ジュニア・ボナー/華麗な挑戦(1972年アメリカ)

Junior Bonner

いやはや、これがまた実に美しいフィルムで傑作と言っていい作品ですね。

一般に言う、“バイオレンス映画の巨匠”とされるサム・ペキンパーらしからぬ作風の内容で
無謀とも言えるロデオ乗りの古臭いカウボーイの生きざまを描くだけの作品で、悪く言えば、盛り上がりに欠ける内容。
ハッキリ言って、サム・ペキンパーにもそれ以外に特に描きたいことは無かったようで、ラストもアッサリとしている。

お得意の残酷にも撃たれる輩がスローモーションで映されたり、情け容赦なく善人であろうが悪党であろうが、
片っ端から死んでいくというバイオレンス描写もないし、当然のように首チョンパや血だらけの描写もありません。

それどころか、主人公のジュニアの周囲を含めても、そこまで大きな事件が起きたりイザコザが起こるわけでもない。
サム・ペキンパーが描く映画としては異例なくらいに、映画の最初っから最後まで平和で平穏な内容ではあるのです。
そりゃ、多少のケンカはあるけど、どこか甘ったるいというかノンビリしている。まるで緊迫感の無いケンカなんですね。

まぁ、満点評価というのは少々褒め過ぎな部分もあるかもしれませんが、
本作のサム・ペキンパーは肩の力の抜けたホントに良い演出ができて、良い意味で好き放題に自由に撮っている。
繰り返されるロデオのシーンにしても、パレードから主人公と父親が抜け出すシーンにしても、ビックリするほど自由。

そして何よりルシアン・バラードのカメラがとても美しい。僕はこの映画、最初に観たのはビデオだったのですが、
さすがに画質が悪くなっていて、ザラついた映像だった記憶があったのですが...DVDとしてリリースされたり
最近になってNHK−BSで放送されたのを観ると、デジタル・リマスターされて更にカメラの素晴らしさが分かりますね。

病院に入院するも、気心の知れた看護婦とイチャイチャする父親、
そんな父親に頭が上がらない主人公、そしてその父親はオーストラリアに移住すると宣言する。扱いに困る父親かと
思いきや、ロデオマンとしての血を引く主人公も一緒になってロデオに熱中する。有名な荒馬である“サンシャイン”に
8秒乗り耐えることに執念を燃やし、命を落とす危険さえあるロデオに挑戦する。そんな父と息子に呆れる母親。

そして、ロデオという“古い”競技に熱中する父と主人公を見て同調しない兄は、一家の稼業でもあるロデオを
商売の道具にしようと事業展開し、主人公を事業経営者の一員として誘うものの、頑固な主人公は言うことを聞かず、
兄弟仲もお世辞にも良いとは言えず、ケンカも絶えない。どこからどう見ても、噛み合っていない兄弟にしか映りません。

そう、本作のサム・ペキンパーはそういった噛み合わない人間関係であっても、全てを飲み込んで丸く描いてしまう。
どんな噛み合っていなくとも、最後は丸く収束する。これまでは問答無用でバイオレンスに傾倒する映画を撮っていた、
サム・ペキンパーの作家性と比較すると、あまりに違い過ぎて戸惑うこともあるだろうが、実は共通した部分もあります。

例えば、『砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード』などでも少しばかりの人情を描いていますし、
『ガルシアの首』などを観ると、お世辞にもイケメンとは言えないウォーレン・オーツをあんなにカッコ良く描いてしまう。

単なるバイオレンス映画に終わらせず、人間の生きざまを真正面から描き続けたディレクターでもあると思います。
そんなサム・ペキンパーの良さが、本作では見事なまでに炸裂していて、何とも言えない味わいがある仕上がりだ。
クドいようですが...そういった感覚を彩るかのようなルシアン・バラードのカメラが絶妙なくらいに温かくて素晴らしい。

こういう映画はこの時代ならではだったと思うんですよね。現代にこの手の映画を撮れる人はいません。
まぁ、もっとも本作も興行的には失敗だったそうですが、現代にこれをまともに映画化しても商業的成功はないだろう。
それゆえ、このようなシナリオの企画が通るとも思えないし、この良い意味での甘さを享受することも難しいだろう。
そういう意味で、本作のサム・ペキンパーはホントに良い仕事をしたと思うし、彼の最高傑作と言っても過言ではない。

女性キャラクターについては、不思議な描かれ方をしている映画でもあるのですが、
映画の終盤のバーで大勢が入り乱れての大騒動に発展するシーンで、町の実力者が同伴してきた女性に
主人公が目をつけて、なんとかして彼女をクドき落とそうとするシーンがありますが、この女性を演じたバーバラ・リーは
どこかエキゾチックな顔立ちで、この時代の映画としては多くの観客の目に留まるような美人女優で印象に残ります。

そんな女性にも主人公が何故かモテモテだという前提も面白くって、それをマックイーンが演じるから説得力がある。

この酒場での大ケンカのシーンもどこかコミカルに描かれているので、いつものサム・ペキンパーの調子ではない。
そんな中で、西部の面影残した田舎町なので尚更、あれだけ入り乱れてケンカしていたのにステージのバンドが
The Star−Spangled Banner(星条旗)を演奏し始めたら静まり返って、全員がケンカを止めるなんて力技も印象的。
現実にそんなことは無いような気がしますが、それだけ彼らに宿る愛国心というものが強いということの証明だろう。

