グロリア(1980年アメリカ)
Gloria
マフィアの金を資金洗浄をFBIに密告したことがバレた会計士が、家族もろとも命を狙われることになり、
アパートに強引に侵入してきたことを察知し、旧知の仲であり同じアパートに暮らしている中年女性グロリアに
6歳の少年を預けたことから、グロリアが少年の命を守るマフィアとの孤独な闘いを描いたサスペンス・アクション。
99年にシドニー・ルメットがリメークした作品ではありますが、基本的にリメーク作とは色合いが異なります。
本作でジーナ・ローランズが演じたグロリアは、やむなく預かることになった感を丸出しにしている感じで、
途中から少年の境遇に同情して、マフィアとの孤独な闘いに挑む姿が勇ましいですが、母性はあまり感じさせません。
リメーク作でシャロン・ストーンが演じたグロリアは、どちらかと言えば、途中から母性に目覚めた感じを強調していて、
オリジナルである本作のグロリアとは少し色合いが違うように感じました。それでも、オリジナルの良さは出ていますね。
映画の出来としては、少々、粗っぽい部分があって傑作という感じではないのですが、
ジョン・カサベテスの監督作品としては異例なくらいに興行的に大成功を収めた作品で、どこか愛らしい作品でもある。
まぁ、残忍なマフィアが逃走する2人を執拗に追っているというのに、2人は随分とニューヨーク市街地の狭いエリアで
右往左往しているようで、挙句の果てには途中で自宅に戻ってきちゃうし、追い詰められた古いアパートの階段で
どう考えても見つかりそうな場所に隠れていたのに、マフィアは悠然と見逃したりと、現実的にはツッコミどころ満載だ。
それだけでなく、ニューヨークの地下鉄に乗って逃げるグロリアと少年で、ついウッカリしていて少年が駅で降りれず、
走り去る車両に取り残されたままになってしまうシーンでも、グロリアが後を追いかけてアッサリと再会してるのですが、
ここも多くの部分を端折ってしまっているので、どこをどう切り取っても、この2人の逃亡が現実的なものには見えない。
そういう部分も含めて、生前のジョン・カサベテスは本作のことを“ファンタジー”だと形容していたのかもしれない。
確かにそれはそうかもしれないが、この映画のハードボイルドさが際立っているのはグロリアが子供嫌いだということ。
しかも、そのグロリアが実は命を狙ってくるマフィアとつながっていて、彼女の中では多少なりとも負い目を感じている。
それでいて、決してグロリアも善人というわけではないのだから、マフィアとはどういう連中なのかを知り尽くしている。
だからこそ、グロリアは映画の前半で何の躊躇もせずに、襲撃してくるマフィア連中に銃をブッ放すわけですね。
こういった姿をジョン・カサベテスはやや引き気味のカメラでドキュメントし続けるのですが、決して感情的にはならない。
だからこそ、この映画はハードボイルドであり、“御伽噺”の主人公とは程遠い、ヒリヒリとした感覚がグロリアにはある。
こういった姿をしっかりと描き通せたのは、シャロン・ストーンが演じたリメーク版ではなく、やはり本作の方だろう。
そして、この映画は冒頭から本題に入るまでの流れも最高に引き込まれる。素晴らしい導入部だ。
まだグロリアは登場しませんが、ニューヨークの夜景から各名所を巡るかのように移動し、多くの観客が熱狂する
スタジアムが映って、そこから市街地をゆっくりと走る路線バスへとカメラは次々と移動していく。この“入り”は完璧だ。
そこでバスの乗客の一人が、問題の会計士の妻というわけで、バスも突然強いブレーキをかけて停車したりと、
なんだか不穏な様子で、苛立ちながら彼女は降車する。少しだけ歩いて自宅のアパートのエントランスから入りますが、
そのアパートもエントランスは勿論のこと、中の廊下も暗くって陰気臭い。エレベーターの扉で謎の行動をとるチンピラ。
もう気味が悪いったら、ありゃしない。あんなところが自分の家だというから、「こんなところによく住めるなぁ」と思える。
でも、そこから一気に物語の本題に入るのですが、自宅の中ではもっと深刻な事態に陥っていました。
そこからはグロリアが登場して、会計士の息子との逃走劇に転じますが、この会計士も6歳の息子にノートを渡して
「早く行け!」と言うなんて、スゴい無理難題をぶつけますが、間一髪、グロリアの部屋に逃げ込み彼だけ生き延びる。
もう最初っから言ってましたが、基本的にグロリアは子どもを相手にするのが苦手、最初は随分とぎこちない感じだ。
衝動的ではあったのかもしれないが、グロリアは少年を一人にさせて、保護することを放棄しようとしたこともあります。
だけど、それでもやっぱりグロリアもマフィアに少年が捕えられたら、どうなるかが分かっていたから...
