007は二度死ぬ(1967年イギリス)

You Only Live Twice

すっかり人気シリーズとして定着した第5弾。本作は日本が舞台となっている。

大々的に日本国内でロケ撮影しており、若き日の丹波 哲郎がボンドに協力する、
タイガータナカという役柄で出演していたり、結構なトンデモ映画なのですが見どころはそれなりに多いとは思う。

最初に...この時代に日本を舞台にした“007シリーズ”の一作を完成させてくれたことは、奇跡だと思う。
本作で初めて“007シリーズ”の監督をしたルイス・ギルバートは、以降、何本か監督を任されることになるし、
鹿児島のような地方でもロケ撮影を行うなど、随分と資金力を生かして気合の入った映画にしてくれている。
まだショーン・コネリー演じるボンドということもあってか、相変わらず亭主関白なキャラクターではありますが、
やっぱり60年代半ばの日本を活写する欧米資本の映画って、ほとんど無かっただけに、パイオニア感があります。

ただ、ハッキリ言うけど、これは支離滅裂なトンデモ映画です。
ほぼ日本の現実を描いたとも言い難いですし、本作あたりからシリーズが悪い意味で迷走し始めたことは明らかです。

もうね、丹波 哲郎演じるタイガー田中もシリーズ的にはボンドに協力する良いキャラクターなんだけど、
日本文化をボンドに教えるという感じで、ボンドと風呂に入るシーンがあって、まるでト●コ風呂と言わんばかりに
普通の風呂とは到底思えぬところで、ボンドを“接待”するわけですよ(苦笑)。さすがにそんなにキワどいシーンが
あるわけではないのですが、「ボンド君。日本はね...女よりも男が先という文化があるんだよ」と勝ち誇ったように
言って、女性たちを従えて自分が先に風呂に浸かるのですが、もうこの辺は男尊女卑と言われても仕方ない(笑)。

まぁ、こういう描写があっても何とも言われない時代でもあったのだろうけど、
イアン・フレミングの原作にこんなニュアンスの台詞があったのかも分からないし、どういう意図があったのだろうか?

これだけではなく、タイガー田中の組織だけが利用できる専用地下鉄があったり、
さすがは“007シリーズ”ならでは、という描写もある一方、ボンドがカムフラージュのためにと地方で
タイガー田中が手引きした女性とボンドが見合い結婚させられるなんて、なんともトンチンカンな展開があったりする。
これはこれで日本文化を描きたかったがゆえなのかもしれませんが、日本人的には賛否が分かれそうなシーンばかり。

タイガー田中も悪の組織スペクターの手下である大里が悪だくみをしている基地に攻め入るのに、
何故か忍者部隊を結成して、ボンドの後方支援に回すなど時代錯誤な描写もあったりして、なんだかメチャクチャだ。
“007シリーズ”の一作とは言え、こういうメチャクチャなシーンが目立つので、寛容的に見れないと楽しめないだろう。

この辺は監督のルイス・ギルバートが一体何を狙って、何を考えてこういうシーンを撮っていたのかが
よく分かりませんが、半ば観光気分で撮っていたのではないかとも思え、僕の中では微妙な作品になるかなぁ。

日本に関する描写だけではなく、何故か劇中、ボンドが美容的に変身を強いられるシーンがあって、
日本人女性に囲まれて、体毛や頭髪を“加工”するようなニュアンスで語られるシーンがあります。
なんだか嬉しそうに女性たちはボンドに近づいてくるので、思わず敵なのかと錯覚しそうになってしまいますが、
ホントにボンドを“加工”してくれば、「カツラよ」なんて言って、ボンドにカツラをつけさせるのですが、これはもうギャグ。
(実際、撮影当時のショーン・コネリーは薄毛だったために、既にカツラを着用してボンドを演じていたし・・・)

それがゆえに結婚した後のショーン・コネリーの妙な髪型を、多くの方々に観て頂きたい。
これは映画史に残るボンドかもしれない。ここまで砕けた映画を撮った、ルイス・ギルバートはスゴい勇気あります。

それから、もう一つ勿体ないと感じたのは悪役の描き方が今一つなことですね。
本作では会社社長の大里を操るように指示を出すブロフェルドとして名優ドナルド・プレザンスが出演しているのに、
なんとも動きが少なく、個性の弱いキャラクターに終始してしまっていて、もっとしっかりと描いて欲しかった。
ドナルド・プレザンスだったら、もっと上手く出来ただろうし、これはルイス・ギルバートが描こうとしていない。

まぁ、このブロフェルドの扱いの悪さはある意味では次作へのプロローグでもあるのですが、
悪役キャラクターはもっとしぶとく強い存在であって欲しいし、そうでなければ魅力的な映画にならないと思う。

