ワーキング・ガール(1988年アメリカ)

Working Girl

まぁ・・・実を言いますと、映画の出来としては凡庸で、
ある意味では80年代以降、量産された「お手軽映画」の典型例みたいな作品であることは、
あながち否定できないのですが...映画が好きになった頃に初めて観て、かなり元気になった作品で、
今まで何度も観ていますが、未だに特別な想いが消え失せない数少ない作品の一つでもあります。

いかにも80年代のバブリーというか、日米貿易摩擦が過熱した時代性を反映しているので、
おそらく本作の雰囲気を映画の中で表現することは、もう不可能でしょう。
今更、こんな雰囲気の映画を撮っても、単に「時代遅れな映画」というレッテルを貼られるだけです。

さすがにメラニー・グリフィス演じるヒロインのテスと、
シガニー・ウィーバー演じるキャサリンが同じ年齢だという設定には無理はありますが(苦笑)、
シガニー・ウィーバーの確かな表現力はキチッと役割を果たしています。
特にクライマックスでのテスとの“プチ対決”は、やはり彼女の上手さを感じましたね。

監督のマイク・ニコルズは80年代に入ってからは、
83年の『シルクウッド』以降、ハッキリ言ってスランプに陥りましたが、
少なくとも本作だけは基本に忠実な映画作りに終始していて、僕は好感が持てましたね。

随分と甘ったるい声のメラニー・グリフィスが上昇志向の強い女性を演じるというギャップ。
そしてエイリアン以外の生物と久しぶりに闘う姿が何とも妙なシガニー・ウィーバー。
そして既に大スターだったはずなのに、まるで添え物のように軽〜く扱われるハリソン・フォード(笑)。

映画は学歴がないため、企画力があっても認められない30歳になる女性テスの成功を描いています。

5年かけて夜学に通ったり、積極的に働きながら勉学に励むテスはニューヨークの証券会社に勤務しています。
会社が主催する「証券マン養成コース」への応募を上司に希望しますが、学歴の乏しさに落選します。
ありとあらゆる情報を収集し、自ら反芻してユニークな企画を立案する能力を活かしたいテスですが、
あまりの不遇さに上司とケンカになることもしばしばあり、半年間に3回の転籍を希望します。

そこで彼女に巡ってきたチャンスは、
同じ会社のM&A部門にボストンから赴任してきたキャサリンの職場で秘書として働くというもの。
建設的な関係を築こうというキャサリンの言葉に導かれ、テスはラジオ会社の買収を提案します。

ある日、キャサリンがスキー旅行で骨折してしまい、急遽、テスが仕事の整理を担うことに。
ところがテスが提案した買収案を密かにキャサリンが横取りしていることを知ったテスは、復讐を決意します。

そこで現れるのが、ハリソン・フォード演じるキャサリンの恋人でビジネスマンのジャック。
もう最初っから何故かテスにメロメロだったジャックですが、仕事を共にする中でテスもジャックに惹かれます。
そこで仕事だけでなく、恋愛においてもキャサリンに復讐してしまう形となるのですが、
映画はテスの社会的なサクセス・ストーリーと、ロマンスが上手く配合されており、実に上手い構成ですね。

映画の冒頭でフェリーに乗って通勤するテスを映すまでの、
マンハッタンの市街地を望む空撮シーンで、「9・11」で倒壊したワールド・トレード・センターが映り、
やはりあれだけ勇壮にそびえ立つビルディングが、アッという間に倒壊してしまったことに改めて心が痛む。

その空撮シーンのバックで流れるのはカーリー・サイモンの『Let The River Run』(ステップ・バイ・ステップ)。
この曲、そこそこ有名な曲だと勝手に思ってたんだけど、日本ではあまり知られていないみたいですね。。。
確かにカーリー・サイモンは日本での知名度はイマイチですが、一応、日本でもカヴァーされたんですがねぇ〜。

かつて数多くのサクセス・ストーリーが映画の中で成立しておりますが、
僕の中で本作はかなりインパクトが強くって、それは強い女性の多様な描き方だと思う。
これがフェミニズムという側面だけから描かれた映画なら、女性の社会進出がテーマだったでしょうが、
本作で描かれるのはそれに留まらず、社会の中での「女性vs女性」という構図になっています。

おそらく「キャリアvsノンキャリア」の闘いを、
女性同士という構図で成立させたのは、本作が一番最初ではないでしょうか。
90年代に入ると、完全に使い古される題材となりましたから、そういう意味で本作は先駆的な作品ですね。

弱肉強食といったテーマを地でいったような映画ではありますが、
未だに日本でも、かつてほどではないにしろ、学歴社会という大きなテーマを抱えております。

今は社会への入口、つまり就職にあたっては待遇面で大きな差があることは否めず、
入社後の昇給や昇格などにあたっても、ひじょうに大きなファクターとなってしまうことは否定できません。

ただ、あくまで社会のごく一部しか見たことがない僕の意見でしかありませんが...
上司や経営陣からの信頼、評価を得るチャンスというのは、次第に改善されてきていると思いますけどね。
大卒はおろか院卒の人よりも、同じ年齢で高卒の人の方が仕事ができて、等級も上ということはザラにあります。
これは完全に個人のあらゆる意味での資質に依存する部分が大きくて、社会に入ってからの問題があります。

未だに就職がゴールという感覚は無くなっておらず、
残念ながら見本となるべき上司がまるで仕事ができず、組織が機能しないという側面は強く残っています。
ですから今の企業は、社員の力を高めるような教育を施す必要があるのでしょうね。
そうしないと無気力社員や社会不適応社員の誕生を防ぐことは、なかなか難しいのかもしれません。

何はともあれ、そろそろ21世紀型のサクセス・ストーリーを観たいところですね。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 マイク・ニコルズ
製作 ダグラス・ウィック
脚本 ケビン・ウェイド
撮影 ミヒャエル・バルハウス
美術 ダグ・クラナー
編集 サム・オースティン
音楽 ロブ・マウンジー
    カーリー・サイモン
出演 ハリソン・フォード
    メラニー・グリフィス
    シガニー・ウィーバー
    ジョアン・キューザック
    アレック・ボールドウィン
    フィリップ・ボスコ
    ノーラ・ダン
    オリバー・プラット
    ケビン・スペイシー
    オリンピア・デュカキス
    ジェームズ・ラリー

1988年度アカデミー作品賞 ノミネート
1988年度アカデミー主演女優賞(メラニー・グリフィス) ノミネート
1988年度アカデミー助演女優賞(シガニー・ウィーバー) ノミネート
1988年度アカデミー助演女優賞(ジョアン・キューザック) ノミネート
1988年度アカデミー監督賞(マイク・ニコルズ) ノミネート
1988年度アカデミー主題歌賞(カーリー・サイモン) 受賞
1988年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
1988年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ミュージカル・コメディ部門>(メラニー・グリフィス) 受賞
1988年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(シガニー・ウィーバー) 受賞
1988年度ゴールデン・グローブ賞歌曲賞(カーリー・サイモン) 受賞