だからこそ彼女は少年を見殺しにすることはできなかったのですね。それからは覚悟を決めたように仲間でもあった、
追っ手であるマフィアの連中を相手にして、少年を抱きかかえながら銃を構える姿がなんとも勇ましく、カッコいいです。
ひょっとしたら、そんなシルエットがジーナ・ローランズにピッタリだと、私生活の彼女の夫であるジョン・カサベテスは
気付いていたのかもしれませんが、ジーナ・ローランズは女性的なカッコ良さ、クールさを兼ね備えた女優さんですね。
そういう意味では、結果的に本作はジーナ・ローランズのために用意された企画だったという気がしなくもないですね。
しかし、よく言われているように、僕もこの映画のラストのスローモーションは過剰演出に見えてならない。
そもそも、物事の判断もできないような少年一人の単独行動で、周囲の助けなしにニューヨークからピッツバーグへ
無事に逃走できるとは到底思えないんだけど(笑)、それはともかくとして...あのスローモーション処理はやり過ぎ。
ハードボイルドに綴ってきた物語だったのに、最後にやたらと感傷的になり過ぎて、映画の印象が変わってしまう。
正直、ラストの在り方についてはシドニー・ルメットのリメーク版の方が良かったような気がしますね。
これらはジョン・カサベテスの本意で撮ったシーンではなかったのかもしれませんが、これはなんとかして欲しかった。
それから音楽も少し仰々しく感じられてしまうが、これが映画の雰囲気に合ってならいいけど、あんまり合っていない。
まぁ、中にはこれが良いって人もいるのだろうけど、僕には小綺麗に感じられちゃう。ここは好みの問題もあるけど。
何よりこのオリジナル作品の良さは、ジーン・ローランズのカッコ良さが実に映えていることだろう。
どんな理由があろうとも、どう考えても不利な条件であろうとも、子どもを守るために銃を構える姿はなんとも勇ましい。
正直、行動を共にする少年も難しい部分が見え隠れするので、観ていてイラっとすることもあるかもしれませんが、
それでも最後はグロリアも少年のためにイチかバチかの賭けにでることを決意する。そう、彼女も命がけなのです。
そんな彼女の姿をドキュメントしていくような構成で、いつものジョン・カサベテスの監督作品っぽくないみたいですが、
僕にはジョン・カサベテスなりにジーナ・ローランズのために撮った企画だってことは分かるし、悪くない出来と思う。
それにしても、手段を選ばぬマフィアの殺し屋の存在は恐怖ではありますが、
幼い子どもに妻とアパート暮らし、たいした金を持っているわけでもないバック・ヘンリー演じる会計士も、
なんで後先考えずにFBIに密告していたのかも、よく分からない前提ですけどね(苦笑)。いくらなんでも甘過ぎる(笑)。
少なくとも妻子を先に逃がして、どこかで保護してもらうとか、
(役に立たないのかもしれないけど・・・)警察やFBIに身辺警護をお願いしないで、普通に暮らしているとか無防備だ。
さすがにチョットだけ武器を用意している程度では、なんにも役に立たない。もっと安全を確保してからじゃないと・・・。
とまぁ、少々ご都合主義な部分も見え隠れする、不思議なハードボイルドな映画というわけですが、
後にリメークされるくらい魅力的な作品でもあるわけで、94年にジャン・レノ主演でヒットした『レオン』の原型でもある。
それにしても、ラストでグロリアは決死の覚悟でマフィアと対決することにして、少年にはお金を渡し、
「私が時間までに戻って来なかったら、一人でピッツバーグへ行きなさい」と言って、少年は律儀に待ちますが、
よくよく調べるとニューヨークからピッツバーグって、距離にすると約550kmも離れていて、飛行機でも90分かかる。
この移動を6歳の少年が一人で、しかも行く先は見知らぬ土地というのはスゴいことで、かなりの無理難題ですね(笑)。
まぁ、これも含めてジョン・カサベテスの言うところの“ファンタジー”なのかもしれませんが、
そうでもしないと逃げられないという悲壮感と、孤立無援な感じがなんとも切ないというか...やるせないですね。
グロリア自身も少年の近くにいれなくなる可能性があるから、警察やFBIを頼ることもできない状態ですからキビしい。
そんな八方塞がりで、どうしようもできない状況だったからこそグロリアの覚悟も決まったのかもしれません。
結果として本作はジーナ・ローランズの女優としての代表作となり、興行的には成功したのですから良かったのだろう。
ジョン・カサベテスのファンでは彼らしさが希薄ということで賛否は分かれるようですが、決して悪い出来ではないと思う。
ただ、悪い出来ではないにしろ...ところどころ気になった部分があったことに加えて、
突き抜けたものを感じさせる作品ではなかったかな。何か一つでもいいので、圧倒されるような感覚が欲しかった。
(上映時間123分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
監督 ジョン・カサベテス
製作 サム・ショウ
スティーブン・F・ケステン
脚本 ジョン・カサベテス
撮影 フレッド・シュラー
編集 ジョージ・C・ヴィラセニョール
音楽 ビル・コンティ
出演 ジーナ・ローランズ
ジョン・アダムス
バック・ヘンリー
ジュリー・カーメン
バジリオ・フランキーナ
ジョン・フィネガン
1980年度アカデミー主演女優賞(ジーナ・ローランズ) ノミネート
1980年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(ジョン・アダムス) 受賞