氷の接吻(1999年アメリカ)

Eye Of The Beholder

連続して男たちを殺害していく、魔性の女性を追跡する英国諜報員の姿を描いたサスペンス映画。

当時、ハリウッドでもブレイクしかけていたアシュレー・ジャッドに魔性の女性を演じさせるという、
話題性十分な作品で日本の配給会社も勝手に『氷の微笑』を想起させるような邦題を付けていましたけど、
映画の中身的にはまるでそんな感じではなく、あくまでほのかな好意という程度で主人公は感情を表に出しません。

監督は94年の『プリシラ』が話題となったステファン・エリオットで、本作も頑張りはしたのですが...
残念ながら映画の出来自体を良くすることはできず、今となっては作品の存在感が弱まってしまった気がします。

どうせ、魔性のヒロインに惚れてしまうという設定であるならば、もっと執拗にヒロインの魅力を描くべきです。
結構、早い段階でヒロインが男たちを殺害していってしまうので、四六時中、彼女を監視していたとしても、
主人公が彼女のどこに惚れ込んだのかよく分からず、どちらかと言えば、この主人公の屈折した部分を強調している。

それは主人公の娘が近くにいるという、彼の妄想がクロスオーヴァーする形で描かれるということもあってか、
映画は終始、主人公の精神にも何か問題を抱えているのではないかという、本筋とは関係ない邪推が生まれる。
これが映画の伏線になるならば分かるのですが、この娘の存在はそこまで大きな役割を果たしているわけではない。
そうすると、どうしてこんな描き方をしたのか意図がよく分からない。結果として残るのは、主人公のストーカー気質。
何気に片思いというか、一方的な思いでしかなく、しかも感情を表に出さないから粘着質なところがあるように見える。

そんな主人公が優秀な英国諜報員であるという設定自体が、にわかに信じ難い部分があって、
個人的にはもっと彼の優秀な部分を描いて欲しかったし、そんな優秀な諜報員がどうして捜査対象の女性に
惚れてしまったのかは、明確にして欲しかった。そうでなければ映画自体に、説得力が生まれてこないんですよねぇ。

どうやら、本作は82年にイザベル・アジャーニ主演で製作された『死への逃避行』をリメークした企画で、
確かにハリウッド映画らしからぬ空気感を持った作品にはなっているので、作り手にオリジナルを意識する気持ちは
あったと思うのですが、残念ながら“マジック”は起きなかったですね。やっぱり登場人物の描き方に課題がありました。

いきなり、太っちょの男の情事を盗撮しているところから映画が始まるのですが、
ヒロインを演じたアシュレー・ジャッドもハッキリと映されない感じで映画が進んでいくし、世の男たちが彼女に虜に
なってしまう理由もしっかりと描かれることがなく、曖昧なまま映画が進んでしまったことから、魅力が感じられない。
僕はこの映画、そういったチョットした部分で気が遣えていれば、印象が大きく変わっていたような気がしてならない。

監督のステファン・エリオットはそこまで器用なディレクターではないのかもしれませんが、
せっかく良いキャスティングを施した企画だっただけに、チョットの差が生んだと思えることはなんとも勿体ないですね。

そして、この主人公の尾行もあまりに警戒心なく実行しているものだから、バレないというのも信じ難い。
こんなに分かり易く付け回している時点で、腕利きの諜報員として失格だし、直接接触するものではないにしても
もっと警戒心が強く、少しでも違和感があれば中止するくらいの決断の速さを持つ男でなければ、成り立たないだろう。
だいたい諜報員でターゲットを尾行していて気付かれてしまうなんて、あまりに杜撰なものとしか思えないのですね。

しかも、次第に主人公は気持ちを抑えられなくなったのか、彼の行動も大胆になっていきます。
遠く離れた極寒の地までヒロインを追っていくという、あり得ない追跡を行っていき、直接ヒロインに接触を試みます。
まぁ、主人公にとってはヒロインに近づく絶好のチャンスと思っていたのかもしれませんが、晩熟な彼は思い切れません。

それが結果的に本作の何とも言えなく切ないラストにつながるのですが、ここも盛り上がらなかったのは残念。
こうなってしまうと、単なるストーカー映画みたくなってしまって作り手がホントに描きたかったことが伝わらないのです。
僕が未見ですけど...オリジナルとなった『死への逃避行』という映画も、ホントにこんな内容なのかな?と思っちゃう。

ひょっとしたら、イザベル・アジャーニが演じたヒロインはもっと独特なキャラクターだったのかもしれませんけど、
本作のアシュレー・ジャッドもこの中途半端な描かれ方で、ただの連続殺人犯みたく描かれちゃ可哀想でしたけどね。
90年代後半の彼女はハリウッドでもブレイク真っ最中の女優さんだったのですが、作品には恵まれなかった印象です。

当時のエージェントの薦めだったのかは分かりませんが、やたらと似たようなサスペンスが多かったですからね。
本作もその中の一つに埋もれてしまった印象で、彼女は出演作品に恵まれていたら、もっと売れていたと思います。
当時は日本の車のCMにも出演したりしていたこともあり、もっと息の長い女優さんになると期待してたんだけど・・・。

