N.Y.式ハッピー・セラピー(2003年アメリカ)

Anger Management

今でこそ日本でも、その言葉が有名にはなりましたけど...アンガー・マネジメント≠描いた作品。

本作自体は、製作当時は全米では主演のアダム・サンドラーが大人気コメディアンだったこともあって、
ベテラン俳優ジャック・ニコルソンとの共演という話題性もあって、鳴り物入りの映画として劇場公開されたおかげで、
全米では大ヒット作品となったのですが、日本では実にヒッソリと扱われて、あまり大きな話題にはなりませんでした。

まぁ、内容的に観る前から、ある程度の想像がつくレヴェルの作品ではあるのですが...
手堅く面白い内容にはなっている。それなりにニヤリとさせられる部分はあるし、映画のテンポはまずまずで悪くない。

監督のピーター・シーガルはコメディ映画ばかり撮ってきた人で、喜劇の撮り方にかけてはよく分かっている。
ド派手に笑わせてくれるシーンがあるわけではないので、そこは残念ですがアダム・サンドラーの魅力は熟知してるし、
アクの強いジャック・ニコルソンもこの類いの軽いタッチの映画の中で、どう扱うべきかも考えられていた気はします。

映画は恋人との結婚も予感していたサラリーマンの主人公が、誤解から始まって飛行機の中で逮捕されたことから
裁判所で命じられた著名なセラピストである、ライデル医師のセラピーを20時間受けることになる姿を描いている。
また、このライデルも個性的なキャラクターで彼に付く患者たちも強者揃い。そんなセラピーに嫌気が差す主人公は、
なんとかしてセラピーの免除を受けて、フィアンセとの結婚に向かおうとしますが何故かライデルが立ちはだかります。

そんな駆け引きにも似たドタバタ劇を綴っているわけで、アダム・サンドラーお得意のコメディ演技。
これが好きな人は十分に期待していい作品だとは思いますが、当然のように彼が苦手な人にとってはキツい(苦笑)。

でもね、まぁ・・・僕は面白いとは思いましたね。まずまず楽しめました。もっと笑わせてくれれば良かったんだけど。
アダム・サンドラーとジャック・ニコルソンの組み合わせも、思いのほか悪くなかったし、お互いに上手く“立て合ってる”。
日本の配給会社が勝手に(?)付けた邦題はどうかと思いますが、やっぱりハリウッドはこういう仕事は手堅いと思った。

それに、昨今ではスポーツの世界でも感情をコントロールすることの重要性が喚起されていて、
その一つの手法として注目されているのがアンガー・マネジメント=Bハラスメントが当たり前にあった時代の系譜で
ビジネスの世界でも重要なこととされていますから、本作はその先見性を象徴した作品だったとも言えると思います。

怒りって、確かに負の感情なんだけど...それが爆発したときにトンデモないパワーを発揮したりしますから。
それを自分で抑えることって、なかなか難しいことだと思うんです。自分も「短気は損気」と言われながらも抑えられず、
いっつもカリカリ・イライラしているタイプなので、アンガー・マネジメント≠受けなきゃならない立場なのでしょうが。

そんなアンガー・マネジメント≠教えるのが、むしろキレっ早そうなジャック・ニコルソンというのも面白い。

しかも、彼は彼で妙に自分を出してくるタイプの医師だから、主人公からすれば最初っから快く受け入れられない。
挙句の果てには主人公のフィアンセが「美しい」とか言い出すものだから、主人公からすれば気が気じゃないし、
良くなっているのか悪化しているのかもハッキリとしないライデルのセラピーに、余計に苛立ちを感じるというのが
本作のセオリーのようなもので、それを定番化されたフォーマットでアダム・サンドラーが演じるので、安心感あります。

この“定番化された”というのは、僕は悪い意味で使っているわけではなくって、彼の十八番ということで
どんなディレクターを相手にしても、アダム・サンドラーなりにキッチリ仕事をしてくるので、しっかり楽しませてくれる。
そんな安心感が本作の時点で感じられることから、当時からアダム・サンドラーってなかなかの力があったと思います。

まぁ、いろんなタイプの患者がいて、主人公も余計にイライラさせられたりフラストレーションを溜め込みます。
しかも治療の一環でるとは言え、私生活まで入り込んでくる患者がいて、彼の生活はなかなか落ち着く暇がありません。
そうしていくと、想像通りに主人公はフィアンセとの関係が悪くなっていくことで、物語は良い意味でかく乱されます。
この辺のストーリーの展開については、まるでお手本のようにキッチリと見せてくれるので安心感バツグンなんですね。

ただ、この安心感は本作の強みではあるのだけれども、言い方を換えれば本作に大方の想像を超える楽しみは無い。
これはおそらく否定的に捉える人も多くいるだろう。しかも、アダム・サンドラーのギャグも本作はなんだかマイルドだし。
そう、本作のアダム・サンドラーにはこれまでにあったような彼特有の毒っ気は抜かれていて、これも賛否あるだろう。

