パピヨン(1973年フランス)
Papillon
これはものスゴくタフな映画で、観る度に食欲を失ってしまうかのような映画だなぁ(苦笑)。
映画は終身刑や長期懲役刑に処される囚人がやって来る、厳しい環境の刑務所を舞台に展開する、
“パピヨン”と呼ばれた終身刑のタフな男と、国債を偽造するなどして長期懲役刑に処された知能犯のドガの友情。
それを『パットン大戦車軍団』を撮ったフランクリン・J・シャフナーが描くわけですが、
この重苦しい空気のドラマを延々と2時間30分に渡って見せられると、さすがに気が滅入ってくるところがある。
いや、これは僕はを否定的に言っているわけではなく、映画は現実を見ているから描けた部分もあるだろう。
凄まじくタフでハングリーに生きることが求められる環境。理不尽な暴力やら、裏切りに恨みなどが蔓延っていて、
看守たちの過剰なまでの暴力にも耐えなければいけない。感情的に言えば、囚人たちは重罪に問われた人間なので、
これ自体が罰と言えば、それは否定ができない環境の劣悪さだ。これに耐えられる人間は、そう多くはいないだろう。
罪を償う意識を持たせるための罰であるわけですから、生活環境を云々できる立場にもないのでしょう。
昨今であれば、刑務所内での非人道的な扱いも許されるものではないですが、当時の刑務所はこんなものでしょう。
もう刑務所へ向かう護送船の中からして劣悪な環境そのもの。ここで既に囚人生活は始まっているのですね。
そういう意味では、町から護送船に乗るまでにパレード...いや、見世物のように囚人たちが
市街地を歩かされて、それを町の人々が黙って見るというシーンが描かれますが、どこか世紀末感が漂う空気感だ。
これが過酷な刑務所生活を予感させるような、暗雲立ち込める空気を象徴していて、映画の一貫性につながってくる。
観ているだけで、精神的にこれだけ影響される映画というのは、僕はそれだけ力がある映画だと思っていて、
罪は犯したものの、(本人曰くは)冤罪も加算されて重罪扱いとなったために、自由を目指して脱獄のことを考える。
しかし、あまりに過酷な環境のために主人公は何度も何度も振り落とされるように、懲罰の独房に入れられたりします。
奇妙な友情で結ばれたドガが、幾度となく苦しい扱いを受ける主人公を助けようとしますが、
それでも刑務所側は容赦しません。この映画では一切笑わないスティーブ・マックイーンが主人公を演じてますが、
文字通り不屈の精神で強く生き続ける姿が印象的だ。こうした姿を執拗に描くことで、よりサバイバル感が増します。
この映画にとっては、“パピヨン”がおれだけの罪を犯したのかは、正直言ってあまり大きな問題ではない。
勿論、どれだけ主人公に共感性を持って映画を観ることができるかは影響しないわけでもないのだけれども、
本作でフランクリン・J・シャフナーは過酷な環境が重層的に重なる様子を描くことで、とてもタフな内容に仕上げている。
そうなってくると、道徳に訴える内容というよりも、ある種の反骨精神を煽ることにフォーカスした作品になるのですね。
脚本にダルトン・トランボが加わっていることも影響しているのかもしれませんが、とにかく徹底した映画ですね。
この徹底したアプローチこそが本作の特徴であって、言い方を変えれば、それだけが映画を支えているのがスゴい。
最初っから脱獄のことばかり考えて、刑務所内でブレーンが必要と考えた主人公は偽造技術を持っている、
知能犯のドガを味方につけようと、獄中で狙われ易いひ弱なドガを守り続けることでドガの信頼を得て友情を育む。
そして、看守たちを買収したりして、なんとか脱獄の手引きをしてもらおうとしますが、なかなか上手くはいきません。
それでも全く挫ける気配のない主人公の精神力が凄くて、ゲッソリした風貌になりながらも、それでも自由を目指します。
(そう、本作のスティーブ・マックイーンの役作りは実に凄まじく、その風貌からも生きることへの執着の強さを感じる)
なかなか上手くいかず、結局は長期に懲罰独房に入れられてしまうわけですが、それでも彼は諦めません。
こんな様子を上映時間2時間30分いっぱい使って描かれるわけですから、観ているだけで体力を使う映画なわけです。
でも、僕は残念ながら本作が傑作とまでは言えないかなぁとは思った。これは複数回観ても、変わらない感想。
確かに力強い映画で見応えは十分なんだけど、それ以上に訴求するものは無い。これはアンリ・シャリエールという、
無実を訴えて脱獄に成功した実在のフランス人をモデルにした原作の映画化であって、基本的にはノンフィクション。
映画の冒頭の刑務所への護送船でのシーンにしても、観るに堪えないほどに不衛生な環境に見えるし、
雨が降りしきる船上で汚い食器に注がれた、不味そうなスープを流し込むように飲む姿が印象的ですね。
あの環境では凍えるような寒さでしょうし、せっかくの温かいスープもすぐに雨のせいで冷めてしまうような状況だ。
しかし、それでも彼らは栄養を摂らなければならないし、油断しているとすぐに命をも狙われかねない環境なんですね。
そして、ようやっと到着した刑務所では、看守たちに歯向かったのか脱獄を試みたのか、
