インフェルノ(2016年アメリカ)

Inferno

トム・ハンクス主演で06年の『ダ・ヴィンチ・コード』から続く、ロバート・ラングドン教授シリーズの第3弾。

製作スタッフはロン・ハワードはじめ、お馴染みの面々で原作もダン・ブラウンが2013年に発表したもの。
とは言え、本作は前2作の構成とは明らかに変えてきたなぁという感じで、いきなり物語は“走り出して”いる。
しかも、内容的には2020年に始まったコロナ禍を予見するかのような内容で、これはこれで興味深かった。

どうも、冒頭からラングドンが頭を打って短期的に記憶喪失になったというところから映画が始まって、
しかもいきなり訳の分からない殺し屋が病室に襲撃しに来るという、冒頭からフル・スロットルのスピード感から始まる。

この出だしは、僕は良かったと思いますね。ロン・ハワードは器用なディレクターですから、
いとも簡単にこういう演出をやってのけているように見えるけど、元々はドラマ系の作品を仕上げるのに定評があって、
何本かサスペンス映画も撮ってはいますけど、どうしても彼の代表的作品はドラマ系の作品が挙がってくるでしょうから。

前2作って、どうしても宗教的な知識がないと楽しめないところがあったし、原作を読み込む必要もあったと思いますが、
本作は作り手も開き直ったのか、エンターテイメントに寄った演出や構成にシフトしたせいか、予備知識がなくとも
十分に楽しめる作りになっていて、一方的にストーリーを進めて置いてけぼりにさせてしまう感じではなくなりました。

勿論、作り手が強引にグイグイと引っ張り続ける映画も素晴らしさがあるのだけれども、
本シリーズのようなエンターテイメント性の高い題材であったり、人気原作の映画化ともなれば作り手の個性が
邪魔になってしまうこともありますからねぇ。ロン・ハワードは、そのバランスを上手くとったんだと、僕は解釈しました。

まぁ、良く言えば、本作はこれまでのロバート・ラングドン教授のシリーズのとっつきにくい部分を緩和し、
更に宗教的な造詣に深い人向けの部分を弱めて、サスペンス映画としての色合いを強めたことで娯楽色を強めた、
そんな見方が適当な作品かと思います。ですから、これまではトム・ハンクス演じるラングトン教授と行動を共にする、
ヒロイン的な女優を演じたフェリシティ・ジョーンズは、前2作のヒロインとは位置づけがチョット違っているのも興味深い。

そう、本作のフェリシティ・ジョーンズはなかなか良く頑張ったと思います。アクション・シーンもソツなくこなしているし。

ただ、そういったある種、前2作の難解さを排除して全容を分かり易く作ったこと自体に、否定的な人もいるだろう。
ダン・ブラウンの原作もそんな感じらしいけど、その難解さや宗教への理解の深さがあるからこそ楽しめる、
そんな要素もあるようなので、そんな前2作の良さを捨ててしまったとも解釈できるスタイルの変更は賛否が分かれる。

かなりおかしな思想を持った新興宗教が題材として描かれていますけど、
スタジオに“信者”を集めてネット中継しながら、大富豪が「地球を守るため、人類を守るために行動しろ!」と煽動する。
ありがちな新興宗教って感じですが、彼らが考えていたことはパンデミックを起こすことだというから、ここは面白い。

まぁ、「地球規模で見た人口増加は人類滅亡の危機だ」とか言っちゃっている時点で、
かなりのカルト宗教という気がしますけど、こういう過激なメッセージと環境問題へのラディカルな傾倒というのは
世界各国でありがちな現象のようにも思いますので、“信者”を集めたパフォーマンスは突飛なものではないのかも。
ただ主張していることがテロ組織そのもののような気がして、宗教的な匂いはそこまで強くないような気はしました。

そんなテロ組織を相手にする映画なものだから、中身的にはかなりアクション映画っぽい感じになってるし、
観ている感覚としては、ラングドン教授が逃げ回ってはいるけど、何故か“007シリーズ”に近いような感覚ではあった。

つまり、危険なテリトリーに入り込んで調べるというサスペンスが中心に展開されるということですね。
この辺はロン・ハワードの演出スタイルが馴染んできたのか、サスペンス劇との親和性も前作より更に良くなって、
僕の中ではラングドン教授シリーズとしては最も良く出来たサスペンスだったと思う。各プロットのつながりがとても良い。

その分だけ、悪く言えば...映画が安っぽくなったとも言えるかもしれないけど、それが観易さでもある。
強いて言えば、前2作までで強く描かれていた宗教的なエピソード、特にバチカンのタブーに迫るという要素が
希薄になってしまった部分は、ホントは何かで補った方が良かったとも思う。確かにこれが前2作の特徴でもあった。
だからこそ、そういった期待にも応えられる部分は欲しかったけど、そのままエンターテイメントに寄ってしまった感じだ。