相変わらずマックイーンは何をしてもカッコいいが、本作で彼が演じた主人公は父親想いというところが良い。
映画のカラーの問題もあるけど、本作のマックイーンはどこか人情味溢れるキャラクターで、感情を表に出す人間らしさ。
他の映画で彼が見せていたようなクールなカッコ良さというのは、本作はどちらかと言えば希薄だったという印象です。

どこか泥臭く昔気質な頑固者という感じで、ロデオという当時からしても時代遅れな競技に熱中する中年男。
しかし、にじみ出るカッコ良さというのは隠し切れず、やたらと女性にはモテるという、なんとも羨ましいオッサンだ(笑)。

そんな主人公の父にしても強烈な頑固者で、オーストラリアへ行くと言い出しては周囲の言うことを聞かないし、
仲の悪い主人公の母とはロクにコミュニケーションをとっていないから、夫婦仲が良くなるわけがなく険悪な空気になる。
しかし、土壇場になると分かるのですが...やっぱり妻(主人公の母)には弱いというのも、なんだか微笑ましい。

中身的にはケンカのシーンはあるにしてもバイオレンス描写もあまり無いので、サム・ペキンパーらしさは薄いように
思えますが、それでも随所に使われてるスローモーションなどの映像表現がサム・ペキンパーらしさは感じられます。
特に落馬するシーンの表現は、スタントを使っているにしてもスローモーションを使って巧みに描いていますね。
実際、僕は乗馬大会を観に行ったことがあって目の前で落馬も目撃しましたけど、下手すれば死に至りますからね。

ハリウッド・スターでも『スーパーマン』などで知られるクリストファー・リーブは落馬事故に遭って、
下半身不随となって長くに渡って闘病し他界されましたが、現実にそのようになってしまった方々は少なくありません。
ロデオにしても、そんな危険を差し置いてでもトライするということですから、それだけ魅力があるということなのだろう。

サム・ペキンパー自身もロデオのそういった動的な部分に注目して撮ったのではないかと感じますね。
その中で頑固に挑戦する中年男の姿を描くとなれば、やはりサム・ペキンパーが一貫して描き続けてきた姿なのです。

それにしても劇場公開当時も興行的には失敗してしまった作品で、内容的にも一般ウケしにくいことは分かるけど、
名優スティーブ・マックイーンの全盛期の出演作であることを思うと、本作の日本での扱いが悪いのは凄く残念です。
かつてビデオでリリースされていたのですが、テレビ放送の回数も多くはないし、長らく視聴が難しい作品でした。
やっとDVDになったと思ったら、すぐに終売になってしまいBlu-rayでもリリースされていませんので、今も視聴困難だ。
個人的にはホントにルシアン・バラードのカメラが良い仕事をしているので、もう少し良い扱いをしてあげて欲しいなぁ。

本作は西部劇というわけではないのですが、主人公はロデオ競技者、カウボーイとして生きる男を描いたという点で
時代に取り残された男の生きざまを描いているという見方もできる。しかも、そんな彼が最後にプレゼントするのが
飛行機のファースト・クラスのチケットというのが、なんとも粋で有り金を確認してアップグレードするのも良いですね。

でも、そんな彼の姿に一つの時代の終焉を感じさせるところもある。
ロデオ大会で優勝した主人公はナンパした女性とはお別れし、親とも長いお別れを告げる。そして、車を走らせます。
これは主人公なりに、それまでの生活に区切りをつけ、新たな出発をするかのようなラストで実に味わい深いですね。

それにしても、マックイーンの兄貴がジョー・ドン・ベイカーを配役していますが、2人はあんまり似ていない(笑)。
仲が良いんだか悪いんだか分からない兄弟だけど、殴り・殴られの兄弟ゲンカは絶えないという不思議な兄弟関係だ。
自宅でマックイーンが殴ったことで、ずっと兄の怒りを買っていたせいか、そのお返しとしてバーで兄に殴られている。
こういう兄弟関係も言葉は悪いですが...どこか旧時代的というか、過去の遺物のような関係性に見えますね。
(いくらなんでも、マックイーンがジョーン・ドン・ベイカーを殴るシーンは、家の窓をブチ破るのはどうかと思ったが・・・)

まぁ、万人ウケするタイプの映画ではないし褒め過ぎなのかもしれないけど...僕は本作、素晴らしい傑作だと思う。
こんなに温かく、おおらかな気分にさせられる映画は数少ないです。もっと評価されても良かったと思うんだけどなぁ。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 サム・ペキンパー
製作 ジョー・ワイザン
脚本 ジェブ・ローズブルック
撮影 ルシアン・バラード
編集 フランク・サンティロ
   ロバート・L・ウルフ
音楽 ジェリー・フィールディング
出演 スティーブ・マックイーン
   ロバート・プレストン
   アイダ・ルピノ
   ベン・ジョンソン
   ジョー・ドン・ベイカー
   バーバラ・リー
   メアリー・マーフィ
   ビル・マッキーニー