恋はデジャ・ブ(1993年アメリカ)
Groundhog Day
これはスゴく面白い映画ですね。規模はそこまで大きくない作品ですが、オススメできるラブコメ。
監督はコメディ映画を専門的に撮っているハロルド・ライミスで、ビル・マーレーも見事にマッチしている。
内容的にもコンパクトにまとまっているし、映画のテンポが実に良くって、もっと評価されても良かったと思います。
何年か前にも某レンタルビデオショップで“発掘良品”として扱われて、Blu-rayも発売されたり扱いが良くなりましたね。
確かに本作はハロルド・ライミスの監督作品としても、最も良い出来の作品と言っていいのかもしれません。
何度も同じ日を執拗に繰り返す映画なので、メインで描かれるロマンスが成就する納得性も極めて高いですね。
映画はニュース番組で気象予報士として出演するフィルが、毎年のように訪れていたペンシルベニア州の田舎町へ
クルーと共に“グラウンドホッグ・デー”の取材にやって来るものの、性格がヒネくれたフィルはテキトーに仕事して、
さっさと極寒の吹雪の町を立ち去ろうとするものの、帰路の途中で交通事故によって通行止めとなってしまい、
この田舎町に足止めを喰らってしまいます。ホテルで就寝して目覚めると、再び“グラウンドホッグ・デー”の日の朝。
戸惑うフィルですが、取材クルーに加わっていた女性プロデューサーであるリタに徐々に惹かれていき、
何度も何度も繰り返される“グラウンドホッグ・デー”の中で、繰り返し彼女にフラれながらもリタの趣味や好みを学習し、
徐々に彼女のことを理解していき、一日のうちに彼女の気持ちを射止めようと悪戦苦闘する姿を描いています。
こうして何度もやり直すことができるのであれば、どんな恋でも一日で一気に進めることができるのかもしれない。
しかし、この映画のフィルの場合は、ホントに何十回・何百回と同じ日を繰り返すという、とても根気のいる作業(笑)。
一度の失敗を覚えて、“次の日”では同じ失敗を繰り返さないようにして、一度経験したことを全て覚えていくのです。
こうして丁寧にトレースしていくことはとても根気がいる作業だし、同じ失敗をしないというのもかなり難しいことである。
とは言え、フィルはこの田舎町でやることがないので(笑)、
普段ならこんなに根気よく物事に取り組むことがないにも関わらず、ただひたすらリタの気持ちを理解しようとします。
フィルはやり直しが可能という設定を“悪用”しているようなもので、途中からは何が“地雷”なのか、
何が正解なのかを確かめながら恋のアプローチをしていくのが面白く、リタの気を引こうと必死になって頑張っています。
最初のフィルの調子を見ていれば、恋愛に必死になるって感じでもないし、ましてやピアノの猛特訓をするなんて、
とてもじゃないけど考えられないくらいの気難しさなんだけど、次第にフィルの性格も素直になっていったように見える。
やっぱり「恋は人間を変える」ということなんですかね。最初はダルそうだったのに、最後はシャキシャキしています。
中年のオッサンがオーディションで大人気になって競り落とされるほど魅力あるのかは、何とも言えませんが、
演じるビル・マーレーも実に楽しそうに演じていて、彼のアクの強いキャラクターも嫌味にならない程度で良い感じ。
ついでに言えば、ヒロインのリタを演じたアンディ・マクダウェルも飾らない大人の女性という感じで、自然体で良いです。
同じ日を延々と繰り返すということに嫌気が差したフィルは、自殺を試みたりもしますが、
やっぱり目覚めると“グラウンドホッグ・デー”の朝。これはある意味での不老不死ですが、ホントの不老不死は
人類の夢であるとは言え...でも、現実にそうなったらチョット怖いなぁとも思う。終わりが無いというのは、怖いこと。
しかし、リタの魅力に気づいたフィルは同じ日を繰り返すサイクルに入ったことで、前向きに利用するようになります。
常人の発想では、このサイクルからどうしたら抜けられるかを考えちゃうのでしょうけど、そこはコメディ映画として
主人公が上手い具合に“悪用”しながら、どうやったら同じ日を楽しめるかという前向きな姿を描いているのが印象的。
タイトルになっているデジャ・ブ(既視感)を描いた作品だと言われればそうかもしれませんが、
むしろデジャ・ブなのは朝のやり取りだけで、それ以降はフィルが学習しながら一日をどう変えていくかが焦点ですね。
前述したように、フィルはリタに好かれようと田舎町のピアノ教室に“入り続け”、ピアノの腕を磨いて、
バンド演奏できるようになったり、町の子どもたちと雪合戦したりと、やり直しが利くことを利用して取り入っていきます。
映画の冒頭では、“そんなキャラ”ではないにも関わらず、田舎町の住民とフレンドリーに接したりして好感度を上げる。
おそらく、フィルは好感度とは無縁な人生を歩んできたと思うのですが、次第に変わっていくフィルの姿が印象的だ。
そんな姿をコミカルに描くには、ダルダルな空気感を出せるビル・マーレーにはピッタリな役だったのでしょうね。