もっと丁寧に作り込んでいないと、この映画が描くミステリーが魅力的に映らないと思うのですが、
映画の前半からムード作りが上手くいっていないがために、こうなってしまったという印象が強いんですよねぇ。
ただ、単発的にはそれなりに良いシーンはあったと思います。例えば、ヒロインの入浴シーンにしても隣室の浴槽越しに
主人公が盗聴しているというストーカーちっくな様子も、天井からの俯瞰ショットを上手く使っていて、これは良かった。

ヒロインは映画の途中から“守護天使”だと言い始めていますが、その“守護天使”が主人公だというには
少々無理があるような気がして、主人公がやってることは結構なストーカー好意というか、随分と粘着質な行動だ。

そんな主人公の性格を知ってか知らずか、英国諜報局も彼のことを随分と野放しにしているように見えて、
たまにしか連絡をしてこない彼のことを放置しているのは不思議に見えて、それでもヒロインがドンドンと犯罪を重ねる。
そんな結果を招いているのは、警察や諜報局だとしか思えないのですが、確かにヒロインは不思議と逃走に成功する。
それを少し離れたところから見守っているのだから、彼は“守護天使”なのかもしれないけど、チョット気持ち悪い(笑)。

なので、この映画を楽しめるかどうかは結局はこの主人公のキャラクターを許容できるか否かにかかっている。
彼の心の声を反映しているとも言える、彼の娘と思われる少女も映画のエッセンスとしては賛否が分かれるかな。

ヒロインが危うく警察に捕まりそうになったところで、主人公が直接的に手を下してヒロインを助けてしまうのが、
この映画の“暴走”が始まる合図。そこからは主人公も積極的に彼女に絡みに行くようになり、吹っ切れてしまう。
しかし、アラスカに逃走したヒロインを追って、数ヵ月かけてヒロインと接触するのはスゴい根気ではありますけど、
さすがに警察も諜報局も内偵を続けていて、ヒロインの周囲には彼女の犯行を捜査する人間ばかりというのが面白い。

その包囲網がなんとも切ないラストにつながるのですが、ヒロインに直接接触するカフェでの会話シーンも
深く掘り下げられるまでもなく終わってしまい、なんだか中途半端な感じでクライマックスに突入してしまうのが致命的。
これでは2人のここまでのドラマにキレイに終止符を打つことができないですよね。あまりクドい内容にしたくないのか、
映画全体として説明不足な感じで進み、そのまま終わってしまうので全てが出し惜しみのままという感じで残念だなぁ。

やっぱり、映画は何事もハッキリと描かないと...勿論、曖昧さが魅力という映画もありますけどね。
但し、本作はそういった曖昧さが魅力という映画でもないと思うので、この中途半端な感覚が明らかに足枷になってる。

前述したように、日本の配給会社も『氷の微笑』の路線を期待して、この邦題を付けてもらったように思うのですが、
いざ本編を観て感じたのは、これは全く異なるベクトルの映画だったということなので、見当違いだった気がします。
この邦題は変に期待値を上げてしまっただろうし、全く脈絡のない邦題を付けられてしまった感じで可哀想でした。

上映時間もそんなに長い映画ではないので、もっと細部で肉付けをして映画に厚みを持たせていたらなぁ・・・。
そういう意味では、脚本も兼任した監督のステファン・エリオットでどうとでもやりようがあったのではないかと思える。
これでは、さすがにアシュレー・ジャッドも輝かないですよね。せっかくのキャスティングも、これではあまりに勿体ない。

それにしても・・・やっぱり、これはとっても大事なところだったと思うのですが...
ヒロインがなんでこれだけの凶行を重ねていったのか、その目的がよく分からないし、どうしたかったのかなぁ?

映画を観ていると、決して彼女は何も考えていなかったわけではないだろうし、幸せに飢えていたのだろう。
しかし、裕福そうなビジネスマン(主人公のボスの息子)の部屋に二人っきりになりに行って、そこで豹変するなんて
あまりに短絡的過ぎる犯行が理解し難い。この辺も彼女の狙い、作戦というのが明確ではなく行き当たりばったりに
見えてしまうということと、彼女が逃亡し続けられるという結果の説得力があまりに無さ過ぎるのが致命的だったと思う。

本作はあくまでサスペンス映画ですからね。話し自体の信ぴょう性が希薄というのは、それはダメでしょうね。
仮にヒロインが単なる連続殺人犯のシリアルキラーなら、この主人公がホントにそんな簡単に惚れるのだろうか?

(上映時間101分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ステファン・エリオット
製作 ニコラス・クレアモント
   トニー・スミス
原作 マルク・ベーム
脚本 ステファン・エリオット
撮影 ギイ・デュフォー
衣装 リジー・ガーディナー
編集 スー・ブライニー
音楽 マリウス・デ・ブリーズ
出演 ユアン・マクレガー
   アシュレー・ジャッド
   パトリック・バーギン
   K・D・ラング
   ジェーソン・プレーストリー
   ジュヌビエーブ・ビジョルド
   チャールズ・パウエル