらえて、新たな仕事がくるわけですが、
必ずしも彼自身が幸運に恵まれているわけではなく、時には命を取られる危険に瀕したりして、ヒヤヒヤさせられる。

エルサルバドルにいる不倫相手や子どものことは愛していることは間違いないのだろうけど、
映画の序盤ではボイルの本音が見えずにストーリーだけが進んでいくので、少々イライラさせられるかもしれません。

しかし、内戦が激化する中で様々な経験をして、ボイルは徐々に彼らをなんとかして助けたいという気持ちが芽生える。
彼らは“セジュラ”と呼ばれる身分証明書を持っていないために、そのままでいたら殺されてしまう可能性がありました。
それゆえ、ボイルは現地駐在のアメリカ大使に接触したり、米軍のタカ派な高官に会って反体制勢力に潜入取材して、
反体制派の武力など実情について情報を横流しするなどして、“セジュラ”を発行してもらえるように交渉しています。

それまでのボイルであれば、そんなことまでしたかは怪しいところですが、良心に目覚めたのでしょう。
ハッキリ言って、ボイルは戦争でメシを食っているジャーナリストではありましたが、彼なりに平和を願い行動します。
かつては自堕落で良心の欠片もないような人間性だったため、因果応報という見方もなくはないでしょうけど、
それでもボイルじゃ自身の良心に従って行動したのですから、安全な外野から平和論を講釈している人ではなく、
いつ命を取られるか分からない緊張感に満ち溢れた日常の中で生きる、ホントの戦争に対峙している人間なのだ。

結論的には反戦映画ではあるのですが、観終わった後には、何とも言えないやるせなさだけが残ります。
ある種のベトナム戦争後遺症に悩まされていたオリバー・ストーンが、もたらされるドンヨリした空気感を吹き込みます。

映画がグッと観客の心をグリップするように力強く引っ張り始める、終盤の展開には胸を締め付けられる。
“セジュラ”を求めて奔走していたボイルも別な手を打って、陸路でエルサルバドルを脱出しようとトライします。
ところが皮肉なことに、ボイルにとっては予想だにしていない結末が待ち受けていました。これが、なんとも切ない。

正直言って、オリバー・ストーンの映画でこんなに切ない想いに浸るなんて思いもしなかったので、なんとも意外でした。

散々、戦争の現実の厳しさを重ねて描くというのは、ほぼほぼ予想できる手法ではあったのですが、
本作の終盤の展開はどこか悲壮感が漂うような、なんともやるせない感覚があって、これは他作品には無い感覚だ。
ボイルの個人プレーという見方もできなくはないですが、人助けに必死になるなんて考えられなかった人ですからね。
こういった心境の変化をオリバー・ストーンが巧みに描くとは、正直言って、当時も意外だったのではないだろうか。

とてつもないエネルギーに満ち溢れた映画ではありますが、オリバー・ストーンのメッセージはほどほどに、
感情的なものを見事に表現していて、そのバランスがとても良い。オリバー・ストーンの監督作品にありがちな
説教臭さというのを本作からはほとんど感じないし、ラストシーンのボイルのお手上げ感が全てを超越した感覚を生む。

同時に内容的にかなりヘヴィな部分はあるので、観る前にはそれなりに覚悟をした方がいい作品でしょう。
残酷描写は躊躇なく挿し込まれますし、戦場でのシーンは目の前で人が殺され、横たわる死体の山が映っています。
特に映画の終盤には現地で慈善活動的に働いていた若い女性がシスターたちを空港に迎えに行って移動中に
現地政府から雇われた民間人たちが、彼女たちの車を襲撃して強姦殺人をするというショッキングなシーンもあります。

それから、終盤のジョン・サベージ演じる戦場カメラマンが飛来してきた戦闘機を真正面から撮影するために、
機体の進入路に入ってカメラを構えて、それまでの抑えを取り払ってシャッターを押しまくるシーンも印象的でした。
これらのシーンが表現する臨場感・緊張感・恐怖感というのは凄まじく、ロバート・リチャードソンのカメラが素晴らしい。

『プラトーン』の方が圧倒的に有名な作品なので、本作が陰に隠れてしまったような気がするのが残念だ。
戦争の不条理さ、戦場の臨場感や緊張感、人物描写などどれを取っても本作は他の追従を許さない高みにある。

観ていると気が滅入ってくるような内容の作品ではあるので、何度も繰り返し観たいというわけではないし、
上映時間の2時間がスゴいタフな時間に感じられるので、観る前に体調を整えて、それなりに覚悟を決めた方が良い。
後にも先にもオリバー・ストーンがここまで本能的に人間をドキュメントした作品というのは、本作以外にないだろう。

私生活では結構なトラブルメーカーなような気はしますが・・・(苦笑)、
真面目に生きなきゃいかんというのはオリバー・ストーンの基本スタンスのように思いますが、
本作のボイルもそう思い直して行動したものの、時すでに遅しだったのか...彼の想いは潰されようとします。
それも彼が信じてきた者たちからも裏切られるわけで、真面目に生きるだけで報われるわけではないという帰結だ。

ここで観客と無力感を共有するわけですが、なんとも多様な考えが巡らされる訴求力のあるラストだと思う。
これだけ上手く決まったというのは、やはり本作が初期のオリバー・ストーンの作品としては最高の出来ではないかと。

どうしても、イデオロギーについて煽動的なメッセージになり易いオリバー・ストーンですから、
他作品では常に肩肘に力入れて、エネルギッシュに演出しているような感じで大抵は説教臭くなってしまうのですが、
本作の終盤ではまったくの自然体な感じで力が抜けたようになり、とても人間らしくて好感が持てるんですよね。
(ベトナム戦争映画の三部作を撮り終えた後のオリバー・ストーンはヘンテコな映画に行きましたが・・・)

ちなみに物語の舞台となったエルサルバドルは中央アメリカの小さな国でありますが、
本作で描かれた内戦の混乱の影響で、アメリカへの移民は増えたらしく、その後強制送還となった人も多いらしい。
長く治安の悪い国としても知られていましたが、ギャングへの強硬な政策を講じたことで最近は良化したらしいです。

独裁国家で治安が良化した事例って、過去にも数少ないと思いますので今後に注目したいところですね。

(上映時間122分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 オリバー・ストーン
製作 オリバー・ストーン
   ジェラルド・グリーン
脚本 オリバー・ストーン
   リチャード・ボイル
撮影 ロバート・リチャードソン
音楽 ジョルジュ・ドルリュー
出演 ジェームズ・ウッズ
   ジェームズ・ベルーシ
   ジョン・サベージ
   トニー・プラナ
   エルピディア・カリーロ
   マイケル・マーフィ
   シンシア・ギブ

1986年度アカデミー主演男優賞(ジェームズ・ウッズ) ノミネート
1986年度アカデミーオリジナル脚本賞(オリバー・ストーン、リチャード・ボイル) ノミネート
1986年度インディペンデント・スピリット賞主演男優賞(ジェームズ・ウッズ) 受賞