マーニー(1964年アメリカ)
Marnie
名匠ヒッチコックが『鳥』に続いて撮った、金を盗んでいる女性を描いたミステリー・サスペンス。
『鳥』に続けてヒロイン役にはティッピー・ヘドレンを起用していて、当時のヒッチコックのお気に入りぶりが
よく分かるがキャスティング的に意外だったのは、当時既に初代ボンドとして世界的にブレイクしていたはずの
ショーン・コネリーを相手役としてキャスティングしている点で、常にヒロインを優越した立ち位置で演じている。
正直、本作のショーン・コネリーは賛否両論だろう。確かにヒッチコックの世界に馴染んでいるとは言い難い。
しかもヒロインと純粋に恋に落ちるとは言い難く、彼らなりに駆け引き感を演出しているかのようだがそれも弱く、
精神的に倒錯した感じのあるヒロインを、男が精神的に優越する立場で近くにいる中でのロマンスには無理がある。
そもそもの立ち位置が対等ではないことはあり得ても、本作のショーン・コネリーのキャラはイヤな男過ぎる(笑)。
正直、本作のショーン・コネリーをヒッチコックがどれだけ真剣に引き立たせようとしていたのか、伝わってこなかった。
終始、「コイツ、イヤな奴だよねぇ〜」と監督自身もそんな気持ちで描いても、映画が成り立つという
カラーの作品なのであればそれでいいけど、僕には本作がそんなタイプの作品だとは思えなかったし、重要人物。
しかも、どちらかと言えば、ヒロインに助けの手を差し伸べるという人物なので、この描き方はいくらなんでもあんまりだ。
映画の出来としても、本作は『鳥』の翌年に撮った作品ということで、あまりにその落差の大きさに戸惑ってしまう。
映画のベクトルが違うので単純比較はできないにしろ、その出来栄えの差は明らかで。もっと上手く撮れたはずだ。
ヒロイン役のティッピー・ヘドレンのキャラクターもPTSDを発症しているとは言え、泥棒の擁護理由になるかが疑問だ。
とまぁ、共感を得ることは難しい内容ではないかとは思うのですが、ヒッチコックとしては人間の深層心理に迫り、
その中で男女の欲望が絡み合う様子を、脅迫的に描きたかったのではないかと思え、これは『サイコ』に似ている。
(『サイコ』は男女の欲というよりも、始めっから精神的に病んでいることが前提ではあったけど・・・)
映画の冒頭からヒロインが多額のお金を盗んで、多額のお金をロッカーに隠す流れを映したり、
自宅の母親を訪ねて、謎に近所の母子と一緒に暮らすことを宣告されて揉めたりして、この映画のヒロインが
一筋縄にはいかないキャラクターであることに触れていますが、ヒッチコックの映画にしては複雑な背景にし過ぎかも。
映画が進むにつれて、ヒロインにはツラい過去に関わるPTSDがあって、悩まされているように描かれていますが、
この過去を含めて実はショーン・コネリー演じる金持ちの御曹司が全て把握していた、という設定には無理があるかな。
それに、この御曹司が一体何を思ってヒロインに恋愛感情を抱いて、彼女と結婚したのかも不透明でよく分からない。
明らかにヒロインがノリ気だったわけではないし、人間的な魅力溢れるというわけでもなくどこに惹かれたのかも謎だ。
こういうショーン・コネリーのキャラクターって、どことなく同じ年に出演した『わらの女』にも共通していて、
この時代の亭主関白な男の典型のような感じで、どこからどう観てもジェームズ・ボンドのまんまという印象だ。
こういう姿を観ると、思わず私生活のショーン・コネリーもこんなような性格だったのかなと邪推したくなってしまいます。
ヒロインが赤色に異様なほどに強い拒否反応を示していて、赤に関するトラウマになるような何かがあることを
映画の序盤から示唆してはいるので、ヒロインの過去に何かがあったことは明らかなのですが、幼児退行というのは
本作製作当時からすれば、かなり物珍しい題材だったのではないかと思います。そう思うと、先駆的な映画ですよね。
ヒッチコックはこういった精神医学に関わる現象に興味があったのか、60年代に入ってからはこの手の題材が
監督作品の中で増えた気がします。でも、こういうことをまともに映画の中で描いていたのは当時はヒッチコックぐらい。
今になって思えば、さして驚くようなテーマではないのですが、自分が精神的な病いに冒されているという自覚なく、
一般社会の中に紛れていて、時に一般市民が犠牲になることを描いたり、本作のように過去の出来事が契機となって
抜け出せなくなっている人を描くことで、さり気なく誰かが手を差し伸べることの必要性に言及しているように見えます。
まぁ、それが本作のショーン・コネリーのような御曹司かと言われると、それは微妙なところですが・・・
それでもヒッチコックのような監督が映画の中で取り上げて、初めて注目されるということも当時ならあったと思います。
本作はそんなヒッチコックの先進性を象徴した作品であり、この原作を独自の解釈を交えて上手く描いてはいますが、
それでも他のヒッチコックの監督作品と比較すると、僕の中ではかなり物足りないというか、落ちるというのが本音。
そこは題材の良さ以上のものを出せなかったということで、やっぱりヒロインに助けの手を差し伸べる存在までもが
どこかいかがわしく見える世界というのは、散らかった物語について納得性ある収束というのが難しくなったと思います。
