ノッティングヒルの恋人(1999年アメリカ)
Notting Hill
これはシャルル・アズナブールの Tous Les Visage De L'amour(忘れじのおもかげ)を
エルヴィス・コステロがカバーした主題歌が良過ぎた(笑)。この歌唱を主題歌にされたら、誰だって心が動く。
ヒネくれたところのあるコステロは、未だにこの曲を大切にしているようでカバーしたことを誇りに思っていて、
僕自身、2016年のコステロの来日公演を見に東京へ行きましたが、ギターのみでこの曲を歌ってくれました。
そりゃ、コンサートで必ずってわけじゃないのでしょうが、ヒットした主題歌だから嫌うということでもないようで、
おそらくシャルル・アズナブールのオリジナル曲自体にコステロも強い想いがあって、未だに歌いたいということでしょう。
本作の主題歌にするにも、シャルル・アズナブールのオリジナルはあまりにマイナーであったために
コステロにカバーを依頼したという経緯らしくって、コステロがあまりに上手く歌い上げたものだから、
このカバーで映画を締めくくったラストを試写で観て、多くのプロダクションの人々はヒットを確信したのでしょう。
実際、イギリスを舞台にしたラブコメが流行りつつあった時代ということもあって、
オシャレに見えたせいか、本作の世界的な大ヒットでその流行を一気に決定づけたという印象がありますね。
ジュリア・ロバーツも『プリティ・ウーマン』に続くヒット作となって、今でも彼女の代表作の一つとなっていて輝いている。
相手役となるヒュー・グラントも彼の持ち味を最大限に生かしたキャラクターとなっており、
少々イケメン過ぎる気もするけど、言ってしまえば“逆シンデレラ”を見事なまでに体現するような平凡ぶりが良い。
映画はジュリア・ロバーツ演じるハリウッドのトップ女優であるアナが、撮影のために訪れたロンドンで
撮影の空き時間に単独でたまたま立ち寄った書店で、その書店の経営者でもある一般庶民のタッカーと出会い、
ひょんなことから二人の距離が急激に近づき恋に落ちる。しかし、映画撮影で訪れているアナはマスコミ対応で多忙。
しかも、アナにはアメリカに仲が悪くなっていたとは言え、俳優である恋人がいて、アポなしで彼はロンドンへ来てしまう。
(この恋人役がカメオ出演でアレック・ボールドウィンが演じていて、予想だにしない登場でビックリした)
そんな中でタッカーの素朴さに惹かれていくアナは、ドンドン距離を詰めていきますが、
やがては2人の恋愛はスキャンダルになってしまい、上手くいかないなぁと実感したタッカーから別れを告げる。
という、ホントに“逆シンデレラ”のようなストーリーで、一般庶民である書店の冴えない店主が
ハリウッドのトップ女優と恋に落ちるという、夢でもなかなか見ないような展開であり、成立させることが難しい。
しかし、監督のロジャー・ミッチェルもなかなかバランス感覚に優れたディレクターでして、上手い具合にコメディを
映画の中にブレンドして緩急をつけて、それでいてしっかりとアナとタッカーの恋を成就させていく過程を描いている。
この映画はそれなりにプロセスをしっかりと描けたからこそ、この結末に説得力が生まれているのだと実感する。
スゴく収まりの良い恋愛映画ですので、反感を持たれ易い部分もあるとは思うのですが、
映画全体のバランスがなかなか良いので観ていて心地良く、気持ち良く映画を観終われる感じがするのが良い。
どれもこれもコステロの主題歌のおかげと言えば、それも否定できませんが(笑)、映画の出来は結構良いと思います。
主演2人を引き立たせるためにと、印象深い脇役が登場してきますが、彼らのキャラが“立っている”のが良い。
特に挑発的なメッセージが書かれているTシャツを着ている同居人を演じたリス・エバンスが目立ってはいますけど、
地味にタッカーの家族や友人が集まって食事するシーンに時間を費やしており、彼ら一人ひとりがなんとも印象深い。
突如としてタッカーがアナを連れてきて、何も聞いてなかった彼らが一人ひとりが驚きの表情を浮かべる。
そのリアクションにアナが逆に新鮮に感じている様子が微笑ましく、アナのキャラを嫌味に感じさせないのが上手い。
ただ、彼女の中にも揺れ動くものと、どうすればいいのか分からない心もあって、それがタッカーとの関係を悪くします。
この辺の緩急の付け方はロジャー・ミッチェルもスゴく上手かったと思います。ラストの記者会見の収束も悪くない。
しかし、どうしてもジュリア・ロバーツとヒュー・グラントがお互いに面と向かって見つめ合って、
今か今かとキスを待つかのような立ち位置が気になってしまった。あそこまで向き合わなくてもいいのに・・・(苦笑)。
そりゃ恋愛映画ですからね、作り手の気持ちも分かりますけど...もっとアナとタッカーの自然体な姿を意識して欲しい。
2人がドキドキさせているような、お互いに見つめ合うシーンよりもラストに、アナとタッカーが結ばれてから結婚、
そして子どもの誕生を待っていることを匂わせるような彼らのくつろぎの姿の方が、遥かに自然体で良い。
