イエスマン “YES”は人生のパスワード(2008年アメリカ)

Yesman

思わず「どうした、テレンス・スタンプ!?」と叫びたくなる映画でした(笑)。

登場シーンは少ないけれども、主人公が誘われる奇妙な新興宗教のセミナーのような会で
教祖として信者たちに「YES!」と言わせる役として、テレンス・スタンプが意気揚々と出演している。
しかも、元祖顔芸俳優と言っていいジム・キャリーとの共演で、僕の中ではテレンス・スタンプの方が印象に残った。

ジム・キャリーの主演映画ですので、いつもの顔芸で笑わせようとするところはあるのですが、
さすがにいつまでも『マスク』や『グリンチ』のようには出来ないのか、それとも彼が年をとったのか...
いずれにしても、押しの強い顔芸は徐々に少なくなってはきたかなと思います。まぁ、それでも個性は強いけど・・・。

映画は、妻と離婚して、親友の結婚式は近くなって、仕事も惰性でこなしていた、
銀行員の主人公が偶然に再会した、かつての友人から救われたセミナーがあるから出てみないかと誘われ、
あまり気が進まないもののセミナーに出席したところ、全員が笑顔で「YES!」と言いまくる光景に圧倒されながらも、
教祖から「初めて来た者はいるか?」と問いかけられ友人に強引に手を上げさせられ、会場の注目の的になり、
以降は周囲の頼み事に対しては、「NO」と言わずに、なんでも「YES」と言い続けることで運が向き始めて、
仕事では大出世して、バンドのシンガーとして活躍する恋人をゲットする姿を描いたコメディ・ドラマです。

確かに、よく言われることではありますが...
日常で「NO」とか「いや」とか、ネガティヴなことばっかり言っているよりは「YES」とか「はい」とか、
表向きは前向きなことを言っていた方が、精神衛生的には良いとされているところはあるし、現に周囲を暗くさせない。

ただ、ストレスフルで責任回避する傾向が強い現代社会に於いては、
「YES」とお人好しに言い続けたことで、結果的に大変な状況に追い込まれる理不尽なことも多々あるので、
ある意味で賢く生きることを求められる現代社会に於いては、何が正しい選択であるのかは分からない(苦笑)。

まぁ、ホントに嫌なことは相手が誰であろうと、ハッキリと「NO」と言うことも必要な気がしますが、
来たものを否定的に構えずに、まずは中立的に考えてみるという姿勢は、相手を不快にさせることはないですからね。

監督は00年に『チアーズ!』をヒットさせたペイトン・リードで、ジム・キャリーと組むのは初めてだ。
さすがに勢いあって絶好調のジム・キャリーというわけではないので、彼をキャスティングできたから、
映画のヒットが約束されたわけではないし、実際、本作もかなり辛口な評価を受けて終わってしまいました。
僕もこの映画を観て、ジム・キャリーよりも出番が圧倒的に少なかったテレンス・スタンプの方が印象に残った時点で
ジム・キャリーが絶対的な存在ではなくなってしまったことを痛感しましたし、ディレクターも何とかして欲しかったなぁ。

映画の後半にあるような、調子に乗り始めた主人公がルイス・ガスマン演じる自殺志願者を
思いとどまらせるためにギターを弾いて歌うシーンなんかにしても、もっと笑いの中で収束させるのかと思いきや、
ホントに歌って説得するというだけで、なんだか拍子抜け。この辺はもっと何とかして、楽しませて欲しかった。
せっかくジム・キャリーをキャスティングできたのだから、やっぱりコメディとしての魅力を期待しているのでね。。。

今更、テープを顔中に貼りまくって人間離れした顔を作ったぐらいでは、笑えないでしょう。
そういうジム・キャリーなら、若い頃の芝居に勝つのは難しいのが現実なんで。だから、もう若くはないジム・キャリーが
どうすればコメディ映画の中で映えていくのか、起用したペイトン・リードも映画の中で表現すべきだったと思う。

そういうことを一切描こうとしないせいか、最後の最後まで何かが噛み合わない映画で終わってしまう。

やっぱりジム・キャリーは個性が強く、少々アクの強い喜劇俳優であることは否めない。
一時期、ドラマ系の映画によく出演していたが、やはり本業は“こっち”なのである。でも、若い頃の勢いは無い。
だからこそ、おそらくジム・キャリーは悩んでいると思う。本作でも、その挟間でもがいているように見える。
結局は本作でも、作り手から若い頃のようなコメディ演技を強いられ、どこか既視感のあるギャグになってしまう。