やはり、何かしらの秩序は必要で最後に上手くヒロインを救うというエッセンスが必要で、
本作のラストのまとめ方は悪い意味で、かなり強引に見えてしまう。ヒッチコックのことだから、不条理なラストなのかと
思ったものの、想像以上に平凡なラストに帰結しました。原作を完全には無視できなかったのだろうし、難しいところ。
しかし、あんまりヒッチコックらしい作りではないなぁと思いました。だから、『鳥』と比較するとその落差に驚かされるわけ。
映画の終盤にヒロインが好きな乗馬に興じるシーンがあるのですが、これは頑張って工夫はしている。
が、しかし・・・現実の乗馬と比較すると、あまりに飛躍した描写もある。個人的にはそれでとやかく言いたくはないけど。
さすがにあれだけのスピードで疾走する馬で、仮に塀を飛び越えるのに失敗して、引っ掛かって転倒し
馬上の人も落馬したのであれば、ノーヘルのヒロインが無傷でいられるわけがないし、すぐに立ち上がれない。
逆に馬がのたうち回ることはほぼ無くって、転倒した馬はビックリしてすぐに走り出しちゃうんで大変なことになります。
まぁ、ここは映画の都合でいいのではないかとは思いますが、べつにあんな転倒でなくとも良かったように思える。
しかも、足が折れたことを悟ったヒロインが瞬時に馬を射殺するために、家に「ライフルあるありますか!?」と
駆け込んでくるというのも、えらく飛躍してヒステリックな反応に見えちゃうので、全体的にステレオタイプ過ぎるなぁ。
まぁ・・・ヒロインは色々と疑われて、ほぼほぼ錯乱状態にあったということなのだろうけど、そもそも乗馬する前に
屋敷から逃げることを考えなかったのは謎ですよね。これまでの彼女も窮地になったら、“逃げて”きたのでしょうし。
なので、これだけ合成映像を駆使して工夫して撮ったり、俯瞰ショットで疾走するスピード感を表現したりと
それなりに力の入った撮影を見せた乗馬のシーンですが、僕には無くても全体に与える影響は皆無のように思えます。
映画もどんなに新しいテーマを掲げても、それはある一定時間を経過すると古びてしまうのは仕方ないとは思います。
だからこそ、ヒッチコックなりのアプローチがあって映画の価値が高まると思うのですが、本作はそれが弱いですねぇ。
キャスティング的にも当時のヒッチコックのお気に入りだったティッピー・ヘドレンはまぁまぁとしても、本来であれば
もっと目立つ存在になるはずだった相手役のショーン・コネリーが、「あっ、これはショーン・コネリーなんだ」くらいにしか
インパクトを残せていなくって、ライトな映画ファンには本作にショーン・コネリーが出演していたこと自体、認知ないかも。
かと言って、ケーリー・グラントやジェームズ・スチュアートみたいなベテラン俳優陣では若さがない。
だからこそ、当時売り出し中のショーン・コネリーだったのかもしれませんが、どうにも彼にも若々しさは感じられない。
この辺がもっと機能的に絡み合っている内容に仕上がっていれば、本作はもっと高く評価されていたことだろうと思う。
それから、もう一つ惜しいなぁと思ったのはダイアン・ベイカー演じる御曹司の義理の妹を生かし切れなかったことだ。
彼女は登場してきた瞬間から、どこか嫌味な態度を示していてヒロインに敵対する存在であることを示唆するのですが、
映画の後半に何かかき乱す存在になると予期させるものでした。ところが、そんな感じではなく、思わせぶりで終わる。
もっと彼女を絡めて描けていれば、映画は変わっていたかもしれず、これもまたヒッチコックらしくない処理だなと思った。
そんなこんなで2時間を超えるヴォリュームになってしまったのは、冗長にも見えてしまうわけで実に勿体ない。
ちなみに本作はヒッチコックの監督作品では音楽をずっと担当してきたバーナード・ハーマンと最後に組んだ作品で、
次作である66年の『引き裂かれたカーテン』で2人の意見が衝突したことで、もう組むことは無くなってしまいました。
確かに全体に仰々しいスコアを書くバーナード・ハーマンなので、大袈裟に映ってしまいますが重厚感はありますね。
本作を境にして、ヒッチコックの黄金期は過ぎ去って行ってしまったような感じになってしまいましたが、
ヒッチコックのファンであれば、どのように彼の作品が変容していったのかを体感するためにも必見の作品だと思う。
決して悪いシーン演出ではないけれども、映画の中盤にあるヒロインが誰もいない(...と思われた)オフィスで
上司の管理する金庫から現金を盗み取るシーンにしても、掃除の叔母ちゃんがフレームインしてくるのは面白いが
これはヒッチコックなりにユーモラスに撮ったシーンであって、いつバレるかと心配になる緊張感は今一つだ。
なにか、こう...チグハグな部分が散見されるのも、ヒッチコックの衰えでもあったのかもしれない。。。
(上映時間128分)
私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点
監督 アルフレッド・ヒッチコック
製作 アルフレッド・ヒッチコック
原作 ウィンストン・グレアム
脚本 ジェイ・プレッソン・アレン
撮影 ロバート・バークス
編集 ジョージ・トマシーニ
音楽 バーナード・ハーマン
出演 ティッピー・ヘドレン
ショーン・コネリー
マーティン・ガベル
ダイアン・ベイカー
マリエット・ハートレイ
ブルース・ダーン