フォード vs フェラーリ(2019年アメリカ)
Ford v Ferrari
これは面白かったぁ!
モーター・スポーツは普段、観ないんだけど...なんとなく、ル・マン耐久レースを観たくなりましたね(笑)。
正直に白状すると、かつてマックイーンが主演した『栄光のル・マン』よりも映画として面白かったというのが本音。
2時間30分を超える長編作品となりましたが、アッという間に見せてくれるスピード感と臨場感が素晴らしい。
映画はマット・デイモン演じる凄腕レーサーのキャロルが、担当医師から異常な心拍数を継続的に記録するため、
心臓への負荷が大き過ぎるとして、レーサーの引退勧奨を受けることから始まる。そこから旧知の整備士である、
頑固で職人気質なクリスチャン・ベール演じるケンがレーサーとして、フォード社の支援を受けて活躍する姿を描きます。
この医師から警告にしても、キャロルはほとんど職業病のような感じで、病院からの帰りも愛車を
まるでレーシング・カーのように乗り回している。私生活と職業が入り乱れると、こうなってしまうという典型例のようだ。
確かにスポーツでありがちではありますが、常に極度の緊張やストレスに晒されているというのは、
どう考えても身体には良くないだろう。心臓への負担は甚大なものだし、私生活でもなかなか緩和されないと思う。
そんな自分でも歯止めが利かないことを自覚してか、キャロルはレーシング・ドライバーを引退することになりますが、
それでもモーター・スポーツ界でしか生きていけない彼は、レーシング・チームのオーナーとして生きていきます。
本作は当初、マイケル・マンが監督することになっていたらしく、マイケル・マンが企画の段階で降板してしまい、
約5年間にわたって製作がストップしましたが、ジェームズ・マンゴールドが監督することで映画化が実現しました。
そんな苦労の甲斐あってか、実に迫力あるレース・シーンの連続でして競技の緊張感を巧みに吹き込んでいますね。
そもそもフォード社が車の販売に苦戦していて、レースでも他メーカーから押されていたなんて知らなかったので、
この映画で描かれたように、フェラーリ社の買収に失敗してフェラーリを激怒させてしまい、ル・マンで全面対決となり
思いっ切り対抗していたとは意外でしたね。フォード社とフェラーリ社って、決して交わらない会社だと思ってたんで。
そんな2社が買収騒動に端を発して、お互いにレーシング・カーの開発でしのぎを削り、
代表的なレースであるル・マンで一騎打ちになるという展開が面白い。そして、ノンフィクションに基づくから驚きだ。
フェラーリ社と言ったら、イタリアを代表するスポーツ・カーの超有名ブランドで高級車として知られていますが、
一方のフォード社は高級車クラスのモデルもリリースしましたが、高級車ブランドとしては定着できませんでしたから。
そんな対照的な2社に買収騒動があって、尚且つ、ル・マンで争っていたという事実がなんとも興味深いですね。
個人的には2時間30分という長尺の上映時間も、アッという間に過ぎてしまうスピード感でしたね。
とは言え、この映画は買収騒動から、あくまでフォード社から見て描かれた一方的な視点のものですね。
この内容であれば、反対にフェラーリ社側からも描けそうな題材ですので、そうなるとどんな映画になるのは興味深い。
おそらくですが...フェラーリ側から買収騒動、そしてル・マンでのフォード社との対決は全く違った内容になると思う。
ジェームズ・マンゴールドは器用なところのあるディレクターですから、そういう映画も撮れると思うんだよなぁ。
なかなかそんな面白い題材も無いと思うので、フェラーリ側から見た物語というのも、映画化を検討して欲しい(笑)。
まぁ、車好きからすればおかしいところも多くあるのだろうけど、僕は細かいところ分からないから気にしない(笑)。
ただ・・・強いて言えば、真正面から車を主役に据えた映画なわけですから、気にする人の気持ちはよく分かります。
この映画の大きな特徴となっているのは、長く描かれる大迫力のレース・シーンでしょうから、そこは十分に楽しめる。
そして、この映画はケン・マイルズを演じたクリスチャン・ベールがカッコ良過ぎる。
正直、他作品でのクリスチャン・ベールは少々嫌味に見えてしまうところもあるのだけど、本作はカッコ良い。
そして、彼の妻を演じたカトリーナ・バルフの立ち位置も良く、ケンがキャロルの仕事を受けるか迷ってるところを
後押しするために車を暴走させたり、自宅の前でケンとキャロルが取っ組み合いのケンカをしているのを
まるで兄弟ケンカしているのを眺めているかのように仁王立ちするかのような彼女のオーラが、なんとも忘れ難い。
そんな強い妻と愛する息子のためにと、ケンが再びレーシング・ドライバーとして奮起する姿がなんともカッコ良い。
これは出来過ぎなくらいのカッコ良さで、近年のクリスチャン・ベールに最も合ったベストワークだったのではないか。
この手の映画では、前述した『栄光のル・マン』で主演したスティーブ・マックイーンが代名詞かと思うのですが、
そんなマックイーンに匹敵するほどに本作のクリスチャン・ベールはハマリ役ですね。狂気的というのとは違うけど、
何かが乗り移ったかのような雰囲気を持って、鬼気迫るものでレーシング・カーに乗り込む熱気がスゴいですね。
正直言って、これだけの出来なんで映画賞レースで嫌われてしまい、
アカデミー作品賞にノミネートされたものの、4部門のノミネートに留まってしまったのは意外に思えるくらいですね。
プロダクションの問題もあったのかもしれないが、これだけの見応えがある作品なのでもっと評価されても良かったなぁ。