クライマックスのイスタンブールの地下宮殿の貯水池での攻防は、やっぱりロケーションの素晴らしさもあって良い。
これは『007/ロシアより愛をこめて』を思い出させられるシーンではありますが、幻想的で一度は行ってみたい(笑)。

そんな空間でのアクションが展開されるので、ロケーション抜群という感じで本作のハイライトとしては十分な魅力。
そんな雰囲気を見事に捉えたカメラも見事で、本作は地味ながらも撮影スタッフはとっても良い仕事をしたと思います。
この地下宮殿に留まらず、それは映画全体に言えることで、統一感・緊迫感ともに上手くフィルムに吹き込んでいる。

やっぱりこの手の映画はアクション・シーンが見せ場の一つにならないといけないと思うのですが、
正直言って、本作にはそこまで大掛かりなアクション・シーンはないせいか、ロケーションの良さでカバーしなければ
映画としての特徴を出せずじまいで終わってました。爆弾の取り合いを、まさかの地下宮殿で行うという発想が良い。
(正直、前作の後半にあったバチカンでの荒唐無稽なアクション・シーンはやり過ぎだったような気がしましたしね・・・)

しかし、映画の設定だからそんな細かい部分へのツッコミは不要なのでしょうけど・・・
主人公のラングドンはここまで複数回、トンデモないトラブルに巻き込まれて、ついに本作では冒頭からいきなり
記憶喪失になっているなんて騒動に陥っているので、もはや大学教授という職業設定じゃない方がいいのかも(笑)。

やってることは大学教授っぽくないし、こんなスパイばりに活躍するなんて超人にしか見えないですよね。

気になったのは、本作のラングドン教授は大活躍するのですが、あまり謎解きをする感じではないこと。
前作でもそのウェイトは減ってはいましたが、本作のラングドンは既に観客を知的好奇心を煽る感じではないですよね。
これは『ダ・ヴィンチ・コード』の頃を思い出して、ラングドンの研究者としての側面をもっと強く描いて欲しかった。

正直、『ダ・ヴィンチ・コード』の頃は本シリーズをアクション映画のようなノリで観てはいなかったのですが、
本作にいたってはかなりアクション映画に近い感覚ですね。シリーズが進んで、徐々に変化しているように見えます。
まぁ、宗教的なニュアンスに造詣が深い人からすれば、本作のような方向性は物足りなさを生む原因だろうと思う。
結局...本作の内容は原作とは微妙に異なる内容となっているらしく、そこも賛否が分かれる部分ではあるのだろう。

欲を言えば、映画の冒頭からフィレンツェを舞台にしたサスペンスで始まるので、
前作でバチカンを強く意識させた作りになっていただけに、今回は是非、フィレンツェの雰囲気を吹き込んだ画面に
して欲しかったですねぇ。本作はフィレンツェの街の空気をフィルムに吹き込めた、とまでは言えないと思いますね。

べつに観光映画にするべきだったとまでは思いませんし、それがメインの映画ではないことは重々承知ですが、
クライマックスの地下宮殿のロケーションの良さが目立っていただけに、フィレンツェはもっと生かして欲しかった。

とまぁ・・・賛否が分かれる出来ではあるかと思いますが、僕はそこまで楽しめない作品なわけではないと思います。
冒頭からテンションMAXで映画が始まっているのは好印象ですし、それでいて説明すべきことは違和感なく説明し、
起承転結をハッキリとさせた構成をとっていて、映画全体のバランス感覚はとても優れた作品だったと思いますね。
この辺はさすがはロン・ハワードの監督作品だなぁと実感させられるところで、基本的な部分はしっかりした作品です。

それと、映画の後半でラングドンにかすかに恋心を抱いていることを告白するWHOの女性職員が登場します。
彼女は彼女でどこかミステリアスに描かれている面はあるのですが、どこか冴えない中年の大学教授という感じで
シリーズを通して描かれてきたラングドンでしたが、彼に関する少々甘いエピソードが描かれるのは珍しいですね。

まぁ、ついにラングドン教授シリーズのスケールもデカくなって、WHOまで絡んでくるストーリーに発展しましたが、
この作品を観ていると、やっぱりラングドンは宗教図像学の研究者よりも世界を股にかけるスパイを目指すべきですね。
それくらいのスケール感が出てきたシリーズですので、さすがにシリーズとしての限界も見えてきたのかもしれません。

ダン・ブラウンの原作はまだ続いているようですが、さすがにシリーズ第4作の製作は噂も生まれてません。
もう、トム・ハンクスも高齢になってきましたし、本作でロン・ハワードも打ち止めと考えているのかもしれませんね。

(上映時間121分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ロン・ハワード
製作 ブライアン・グレイザー
   ロン・ハワード
原作 ダン・ブラウン
脚本 デビッド・コープ
撮影 サルバトーレ・トチノ
編集 ダン・ハンリー
   トム・エルキンズ
音楽 ハンス・ジマー
出演 トム・ハンクス
   フェリシティ・ジョーンズ
   イルファン・カーン
   オマール・シー
   ベン・フォスター
   シセ・バレット・クヌッセン