レベッカ(1940年アメリカ)
Rebecca
巨匠ヒッチコックがハリウッドに渡って初めて撮った、ダフネ・デュ・モーリア原作を映画化したサイコ・スリラー。
この映画は何をもってしても、ヒロイン役のジョーン・フォンテインの美貌が最高潮に映えていると言っていいだろう。
気難しそうなローレンス・オリビエとはどこかミスマッチな印象もありますけど、それでも健気に頑張る姿が印象的。
40年度のアカデミー賞で作品賞含む、主要11部門で大量ノミネートされるなど高く評価されたのですが、
僕の中ではアカデミー作品賞受賞らしい風格漂う作品というには“弱い”かなぁ。正直、そこまでには感じませんでした。
それはヒッチコックの監督作品としては異色な内容の作品であって、
アカデミー作品賞を受賞したにも関わらず、本作がヒッチコックの代表作として語られることがあまり無いですからね。
何かヒッチコックらしさに欠ける部分があるからこそ、ヒッチコックのファンからするとあまりピンと来ないのかもしれない。
どちらかと言えば、名プロデューサーのデビッド・O・セルズニックのカラーの方が強い作品というイメージなのですかね。
映画は金持ち夫人の“付け人”をやっていたヒロインが、たまたま断崖絶壁の景勝地で出会った、
英国人の大富豪であるド・ウインターに見初められて、彼女があれよあれよという間にド・ウインターと結婚して、
それまでの生活では考えられないような広大な城に住むことで、彼女が経験する異様な出来事を描いています。
セット撮影だとは思いますが、この舞台となる広大な城がホントにスゴい。
ド・ウインターとヒロインの夫婦が主(あるじ)として暮らしているのですが、お手伝いさんの方が明らかに多い(笑)。
しかも、どうもド・ウインターの亡くなった前妻の存在が大きくて、かなりクセの強いお手伝いさんがいる過酷さ。
で、そのド・ウインターの前妻の名前が映画のタイトルにもなっているレベッカというわけで、
お手伝いさんにはレベッカのことを半ば崇拝している者がいて、後妻として入って来るヒロインのことを拒むわけで、
挙句の果てにはヒロインに窓から飛び降りることを囁いたり、ヒロインを邪魔者として排除するような動きを見せます。
映画はド・ウインターのことも、何が彼の本音なのかハッキリとしない描き方をしているので、
途中からはただただヒロイン役のジョーン・フォンテインが可哀想に見えてくるのですが、本作の時点でヒッチコックの
得意技でもある心理的に追い詰められていく様子を、実に克明に描けている点については優れた部分であると思う。
この時代に、このスタイルを打ち出せていたヒッチコックが先駆的存在だったのでしょう。本作が高く評価されたのは
本作の文芸性もあったのかもしれないけど、こういったヒッチコックの卓越した演出力にあったのではないかと思う。
本作へのアプローチが後に『断崖』であったり、『白い恐怖』のようなニューロティックな面を生かした
サイコ・スリラーのベースとなったような気もしますが、本作の特徴的なところって、やっぱりクライマックスだと思う。
ド・ウインターの大邸宅が災害に見舞われるのですが、この異様な雰囲気のラストはかなりのインパクトがある。
これはヒッチコックの監督作品の中でも、かなり特殊と言うか...全体的にあまり“遊び”がない作品ではありますが、
その分だけ正攻法かつ表現を少し工夫するということで、一種独特なサイキックな恐怖の世界観を構築しています。
ここまで当時の映画界で出来ていたのは、やはりヒッチコックくらいだったのではないかと思われ、目を引きますね。
正直言って、ローレンス・オリビエとヒッチコックの組み合わせって、僕は観る前に想像がつかないくらい、
かなり意外な組み合わせってイメージだったんですけど、さすがは名優と名監督なのか見事にマッチしてはいますね。
ただ、特に若い頃のローレンス・オリビエはかなり公私混同というか(苦笑)、気難しいところがある役者だったようで
ゴシップ的な内容ではありますが...当時の私生活での恋人であったビビアン・リーと共演したかったらしく、
本作のヒロインにビビアン・リーを推薦していたようですが通らず、怒ったローレンス・オリビエは態度に露骨に現し、
特にヒロイン役のジョーン・フォンテインにはかなり冷淡な接し方をしていて、撮影現場は難しい雰囲気だったらしい。
裏話的には、ヒッチコックはそんな撮影現場の雰囲気を逆手にとって“利用”することで、
むしろジョーン・フォンテインのいつも不安そうで自信なさげな立ち振る舞いを、ヒロイン像にシンクロさせたかった。
それが本作のどこかニューロティックな部分にも上手く生かされていて、ヒッチコックの意地悪さ全開な作品でもある。
ただ、この映画を観ていて気になったのは、肝心かなめのタイトルになっているレベッカについて、
ほとんど描かれていないということかな。これは敢えてそうしたのでしょうけど、亡きレベッカの虚像にすがっている、
お手伝いさんがレベッカの死後もいるというくらいなので、何か一つでもいいので、レベッカの人間性に触れる描写が
あっても良かったかなぁとは思いますね。おそらく、ヒッチコックはそういったことに感心がなかったのでしょうけどね。
レベッカのことを掘り下げるにしても、映画の終盤でレベッカに関わる真実を推理していくという、
ある意味でサスペンスらしい展開にしているのですが、この真実はさほど驚くべきものでもないのでインパクトは弱い。
