ゾンビランド(2009年アメリカ)

Zombieland

大絶賛するほど、面白いと豪語できる映画ではありませんが、
本国アメリカで評判良くヒットしたことが、なんとなくですが、よく分かる映画です。

そうです、アメリカの方々、何故かゾンビが好きなんです。
日本人には、あまり馴染みのないゾンビという代物です。日本の遊園地には“お化け屋敷”が
昔っからありますし、本作を観れば分かりますが、“お化け屋敷”はアメリカの遊園地にもあるようですね。
だからこそ、本作のクライマックスは「パシフィック・ランド」という名の遊園地だったのでしょうか・・・?

映画は、人間がゾンビとなり狂暴化し、強烈な空腹感に見舞われて、共食いしてしまうウイルスが蔓延し、
人々がお互いに襲い合ってしまう荒廃したアメリカで、ウイルスの被害にあわずゾンビからの襲撃から
逃げ回る4人の男女の闘いを描く、少しだけスプラッタなホラー・コメディ映画というわけです。

主演の若者を演じるのは、『ソーシャル・ネットワーク』のジェシー・アイゼンバーグで、
詐欺師姉妹の姉を演じるはエマ・ストーン、妹は子役出身のアビゲイル・ブレスリン、
そんな彼らの逃避行に同行する、子供を失った中年のオッサンを演じるのはウディ・ハレルソンだ。

劇中、何故か4人がゾンビが荒らした後のハリウッドに行って、
映画俳優ビル・マーレーの屋敷に忍び込むというエピソードがあり、勢い余って本人が本人役で出演している。

この映画はクライマックスの「パシフィック・ランド」に舞台が移ってからが、
俄然面白くなる感じだ。言い換えると、それまでがチョットだけ、間延びしたような感じになってしまう。
これなら、「いっそのこと、映画の全てを遊園地の闘いに費やせばいいのにな・・・」と思えてしまうレヴェルだ。

ただ、これは映画としては大事な悩みで、
どこか「パシフィック・ランド」での闘いの描きたいという、作り手の意向が企画段階からあって、
どこかそれ以外のエピソードについては、力が入っていないというか、作り込まれていない印象を受けます。
確かにジェシー・アイゼンバーグ演じる主人公の青年が、自分の中で独自に作った、生き残るためのルールを
説明するエピソードは必要だったとは思うんだけど、明かに映画のエンジンがかかっていない。

そのせいか、「パシフィック・ランド」に入ってから、ゾンビの襲撃をかわしながら、
反撃していく様子を描くシーンに入ってからの方が、格段にテンションが上がっている感じだ。
これが平然と観ていても感じるのだから、映画の作り手の意気込み自体が違うと言われても、仕方がない。

ジェットコースターなどあらゆる遊具を使って、追ってくるゾンビを倒していくのが面白く、
特に詐欺師姉妹の足元に忍び寄って来るゾンビたちを、“縦の動き”だけで撃退していくのが面白い。
まるでシューティング・ゲームのような感覚で観れるので、これは明らかにゲーマーが作った映画ですね(苦笑)。

おそらく、『バイオハザード』シリーズなどが好きな人には、楽しめる映画だと思います。

但し、本作自体はホラー映画というよりも、明らかにコメディ映画寄りなので、そこは要注意。
映画の最初はかつてあった、『28日後...』のようなスリルがある映画なのかと思いきや、
本作にはそこまでのスリルが無く、どちらかと言えば、ユル〜いコメディ映画ですので、
映画に緊張感などありません。事前にその情報だけは入れて、本作を観た方がいいかと思いますね。

何故か本人役で出演したビル・マーレーも、半ばノリを重視した芝居ではあるのですが、
登場最初っから、妙なカツラを着けて登場してくるし、エンド・クレジット後のオマケのシーンでもしっかり登場。
彼が80年代に出演し続けたようなコメディ映画でのノリをそのまま持ち込んできているような感覚で、
こういうビル・マーレーはなんだか久しぶりな気がしますし、本人も結構、楽しんで演じているように見えます。
(ウディ・ハレルソンが「アンタは、コメディよりドラマの方が良い」と言い放つのも、強烈な皮肉なのかも・・・)

恐ろしいはずのゾンビの描写にしても、なんだかマヌケな部分もある。
例えば、高速道路で襲撃した人間の遺体で、骨の髄までもしゃぶろうとしているグルメなゾンビとか、
こういうコメディ映画でなければありえない演出ですが、残酷描写ではあるけど、思わず笑っちゃいましたね。

映画の方向性として、『28日後...』のようなサバイバル感満載の映画もいいですが、
本作のようにユル〜く観客を笑わせながら、迫るゾンビとの攻防を描くのも、なかなか面白いですね。

確かにホラー映画をコメディ的にアレンジしたものは、かつてありましたけど、
本作は単純にコメディ化したというよりも、作り手の発想の転換があるような感じで、
どこか「他とは“チョット”違うことをやってやろう」という気概が、映画の中に吹き込まれているような感じです。
個人的には、この“チョット”という匙加減がもの凄く大事で、この気概ありきの映画になると、
逆に奇をてらい過ぎていて、興が削がれるというか、他と違うことをやること自体が目的化して、
映画の本論から大幅に逸れてしまい、映画の面白さが失われてしまうことが、とても多い気がします。

本作はその塩梅が丁度良くって、作り手のバランス感覚の良さが光っています。

ただ、個人的には主演はジェシー・アイゼンバーグ、
彼はデビッド・フィンチャー監督作品『ソーシャル・ネットワーク』などで、よく頑張っている役者さんだとは思うけど、
どうも、映画スターとしては親しみやす過ぎるというか、華やかさが無いのがなんだか気になる・・・。
この映画なんて、完全にB級テイストではありますけど、それでも彼のインパクトの弱さが気になりましたね。

まるで現代版『ゴーストバスターズ』のような嗜好でもありますが、
テーマパークのアトラクションなどで、この『ゾンビランド』の企画は面白そうな気がします。
TVゲームということではなく、実際にゾンビが遊園地で襲い掛かって来るのを逃げているアトラクションというのは、
ありそうでない体感型アトラクションかと思いますので、是非ともどこかのテーマパークで実現させて欲しいです(笑)。

ちなみに監督のルーベン・フライシャーは、2013年に『L.A.ギャングストーリー』を撮った
若手監督なんですね。映画の系統は全く異なりますが、やはり本作の時点でその将来性を感じさせますね。

ところで、アメリカ銘菓というわけではないのでしょうが、
本作でも“トゥインキー”という古くからあるお菓子を探し求めて旅をするというストーリー展開ですが、
この“トゥインキー”はかつて存在していたホステス社が1930年から販売され続けていたお菓子で、
アメリカでは根強い人気があるようですね。ホステス社は2012年に倒産してしまいましたが、
今も他社に継承されて販売されており、揚げトゥインキーなど様々なバリエーションがあるようです。

他の映画でも語られていたこともあり、いつか食べてみたいですね。

(上映時間87分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[R−15+]

監督 ルーベン・フライシャー
製作 ギャヴィン・ポローン
脚本 レット・リース
   ポール・ワーニック
撮影 マイケル・ボンヴィレイン
編集 アラン・ボームガーデン
音楽 デビッド・サーディ
出演 ジェシー・アイゼンバーグ
   ウディ・ハレルソン
   エマ・ストーン
   アビゲイル・ブレスリン
   ビル・マーレー
   アンバー・ハード