天使と悪魔(2009年アメリカ)

Angel & Demons

06年の『ダ・ヴィンチ・コード』の続編で、ロバート・ラングドン教授シリーズの第2弾だ。
前作に続いてロン・ハワードがメガホンを取り、主人公のラングドン教授役としてトム・ハンクスが出演しました。

結論的に言えば、僕は前作からそこまで大きく変わったような印象は受けませんでしたね。
ただ、やたらとフラッシュ・バックを連発していた『ダ・ヴィンチ・コード』と比較すると、こちらは現在進行形で
リアルタイムに物語を進行させていて、コンクラーベで選挙されるべき4人の枢機卿が行方不明となって、
更に盗まれた“反物質”が大爆発を起こさせる事件を、如何に抑止するかをするため推理する様子を描いていて、
前作よりはそのスリルが分かり易くって良いですね。このストーリーテリング自体は、ロン・ハワードらしいと思った。

正直言って、この映画は少々話しが込み入り過ぎているようには感じた。まぁ、前作も単純ではなかったけど。
ダン・ブラウンの原作を予め読んでいれば、もっと楽しめるのかもしれないし、キリスト教の知識があれば違うのかも。
僕も大学時代に、何故かキリスト教の歴史を学ぶ講義はあって単位は取ったものの、何も覚えていないというので
何も知識がない状態で鑑賞しているわけですが、そんな調子で観た人にとっては、一つ一つの解釈が難しく感じられる。

ストーリー的に詰め込む分だけ詰め込んだのもそうですけど、もう少し映画的に脚色した方がいいですね。
この辺はロン・ハワードはもっと上手いディレクターだと思っていたのですが、このシリーズになると上手くいかない。
原作が超人気小説だから難しいのかもしれませんが、僕は映画として独自性のある内容にしても良かったと思うなぁ。

さすがにクライマックスの“反物質”の処理に関わる展開なんかは、かなり荒唐無稽な感じですからねぇ。
確かにあんなことできたらスゴい英雄なんだけど、さすがにローマ教皇の弟子でコンクラーベに呼ばれる人材が
あんなスーパーアクションをこなせるということ自体に、説得力はないですよね。ここはこの映画のキビしいところかな。

さすがにローマ教皇の秘書みたいな役割を果たして弟子のような存在だった男が、“反物質”の扱いを知っていて、
突如としてヘリを操縦して今にも大爆発しようとする“反物質”と共に上空高くまで登って、ハイテク機器の扱いに
精通しているなんて設定は、あまりに説得力がないですね。この辺はもう少し丁寧に描いて欲しかったところかな。

ただ、前述したとおり、前作はある程度の時間の中でラングドン教授が推理しながらピンチがあって、
サスペンスを展開していくという趣向でしたが、本作はリアルタイムに進行させるに近い感覚でタイムリミット感を
常に観客に意識させているという手法は絶妙に上手い。前作のフラッシュ・バックの連続よりは、格段に良かった。

本作はローマ教皇が亡くなり、次期の教皇を選ぶ選挙であるコンクラーベが行われるバチカンを舞台にしている。
これまでの映画界では、ここまで真正面からコンクラーベを描くことがなかったので、どちらかと言えばタブーに近い、
という感覚が映画界にはあったのかもしれない。バチカンの中にイルミティと呼ばれる、教会側の反対勢力が潜伏し、
バチカン警察の内部にまでも手をかけているというセンセーショナルな題材は、かなり衝撃的な内容ではあります。

そういう意味では、『ダ・ヴィンチ・コード』よりも踏み込んだ内容だったような気もしますし、
前作以上に一つ一つのアクション・シーンもかなり鋭く描かれていますね。これも前作よりは良くなった部分かな。
ロン・ハワードは総合力で勝負するディレクターだと思ってますが、こういう鋭さを持ったシーン演出にしても、
映画全体で上手く調和させていますね。これは編集の力も大きな作品だと思っていて、上手くいっていると思います。

ただ...クドいようですが、いかんせん物語が複雑過ぎるし、知識がないと分かりづらい部分は多い。
これは正直言って、日本人にとっては尚更のことかもしれません。少なくともダン・ブラウンの原作は読んでおくべき。
これはロン・ハワードはどう思うのだろうか?と疑問です。個人的に原作必読の映画というのは、キツいなぁと思うので。

これは僕の勝手な意見なんだけど...映画は映画として成立して欲しいので、
いくら原作があるとは言え、原作を読まなければ中身がよく分からない映画というのは、支持し難いんですよね・・・。

まぁ、本作もさすがはロン・ハワードの監督作品だなぁと感じる部分はあったし、
『ダ・ヴィンチ・コード』よりも良くなった部分もあります。だけど、ロン・ハワードにこの手のサスペンスがフィットしない。
過去にもサスペンス映画は撮っていたけど、こういったミステリーは彼の作風に合うようで合っていないように感じる。
器用なディレクターなだけに、ある程度の仕上がりにはなるけど...相対的にドラマ系の方が上手いなぁと感じちゃう。

さすがに事件のカラクリを明かすラストは、真犯人の存在に無理があるような気はしましたが、
ここは原作もあるし、勝手に改変できないだろうから仕方がない部分もある。この黒幕候補を少しずつ“匂わせる”。
その塩梅が絶妙に上手くって、何人も意味ありげに描いて観客の目を惑わせるのは、さすがのロン・ハワードの手腕。