それにしても...前述したようにド・ウインターがヒロインを連れてくる屋敷は、トンデモない広さで
大勢のお手伝いさんを住み込みで雇っていて、食事なども含めてとてもリッチな生活を送っているのを見ると、
思わず「一体何をしてこんな資産を築いたんだ!?」と疑問に思いましたが、それでもどこか幸せな生活には見えない。
勿論、レベッカを亡くしたという現実が暗い影を落としているのだろうとは思うけど、それでも羨ましい生活には見えない。
こういう描き方をしたのは意図的なだろうけど、広大な屋敷の中の光景もどこか寒々しく温かみを感じない。
それはヒロインの視点から、廊下の奥の部屋の扉を敢えて“引き”で映すシーンなどに、作り手の意図を感じますね。
実際の距離以上に遠く離れた距離感を演出することで、まるで別な世界であるかのように離れた部屋に見える。
それが、この屋敷の空気感なのでしょうけど、金持ちの生活が必ずしも幸せなわけではないというような、
裕福さの中の孤独や栄華の虚像といったものにスポットライトを当てたメロドラマは、ヒッチコックらしくはないですね。
(どちらかと言えば、やはり本作は題材的にデビッド・O・セルズニックの十八番だったのかも)
実際、ヒッチコックは本作でアカデミー作品賞を受賞したことを話題にされたときに、
「あのオスカーはセルズニックに贈られたものだよ」とコメントしていたらしいので、どこか自分の仕事としての
物足りなさや後悔といったものがあったのかもしれませんがね。確かにアカデミー作品賞は、監督ではなく製作者に
オスカー像が贈られるというものであることからすると、このヒッチコックの見解は至極真っ当なものではありますがね。
撮影現場にはデビッド・O・セルズニックがかなり介入していたらしく、ヒッチコックにとっては不本意な撮影だったとか。
40年代のヒッチコックはそれでも複数の監督作品でセルズニックとコンビを組んでるので、持ちつ持たれつな関係で
あったのではないかと思いますけど、セルズニックの口出しは収まらずハリウッドでも厄介者扱いされていたみたいだ。
そんな混乱の中でもヒッチコックが辛抱したのは、ハリウッド進出を成功させたいという目的があったからだろう。
本作の原作者であるダフネ・デュ・モーリアはイギリス人女流作家で、どうやら恋愛小説が多かったようですが、
実はヒッチコックが63年に撮った『鳥』の原作小説を書いた人でもあって、少し意外性のある作家でもあったようです。
確かに本作もド・ウインターとヒロインの恋愛を描いていることは間違いないので、
ダフネ・デュ・モーリアらしい世界観なのかもしれません。突如として出会った大富豪に見初められて恋に落ち、
アッという間に裕福な生活が舞い込んでくるなんて、シンデレラ・ストーリーがベースにあるというのは恋愛小説っぽい。
そんなシンデレラ・ストーリーでありながらも、ジョーン・フォンテイン演じるヒロインは心理的に追い詰められていきます。
それと同時にローレンス・オリビエ演じる大富豪ド・ウインターの本性について、思わず邪推したくなる展開になる。
こうしてジョーン・フォンテインが追い詰められていくシチュエーションが重層的に揃っていく様子が見事で、
それにジョーン・フォンテインも見事に応えているだけに、結果的にはキャスティングの勝利とも言える作品だと思う。
しかし、そういったジョーン・フォンテインの表現は前述したように、ローレンス・オリビエの公私混同なところと、
それを“利用”してスタッフたちにジョーン・フォンテインへの接し方を指示していたヒッチコックの意地悪いところが
撮影現場の裏側にあったのが真実だとすれば、これは今の時代では許容されないスタイルということになるでしょうね。
まぁ、どうやらヒッチコックのファンたちの間ではそこまで評判の良い作品ではないような印象がありますけど、
それでも僕は相応の見どころはある作品だと思うし、クドいようですがジョーン・フォンテインの美貌は特筆に値する。
本作での彼女の映し方、メイク、そして彼女自身が表現する存在感は、実に現代的な美しさと言っていいと思います。
(上映時間130分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
監督 アルフレッド・ヒッチコック
製作 デビッド・O・セルズニック
原作 ダフネ・デュ・モーリア
脚本 ロバート・E・シャーウッド
ジョーン・ハリソン
撮影 ジョージ・バーンズ
編集 ハル・C・カーン
音楽 フランツ・ワックスマン
出演 ローレンス・オリビエ
ジョーン・フォンテイン
ジョージ・サンダース
ジュディス・アンダーソン
ナイジェル・ブルース
レジナルド・デニー
1940年度アカデミー作品賞 受賞
1940年度アカデミー監督賞(アルフレッド・ヒッチコック) ノミネート
1940年度アカデミー主演男優賞(ローレンス・オリビエ) ノミネート
1940年度アカデミー主演女優賞(ジョーン・フォンテイン) ノミネート
1940年度アカデミー助演女優賞(ジュディス・アンダーソン) ノミネート
1940年度アカデミー脚色賞(ロバート・E・シャーウッド、ジョーン・ハリソン) ノミネート
1940年度アカデミー作曲賞(フランツ・ワックスマン) ノミネート
1940年度アカデミー美術監督賞<白黒部門> ノミネート
1940年度アカデミー撮影賞<白黒部門>(ジョージ・バーンズ) 受賞
1940年度アカデミー編集賞(ハル・C・カーン) ノミネート
1940年度アカデミー特殊効果賞 ノミネート