007は二度死ぬ(1967年イギリス)

You Only Live Twice

今度はボンドが日本にやって来て、大暴れするシリーズ第5弾。

監督はルイス・ギルバートに交代しましたが、今回はさすがに企画自体がムチャだったせいか、
そしてSF映画としての嗜好を更に深めた結果、ゴッタ煮的なトンデモ映画になった印象が残ります。

どうも僕の中では、ここまでいってしまうと、このシリーズとしてはのめり込めない。
当時の日本ロケを記憶している人の証言では、主演のショーン・コネリーの印象はあまり良くないらしいのですが、
確かにこの頃からショーン・コネリーって、古い考え方の人っぽいところが感じられるせいか、
おそらく本作での日本ロケもあまり気ノリしなかったのだろうなぁと思わせるぐらい、テンションが低い。

挙句の果てには、お約束のボンドがMから任務をもらって、
マネーペニーをクドこうとするシーンは、いつもはロンドンの諜報局オフィスだったのに、
今回はボンドがいちいちロンドンへ行くのは不自然だとスタッフが感じてか、英国海軍の潜水艦に
Mのオフィスがあって、そこにマネーペニーも帯同しているという、無理矢理な展開に失笑してしまいました。

そりゃもう・・・今から45年近く前にイギリス人が描いた日本ですから、
高度経済成長期真っ只中で、東京オリンピック後の活況に沸いていた日本だとは言え、
さすがに欧米人が抱く、誇大描写満載の日本で、ハッキリ言って、笑えてくるレヴェルですよ(笑)。

丹波 哲郎演じるタイガー田中に接待されて、風呂に入るボンドですが、
タイガー田中曰く、「日本では男が先、女が後という文化がある」という、激しく男尊女卑的思考全開で、
まるで性的接待を示唆するかの如く、マッサージまで受けてご満悦なボンドは相変わらずの女ったらし。
お世辞にも、世界を股にかける有能なスパイとは言い難いほど、だらしないというのがまた良い(笑)。

そして、これはこの映画の作り手が勝手に描いたことですが、
秘密警察の夜の接待をする女性は、全員がビキニで登場するという大サービスっぷりで、
冒頭の香港でのボンドの相手女性といい、欧米人の勝手なアジア観がかなり入っている映画です(苦笑)。

監督のルイス・ギルバートは今回が初めての“007シリーズ”の監督でしたが、
前作までのテレンス・ヤングやガイ・ハミルトンと比べると、やはり何となく違うように感じますね。

どことなく、冒頭から映画が雑になってしまったような印象があったのですが、
それは企画自体が難しかったでしょうから、ある程度は仕方ないかなぁ。
できることであれば、シナリオをキチッと手直ししてから撮影して欲しかったのですが、
このストーリーであれば、荒唐無稽な内容になってしまったり、映画が支離滅裂になってしまうのも仕方ないかも。

但し、何でも過剰に描き過ぎな傾向があって、
前述した、日本に関する事実錯誤したような描写にしても、もう少し抑えて欲しかったかなぁ。
ボンドがタイガー田中に最初に会うシーンなんて、地下鉄のコンコースで床が突然、引っくり返って、
長い滑り台になっていて、その終点に椅子があって、正面にタイガー田中がいるなんて、ギャグだもん(笑)。

それだけでなく、クライマックスのパニックぶりを強調するシーンにしても、
いくら活火山という設定だったにしろ、火口部に秘密基地があるという設定であるにも関わらず、
ブロフェルドが基地を破壊するために火山を噴火させるという、メチャクチャなクライマックスで、
ボンドらタイガー田中率いる秘密警察の部隊がたくさん入山していたのに、マグマがドロドロ流れ出すなんて、
映像が映るのはいくらなんでもやり過ぎだろう(笑)。この辺は、常識でもう少し考えて欲しかった。

それと、肝心かなめのクライマックスでの攻防になると、
急激に映画がトーンダウンしてしまったようで、これは凄く勿体ない結果だと思う。
ハッキリ言って、ブロフェルドを追い詰めるシーンよりも、ボンドが“リトル・ネリー”を操縦して、
銃器を搭載したヘリコプターに追い回されるチェイス・シーンの方がずっと面白かったように思います。

それと、ブロフェルドのアジトにボンドが侵入して、待ち構えたようにガタイの良い、
“スペクター”の手下とボンドが格闘するシーンがあるのですが、これもまた情けない茶番ぶり。
そりゃ芝居ですから仕方ないけど、まるで当初の打ち合わせ通りに演じている感覚丸出しで、
動きの鈍い格闘シーンを演じており、この手下がピラニアの池に転落するというオチも新鮮味ゼロ。

やはりクライマックスの攻防はとても重要なパートですからね。
見せ場となるアクション・シーンはもっとキチッと撮って欲しかったものです。

これはやはりルイス・ギルバートの手腕の問題だったと思いますし、
アクション映画の演出家という観点に於いては、まだ発展途上だったという感じですね。
後に“007シリーズ”を何本か監督していますから、次第に腕を上げていったのでしょう。

どうやら東京だけではなく、鹿児島、神戸、名古屋などで撮影を敢行したらしく、
ルイス・ギルバートはじめ、キャストと撮影スタッフらは日本全国を駆け回ったらしく、
東京を活動の基盤として、なんと当時は全日空のヘリコプターをチャーターして、各地を回ったらしい。
今となっては、信じられないぐらい手のかかった映画ではあるのですが、その甲斐あってか(?)、
本作は当時としてもシリーズで最も評価されなかったものの、興行収入は立派な数字を叩き出しました。

ちなみに“スペクター”の関係者が社長をする、大里化学という会社の社長がいるのですが、
この大里化学という会社は大企業のようで、本社ビルとして映るのが、なんとホテルニューオータニ!(笑)

これがどこからどう見ても、ホテルのような作りのビルなのですが、
ボンドが大里化学の社長から、「どこに泊まっているん?」と質問されるのですが、
ボンドは「ヒルトンだよ」と答える。これは映画のセリフで登場させることによって、
日本に長期滞在を強いられたキャストやスタッフの宿泊費を、ヒルトンに大幅に値引きさせる交換条件だったらしい。

というわけで、豪勢なんだかケチなんだかよく分からない映画ですが(笑)、
おそらく最初で最後となる“007シリーズ”で描かれる日本を観たい人には、是非ともオススメしたい珍品。

(上映時間116分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ルイス・ギルバート
製作 ハリー・サルツマン
    アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 ロアルド・ダール
撮影 フレディ・ヤング
音楽 ジョン・バリー
出演 ショーン・コネリー
    若林 映子
    浜 美枝
    丹波 哲郎
    ドナルド・プレザンス
    バーナード・リー
    ロイス・マクスウェル
    デスモンド・リュウェリン