勿論、トップスターであるアナとの恋愛なわけですから、その時点で普通じゃないというのは分かりますけど、
あくまで男女が惹かれ合って、お互いに会話を楽しむ姿というのは自然体に描いて欲しいし、平凡で良かったはず。
描かれるのは非凡な恋愛であることは間違いないんだけど、あくまで平凡な感覚というのは大事にしたいところ。
本作の大ヒットでリチャード・カーティスの脚本自体も評価されて、21世紀初めはヒット作のセオリーになりました。
ひょっとすると、本作のヒットが無かったら『ブリジット・ジョーンズの日記』などの映画化も無かったかもしれませんね。
それくらいに本作のヒットはインパクトがあったことは間違いないですし、ロンドンを描くことをトレンドになった気がする。
欲を言えば、恋することに理由なんか無いっていうのは分かるけど・・・
いくら親切にしてもらったからとは言え、何故にアナがタッカーに恋心を抱いて、衝動的にキスしてしまったのかが
今一つピンと来ないのが残念。もう少し恋の始まりに関しては丁寧に描いて、もっと説得力を出して欲しかったなぁ。
せっかくジュリア・ロバーツとヒュー・グラントという絶妙なコンビのキャスティングを実現させただけに、
二人の恋愛の導入部分については、もっと大事に描いて欲しかった。少なくとも欲に負けてキスしたというわけでもなく、
二人の間には二人にしか分からない恋の予感があったからこそキスしたのだろうから、感情の揺れ動きがあったはず。
アナからすれば、幾多の選択肢があっただろうし、何より一般庶民との恋は成就しづらいことは分かっていたはず。
それでも二人は恋に落ちるわけですから、なんとも理屈では説明できない情緒的な要素は強かったはずなんですね。
“逆シンデレラ”とも言える格差恋愛で、女性の方が社会的かつ経済的に上回っているという設定は
往年の名作映画で『ローマの休日』が有名ではありますが、世間を知らないヒロインに男がある意味で“教育”する、
という趣向の物語ではありますが、本作はそういったベクトルでもなく、あくまでヒロインの癒しになるという趣向です。
アナにとっては、タッカーとの時間が最も自分らしく居れる時間という感じがして、デートで入ったレストランの隣の席で
アナを題材に卑猥な会話をしていたサラリーマンたちに、アナが啖呵を切りに行くシーンなんかが、それを象徴している。
結局は彼女自身、自由な時間が多くあるわけでもないし、言いたくても言えないことが数多くあるわけですね。
アナはタッカーと一緒にいる時間こそ、自然体で彼女らしく居れるのでしょう。だからこそ、よりタッカーに惹かれていく。
それでも大スターと一般庶民の恋が成就することが難しい。その難しさを時にコミカルに、時に切なく描いています。
ロジャー・ミッチェルは長らく舞台劇を中心に活動していたようで、90年代から映画界で活躍していましたが、
本作はコテコテのラブコメのアプローチをとりながらも、嫌味になり過ぎないようにギリギリのところでバランスをとる。
前述したように脇役キャラクターも大事に描かれていて好感が持てるし、とても上手いアプローチだったと思うのです。
特にタッカーの友人の女性弁護士で、事故によって車椅子生活を強いられてしまった夫婦の愛が良いですね。
彼女の夫も料理が得意と自慢の腕を振るうのはいいですけど、実は味はマズいと評判で散々茶化されるのですが、
それでも彼女が就寝するにあたって、夫が優しく彼女を担いで2階へ上がっていく姿を映したり、なんとも微笑ましい。
また、そんな様子を見て、タッカー自身も夫婦愛について触れる瞬間があって考えさせられている姿が印象的だ。
残念ながらロジャー・ミッチェルは2021年に他界してしまいましたが、もっと評価されていい手腕を持っていたと思う。
しかし、重ね重ねで恐縮ですが・・・この映画の魅力を支えているものとして、主題歌の力は正直言って大きい。
シャルル・アズナブールの Tous Les Visage De L'amour(忘れじのおもかげ)を大々的にフィーチャーしたことが勝利。
それをエルヴィス・コステロにカバーしてもらったというのも大正解。この組み合わせが本作のイメージになっている。
ロジャー・ミッチェルがどれくらい、それを意識していたかは分かりませんが、
ひょっとすると、この主題歌の効果の大きさは当初、作り手が想像していた以上のものであったのかもしれません。
それくらい、音楽の力って大きいことがあるんですよね。甘いんだけど、甘過ぎない。なんとも不思議な塩梅だ。
(上映時間123分)
私の採点★★★★★★★★★☆〜9点
監督 ロジャー・ミッチェル
製作 ダンカン・ケンワーシー
脚本 リチャード・カーティス
撮影 マイケル・コールター
編集 ニック・ムーア
音楽 トレバー・ラビン
出演 ジュリア・ロバーツ
ヒュー・グラント
リス・エバンス
ジーナ・マッキー
ティム・マキナニー
エマ・チャンバース
ヒュー・ボネヴィル
ジェームズ・ドレイファス