理想の結婚(1999年イギリス)
An Ideal Husband
なんか...同じようなタイトルのテレビドラマも、日本でありましたよね(笑)。
調べたら、このタイトルを付けたのは映画の方が遅かったんですね。なんで、こんな邦題にしたんだろ・・・。
映画はオスカー・ワイルドの原作で、19世紀の英国を舞台にいろいろな背景があって結婚して、
いわゆる理想の夫婦として多くの人々が称賛していた社交界で、ドロドロとした人間関係が渦巻く様子を描きます。
だから本来的なタイトルは「理想的な夫」ということなんで、映画の中身もそんな内容になっていて女性視点が多い。
これはこれでオスカー・ワイルドの戯曲の世界観がよく反映された作品ということなのでしょうけど、
ドキドキ・ワクワクさせられるような愛憎劇というよりも、個々それぞれが感情を内に秘めたる「本音と建前」で生きる。
そこで生まれる僅かな男女の駆け引きを描いていて、この手の世界が好きな人にはたまらない作品ではないかと思う。
まだ『エリザベス』で評価されたばかりのケイト・ブランシェットが主演で、対抗する相手役としてジュリアン・ムーア。
彼女たちはそれぞれに評価を上げていた頃の出演作品であり、芝居合戦としての見応えもそれなりにありますね。
ケイト・ブランシェットは次第にクセのあるキャラクターを演じたり、芯の強い女性を好んで演じているようになりますが、
本作はむしろ野心的なキャラクターなのはジュリアン・ムーアの方で、貫禄たっぷりに好戦的なのは彼女の方だった。
ケイト・ブランシェット演じる政治家の妻は、どこか胆が据わったところがあれば、対照的に精神的な弱さも見せる。
まだ若い頃の出演作品ですので、後のケイト・ブランシェットからすれば意外なキャラですけど、これはこれで良い。
そんな駆け引きをユーモラスに綴っている作品でもあって、決してシリアスに傾倒することなく、
どちらかと言えば、表向きは明るい仕上がりになっていて、映画のテンポは停滞することなく小気味いい作品ですね。
この塩梅がとても上手くって、それでいて映画のラストには夫婦関係の起伏に富んだ展開もあって、なかなか面白い。
これは実に難しいことで、こういったドロドロとした人間関係を背景にしつつも、チョットしたユーモアで綴って
喜劇のように描くというのはバランスを保つことがとても難しい。しかし、本作はなんとも絶妙なところでやっている。
特に映画が終盤に近づくにつれて、コミカルな魅力を見せていく様相の変化が面白く、脚本も上手かったですね。
そう、このラストは結構なジェットコースターな展開ですよね。その起伏をケイト・ブランシェットも表情で巧みに表現。
一方で対抗する旧知の女性を演じたジュリアン・ムーアは、本作ではチョット性格的に悪いところが垣間見れる役だ。
こういう性格した人って「いるよねぇ〜」と思わせられるし、野望を隠さずに駆け引きを仕掛けてくる好戦的な性格です。
本作のジュリアン・ムーアはもっと評価されていても良かったなぁと思えるくらい、とても上手かったと思うんですよねぇ。
一方の男優陣では、独身貴族を謳歌するルパート・エベレットがユニークなキャラクターで、
父親から散々言われながらも独身を貫きていたものの、一方でミニー・ドライバー演じる女性から強めのアプローチを
受けていながらも、なかなか結婚に踏み切れない。ナンダカンダで19世紀の物語ですから、男性主導社会ですが
それでも実は強い女性たちが社交界の裏側で糸を引いていた、というのが物語のメインになっているわけですね。
それを分かり易く牽引するのがジュリアン・ムーア演じる女性なのですが、政治的野心を隠さずに生きる、
ケイト・ブランシェット演じる女性の亭主が脅されることで、フラフラしていたところを更に付けこまれる様子が面白い。
結局はいつの時代も、社会を支えている女性の力があったというわけで、
幾人かの女性陣の狭間で揺れ動く男たちが、表向きの社交界を象徴していたとしても、実はなんとも情けない姿。
フラフラしていた政治家は、自身のポリシーを貫き通すのかと思いきや、結局はジュリアン・ムーアも無視できない。
だからこそ、物語はかく乱されるわけですが、これら個々のエピソードのバランスがとても上手く取られていますね。
これは監督のオリバー・パーカーの力量はそこまで低くはないことの裏返しで、もっと評価されて良かったと思いますね。
この映画で描かれた結婚をどう捉えるかは、受け取る人によって異なるでしょうけど...