昔の人みたいなことを言えば、「一日たりとも無駄にせずに生きろ!」ということなのでしょうけど、
この映画の主人公フィルは正しく、「一日たりとも無駄にせずに生きろ!」を体現するかのように学習することで
恋愛を“短時間”で成就させようとします。そりゃ何回も同じ日を繰り返すわけですから、無駄になる日はないですよね。
しかし、これだけ出口の見えない無限ループのような同じ日の繰り返しというのは、結構なホラーですよね(笑)。
フィルにしても不信感いっぱいの表情になっていて、自殺を試みても気づいたら結局は同じ日の朝を迎えてしまう。
この出口の見えない無限ループが自分で起きたら・・・と思ったら正直、怖いなぁという感覚しか無かったですよね。
途中からリタの魅力に気づいて、無限ループを利用して彼女を一日で口説き落とそうという発想に至るなんて、
フィルの前向きな発想はスゴいと思います(笑)。自分だったら、こんな境地には絶対にならないと思います(笑)。
無限ループの一日を何度も経験することで、やり直しがきくという発想は確かに面白いですが、
一方で人生は何が起こるか分からないから面白いわけでもあって、既視感ばかりの一日で未来に起こることが
何もかもドンピシャのタイミングで分かっているというのは、人生が楽しくなくなってしまうのではないかと心配になる。
これはフィルにとっても同様で、既視感いっぱいの表情で以前にも増して、退屈そうに相手をあしらうようになります。
言わば、フィルにとっての“試練”であるわけで、その“試練”には何かしらの狙いがあったのかもしれない。
そういう意味では、フィルがハマり込んでしまった無限ループの出口はリタとの恋にあるというのは、
映画の早い段階から、もっと示唆的に描いても良かったかな。まぁ、基本はファンタジー映画なので細かいところへ
ツッコミを入れる必要はないのだろうけど、フィルが陥った無限ループが何を教訓としているのかが分からないなぁ。
リタの魅力に気付いて彼女を口説こうとしていることと、この無限ループが何を意味するのか、その関係が描かれない。
これでは、リタと結ばれて最初に迎えた朝が“グラウンドホッグ・デー”の翌日になることがよく分からない。
もっとしっかりと描いて欲しいし、その方がフィルのリタへの恋のアプローチももっと映画を盛り上げたのではないかと。
この辺はコメディ映画を専門的に撮っていたハロルド・ライミスが監督だったせいか、少し物足りなさは残ったかなぁ。
あと、個人的には映画のクライマックスのオークションも好きな展開ではないのだけれども、
フィルが競り落とされた金額もビックリなくらい低額だし、カメラマンの男性の扱いもあまりに可哀想だなぁと感じた。
まぁ、こういうキャラクターがいないと喜劇的要素も盛り上がらないのは分かるけど、随分と安直なオチに見えた。
せっかくここまでは最高に面白いラブコメとしてバランス良く出来ていたのに、このオークションは考え直して欲しかった。
しかも、いくら無限ループの中で様々な魅力を振りまいたのがフィルだというのは分かるけど、もっと真剣に向き合う
ラストとして描いていれば、尚一層、この映画は魅力的なものになったと思う。その一押しが本作には足りないところ。
とは言え、これは難点を差し引いて考えたとしても、実に楽しくコンパクトにまとめられた秀作ですね。
近年のラブコメとしても出色の出来であり、劇場公開当時ももっと高く評価されてヒットしていても良かったと思います。
ビル・マーレーがラブコメの主演という時点で、少々、意外な感じもありますが...
03年の『ロスト・イン・トランスレーション』での再評価以前にも、本作のようなラブコメで主演を務めたことがあって、
相変わらず中年のオッサンのダルそうな雰囲気がよく合った、名キャラクターとして演じ切れていると思いますね。
実際、ビル・マーレーは『チャーリーズ・エンジェル』の撮影でルーシー・ユーと衝突した過去があったり、
ハリウッドでも有名な気難しい役者として知られているようですが、本作は彼のハマリ役の一つと言っていいです。
そういったトラブルも無かったのか、相手役のアンディ・マクダウェルとの息もピッタリ合っていて好印象な作品ですね。
少しだけSF映画の要素が内包された作品でもありますので、広く映画ファンにオススメできる一本だ。
また埋もれてしまわないように、こういう映画はサブスクの配信リストにいつまでも残り続けて欲しい作品だ。
(上映時間101分)
私の採点★★★★★★★★★☆〜9点
監督 ハロルド・ライミス
製作 トレバー・アルバート
ハロルド・ライミス
C・O・エリクソン
原案 ダニー・ルービン
脚本 ハロルド・ライミス
ダニー・ルービン
撮影 ジョン・ベイリー
音楽 ジョージ・フェントン
出演 ビル・マーレー
アンディ・マクダウェル
クリス・エリオット
スティーブン・トボロウスキー
ブライアン=ドイル・マーレー
1993年度イギリス・アカデミー賞オリジナル脚本賞(ハロルド・ライミス、ダニー・ルービン) 受賞
1993年度ロンドン映画批評家協会賞脚本賞(ハロルド・ライミス、ダニー・ルービン) 受賞