それから、クライマックスのヤンキースタジアムでのプロポーズに関するエピソードはかなりステレオタイプだ。
さすがにアダム・サンドラーの人脈なのか、本作もカメオ出演していたりチョイ役で出演している人たちも豪華で、
このヤンキースタジアムのシーンではジュリアーニ市長を本人役で引っ張り出して、キスを求めるという力技にでる。
ジュリアーニ市長だけでなく、プロ・テニス・プレーヤーのジョン・マッケンローがライデルの患者として登場しています。

これだけの豪華なゲスト陣を集められるのは、アダム・サンドラーの人脈が為せるワザだったのかもしれませんね。
実際、製作総指揮にアダム・サンドラーがクレジットされているので、彼の人脈を使ったのは間違いないでしょう。

それだけではなく、ふんどし姿でアダム・サンドラーと取っ組み合いを演じさせられたジョン・C・ライリーや、
女装した娼婦として登場してきたウディ・ハレルソン、バーで主人公がナンパしたセクシー・ガールかと思いきや、
実は精神的不安定でチョコレートケーキを口いっぱいに頬張って、発狂するヘザー・グレアムなどゲストもいっぱいだ。

現代のアンガー・マネジメント≠チて、本作のライデル医師のような奇想天外な方法論はとらないし、
次第に怒りの感情の作用について科学的に分析されているから、心理療法の理論を応用していると聞きます。
瞬間的に沸いた怒りというのは、最初の数秒間でMAXに達するので、それを我慢しましょうというのが古典的な方法。

とは言え、この映画の主人公の怒りって、ウワッ!と瞬間湯沸かし器のように沸騰した怒りではなくって、
ジワジワ来るような怒りなので対処方法は特殊なのかもしれませんが、映画の序盤で描かれていた分だけですと、
そこまで主人公に問題があるように映らないのですが、何故か彼はあれよあれよという間に逮捕され裁判になります。
この序盤の展開は冷静に考えると違和感があるのですが、この序盤の展開の秘密はラストにしっかり明かされます。

一つ一つのギャグについては賛否が分かれて、アメリカ・ナイズされた感覚もあるので
日本ではウケないタイプのギャグでもありますが、アダム・サンドラーのキャラに理解ある人は受け入れられるでしょう。
とまぁ・・・良くも悪くもアダム・サンドラーの映画ですので、そこにアンガー・マネジメント≠フ相性は悪くないかと。

久しぶりにこの手の映画でヒロインの座をゲットしたマリサ・トメイが主人公のフィアンセ役だったのですが、
彼女のキャラクターはもっと磨いてあげて欲しかったなぁ。映画の後半になるとメイン・ストーリーに絡んできますが、
それまでは添え物のように蚊帳の外に見えてしまったので、もっと出来る女優さんなだけにキャラを磨いて欲しかった。
これはどちらかと言えば、作り手の意思が感じられない描かれ方で、もっと彼女を生かす前半であって欲しかったなぁ。

賛否はあるけど、やっぱり怪優と呼ばれることもあるジャック・ニコルソンは流石だなぁと感じましたね。
過去にコメディ映画にも数多く出演しているので、こういう仕事も出来ることは分かっていましたけど、やっぱり上手い。

思わず「地でやってるのかなぁ?」と思っちゃうくらいですが、主人公の自宅にライデルが居候するシーンで、
歯を磨きながら青い電磁場を頭に当てで、「これが育毛に効果あるんだよ」とニヤニヤしながらやってる姿が強烈だ。
ホントにあんなのがあるのかは知りませんが(笑)、こういう演技を嬉々として演じてくれるからジャック・ニコルソンだ。

そうそう、こういうシリアスではないジャック・ニコルソンを観たいという人には十分楽しめる作りになっているかと思う。
おそらくですが...本人もこういうの嫌いじゃなくって、当時のアダム・サンドラーですらジャック・ニコルソンを相手に、
自分のキャラを抑えながら演じざるをえなかった感じですからね。そういう“押し”の強さを、上手く利用した作品ですね。

なんせ、映画の冒頭から飛行機で自分の席が無くなって憤慨している主人公を見て、
合図を送って「オレの隣に座れよ」と言い、機内エンターテイメントを視聴して「ほら、この映画を観なよ」と言い、
「早くしないと、中身が分かんなくなるぞ」とジャック・ニコルソンから急かされるわけですから、なんとも強い“押し”(笑)。

前述したように、コメディ映画としてはド派手に笑わせてくれるわけでもないので賛否は分かれるだろうし、
アメリカ・ナイズされたギャグもあるので、日本人にも分かりにくいかもしれない。コテコテのハリウッド製コメディを
観たいという人にはオススメできる作品だし、及第点レヴェルには達した映画と言ってもいいような気がしますけどね。

まぁ、あまり過度な期待をせずに気楽に観ようという分には、最適なコメディ映画ではないですかね。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ピーター・シーガル
製作 バリー・ベルナルディ
   ジャック・ジャラプト
脚本 デビッド・ドーフマン
撮影 ドナルド・M・マカルパイン
音楽 テディ・カステルッチ
出演 アダム・サンドラー
   ジャック・ニコルソン
   マリサ・トメイ
   ジョン・タトゥーロ
   リン・シグペン
   アレン・コヴァート
   ルイス・ガスマン
   ウディ・ハレルソン
   ヘザー・グレアム
   ジョン・C・ライリー
   ハリー・ディーン・スタントン