まぁ、今の時代でも見栄や体裁のために結婚するということも、無くはないと思う。19世紀であれば尚更だろう。
親が勝手に決めてきた結婚相手と結婚することもあっただろうし、お見合いして交際期間短くして結婚もあっただろう。
それは今の時代でも一緒。恋愛結婚が主流ではあるだろうけど、なんとなく結婚したということだとか、
結婚自体がゴールだったという人もいるだろうし、今は結婚しないという選択肢をとる人だって少なくないわけで。
多様化した社会ですから、本作で描かれたような夫婦関係もあるだろうし、一概に古臭い話しだとは思いませんでした。
ある種の見栄ともとれる、誰もが羨む結婚を象徴するパーティーを開いたりしてますが、
これは現代で言う、承認欲求みたいなもので今の時代はパーティーじゃなくって、SNSで“切り取る”わけですね。
そう思うと、ホントにこの映画で描かれたことって、19世紀のフォーマットを借りつつも現代に共通することなんですね。
そういう意味では本作は現代の感覚にとても近いところで描かれたラブコメという感じでもあって、
英国のコスチューム・プレイというフォーマットを借りながらも、古臭さをあまり強くは感じさせないというのがミソですね。
ただ、気になりましたけど...ケイト・ブランシェットとジェレミー・ノーザムの夫婦が政治家としても、
夫婦としてもピンチを迎えて、なんとかして難局を乗り越えようとしている姿に感化されたかのように独身貴族を演じる
ルパート・エベレットが勢いに身を任せてプロポーズするというのは、なんか違うんじゃないかと思えてならない(笑)。
こんなドサクサの中で告白されて、女性は嬉しいのだろうか?とシンプルに疑問に思ったんですけどね。
まぁ、そんなルパート・エベレットの軽いキャラクターも含めてラブコメ、ということなのかもしれないんだけど、
まるで表と裏を交互にヒラヒラと見せながら一貫性のない恋愛観を持っていることから、どうせ長持ちしないだろ!と
ツッコミの一つでも入れたくなるくらいのプレーボーイっぷりで、ジュリアン・ムーアとキスしていた記憶が温かいうちで
多くの観客から懐疑的な目で見られながら、ハッピーエンドを装ってアッサリと終わるというのも、まるでギャグみたい。
そう思って観ると、どこか斜に構えた部分のある映画でもあるし、高尚なラブコメなのかもしれませんね。
たまに登場してくる執事が意味ありげに描かれていますが、これは結果的にあまり意味は無かったですね。
ハッキリ言って、有能な執事とは言えないのですが、もっと重要な位置づけなのかと思いきや、そうでも無かった(笑)。
オスカー・ワイルドの戯曲ではもっと重要な役どころだったのかもしれませんが、この執事は中途半端でしたね。
映画ではヒッチコック流に言うと、“マクガフィン”なのかというくらい、意味ありげに描いておいて実はそうでもない。
この辺は映画の作り手がどう考えていたのかは気になりますね。僕は別な役割があったのだろうとは思いますが・・・。
あまり大きな動きを伴う映画ではありませんから、この手の上流階級を描いた映画に興味がある人でないと
この映画が表現したかった世界観、人間模様というのはフルに楽しめないかもしれませんね。テンポ良く進んでいき、
個々の感情の揺れ動きも繊細に変化していくのですが、映画としては良くも悪くも地味な作りですから難しいですねぇ。
そんな条件の中では、本作はまずまず上手く描けた方だとは思うのです。もっと面白くはできたとは思うけど・・・。
ちなみにジュリアン・ムーアが脅しの材料として使ったアルゼンチン運河の開発に関わる政策については、
19世紀のアルゼンチンは大英帝国が非公式に、実質的な統治を行っていた状態であったことに紐づきます。
つまり当時は、イギリスの実効支配下にあったというわけで、当時の英国ではアルゼンチン開発は注目の的でした。
ですから彼女のように、巨額の富を築くために先行投資していた金持ちも多かったようで、アルゼンチンに国として
投資することに賭けていた人も多くいたようだ。彼女はその急先鋒のように描かれていて、直接圧力に転じたわけです。
実際にこういう政治的な駆け引きや恫喝に近いような人間の欲望が為す行動というのはありますからね。
現代でもそういったスキャンダルが報じられることがあるように、今も昔も万国共通で同じようなことをやってるわけ。
そう思って観ると、この映画は単なるラブコメという枠に留まらずに政治的な汚職まで及ぶという幅広さだ。
しかし、こうして手広く描いたことが本作にとって足枷となってしまった部分もあって、恋愛に愛憎劇にフォーカスして
タイトルになっている“理想の亭主”というテーマに、もっと肉薄すべきだったという意見も理解できるところですしね。
まぁ、悪い出来の映画ではないしユニークで面白い作りではあるのだけれども、
ラブコメが持つべき爽快感というのが本作にほとんど吹き込まれていないというのが勿体ないなぁとは感じますね。
それが本作が殻を破り切れなかったところだろう。良くも悪くもイギリス製の歴史劇という典型的な作品という感じかな。
(上映時間93分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
監督 オリバー・パーカー
製作 バーナビー・トンプソン
ウリ・フラクトマン
ブルース・デイヴィ
脚本 オリバー・パーカー
撮影 デビッド・ジョンソン
美術 マイケル・ハウエルズ
編集 ガイ・ベンズリー
音楽 チャーリー・モール
出演 ケイト・ブランシェット
ミニー・ドライバー
ルパート・エベレット
ジュリアン・ムーア
ジェレミー・ノーザム
リンゼー・ダンカン
ピーター・ヴォーン
ジョン・ウッド