ウィンターズ・ボーン(2010年アメリカ)

Winter's Bone

初っ端から下品な表現で申し訳ないけど・・・(苦笑)、
これは近年稀に見る、胸糞が悪い映画だ(笑)。観ている最中も、居心地が悪いし、お世辞にも後味は良くない。

今やハリウッドでトップ女優として君臨する、ジェニファー・ローレンスが
麻薬製造に携わっていた父親が失踪し、警察からも幼い弟と妹と暮らす家を没収されると警告され、
なんとかして父親を捜して、家族の窮地を脱したいと願うティーンエイジャーの姿を描いた、とても厳しいドラマ。

劇場公開当時、インディペンデント系の映画会社で製作された作品でしたが、
次々と映画賞にノミネートされていき、大きな話題となった作品だったのですが、
個人的には観る前に僕が勝手に予想していたほど、映画の出来は良くなかったというのが本音。

でも、まぁ・・・これは“胸糞が悪い映画”と言いたくなるほど、
観客の生理的な感覚に訴える力が強い映画で、それだけベースはしっかりした作品だと思うんですよね。

映画は、日本で言う部落問題を扱ったような内容で、
とても閉鎖的な田舎町で起こってしまった悲劇を描いているのですが、どこかありがちな設定ではあります。
しかし、本作はなかなか正視しがたい根深い問題に対してメスを入れるかのような切り口で、
この映画の作り手はなかなか挑戦意識が強い姿勢を持っていて、とても大きなチャレンジだったと思うんですよね。
個人的には、そのチャレンジ精神は称えられるべきだと思うし、本作の根底を支えているのはそういったものだろう。

ただ、残念ながら“何かが”足りなかった。
それはおそらく観る人によって、その“何か”は違うのだろうけど、僕にとっては挑戦したテーマの大きさの割りに、
意外なほどに訴求するものがないということが気になって仕方がなかった。これは原作との兼ね合いもあるだろう。

しかし、この手の映画にとって、特にラストで何かしらのインパクトを残すことは大切で、
本作もそういった何かしら訴求するものを残すべきだったのですが、今一つ残し切れていません。

当時、まだ大人の女優一歩手前という感じもあったジェニファー・ローレンスは、
やはり本作での表現力は凄いです。半ばシングルマザーであるかのように幼い弟と妹を守りたい一心で、
病気で寝込む母親と4人で暮らす家を取り上げられては困ると、裁判に出廷しなければならない父親を捜します。

でも、彼女は父親が何らかのトラブルに巻き込まれ失踪したのではないかということと、
そのトラブルが閉鎖的で犯罪行為も平然と行われ、それが黙認される村の暗黙のルールに
反して生じたのではないかということは、おそらく直感的に分かっていたのではないかと思える流れだ。
それをほじくり返すと、村の連中は激怒し、彼女自身も危険な目に遭うのは一目瞭然な状況だったし、
そんな状況に置かれた彼女を冷たくあしらう親戚や警察が、全くアテにならないことも分かっていたはずだ。

そこでポイントとなるのは、叔父(父親の兄)の存在で演じるジョン・ホークスも賞賛されました。
確かに彼も上手く演じていますが、彼のキャラクターにしてもどこか納得性に欠けるのは残念ですね。

映画の序盤から、繰り返し叔父はヒロインに手を貸すことはないことを明確に描いていたし、
彼女が真相解明へ何か動きをとろうとすると、彼女を力づくでもストップさせようとするぐらい、
ずっと非協力的で閉鎖的な田舎町に立ち向かう気はないことを前提として描いていたのに、
そんな彼が映画の終盤で突如として、キーマンになっていくという展開には、もっと納得性が必要だと思う。

正直言って、あまりの変化に観ていて、今一つシックリこないまま映画が終わってしまったように思う。

この叔父の存在は本作にとって、とっても大きかったはずなのです。
だからこそ、ここはもっと大事にいって欲しかった。いくら寡黙な性格とは言え、映画の序盤を観ている限り、
終盤で突如として人が変わったかのように、何かに気付いて、静かに行動する姿にあまり説得力は無かった。

とは言え、低予算映画という枠組みで製作された作品として際立つ存在であることは間違いないです。
監督のデブラ・グラニックは新進気鋭の女流映像作家ですが、04年に一本だけ長編映画を撮ったことがあるだけで、
決して映画人として凄いキャリアがあるわけでもなく、本作以降もドキュメンタリーを中心に活動しているようだ。
とは言え、閉鎖的な環境で起こりやすい人間関係の危うさを、実に見事に真に迫った形で描けている。