最も印象的なのは、アーミン・ミューラー=スタール演じるシュトラウスの存在で、
彼は他作品で悪役も多かったせいもあってか、どこか“裏”がありそうな雰囲気に見えるように描かれてる気がする。

実際、彼も「私には野心なんかないんだ」と敢えてコメントするなどして、意味ありげに何かを示唆しているかのよう。
そこに次期ローマ教皇の候補である枢機卿が行方不明になる事件があって、投票を取り仕切る立場になるわけで、
これはどこからどう見ても、彼には“裏”がありそうに見えて、怪しく見える。この描き方が最後まで利いていますねぇ。
こういったキャラクターが登場してくるだけで、観客はいろんな邪推を始めてしまうし、何もかもが怪しく見えてくる。

本作のロン・ハワードは前作『ダ・ヴィンチ・コード』以上にこういったアプローチに関しては、工夫していたと思います。
ミステリーには合っていないように感じる・・・と前述しておきながらも、本作にはロン・ハワードの上手さはあると感じる。
だからこそ、映画の最後に何か訴求する“ヤマ”を作ることができていたら、映画の印象は変わっていたと思うんだなぁ。

ところが本作はそんな映画としての決定打が無い。良い意味での特徴が無い映画に仕上がってしまい、
せっかくのロン・ハワードの良さが出ていない印象だ。やはり、かなり込み入った話しになり過ぎた傾向があると思う。

今回、ラングドン教授と行動を共にする女性科学者を演じたのはイスラエル出身のアイェレット・ゾラー。
映画の冒頭で彼女らのチームが考えていたことが、イマイチ分かりづらいですが、奪われた“反物質”を追って、
同時にラングドン教授と失踪した複数名の枢機卿を追っていくシーンでは、なかなか良い存在感を示していたと思う。
(どうやらアイェレット・ゾラーは故国イスラエルでは、かなり有名な女優さんらしい)

彼女がラングドン教授との捜査に加わるのですが、タイミリミットがある中で群衆の中で誰にも不審がられずに
捜査を展開するためにと、突如としてお互いに夫婦を装ったりする臨機応変さが彼女にもあるのは、なんだか面白い。
そんな装いもまるで気にしないで、平然とやってのけてしまう度胸のありそうな風格が彼女からは感じられますね。

しかし、この映画で描かれるコンクラーベが行われているバチカン市内で、次期ローマ教皇の候補者である
複数の枢機卿がターゲットにされて、連続殺人事件が起こるという設定はかなりセンセーショナルな内容ですね。

そこに秘密結社のイルミナティの復活というエッセンスが合わさって、よりセンセーショナルな映画になってますが、
やっぱりこのダン・ブラウンの原作はかなり衝撃的だったのでしょうね。映画化の権利も競争になるわけですね。
しかも、イルミナティはバチカン警察にまで潜入しているという抜け目の無さで、よくバチカンが怒らなかったなぁと感心。

劇中、語られていましたが、確かに科学史に於いて科学と宗教の関わりは、実に密接なものであったと思う。
地動説、天動説にしてもそうですけど、かつて数多くの議論を呼んだことの中に、古くから神秘性に頼ってきたことが
一つの学説として提示されると、その神秘性を重用してきた立場の人々からは、当然のように反発されてしまいます。
科学の発達スピードが上がると、宗教側はそのスピードを無意識的に抑制する方向に機能しようとしてきたのは確か。

僕はその攻防を否定的に言うつもりはないのだけれども、その中で折り合いをつけて、
科学が発達して人々の生活水準がより文明的なものに進展してきたということは、否定できない事実だと思います。

突如として現代科学の象徴として“反物質”がクローズアップされたのは謎だったんだけれども、
それでも本作はラングドン教授のような宗教に対するアプローチを学術的に行うことに対して、非協力的な宗教側との
立場の相違を描いている作品だとも思えて、実に深遠なるテーマ性を持った作品でもあるのだろうと思います。

前作よりは良くなった部分もあるとは思いますが、総じてそこまで期待に応えてくれた作品とは言い難いかなぁ。
繰り返しなりますが、ロン・ハワードのカラーの作品とは言い難いし、もっと上手くまとめることができる力量はあるのに、
有名過ぎる原作の映画化であるせいか、どうしても映画の前提条件から無理が祟ってしまっているように感じます。

どうせなら、もっとロン・ハワードなりの解釈を入れて、自由に描いたらいいのに・・・と思ってしまう。

(上映時間138分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ロン・ハワード
製作 ブライアン・グレイザー
   ロン・ハワード
   ジョン・キャリー
原作 ダン・ブラウン
脚本 デビッド・コープ
   アキヴァ・ゴールズマン
撮影 サルヴァトーレ・トチノ
編集 ダン・ハンリー
   マイク・ヒル
音楽 ハンス・ジマー
出演 トム・ハンクス
   アイェレット・ゾラー
   ユアン・マクレガー
   ステラン・スカルスゲールド
   ピエルフランチェスコ・ファビーノ
   ニコライ・リー・コス
   アーミン・ミューラー=スタール
   トゥーレ・リントハート