座頭市(2003年日本)

かつて勝 新太郎の看板シリーズだった『座頭市』シリーズを、
北野 武による斬新なアレンジと新たな解釈で映像化した、新感覚な時代劇。

おそらく本作は北野 武が映画監督として活動を始めてから、
最も大きな話題性と高い収益性を伴った作品となるでしょうが、正直言って、僕はそこまで支持していません。
勿論、悪い出来の映画ではないし、純然たるエンターテイメントとして見事に成立していることは称えたい。
しかしながら、どうしても僕にはこの映画が的バズレな方向性を目指してしまっているものとしか思えない。

ミュージカルの要素を取り入れ、必死に差別化を図ろうとしているのは分かるし、
殺陣シーンを劇画的に表現することにより、凡百の時代劇とは一線を画す線引きをしているのも分かる。

けれども、それらがイマイチ活きてこないのは、全てに於いてまとまりが無いためだと思う。
つまりは繰り出されたアイデアのほとんどが単発的で、映画全体を通しての意味合いがとでも弱いのです。

例えば、唐突に登場する農作業で用いる農工具が奏でるリズムは、映画にとっては飾りにしかすぎず、
血が吹き出したり、胴体が割れたりする殺陣シーンの数々も、頻発してしまうとインパクトが弱くなる。
ハッキリ言うと、僕は本作がある一定のビジョンを持って撮られた、戦略的な映画だとは思えないのです。

これまでの北野 武の映画の多くは、総じて戦略的な映画になっており、
彼なりの映画に於ける哲学があったからこそ、彼の主義主張が通ってきたという側面がある。
ところが初めて娯楽映画を撮ろうとなると、まるで迷ってしまったかのようにチグハグなところが出てしまう。

このチグハグさを象徴するかのように、僕は中ダルみした部分があると思う。
少なくとも、もっとエピソードを集約し、全体的なスピードアップを図れば、もう30分は短くなる内容だ。
映画がクライマックスに近づくにつれ、次第にチャンバラ・シーンを連続させて映画を動かしますが、
それまではかなり弛緩したような内容に陥ってしまい、少しダラダラ進めているような印象を受けてしまいます。

公開当時、話題となったタップダンス・シーンにしても、あまり大きな意味はありません。
確かに00年代前半はミュージカル映画が少しだけ流行りましたので、その潮流に乗ったのかもしれませんが、
映画のエンド・クレジット直前で大々的なミュージカル・シーンが初めて登場する程度というのは、少し寂しい。。。

まぁ・・・とは言え、これはこれで立派な映画ですよ。
今の日本映画界でこれだけ立派なエンターテイメントを成立させられる映像作家って、彼ぐらいかもしれません。

下手をすると、「分かる人にだけしか楽しめない映画」になってしまいそうな企画を、
新たなチャレンジを取り入れることにより、純然たるエンターテイメントとして昇華させたのはホントに立派だ。
ナンダカンダ言って、映画のラスト20分前で展開される対決シーンもエキサイティングに撮れてると思う。

ビート たけしの役作りも、金髪で髷を結わないなどいい加減そのものだが、
これもまた、従来の時代劇には無かったスタイルを採用したということで、許容されてもいいかもしれません。

但し、相変わらず“たけし軍団”が細部でギャグ的な扱いを受けて登場するあたりは、
あまり感心しませんね。本作においても、北野 武は映画を撮る中で遊んでいることは確かなのですが、
家の周囲を朝っぱらから叫びながら走り回るドラ息子の描写など、映画を壊す描写が目立ちますね。
せっかく大楠 道代が素晴らしい存在感だというのに、こういう遊びはホントに勿体ないですね。
(大楠 道代はギャンブルに興じる息子に手を焼くお母さんとして出演しておりました)

まぁ従来の時代劇の既成概念をブチ壊した内容というのは否定しないけど、
本来的に映画が持つべき活劇性を尊重しなかったのは、僕は感心できないかなぁ。
血しぶきが飛んだり、劇画的な効果音を用いたりしてステレオタイプに表現したり、
居合いのシーンの大多数をスローモーションで表現したり、とにかく映画の魅力を殺してしまう。

映画の序盤から中盤にかけての居合いシーンのほとんどは、
スローモーション処理が施されており、これでは動的な躍動感を表現できないんですよね。

別に勝 新太郎が撮った『座頭市』のように、
リアル志向を追求して、死亡事故まで起こすほど考証するべきとは思わないけど、
本作が達成したのは、従来の時代劇とはまるで別物のジャンルの映画という気がします。

そういう意味で、ビート たけしが本作を「本物の時代劇だ」とコメントしたのはチョット驚きですね。

本作が世界的に高く評価され、日本だけでも北野 武監督作としては爆発的なヒットとなったことには、
既成概念を打破した時代劇ということに、大きな理由があったのかもしれませんね。
(日本ではレイティング規制の対象にもなったので、決して売れ線の映画ではない...)

主人公の“市”の遊び人としての側面を描かなかったのは意外ですね。
ギャンブルの達人であることを表現することも、あくまで必要最小限に留めた印象が強いですね。
この辺は北野 武がエンターテイメントとして成立させるには、不適当とでも考えたのでしょうかもしれません。

まぁ・・・“市”が大楠 道代をマッサージするシーンは、ベッドシーンを連想させる撮り方だったけど・・・(笑)。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[R−15]

監督 北野 武
企画 齋藤 智恵子
原作 子母沢 寛
脚本 北野 武
撮影 柳沢 克己
美術 磯田 典宏
編集 北野 武
    太田 義則
音楽 鈴木 慶一
出演 ビート たけし
    浅野 忠信
    夏川 結衣
    大楠 道代
    橘 大五郎
    大家 由祐子
    ガダルカナル タカ
    岸部 一徳
    石倉 三郎
    樋浦 勉
    柄本 明
    つまみ 枝豆

2003年度ヴェネチア国際映画祭監督賞(北野 武) 受賞