はたまた死刑執行の命令が下ったのか、まるで囚人たちへの見せしめであるかのように大勢の前で首チョンパ。
この公開処刑のシーンもショッキング極まりないのですが、撮影当時は技術の問題もあって映像表現には限界がある。
本作のフランクリン・J・シャフナーはその限界まで挑戦したかのように、工夫を凝らしてよりショッキングに見せている。
こうして囚人たちに逆らえない雰囲気を押し出される中で、主人公とドガは看守たちから
池にいたワニを武器もない状況で素手で捕獲しろと無理難題を要求され、なんとか捕獲しようと悪戦苦闘します。
そんな姿がなんとも狂気的でありながら、観客の心には監獄生活であるという前提がありながらも、
徐々に主人公らが受ける待遇が理不尽なものであるという感覚が芽生える人もいるだろう。このバランスが巧妙だ。
執拗に自由を追い求める姿に共感を求めるタッチなのですが、難しいのは今はそういう時代じゃないからなぁということ。
まぁ、遵法精神というのは今も昔も変わらないのだけれども、おそらく映画の前提として主人公の罪が
どうなのかということ自体を大きな問題としない構成で、脱獄を正当化するようなアプローチは現代では賛否両論だろう。
そう思うと、今の時代であれば主人公が収監された理由もキチッと描かなければならなりなり、映画はもっと長くなる。
個人的にはこの映画の物語はこれで十分に成立していると感じるので、無理して逮捕経緯を詳細に描かなくとも、
いいのではないかと思いますが、コンプライアンスを意識して観る人には白黒ハッキリさせないとスッキリしないだろう。
それでも、クライマックスの主人公の“ダイビング”は感動的にすら観える。これがなんとも不思議なマジックだ。
劇場公開当時はマックイーンとダスティン・ホフマンの共演が話題となったのでしょうが、これはマックイーンの映画だ。
あのダスティン・ホフマンですら、生きることに執着して自由を追い求めるマックイーンを前に、霞んでしまうくらいだ。
こういう底知れぬパワーがあった、ハリウッドのアイコンでもあったマックイーンのスター性はホントに凄まじい。
劇中、印象的なことが描かれるのですが、「人生の時間を無駄に費やしたので有罪だ!」と宣告されます。
これは主人公の幻想ですけど、かなり意味深長なエッセンスですね。何をもって無駄と言うかは分かりませんが、
これは無意識的に本人がそう思っているからこそ見てしまう幻想なのでしょう。なかなか考えさせられる幻想ですよ。
そんな幻想で苦悩するマックイーンの表情も、また何とも言えず渋くてカッコいいですね。
こういう姿、表情の一つ一つを見ても、やっぱりマックイーンは唯一無二のスターであって孤高の存在ですね。
そんなマックイーンが汗だくになり、泥まみれになり、傷だらけになりながらも不屈の男を演じるから格別なのだろう。
確かに「傑作ではないと思う」と前述させてもらったけど、とは言え、本作が劇場公開当時、不評だったと聞くから
それはそれで意外ですね。これだけ徹底した作りになっていて、見応えのある作品に仕上がっているだけに・・・。
もっと骨太なドラマを期待していた意見はあったのかもしれませんが、他には無いサバイバル・ドラマなんですがねぇ。
賛否が分かれそうなのは...映画の中盤、主人公とドガらが脱獄を試みるシーンで、
何とか別な島に流れ着いて、当時は差別されまくりだったハンセン病患者や先住民たちとの触れ合いのシーンに
長く時間が割かれていて、これは少々、映画全体のことを考えると“浮いて”見えてしまっていることは否定できない。
特に先住民たちに助けてもらうシーンなんかを観ていると、主人公が現地の娘たちから好かれて、
なんだか楽しそうにやっているかのような姿にも観えなくはないので、彼にとってパラダイスだったように思える。
思わず、「ひょっとすると、このまま定住するのだろうか?」と思えてしまうくらい。それくらいに居心地が良さそうだ。
しかし、これはこれで意味深長な部分はあって、意外な展開になる。まるで現実と虚構を彷徨っているかのようだ。
この辺は敢えて曖昧に描くあたりが上手かったのですが、映画全体にイマイチ調和しない展開に映ったのも事実かな。
と言うわけで、個人的には見応えのあるサバイバル・ドラマで悪い出来ではないと思うのだけれども、
もう一押しが足りない作品でもあったとは思います。いずれにしても、観る前は体調を整えておいた方がいいです(笑)。
(上映時間150分)
私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点
監督 フランクリン・J・シャフナー
製作 ロベール・ドルフマン
フランクリン・J・シャフナー
原作 アンリ・シャリエール
脚本 ダルトン・トランボ
ロレンツォ・センプルJr
撮影 フレッド・コーネカンプ
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 スティーブ・マックイーン
ダスティン・ホフマン
ビクター・ジョリイ
アンソニー・ザーブ
ドン・ゴードン
ロバート・デマン
1973年度アカデミー作曲賞(ジェリー・ゴールドスミス) ノミネート