ユー・キャン・カウント・オン・ミー(2000年アメリカ)

You Can Count On Me

これは感心した。完璧な映画ではないが、自然体でとっても良い出来映えだ。

その内容の地味さからか、日本では最後まで劇場未公開作扱いされながらも、
全米では公開当時から評論化筋に、そこそこ評価され続けていたヒューマン・ドラマ。

日本ではVHSリリースは勿論のこと、後にDVD化もされておりますので、
決して数多く流通しているタイトルではないにしろ、探せば鑑賞できると思います。

生まれ育った田舎町で、銀行勤めをしながら、シングルマザーとして息子を育てる姉を主人公に、
風来坊にも似た生活を送る困った弟の帰郷を契機に、私生活での不協和音によるヒビを描いております。

しばらく行方をくらましていた弟、彼は詳細は語られませんが、
離れた都市にいる恋人と共に何かトラブルを起こし、金にも困っている様子です。
シングルマザーの姉は長年パートナーシップを築いてきた同世代の男性にプロポーズされながらも、
何故か気ノリせず、新たに赴任した勤める銀行の支店長と不倫関係に至ってしまいます。

姉は乱暴な言葉遣いや、自分勝手な行動を繰り返す弟に「大人になりなさい!」と諭します。
しかしながら、自らも不倫関係の泥沼にハマってしまい、悪いことと分かっていながらも、
そんな関係を断ち切れずに、ズルズルと深みにハマってしまい、見本となる存在とは呼べません。

極論、お互いに大人になり切れない、言わば“アダルト・チルドレン”なのですが、
この映画、そんなもどかしさを実に上手く表現できていると思います。これは好感の持てる作品です。

監督のケネス・ロナーガンは本作でも神父役として出演するなど、
おそらく低予算での製作が強いられた企画なのだろうが、限られた予算で実に上手く作っている。
一つ一つ、堅実にシーンを重ねていき、各登場人物のありのままの姿を炙り出していくかのようで良いですね。

確かに映画賞でも賞賛されたように、この映画はシナリオが良く書けているのでしょう。
ハッキリ言って、平凡な姉と弟の再会劇を“完璧ではない大人”というテーマを掲げることによって、
見事に2時間弱、見応えのある凝縮されたドラマに仕上がっている。これはそう簡単な仕事ではありません。

まぁそういう意味では、ひょっとすると観ていてイライラさせられる内容かもしれません。
何せ、“アダルト・チルドレン”みたいな姉と弟が、お互いに成長できずにいるわけですから。
しかし、この映画の一つ気の利いたところは、そこに姉の息子の存在を強調した点ですね。
大人になり切れない実母(姉)と叔父(弟)に半ば振り回されるという存在を置くことによって、
姉も弟もおのずと「このままではダメなんだ・・・」と気づかされる仕組みにはなっているんですよね。

僕は何より、この手の映画が日本では不遇の扱いを受けるのが残念でなりませんね。
ひじょうに丁寧に作られた、お手本となるべきドラマ作品であるにも関わらず、
こういう作品にスポットライトが当たることがないというのは、ひじょうに勿体ないことをしていると思いますね。

監督のケネス・ロナーガンは本作の製作総指揮を担当している、
マーチン・スコセッシが02年に撮った『ギャング・オブ・ニューヨーク』のシナリオを書いておりますが、
その後、あまり目立った活躍がないのは残念。これだけ出来るのですから、もっと映画を撮ればいいのに・・・。
おそらくマーチン・スコセッシも本作での仕事ぶりに感動し、『ギャング・オブ・ニューヨーク』を任せたのでしょう。

ちなみに姉のサミーを演じたローラ・リニーは各映画賞で絶賛される好演。
決してイージーな役柄ではないのですが、豊かな感情表現で巧みに演じられている。
(本作からハリウッド女優としての彼女の仕事が高く評価されるようになりましたね)

世の中、いろんな兄弟・姉妹関係があるとは思うのですが、
少なくとも映画の序盤、姉のサミーは弟テリーの帰郷を心待ちにしていたはずだし、
姉として弟を愛する気持ちに変わりはないはずなのです。しかし、サミーは苦悩します。
勿論、それはいつまでもテリーが自分勝手に生き、息子にまで悪影響を及ぼすのではないかという心配と、
衝突を繰り返す原因となった、サミー自身がテリーの模範的存在になりえないことに対する苦悩なのです。

この映画、さり気ない描写ではありますが、
テリーが幼少の頃、警察官が両親の事故死を知らせに来る冒頭のシーンで、示唆されます。
「お姉ちゃん、またタバコだよ...」とテリーらがサミーを茶化すのです。

別にタバコを全否定するわけではありませんが、彼女が少女時代からタバコを吸っていたことの証明です。

こういう細かい部分に対するケアが、ひじょうに良く出来ていて、
映画は実に建設的かつ堅実なものに見えます。こういう作り方、とっても大切にして欲しいものです。

ちなみにサミーの息子ルディを演じたロリー・カルキンは、
かの有名な『ホーム・アローン』シリーズで知られるマコーレー・カルキンの実弟。
本作がスクリーン・デビューで、後に『サイン』や『グロムバーグ家の人々』などに出演しております。

いろんな意味で恵まれた部分はある作品ではありますが、
前述のようにひじょうに良く出来ているし、こういう作品は風化させてはならないと思います。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ケネス・ロナーガン
製作 バーバラ・デ・フィーナ
    ジョン・N・ハート
    ラリー・メイストリッチ
    ジェフ・シャープ
脚本 ケネス・ロナーガン
撮影 スティーブン・カツミアスキー
音楽 レスリー・バーバー
出演 ローラ・リニー
    マーク・ラファロ
    マシュー・ブロデリック
    ロリー・カルキン
    ジョン・テニー
    ジョシュ・ルーカス

2000年度アカデミー主演女優賞(ローラ・リニー) ノミネート
2000年度アカデミーオリジナル脚本賞(ケネス・ロナーガン) ノミネート
2000年度全米映画批評家協会賞主演女優賞(ローラ・リニー) 受賞
2000年度全米映画批評家協会賞脚本賞(ケネス・ロナーガン) 受賞
2000年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞(ローラ・リニー) 受賞
2000年度ニューヨーク映画批評家協会賞脚本賞(ケネス・ロナーガン) 受賞
2000年度ロサンゼルス映画批評家協会賞脚本賞(ケネス・ロナーガン) 受賞
2000年度トロント映画批評家協会賞主演女優賞(ローラ・リニー) 受賞
2000年度トロント映画批評家協会賞脚本賞(ケネス・ロナーガン) 受賞
2000年度インディペンデント・スピリット賞脚本賞(ケネス・ロナーガン) 受賞