ただ、映画のタイトルになっているほど「フォード社vsフェラーリ社」という構図に固執している内容でもないですね。
勿論、ル・マンでは一騎打ちになるんですけど、それでもフォード社側から見たストーリーで組み立てているものの、
一概にフォード社を称える映画というわけでもなく、ジョシュ・ルーカス演じる副社長の強引なやり方のおかげで、
ル・マンのレースで同着ゴールを指示するなど、企業体質を批判的に描いている部分もあってバランスをとっている。
確かにこれはかつて話題となった、日本の順位を決めたがらない運動会のような発想で個人的には気持ち悪い。
何にでも機会の平等性というのは大事だけれども、結果も一律的に平等にしましょうというのは違和感がある。
(一方で過剰に差がつき過ぎるというのもモチベーションにつながるので、適当な差がいいとは思いますが)
当時のフェラーリ社はル・マンでも優勝して高級車ブランドとして世界中の憧れの存在であったはずですけど、
それでも経営危機に陥っていたようですから、幾度となく会社が買収されてしまうという危機はあったのだろう。
ところが本作でも描かれている通り、フェラーリ社の経営者たちにもプライドがあったわけで独歩の道を選択します。
本作はあくまでフォード社寄りの視点から描いているので、こういう内容になるのは仕方ないと思いますけど、
それでもフェラーリ社のプライドを持った企業としてのスタンスを貫くあたりは、良い意味で熱いものがありますね。
まぁ、当時のフォード社にはドライバーのプライドなんかどうでもよく、企業イメージの方が大事だったということかも。
本作では極度の緊張状態で走り続けるストレスから健康を害したキャロルは、医師から引退を勧告されますが、
実在のキャロルは90歳近くまで生きたようですね。どこまで事実に基づいたストーリーであるのかは分かりませんが、
確かにカー・レーサーは寿命を縮めながら続けているようにも観えるので、長生きしたというのは少々意外ですね。
以前、スポーツ競技と寿命の関係を特集されていた番組を観ましたが、日本の相撲力士なんかは健康問題があり、
実際に寿命が短いというデータがあるようで、厳しい稽古と緊張状態、そして強制的に身体を“作る”ことが負荷のよう。
本作で描かれるキャロルも、序盤で既に健康に異常が出ていて、つい私生活でも愛車をレース感覚で
走らせようとするなど、身体的にもメンタル的にも正常とは言えないことを示唆する体調であることは描かれています。
現実にこんな感じだったら長生きするのは難しそうなので、実際にはここまでではなかったのかもしれませんがねぇ。
ル・マンでは前述したように、フォード社から同着ゴールを指示されるという理不尽な展開になりますが、
キャロルもマイルズもそんな指示に反発します。しかし、職人気質だったはずのマイルズは同じチームの仲間たちを
思ってか、彼の中でそれまでとは違った決断を下すことになります。しかし、レースの最終結果は理不尽な結果となる。
これはこれでなんともやるせない結果ではありますが、やり切ったマイルズのなんとも言えない表情が絶妙ですね。
やっぱり、こういう姿を見ると本作はクリスチャン・ベールの映画だったと言っても過言ではないと思いますね。
色々な意見はあるでしょうが、僕は本作、実に見応えのある熱いスポーツ・ドラマの傑作だと思います。
監督のジェームズ・マンゴールドも僕の中ではどこか決定打に欠けるディレクターというイメージだったのですが、
本作は現段階で彼の最高傑作になったと思います。上映時間は確かに長いですが、その長さを僕は感じなかったなぁ。
それにしても、広大なロケ地で撮影されたのでしょうけど、手に汗握るレース・シーンはどうやって撮ったのだろう?
技術的には当然出来るけど、やはりこれだけのスケールで撮るというのはとてつもなく大変なことだと思います。
(上映時間155分)
私の採点★★★★★★★★★★〜10点
監督 ジェームズ・マンゴールド
製作 ピーター・チャーニン
ジェンノ・トッピング
ジェームズ・マンゴールド
脚本 ジェズ・バターワース
ジョン=ヘンリー・バターワース
ジェイソン・ケラー
撮影 フェドン・パパマイケル
編集 アンドリュー・バックランド
マイケル・マカスカー
ダーク・ウェスターヴェルト
音楽 マルコ・ベルトラミ
バック・サンダース
出演 マット・デイモン
クリスチャン・ベール
ジョン・バーンサル
カトリーナ・バルフ
トレーシー・レッツ
ジョシュ・ルーカス
ノア・ジュープ
2019年度アカデミー作品賞 ノミネート
2019年度アカデミー音響賞<編集> 受賞
2019年度アカデミー音響賞<調整> ノミネート
2019年度アカデミー編集賞(アンドリュー・バックランド、マイケル・マカスカー、ダーク・ウェスターヴェルト) 受賞
2019年度イギリス・アカデミー賞編集賞(アンドリュー・バックランド、マイケル・マカスカー、ダーク・ウェスターヴェルト) 受賞
2019年度ラスベガス映画批評家協会賞編集賞(アンドリュー・バックランド、マイケル・マカスカー、ダーク・ウェスターヴェルト) 受賞
2019年度ワシントンDC映画批評家協会賞編集賞(アンドリュー・バックランド、マイケル・マカスカー、ダーク・ウェスターヴェルト) 受賞
2019年度サンディエゴ映画批評家協会賞編集賞(アンドリュー・バックランド、マイケル・マカスカー、ダーク・ウェスターヴェルト) 受賞
2019年度サンフランシスコ映画批評家協会賞編集賞(アンドリュー・バックランド、マイケル・マカスカー、ダーク・ウェスターヴェルト) 受賞
2019年度ハワイ映画批評家協会賞録音賞 受賞