これは日本を舞台に映画を撮るということが、半ば目的化したような作品だったと思います。
それではいけないのですが...とは言え、これまで“007シリーズ”ではアメリカ・ヨーロッパと舞台を移してきたので、
アジアでロケするというのがプロダクションにとっては大きなテーマだったのでしょうし、アジア初のメイン舞台として
イアン・フレミングの原作で描かれ、実際に当時の日本で大々的にロケ撮影されたことは光栄なことと思います。

そういう意味では、ボンドガールにしても若林 映子や浜 美枝ら日本人女優が起用されており、
欧米の女優にその座を奪われなかったことは、当時の日本映画界の情勢を考えると、意外なことだったと思う。
正直、メチャクチャな内容の映画であり、時にギャグにしか見えないようなシーンがあるせいか、印象良くないけど、
それでも本作の誕生自体は、当時の日本側のスタッフたちの頑張りがあったからこそ、変わったのかもしれません。

残念ながら本作でショーン・コネリーはボンド役から降板することが公言されており、
ある意味ではショーン・コネリーもやりたい放題のところはあったと思うし、かなり難しい撮影現場だったのだろう。

まぁ、僕の中ではハッキリ言って、この作品からダメになっていった印象は強いので、印象は良くないです。
正直言って、ショーン・コネリーも良いところでボンド役から降りたのかもしれません。彼の代名詞的作品なだけに。
少しずつショーン・コネリーが演じたいキャラクターと、ジェームズ・ボンドという役柄自体にズレが生じたのかも。

本作はタイトルでも示唆されている通り、映画の冒頭からボンドがいきなり刺客にやられて死んでしまう。
しかし、これにはカラクリがあるというのがお約束なのですが、スペクターにボンドが死んだと信じ込ませる作戦で
ご丁寧にボンドの葬儀を海上でやって、ご遺体は潜水艦内に収納、秘密裏にボンドが日本へ上陸するという、
普通に密入国をするニュアンスで描かれることに驚きで、何故にこんな描き方をしたのかが、よく分からなかった。

相変わらず“リトル・ネリー”と名付けられたミニ・ヘリコプターだったりと、Qが作ったアイテムが大活躍。
しかし、本作はもっと大事なところで使って欲しかったなぁ。なんだか中途半端な使い方だし、どう考えても、
あれでは撃ち落される運命にあるしかないとしか思えず、もう少しコマンド力高いアイテムとして描いて欲しかった。

ボンドがケンブリッジ大学で習ったという日本語のレヴェルも怪しいもんだし、
本作の上手くいっていないところは、日本文化の描き方も同様ですが、どこか映画全体的に胡散クサいところにある。

密入国したボンドはすぐに変装すらせずに、国技館へ相撲を見に行って、しかも升席に座ってボンドガールと
接触するという、どこか都合が良過ぎるというか、どれくらい意味があるのかが謎だらけで、なんとも胡散クサい(苦笑)。
終いにはクライマックスの大噴火シーンですが、これも全く大袈裟過ぎる合成映像を合わせるのが、やっぱりダメ。
“007シリーズ”の魅力は、こんなレヴェルのものではないと作り手がもっと意識しておかなければならないですね。

監督のルイス・ギルバートは日本が大好きなディレクターであったらしく、本作の後にも日本を舞台にした
映画を撮っている。しかも、本作の後、約10年後に『007/私を愛したスパイ』、『007/ムーンレイカー』と
“007シリーズ”の監督としてのキャリアも積んだため、本作のチャレンジはとても大きなものだったのだろうと感じる。

イアン・フレミングの原作の順番としては、実は69年に製作された『女王陛下の007』が本作の前で、実は逆。
次作のラストにボンドにとっては、実にショッキングな出来事が起こり、その続編にあたる本作ではその復讐を
匂わす始まり方をしているらしいのですが、映画では製作の順番が大人の事情で逆転してしまったせいか、
本作の冒頭は原作とは大きく異なるニュアンスで描かれている。この辺は原作のファンも予め理解しておく必要がある。

前述したように、日本を舞台にしてくれたことは嬉しいことですが、いかんせん中身がさすがにメチャクチャ。
いきなりお見合い結婚するという展開も強引だし、偽装結婚でボンドがやたらと相手を口説こうとするのも妙(苦笑)。

この支離滅裂な部分を楽しむというのも有りだとは思うけれども、どうせ撮るなら、もっとキチンと描いて欲しかった。
イアン・フレミングは日本文化をかなり研究していたらしいので、それでこの中身では少々落胆させられてしまう。
シリーズとしても本作あたりから迷走し始めていたので、やっぱり一つのターニング・ポイントとなった作品ですね。

(上映時間116分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ルイス・ギルバート
製作 ハリー・サルツマン
   アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 ロアルド・ダール
撮影 フレディ・ヤング
音楽 ジョン・バリー
出演 ショーン・コネリー
   若林 映子
   浜 美枝
   丹波 哲郎
   ドナルド・プレザンス
   バーナード・リー
   ロイス・マクスウェル
   デスモンド・リュウェリン