ドライブ・イン・マンハッタン(2023年アメリカ)

Daddio

プライベートの旅行から戻ってきてニューヨーク近郊のジョン・F・ケネディ空港に降り立った、
一人の若い女性が自宅のあるマンハッタンまで利用するタクシー運転士との会話だけで綴られる1時間40分。

監督は本作が監督デビュー作となったクリスティ・ホールで、確かにこれは力のある映画だなぁと思いました。
映画はほとんどショーン・ペンとダコタ・ジョンソンの2人だけが会話するだけの内容ですけど、見応えはあります。

まぁ、普通に考えたら、初対面であるはずの初老のタクシー運転士といくらウマが合ったからとは言え、
いきなりプライベートでデリケートな会話をするなんて、考えられないし、内容的には完全にセクハラなんで
現実にあんな会話したら訴えられるような気がするんだけど(苦笑)、このヒロインの女の子も結構スゴい子ですよね。

だって、「食べる?」なんて言われてガムを差し出されても、見ず知らずのタクシー運転士の所持品だったら、
よほど飢えてて食べないと命がヤバいって時じゃない限り、差し出されたガムを口に入れることがないでしょう(笑)。
でも、本作はそういったことが許されてしまうかのような、何となく不思議な空気感で包まれていることは確かだと思う。

ヒロインを演じたダコタ・ジョンソンは俳優のドン・ジョンソンとメラニー・ギリフィスの間の実子らしく、
子役時代から映画女優として活躍し始めていて、ついに本作では製作まで兼務するほど実力を付けてきたようです。

確かに彼女は実に堂々としていて、(言葉は悪いが・・・)ただタクシーの後部座席に座って、
スマホをいじりながら初老のタクシー運転士のセクハラまがいの説教に答えてコミュニケーションをとっているだけだが、
何か貫禄にも似たようなオーラがあって、ベテラン実力派俳優のショーン・ペンとの2人芝居でも引けをとっていない。
時に戸惑いながら、時に笑いながら応答しているけど、徐々に彼女自身が抱える悩みを吐露していく過程が上手い。

最近はめっきりタクシーを利用することが無くなってしまったけど...
昔はプライベートなことまでベラベラ喋ってくるタクシー運転士は少数派だったけど、確かにいた記憶があります。
大半が無言で、行先について喋るくらいだったけど、特に終電が終わってからの深夜のタクシー運転士には、
退屈さもあったのか世間話をしてくるドライバーはいました。最近はこういうコミュニケーションも難しさはあるだろう。

本作のショーン・ペン演じるドライバーは少々極端な感じはしますけど、基本、孤独な商売の側面もありますからね。
多くのいろんな乗客を見ていれば、その時々の社会情勢も分かるだろうし、時にはヒヤッと危ないこともあるだろう。
それでも彼らはそれが職業なので、ハンドルを握らなければならないし、客を選ばずに乗せなければならない。

このヒロインも、セクハラオヤジのタクシー運転士によく腹を立てずに、不快感を見せずにいられるなぁと
妙に感心してしまう面もあるのですが、彼女のメール相手でもあった“恋人”も負けず劣らずの卑猥メールを連発。
いや、いくら関係が深いとは言え、あんなのあり得ないでしょう。恋人であっても、あれは普通に不快感MAXでしょう。

それさえ断ち切ることができずに、ヒロインはズルズルと関係を続けてしまっているようだったから、
意外に精神的には弱いのかもしれませんね。タクシー運転士が言うように、彼女は実に落ち着いて堂々としている。
それなりに人生経験を積み重ねていて、(女性にはご法度な話題だが...)年齢も推測しづらい雰囲気でもあります。
そうだからこそ、あんな卑猥メールを連発されても、ブチギレすることなくメール返信しちゃうなんて、随分と気が長い。

まぁ、どうやらヒロインは父親に距離感を感じたまま育てられたみたいなので、
その距離感をいきなり縮めてきたタクシー運転士に、父性を感じたのかもしれない。ある種のシンパシーとして。
だからこそ、ズケズケと性的なことも聞いてくるセクハラオヤジに対しても、甘過ぎるくらいの対応をしていたのかも。

そういう意味では、少々、男性視点の映画でもあるのかもしれない。現実的には、こんなことあり得ないですからね。
ファンタジーとして見るにも、女性視点からすれば受け入れ難い面も無くはないのではないかと邪推してしまいます。
まぁ・・・このヒロインのように父からの直接的な愛情表現に飢えているということも、当然あるとは思いますがねぇ。

でも、このタクシー運転士の性的なことをズケズケと聞き出して、最後は説教臭い話しをするなんてあり得ない。
こんなドライバーが現実にいたら、速攻でクレームでしょうね(笑)。オマケに事故渋滞に巻き込まれるなんて、悲劇。

