光の旅人/K−PAX(2001年アメリカ)
K - PAX
突如として駅に現れた謎めいた男が、マンハッタンの精神科病棟で保護されたことで、
高名な担当医に治療されることになるものの、実は男には複雑な過去があったことが分かるヒューマン・ドラマ。
これはスピリチュアルで不思議な感覚に包まれた映画ではありますが、これはなかなか出来の良い作品だと思う。
監督はイギリス出身のイアン・ソフトリーで、94年にスチュアート・サトクリフを描いた『バック・ビート』を撮った人だ。
主人公となる男は“プロート”と名乗って、自分は宇宙人だと言うが、精神科医の診断では誇大妄想だった。
ところが、彼は物理学者でも理解が難しい宇宙物理学の知識を披露したり、動物の心の声を言い当てたりする。
それはとても並みの人間ではできないようなことであり、ホントに“プロート”は宇宙人ではないかと思えてくるのです。
これはSF映画として紹介する向きもありますが、内容的に確かにSFチックではありますけど、
一般的なSF映画というわけではありません。“プロート”の超人的な側面を見ると、SFにカテゴライズされるでしょうね。
まぁ、でも・・・前述したように、この男は通常なら分からないはずのことをスラスラと理解して喋っているし、
バナナを皮付きのまま、むしゃぶりついて旨そうに食べているところを見ると、普通の人間には見えないですよね。
だからこそ、彼が言う「惑星K−paxからやって来たんだ」という主張が納得性を帯びていて、そう思うとSFですよね。
そんな不思議な男、“プロート”を演じるのは演技派俳優ケビン・スペイシーでしたけど、彼にはピッタリなキャラでしたね。
実質的な相手役となった精神科医を演じたのもベテラン俳優ジェフ・ブリッジスですが、彼もまた安定感があります。
ケビン・スペイシーくらいアクの強い、オーヴァーアクト気味の役者にはジェフ・ブリッジスくらいの安定感が必要ですね。
この映画は全体通しての雰囲気の統一感が素晴らしかったですね。それから、光に対するこだわりも良い。
冒頭の駅でのシーンにしても光の挿し込み方、クライマックスの病室の夜明けなど、とにかく光の映し方が良いですね。
この神々しさが“プロート”の神秘性を高めていることは間違いなく、画面の一貫した作りが上手くフィットしていますね。
この映画は当時、そこまで全米では興行的に成功しませんでしたけど、これはタイミングが悪かったかも。
おりしも「9・11」の直後だったので、こういう過去がある男の内面に触れるスピリチュアルな物語を受け入れる、
雰囲気が当時のアメリカには無かったかもしれません。上映延期になった作品があったりして、大変な時期でしたしね。
まぁ、本作はSF的でもあり、ある種のファンタジーでもあるのでしょうね。
細かい部分について、現実世界との整合性にツッコミを入れていたら破綻している作品ですのでダメですね(笑)。
そういう意味で、ファンタジー映画の主人公がケビン・スペイシーのようなオッサンというのも、またスゴいですが(笑)。
あの冒頭のケビン・スペイシーのファースト・カットにしても、なんか湯気でも立ってそうな妙な空気感で登場ですから。
普通に考えたら、いくら原作があるとは言え、そんな発想で映画を撮ろうなんてなかなか思わないですよ。
イアン・ソフトリーはなかなか力のあるディレクターだなぁとは思いました。
映画が後半に差し掛かると、“プロート”の過去についてジェフ・ブリッジスが調べ上げていくという展開ですが、
まるでバラバラであったパズルが1ピース・1ピース連なっていく過程が分かるように映画が進んでいくのは感心した。
映画全体通して、致命的な破綻と感じる部分もありませんし、不思議な感覚を上手く生かしていますし。
唯一、僕が気になったのは決定打が無いこと。感動作というには、この映画のラストの訴求力が少々物足りない。
もっと力強いラストとして描けていれば、映画の印象は大きく変わったでしょうし、心揺さぶるものが表現できたと思う。
もっと訴求力ある内容になっていれば、僕はこの映画、傑作と言ってもいいくらいの仕上がりの良さだったと思います。
生真面目過ぎる作り方という見方もできなくはないですけど、この誠実なアプローチは応援したいと思う。
本作の出来から、個人的にはもっと積極的に映画を撮ればいいのに・・・と思えるんだけど、寡作な人なんですね。
終盤の展開は少々サスペンスフルに展開しますが、“プロート”の過去を知るとショッキングに感じるだろう。
確かに精神に異常をきたしても、なんら不思議ではない。この辺は難しい展開となっているけど、上手く構成している。
これだけ過酷な仕打ちがあったからこそ、“プロート”には不思議な能力が与えられたのだと見ることもできますね。
しかし、それでも“プロート”にはある種の癒しが必要であったはず。それが医学的な治療であったかは謎だが、
誰もが語りたがらないほどの過去を知ることで、担当医は“プロート”のことを理解していなかったことに後悔する。
