ウーマン・オン・トップ(2000年アメリカ)

Woman On Top

母国スペインで、ビガス・ルナやペドロ・アルモドバルら名匠に可愛がられた、
ペネロペ・クルスが97年の『オープン・ユア・アイズ』での好評ぶりをキッカケにして、
98年の『ハイロー・カントリー』からハリウッドに本格的に進出してきたわけなのですが、
その2年後の00年には、早くもロマンチック・コメディ映画のヒロインの座をゲットしてしまいました。

まぁ僕もよく覚えていますが、当時のペネロペ・クルスはハリウッドに渡ってきて、
すぐに凄い勢いで活躍し始め、日本でも彼女の人気はうなぎ上りで、一気にトップ・スターになりました。

正直言って、映画の出来はたいしたことない(笑)。
しかし、彼女にとって、この手の映画のヒロインを務めるということは一つの目標だったであろうし、
やはりこの手の映画のヒロインを演じて、映画がヒットするか否かというのは、大きなポイントなのですよね。

結果、本作は規模は大きくないにしろ、そこそこのヒットを飛ばしたことにより、
ペネロペ・クルスは名実共にハリウッド女優として、成功の道を約束されたと言っても過言ではありません。

映画はブラジル北東部の漁業が盛んな田舎町で育ったイザベラが、
幼い頃から乗り物酔いが激しく、それらを補うかのように料理での目覚ましい才覚を表したことから、
海沿いのレストランのオーナーに雇われ、彼と恋に落ちたことにより結婚、彼女はシェフとして成功しますが、
乗り物酔いを克服した要因でもある、何でも積極的に自らの手で行うというスタイルに亭主は嫌気が差し、
あろうことか隣家の女性と浮気、怒ったイザベラは友人を訪ねて、サンフランシスコへやって来ます。

物語はそこからスタートするわけですが、
サンフランシスコでレストランで働こうとアプローチをかけますが、誰も彼女を雇おうとせず、
かつてイザベラのレストランを訪れた料理学校の講師を最後の砦として頼ります。

ここから彼女は瞬く間に注目を集める存在となり、ローカルなテレビ局で料理番組を担当。
プロデューサーの若い男性とも気になる関係になり、順風満帆に見えたのですが、
イザベラの家出に焦った亭主までもが、サンフランシスコへ乗り込んで、何とか許しを請うという物語。

まぁ上映時間が短いせいか、実にアッサリと観れてしまいます。
派手に笑わせてくれるシーンはほとんど無いし、絶妙な演出があるわけでもない。
悪く聞こえるかもしれませんが、おおむね予想通りの内容の映画にはなっています。

でも、僕はこれはこれである一定の評価を受けて然るべき作品だと思っているんですよね。
こういう仕事は、キチッとしたビジョンが無いと、そうそう簡単に出来る類いの仕事ではないと思います。

監督のフィナ・トレスって、ベネズエラ出身の女流監督だそうなのですが、
本作以前に2本の映画を撮っていて、デビュー作となった84年の『追憶のオリアナ』は
国際的にも高く評価されたようですが、随分と寡作な映画監督であり、平気で10年近いブランクを空けますね。
ひょっとしたら映画監督は本業ではないのかもしれませんが、ハリウッド資本で映画を撮るのは本作が初めてで、
何故にいきなりこんなロマンチック・コメディを撮ろうと思ったのか、よく分かりませんが、まずまずな仕事ぶりです。

もう少し映画の出来が良かったら、彼女のマスターピースとして数えられていたかもしれませんが、
ラテン系の雰囲気をプンプン漂わす女優さんですから、もっとそういった側面は活かしても良かったかも。
恋愛に対しては積極的で、奔放な部分があることを強調して描いてはいるのですが、彼女のセクシーさは
映画の内容の割りには活きておらず、個人的にはもっとフェロモンをムンムン漂わすキャラでも良かったかな(笑)。
(まぁあくまで万人受けするタイプのコメディ映画を目指したのでしょうから、お色気路線は無理なのだろうけど・・・)

まぁファンタジーに仕立てるように、絵画の中身が動いたり、
不思議な香りを嗅ぎつけて、イザベラに多くの人々が付いて行ったりする演出は悪くなく、
当時のペネロペ・クルスの魅力が凄かったからこそ、成立しえたシーンでしたね。

但し、良くも悪くもこれはペネロペ・クルスの魅力に“おんぶに抱っこ”な映画。
残念ながら、それ以上でも以下でもない無難な作りに終始しており、どうせやるのであれば、
作り手が積極的にアプローチして、もっとヒロインを輝かそうとか、脇役キャラクターを活かそうとか、
“土台”を更にブラッシュアップするためのアプローチを観たかったと思うし、それが無いせいか、
あまりに冒険性の感じられない、無難な映画という域を出ないところが、この映画の悪い部分でもあります。

どことなく話しの運びの悪い部分もあり、
もう少しイザベラの亭主がサンフランシスコにイザベラを追ってやって来てからのエピソードは、
色々な波乱を作って映画を装飾して欲しかったなぁ。そういう装飾が無かったせいか、全体的に物足りない。。。

もっとドタバタさせて、映画を動きのあるものにするべきだったと思うし、
せっかくコミカルな魅力を引き出そうとしているのに、これではペネロペ・クルスのコメディエンヌとしての魅力が
フルに引き出されたとは言い難く、チョット勿体ないことをしたという印象がどうしても拭えないですね。

もう一つ気になるところは、ペネロペ・クルスと比べると、
あまりに相手役となる男優の存在感が薄く、2人の恋愛劇が盛り上がらないという難点だ。

テレビ局に勤める若手プロデューサーなど、比較的、大きな役回りの登場人物もいるのですが、
演じる各役者の魅力を引き出せておらず、如何に作り手がペネロペ・クルスのみに頼っていたかが分かります。
まぁ確かにペネロペ・クルスの魅力を引き出すのは必須ではあるのですが、彼女の相手役となるパートナーを
もっとキチッと描いて、2人の恋愛劇がより盛り上がって、説得力があるように描く必要があったと思います。

ペネロペ・クルス以外は有名俳優を配役しなかったから仕方がない部分もありますが、
やはり彼女の亭主が特に見せ場なく、ただイザベラの後ろで歌っていただけで、
何か変わった姿を見せるという時間を与えなかったのは、僕はどうしても賛同できません。

だって、この映画を観る限り、彼は祖国へ戻って、イザベラと一緒になったとしても、
どうせまた同じ過ちを軽々とやってのけてしまうよ!と、思わずツッコミたくなってしまうからです。

ウソでもいい、取り繕った姿でもいいから、彼が何か変わったことをイザベラにアピールする、
そんな時間をキチッと与えて、しっかりと描くべきだったと思うんですよね。
それがない限り、2人の恋愛の収まり方に納得性が生じず、どこか胡散クサい話しで終わってしまうからです。

せめてシナリオぐらいは、もっと恋愛映画に携わった経験が豊富な人だった方が良かったかもしれません。

(上映時間91分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 フィナ・トレス
製作 アラン・プール
脚本 ヴェラ・ブラシ
撮影 ティエリー・アルボガスト
音楽 ルイス・バカロフ
出演 ペネロペ・クルス
    ムリロ・ベニチオ
    ハロルド・ペリノーJr
    マーク・フォイアスタイン
    ジョン・デ・ランシー
    アン・ラムゼイ
    アナ・ガステヤー