彼が問いかける内容自体はヒロインの悩みの本質を突くような内容ではあったけれども、
一般的な女性にとっては、本質を突くような図星な内容であってもハッキリ言って、余計なお世話ですからね。
しかもデリケートな内容ですし、初対面な相手であれば乗客を怒らせて訴えられてしまうのが現代社会ですからね。
まぁ、そういうキワどいオヤジを演じるにショーン・ペンというのは、確かに絶妙なキャスティングかもしれませんね(笑)。

ある種の“駆け引き感”を演出できているのは、一つのアイテムとしては車のバックミラーでしょうね。
タクシー運転士と乗客は、バックミラーを通じて視線で会話するというのがコミュニケーション手段となっていて、
お互いの表情を読み取って感情の揺れ動くを感じ取る。この映し方は本作の特徴であり、とっても上手いですね。

特にダコタ・ジョンソンはスゴい美人さんだけど、彼女は視線が良いですね。それをよく分かった撮り方としています。

ただ、この映画で少々残念に思ったのは、どこか浮遊感というか...漂う感じが欲しかったなぁということ。
夜遅い時間にも見えるし、タクシーの中というある意味では隔絶された空間での会話劇であって、会話の中身も
あっち行ったりこっち行ったりしながら、徐々にこの映画のポイントに近づいていくので、そのフラフラした感じが欲しい。

それは映像自体にも言えることであって、タクシーが走る姿を映したり、流れるような風景を映そうとしない。
映画の後半に差し掛かって、事故渋滞を抜けてマンハッタン市街地が見えてくるシーンがあるのが唯一という感じで、
映像から作られる浮遊感というのは感じられず、映画の雰囲気がホントに会話のみで作られるというのが微妙だなぁ。

監督のクリスティ・ホールはニューヨークで劇作家として活動していて、ロサンゼルスに拠点を移してから
映画監督としてデビューするキッカケを掴んだそうで、本作は低予算作品でアプローチとしても実験的な作品だ。

是非とも、他の内容の映画を撮って欲しいですね。本作は舞台劇の延長線という感じの作品だったので、
これがそういう類いの内容ではない作品になったら、どんな演出が出来るのかというのを観たいと思っています。
かなり特殊な内容の作品でしたから、難しいところですけど...将来的な活躍が期待されるのは間違いないだろう。

ニューヨークにあるジョン・F・ケネディ空港は、マンハッタンまで高速道路を使って約30分という距離のようで、
ニューヨーク市の条例でもマンハッタンから空港までタクシー料金70ドルという一律料金が規定されているようです。
法外な料金を請求してくる白タクに乗っちゃうリスクもあるので、バスや鉄道移動を選択する人も多いようです。
まぁ、白タクじゃなくても本作のショーン・ペンみたいなドライバーに当たっちゃったら、旅行客にはキツいですね(苦笑)。

日本とは交通事情も異なるし、当然、治安も異なります。異国の地で密室となるタクシーでドライバーと
2人っきりって結構勇気のいる環境だけれども、タクシーは目的地にダイレクトにアクセスしてくれますからね。
移動手段としては安心できるけど、お互いの距離が近いゆえに利用するに結構勇気のいる乗り物ではあるかなぁ。

実際、僕も以前デンマークへ研修で行ったときに、休日の外出でコペンハーゲンの“ストロイエ”で解散して、
合宿所のあるロスキレへ移動するのに、数人でタクシーを利用したことがありましたけど、若干の不安はありました。

本作ではタクシー運転士がデジタル技術について、ヒロインにいろいろと聞いて自説を喋ってますけど、
日本でも数年前から配車アプリの普及が進んで、キャッシュレス化が進んでいます。本作でも描かれていますけど、
さすがはチップの文化が進んだ欧米ですね。チップの支払いもキャッシュレスでできるようになっているのが面白い。
タクシー運転士からすればキャッシュの方が直接的な身入れになるから嬉しいのでしょうけど、これも時代ですかね。

そのうち、タクシーの運転も無人運転の時代がやって来るでしょうから、こういう話しも無くなるのかもしれませんがね。

まぁ、映画の構図としては傷心の若い女性が自分の父親くらい年上のタクシー運転士に、
自身が抱えている問題の本質を見抜かれたように指摘され、会話を繰り返すうちに心の傷を癒すためのヒントを
得るまでのプロセスを描いている感じですが、実はこのタクシー運転士も彼女との会話で心が癒されている面もある。
だからこそ、お互いにこの偶然の出会いは必要なものだったのだろう。これはこれで現代のファンタジーなのかも。

ただね...さすがに日本には使用済みの●ン●ィーを売っている自動販売機なんて、ありません。

(上映時間99分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 クリスティ・ホール
製作 ダコタ・ジョンソン
   ロー・ドネリー
   エマ・ティリンジャー・コスコフ
   クリスティ・ホール
   パリス・カシドコスタス=ラトシス
   テリー・ダガス
脚本 クリスティ・ホール
撮影 フェドン・パパマイケル
編集 リサ・ゼノ・チャージン
音楽 ディコン・ハインクリフェ
出演 ダコタ・ジョンソン
   ショーン・ペン