ワールド・トレード・センター(2006年アメリカ)

World Trade Center

もうあれから、10年が経とうとしているんですね...

世界貿易センタービルにハイジャックされた旅客機が突っ込んだ「9・11」、
僕は当時、大学に入りたての頃でテレビでリアルタイムで事件の映像を観ていたのですが、
世界を代表する大都市である、ニューヨークのド真ん中で発生した、あまりに凄惨な出来事に絶句しました。

監督は社会派監督オリバー・ストーンで、いつもなら政治的なニュアンスが出てくるのですが、
本作はあくまで冷静にノンフィクションを語っており、かなり抽象的な内容になっていることは事実です。

あまり過剰に挑発的な内容にすることなく、
過剰に装飾したストーリー展開にすることなく、オリバー・ストーンは静かに語ります。
まぁ正直言って、僕も最初に観た時は、あまりに大人しい仕上がりに面食らったような感じなのですが、
ただこれはオリバー・ストーンが世界貿易センタービル倒壊と真摯に向き合った結果だと思うんですよね。
おそらく彼はあくまで静かに、敢えて平坦に活躍した人々の姿を描きたかったのでしょうね。

だからこそ、彼は映画のエンド・クレジットで殉職した人々に哀悼の意を捧げています。
追悼と言うには、適切ではないのかもしれませんが、おそらく何か強く感じる部分があるのでしょうね。

映画としては、やや賛否両論な部分はあると思います。
実は僕も少し物足りなさを感じた一人であり、「あれ、これで終わり?」と思ったことは事実。
ひょっとすると、映画の前半はもっと引っ張っても良かったかもしれませんね。
さすがに本編はかなりアッサリしており、ドラマ性が映画の最後の最後まで一向に盛り上がりませんでした。

おそらく映画の序盤で、主要登場人物の背景をもっとキッチリ描いていれば、
映画のドラマ性にもっと厚みが出て、映画の印象は大きく変わっていただろうと思えます。

あくまでエンターテイメントして捉えるなら、
やはり僕はドラマ部分に関しては、もう少し起伏を付けた方が良かったと思いますね。
さすがに本作、アッサリし過ぎていて、観客に何を伝えたいのか、ひじょうに分かりにくい部分がある。

いや、僕はオリバー・ストーンなりに主張がある映画だとは思っているのですが、
その主張がハッキリと見えてこないという意味では、この映画にも落ち度があると思うんですよね。
もう少し上手くやっていれば、映画に厚みは出ただろうし、観客に訴求するものもあったでしょう。
さすがに『サルバドル/遥かなる日々』を撮った頃のオリバー・ストーンなら、こんなアッサリな映画にするという
選択肢は取らなかっただろうし、何かしら訴求する部分を映画の中で盛り込んでいたでしょうね。
(さすがに80年代のオリバー・ストーンと比較する方が間違っているのかもしれないけど・・・)

まぁその決断が、映画をどこか抽象的なものにしてしまった気がしてなりません。

但し、強いて言うならば、一つだけオリバー・ストーンなりの解釈があって、
映画の序盤で早くも世界貿易センタービル倒壊を意味する大迫力のシーンがあるのですが、
このシーン、実に曖昧に描いている。まるで内部で時限爆弾でも爆発したかのような演出で、
これはテロ攻撃自体は、かなり用意周到に行われていたのではないかと、ある種の疑問の投げかけで、
おそらくオリバー・ストーンは公表されていない事実があるのではないかと疑っているのではないだろうか?

未だにその鮮烈な記憶が僕の脳裏にも残っておりますが、
こういう事件は何より記憶に留めて、後世に語り継いでいくことが重要だと思う。
そういう意味で、本作はあくまで映画という枠組みであるとは言え、貴重な作品にはなるのかもしれません。
それを考えれば、あまり強い私情を入れずに、冷静に綴ったことの意味は強かったのではないかと思いますね。

まぁ映画のドラマ性を高めるなら、もっと時間を置いてから製作するべきでしょうね。
やはり絶対的な情報量が足りず、大胆な仮説を立てるにも時間が経過し足りない感じですね。
こんなにすぐに作ったということは、やはりオリバー・ストーンの視点が異なっていたのでしょう。

レスキュー隊として突入した夫の安否を気遣う家族にスポットライトを当てたのは正解でしたね。
特に映画の前半にあった、訪れた警察の同僚を拒絶したくなる気持ちなど、よく描けていたと思う。
オリバー・ストーンがこういう類いのドラマを描いたのは、初めてではなかろうかと思うのですが、
映画の中のドラマ描写としては、一番、上手く描けていたのではないでしょうか。

主演のニコラス・ケイジもかなり体格をスマートにさせてまで出演しており、
いつもより心持ち、老けたような風貌で、他作品に出演しているときと違いますね。
(但し、映画が始まってから約30分の時点で、彼が動き回る姿は観れなくなってしまうのだが・・・)

いずれにしても、「9・11」を後世に語り継ぐという意味では、貴重な映画ではありますが、
僕はそれが一概に、映画として良い出来にシェイプしているとは言い難いのではないかと思います。

つまり、それらは別次元の問題で、本作は映画としてはどこか片手落ちな部分があったということ。
それはやはり物語に起伏を付けにくかったということと、生き埋めにされ、まがき苦しむ人々の確信には
迫り切れなかったのではないかと思えます。それは、フラッシュ・バックに頼り過ぎた面があると思います。

まぁこの手の映画で、フラッシュ・バック形式で家族愛を表現するというのは常套手段ですが、
これだけ依存してしまうと、瓦礫の中で苦しみ抜いて救出されるときのカタルシスが感じられず、
家族愛の方ばかりに感情が集中してしまい、なんだか勿体ない気分になってしまいました。
(まぁオリバー・ストーンは家族愛に注力したかっただろうから、それで良いんだろうけど・・・)

しっかし、あれから10年経つということに...時の経過の速さを痛感しますね。。。

(上映時間129分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 オリバー・ストーン
製作 マイケル・シャンバーグ
    ステイシー・シェア
    モリッツ・ボーマン
    オリバー・ストーン
    デブラ・ヒル
脚本 アンドレア・バーロフ
撮影 シーマス・マッガーヴェイ
編集 デビッド・ブレナー
    ジュリー・モンロー
音楽 クレイグ・アームストロング
出演 ニコラス・ケイジ
    マイケル・ペーニャ
    マギー・ギレンホール
    マリア・ベロ
    スティーブン・ドーフ
    ジェイ・ヘルナンデス
    マイケル・シャノン
    ニック・ダミチ
    ダニー・ヌッチ