それはペイトン・リードも気づいていたはずで、それでもジム・キャリーをキャスティングしたのだから、
欲を言えば、中年になったジム・キャリーがどんな持ち味を発揮できるのか、それを引き出して欲しかった。
残念ながら、本作はそんなアプローチが無くって、ただただこれまでジム・キャリーが演じてきた路線の延長線上だ。

そんなジム・キャリーにお付き合いする、ヒロインのゾーイ・デシャネルも少し空振りかな。
結構、個性的な雰囲気ある女優さんなんだけれども、このミュンヒハウゼン症候群≠ニ名付けられたバンドは
少々狙い過ぎというか、シュール過ぎたかな。その塩梅が難しいから一概には言えないんだけど、
性格的にはチョット変わった女の子って感じでいいと思うのですが、このバンドのシーンは後に響かない。

後に俳優としてブレイクするブラッドリー・クーパーが、主人公の親友役で出演しているのは要注目。
本作最大の収穫は彼だったのかもしれない。とは言え、今一つ目立ち切れないキャラクターなのですが、
誤認逮捕された主人公をわざわざ助けに行って、弁護士をかってでるなど、そこそこ重要な人物ではある。

映画のテーマは哲学的なところがあると思う。「YES!」と叫ばせるだけのセミナーが
成立するかは分かりませんが、どんなことでも受け入れよという命題をやり通すことは、とても難しいですからね。
特に日本人は社交辞令を言う習慣があるので、そういった社交辞令に対しても全て前向きに返答すると、
逆に相手が戸惑ってしまうことも多々あるでしょうね。まぁ、日本人って“受け流す”ということも結構やってますからね。

そもそも日本では、タイトルになっている“イエスマン”って否定的なニュアンスで使われる言葉ですしね。

古くからのジム・キャリーのファンであれば期待に応える内容かとは思いますが、
個人的にはそろそろ転換期と感じる一作で、ジム・キャリーの新たな魅力は示せていないなぁと感じます。
ただ、ネガティヴなマインドに覆われていて、迷い道に入ってるなぁと感じている人にはフィットするかもしれません。

そういう意味では、合う人には合う作品とは思いますので、てんでダメというわけではないのでしょうが、
個人的にはそれでも、ジム・キャリー主演の映画としてどこか既視感が拭えないのが気になるのですよね。

それから、前述したようにテレンス・スタンプ演じる教祖のインパクトが結構強いだけに、
もっとこの自己啓発セミナーについて、掘り下げても良かったなぁ。あの教祖、“裏”がありそうなので。
どうやら原作のダニー・ウォレスの実体験から映画化になっているそうなので、モデルがいるのかもしれません。
脚色はしづらい部分なのかもしれませんが、ラストシーン含めて、かなり脚色されていますからね。

説教の中身は哲学的なので、裏表のある教祖として掘り下げた方がコメディとして盛り上がった気がします。

余談ですが、僕も予定を決め過ぎない旅行って、結構好きなんだなぁ。
自分の新婚旅行ですら、当初の予定には無かった土地を訪れたりしたのですが、あんまりカチカチに固まった旅行より、
ある程度の余裕を持たせて、当初の予定には無かったサプライズがあったりすると、充実度が増す気がします。
実際、1週間の新婚旅行で前半は台湾、後半は東京経由で金沢という予定を立てて、名古屋へ高山経由で下るという
予定でしたが、台湾で故宮博物院に行ったときに現地のガイドさんが、高岡の大仏は良いという話しを聞いて、
急遽、高岡に寄ることにしたり、当日の気分で富山にも寄ろうとなって、鱒の寿司を食べたり、とても思い出深いです。

ただただ、予定通りの旅行を消化することが目的になると、なんか盛り上がり切らないですからね。
そういう意味で、ネガティヴ思考に覆われていた主人公なら、絶対にこういう旅行はしなかっただろうなぁとは思うが、
僕はこういう行き当たりばったりな旅行を楽しむ人の気持ちがよく分かる。“当たれば”歓び倍増以上ですからねぇ。

映画の中では、その旅行が仇(あだ)となってしまうわけですが・・・。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ペイトン・リード
製作 リチャード・D・ザナック
   デビッド・ハイマン
原作 ダニー・ウォレス
脚本 ニコラス・ストーラー
   ジャレッド・ポール
   アンドリュー・モーゲル
撮影 ロバート・イェーマン
編集 クレイグ・アルパート
音楽 ライル・ワークマン
   マーク・オリバー・エヴァレット
出演 ジム・キャリー
   ゾーイ・デシャネル
   ブラッドリー・クーパー
   ジョン・マイケル・ヒギンズ
   テレンス・スタンプ
   リス・ダービー
   ダニー・マスターソン
   フィオヌラ・フラナガン
   サッシャ・アレクサンダー