イヤー・オブ・ザ・ドラゴン(1985年アメリカ)

Year Of The Dragon

これは、確かに劇場公開当時、チャイナタウンから大ブーイングを浴びた理由がよく分かる映画だ(笑)。

ヘロインの密輸を牛耳ろうとするチャイニーズ・マフィアと徹底抗戦することを決意した、
ニューヨーク市警の刑事が自身の信念を貫きながら、血生臭い闘いに挑む姿を描いたバイオレンス映画。

81年に『天国の門』を撮って、商業的大失敗を招いてしまい、
事実上、ハリウッドを追放になってしまったマイケル・チミノに当時のハリウッドを代表する、
名プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスが手を差し伸べる形で実現した企画であり、
一時的にマイケル・チミノが第一線にカムバックするキッカケを作ったヒット作になりましたが、
残念ながらマイケル・チミノに対する周囲の視線は冷たく、この後もやはり低迷してしまいました。

僕はマイケル・チミノは78年の『ディア・ハンター』なんかを観る限り、
無駄な描写の多いディレクターだなぁとは思いますが、74年の『サンダーボルト』は素晴らしい名画だと思うし、
大失敗だった『天国の門』にしても、僕は実に力量の高い映像作家の仕事だと、今でも思っています。

何を言いたいかと言うと...
マイケル・チミノって、確かに大雑把なところはあるけど、実力は確実にある映像作家だということ。

で、本作。
ディノ・デ・ラウレンティスから経済的な援助を受け、オリバー・ストーンがシナリオを共同執筆したこともあってか、
映画はすこぶる面白い。マイケル・チミノの演出にはいい加減なところもあるけど、それでも映画は面白い。
というわけで、僕の率直な感想としては...「確かにメチャクチャな映画だけど、称賛に値する作品」って感じです。

まぁ・・・それだけ周囲がマイケル・チミノを助けようとしていたということには、
マイケル・チミノの映像作家としての手腕の若さを、数多くの人々が認めていたことの裏付けだと思うんですよね。

だって、面白いんだもん、この映画(笑)。
主演のミッキー・ロークはどこか胡散臭い刑事だが、気に食わないチャイニーズ・マフィアの
若頭に目を付けた以上、例え自分の捜査方法が間違っていようが、同僚にどれぐらい犠牲者が出ようが、
どんなに上司に怒られ左遷されようが、違法捜査であろうが、執拗に若頭ジョーイを追い続けます。
この徹底した描き方は、やはり最近の映画ではほとんど観られない強さであり、とっても魅力的な信念だ。

撮影当時、29歳という若さであったにも関わらず、
ミッキー・ロークは白髪交じりの頭髪にさせられ、ベトナム帰りのベテラン警部を演じています。
でも、やはり80年代は彼の時代でもあったんですね。老け役ですが、よく頑張っていると思います。

コートに身を包み、危険な夜のチャイナタウンに堂々と乗り込んで行って、
強引な捜査を展開しようとする姿は、まるで一匹狼のように孤高な存在であり、
内容が内容なだけに鑑賞に体力がいる映画ではあるのですが、そのタフさの源は彼の芝居にあるだろう。
そういう意味で本作は、主演にミッキー・ロークをキャストできたことが、とても大きかったのだろうと思う。

特に主人公の行動で印象に残るのは、妻が目の前で悲劇に見舞われるシーンであり、
これは『マラソン マン』を思い出させられる“痛いシーン”として、僕の中では記憶に刻まれています。
そして家に侵入していた男2人を拳銃一丁で屋外へ追い回し、車で逃走しようとした1人をフロントガラス越しに
銃撃して射殺し、車は建屋の壁に激突して突然の大炎上。そこで彼はすぐに車に乗り込んで行って、
運転席にいた火だるまになった逃走犯を引っ張り出しますが、僕はこのシーンがとても印象に残っています。

普通に状況を考えれば、運転席にいた逃走犯は死んでいる可能性が高く、
すぐにでも更なる大爆発が起こる二次被害を受ける可能性が極めて高い状況であったにも関わらず、
それでも主人公は自分の命を危険に晒してでも、逃走犯を車から引っ張り出そうとするわけで、
これはおそらく襲撃を指示した黒幕を“吐かせる”ためには、生け捕りにする必要があると、その一心でしょう。

言葉では表現し尽せない感情が沸き立つシーンでしたが、
僕はこの僅かなシーンで主人公の咄嗟に生まれた感情を表現できた、素晴らしいシーンだったと思います。

映画の前半は子供を望む妻との夫婦ゲンカや、
主人公が突如として浮気心を走らせ、中国系の若い女性テレビ・リポーターをクドこうとしたりするシーンを観て、
僕はあまり映画の本筋に関係のある描写だとは思えなかったのですが、強いて言えば、このシーンで利いてくる。
(まぁ・・・一見すると無駄としか思えないシーンに時間を費やす悪癖は、マイケル・チミノらしいが・・・)

そして、怒りに震えた主人公がジョーイを拷問してでも苦しめようとばかりに、
彼が遊ぶナイト・クラブに乗り込んで行って、ジョーイをトイレに連れ込んで暴行するも、
仲間と思われる女性2人組の襲撃に遭うというシークエンスでも、その結末として市街地の路上に
倒れ込む女性に、主人公は何故か照れくさそうに話しかけるのですが、このショットがまたカッコ良いですね。

やはり、こういうシーンの構図に対するこだわりに、
マイケル・チミノの映像作家としてのセンスの良さ、そして直感的な鋭さを感じるんだなぁ。
僕はこういう印象的なシーンの有無って、映画の価値を決める、意外に重要な要素だと思うんですよねぇ。

そしてクライマックスも良いんだなぁ。
まぁ・・・普通に考えれば、そんなに離れた距離でもないから、もっと早くに相撃ちになりそうなんだけど、
何故かお互いに自滅するかの如く、お互いに銃撃しながら走って近づいていくなんて、凄い発想だ。

それと、若き日のジョン・ローンの上昇気流に乗った悪役ぶりも観れるし、結構、お得な映画だと思う。

僕は敢えて、本作は傑作だという言葉で称賛したい。
メチャクチャな映画ですが、それぐらい僕は気に入った。リアルタイムで観ていたら、そうとうな衝撃だっただろう。
まぁ昨今、稀に見るぐらいタフな映画ですので、観る前に体力を温存しておいた方がいいのですが、
『男たちの挽歌』などが好きな人には是非ともオススメしたい、一見の価値ある一本だ。

(上映時間134分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 マイケル・チミノ
製作 ディノ・デ・ラウレンティス
原作 ロバート・デイリー
脚本 オリバー・ストーン
    マイケル・チミノ
撮影 アレックス・トムソン
音楽 デビッド・マンスフィールド
出演 ミッキー・ローク
    ジョン・ローン
    アリアーヌ
    ビクター・ウォン
    レナード・テルモ
    レイ・バリー

1985年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 ノミネート
1985年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(アリアーヌ) ノミネート
1985年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(マイケル・チミノ) ノミネート
1985年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(オリバー・ストーン、マイケル・チミノ) ノミネート
1985年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト新人賞(アリアーヌ) ノミネート