(難しいのは、“プロート”である患者に真実を伝えることが、必ずしも是ではないかもしれない・・・と思えることだ)
この映画は“プロート”の過去に触れていく内容になっていくのですが、彼の正体はあまり大きな問題ではない。
それよりも作り手は彼の存在がもたらす不思議なパワーや、周囲への影響力にフォーカスしたかったのだろう。
それは結果的に当たりで、SF映画的な要素も否定しないで他にはない、実に不思議な感覚の作品になっていますね。
こういう本作の持ち味は、他には無い魅力だっただけに少々、過小評価気味で終わってしまったのが残念でしたね。
この映画はもっと上手く売り込んでいれば、もっとヒットする可能性はあったと思うんですよねぇ。
キャスティングにしても、当時のケビン・スペイシーは結構な売れっ子だったし、ジェフ・ブリッジスも実力ある役者だし。
ただ、ジェフ・ブリッジス演じる精神科医が有能な医師という設定のようですが、その能力の高さがよく分からなかった。
本編には影響しないのかもしれないけど、“プロート”の治療自体は難易度が高いものであることは明白なので、
そんな難しい仕事を任されるほど高名で有能な医師という設定なので、その片鱗をもっと見せてくれても良かったかな。
“プロート”は現代の精神医学を超越した存在だったからこそ、主人公にとっては不思議な体験になったはずですしね。
やや一本調子な映画ですので、もう少し起伏があれば更に良くなっただろうとは思うのですが、
おそらくこれはこれでイアン・ソフトリーの作家性というか、こうして静かに綴っていくことで持ち味が出るのでしょう。
現実世界と照らし合わせるとダメなタイプの映画ですので、理詰めで考えてしまう人にはオススメしません。
ファンタジーとしても微妙な感じで、状況的に非現実で溢れているわけでもなく、超常現象が起こるわけでもない。
この所々説明がつかない部分があって、それらが作り手の都合の良いように使われているので、反感を持たれ易い。
でも、僕はこの映画を観ていて思ったんですよね。僕も自分に都合良く解釈したりするタイプの人間なので、
あまり本作のことを否定できないし、物事、なんでもかんでも理にかなったことばかりである必要はないよなぁ・・・と。
なんでも明確なゴールや答えを求めてしまいがちだし、理屈に合わないことは否定したくなってしまうのも人間。
でも、本作はそういったことへのアンチテーゼとも言える作品で、科学で説明がつかないことを敢えて描いている。
まるで監督のイアン・ソフトリーも、「いや、これはこれでいいんだ」と開き直って描いているかのように堂々としている。
色々な意見があるとは思うけど、そういう開き直った部分が本作の良さとして評価されるべきではないだろうか。
失礼な言い方ではありますが、本作はケビン・スペイシーというどことなく胡散クサいオッサンを上手く利用した作品だ。
演技派俳優の宿命かもしれないが、ケビン・スペイシーは少々これ見よがしな芝居をしがちな印象があったけど、
本作はそんな芝居がかった部分を逆に利用しているし、前述したように彼の登場シーンからして、なんか妙だ(笑)。
お世辞にも清潔感があるとは言えないし、あの状況ではどこからどう見ても、不審者に見えてしまうでしょうね。
彼は強盗にあったお婆さんを助けようと近寄りますが、結果的に警察官に強盗と間違われてしまいます。
これがキッカケで“プロート”は保護されるわけですけど、まぁ・・・この扱いも含めて彼は導かれていったのだろう。
しかし、治療の過程で“プロート”の過去が明らかになっていき、担当医はショックを受けて治療を誓いますが、
結局は不思議な能力に満ちていた“プロート”は消失してしまうわけで、これが彼にとって幸せなことだったのかは
なんとも判断するのが難しい展開になっていきます。ひょっとすると、これは「パンドラの箱」だったのかもしれません。
欲を言えば、最後に“プロート”が何を残し、ジェフ・ブリッジス演じる担当医にどう影響を与えたのか、
何か一つでもいいから、具体的な事象として描いて欲しかったなぁ。そうすれば、もっと訴求する映画になっただろう。
特別な出会いであったことは間違いないだろうし、チョットした変容を与えたことを描くだけで、映画は変わったはず。
その、もう一押しが足りないところがスゴく勿体ない作品ではあるのですが、
それでも個人的には過小評価だったのではないかと思えて、なんとも不思議なロマンに満ちた作品と言っていいと思う。
(上映時間120分)
私の採点★★★★★★★★★☆〜9点
監督 イアン・ソフトリー
製作 ローレンス・ゴードン
ロイド・レヴィン
原作 ジーン・ブリュワー
脚本 チャールズ・リーヴィット
撮影 ジョン・マシソン
音楽 エド・シェアマー
出演 ケビン・スペイシー
ジェフ・ブリッジス
メアリー・マコーマック
アルフレ・ウッダード
デビッド・パトリック・ケリー
ソウル・ウィリアムズ
セリア・ウェストン
ピーター・ゲレッティ