この映画の居心地の悪さは特筆に値するし、良い意味でインパクトの大きな映画になっていますね。

居心地が悪いというのは、決してネガティヴな感覚として捉えているわけではなくって、
あくまで本作の特徴なんですね。そういった特徴を観客に徹底的に植え付けることができているというのは、
それだけ本作の作り手が画面に吹き込めた世界観というのが、映画にフィットしているということですね。
やはりそれだけのことができているということは、それだけ映画をしっかり作り込めていることの裏返しだと思う。

村の掟に逆らったがために、村の掟に従って処罰されるという発想自体が怖いが、
ヒロインは別に村の掟に疑問を呈したいというわけではなく、単に家族を守りたいという一心というのも、また凄い。

危険を顧みず、村人たちの警告も聞き入れず、自ら危ない橋を渡ろうとする姿には、
ある意味で孤独に戦おうとするティーンエイジャーの痛々しいまでの悲壮感が充満している。
この映画の凄いところは、この悲壮感に加え、半ば「仕方ない・・・」と諦める感情が正常であるように描いていること。

今の世の中では、このように諦めるという感情が正常であるかのようになっていることは多いように思う。
勿論、何でもかんでも反対すればいいってことではないので、中身のない議論を助長すべきではない。
ただ、少し考えて「無理っぽいなぁ・・・」と思ったものを、すぐに「無理だ、仕方ない・・・」と結論を出しがちに思う。
何でもかんでもスピード感を大切にする風潮が強い昨今だからこそ、良い意味で粘るということが無くなったように思う。

こうしたことが時代の変化を速めているような気もする一方で、
革新的な変化が無くなってきているように思えることの原因でもあるような気がします。

本作が描いていた、ヒロインの悩みは別次元だとは思うけど、
こういった閉鎖的なコミュニティだからこそ、「仕方ない・・・」という諦めを生み易いような気がします。
本作が描いたことは、こういった村の掟に抵抗する力というよりも、守るべきものがある人の強さなのだろう。

そこに諦めのムードが漂う村にあって、信念を貫くことの難しさですね。
本作でデブラ・グラニックが描いていたことは、いろいろな意味で現代社会の悩みを反映しているように思います。

だからこそ、本作で描かれたことは、あながち我々も無縁なこととは言い切れないように思います。
そう考えると本作の意義は深いものなのでしょう。やはり、もう少し映画の出来が良ければ、もっと訴求しただろう。

(上映時間99分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 デブラ・グラニック
製作 アン・ロッセリーニ
   アリックス・マディガン=ヨーキン
原作 ダニエル・ウッドレル
脚本 デブラ・グラニック
   アン・ロッセリーニ
撮影 マイケル・マクドノー
編集 アフォンソ・ゴンサウヴェス
音楽 ディコン・ハインクリフェ
出演 ジェニファー・ローレンス
   ジョン・ホークス
   シェリル・リー
   デイル・ディッキー
   ギャレット・ディラハント
   ローレン・スウィーツァー
   アイザイア・ストーン

2010年度アカデミー作品賞 ノミネート
2010年度アカデミー主演女優賞(ジェニファー・ローレンス) ノミネート
2010年度アカデミー助演男優賞(ジョン・ホークス) ノミネート
2010年度アカデミー脚色賞(デブラ・グラニック、アン・ロッセリーニ) ノミネート
2010年度ワシントンDC映画批評家協会賞主演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2010年度サンフランシスコ映画批評家協会賞助演男優賞(ジョン・ホークス) 受賞
2010年度サンディエゴ映画批評家協会賞主演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2010年度サンディエゴ映画批評家協会賞助演男優賞(ジョン・ホークス) 受賞
2010年度デトロイト映画批評家協会賞主演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2010年度トロント映画批評家協会賞主演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2010年度ヴァンクーヴァー映画批評家協会賞主演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2010年度インディペンデント・スピリット賞作品賞 ノミネート
2010年度インディペンデント・スピリット賞主演女優賞(ジェニファー・ローレンス) ノミネート
2010年度インディペンデント・スピリット賞助演男優賞(ジョン・ホークス) 受賞
2010年度インディペンデント・スピリット賞助演女優賞(デイル・ディッキー) 受賞
2010年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(デブラ・グラニック) ノミネート
2010年度インディペンデント・スピリット賞脚本賞(デブラ・グラニック、アン・ロッセリーニ) ノミネート
2010年度インディペンデント・スピリット賞撮影賞(マイケル・マクドノー) ノミネート