ウィル・ペニー(1967年アメリカ)

Will Penny

まぁ、正直言ってそこまで僕には魅力的な西部劇とは思えなかったのですが・・・
でも、これはこれで個性ある映画になっていて、支持する人の気持ちも分からなくはないですね。

監督は新人監督だったトム・グライスで、一種独特な雰囲気と間合いのある作品になっていて、
とてもじゃないけど監督デビュー作とは思えないほど、若々しい作風とは対極する渋い内容の作品である。

どうやらトム・グライスはTV界出身の人だったようですが、本作自体も元々はTVシリーズの一話らしい。

チャールトン・ヘストンも、もう若くはないことを自覚したカウボーイを演じており、どこか達観している。
相変わらずルシアン・バラードのカメラは自然光を上手く使い、とても美しい映像を生み出している。
この時代の王道をいくような西部劇とも違っていて、少々異質な感じがする独特な映画に仕上がっている。

とは言え、物語自体がどこか『シェーン』を想起させるようなストーリー展開で今一つ物足りなさが残る。
天邪鬼のように一筋縄にはいかない映画なので素直に終わらないラストは、僕は嫌いになれないけれども。
もう少し、訴求するものがあってもいいと思うんだけど、本作はそういったものが全く無いのが致命的だったと思う。

それでも、“お釣り”がくるくらい本作の中で異彩を放つ存在なのは、狩りで捕えたかどうかで対立し、
銃撃されて息子の一人を殺害されたことで怒り狂って、主人公に復讐を挑む自称“説教師”のクィントを演じた
ドナルド・プレザンスの常軌を逸した芝居だろう。これはあまりに強烈で、チャールトン・ヘストンもタジタジである(笑)。

そもそも目の前で息子に銃弾が命中し、死亡したことを知り川越しに、狂気を感じさせる視線で
主人公らに復讐を宣言するシーンに始まり、映画のクライマックスで唐突に「メリークリスマァァァス!!」と叫んで、
主人公が一時的に暮らす山小屋の玄関に特攻してくる様子は、完全に狂気じみていて宗教家とは思えない(苦笑)。
更に主人公が守っていた母子のうち、母をクィントは自分の息子に“捧げる”と言い出したり、酒を飲んで音楽を奏で、
狂ったように「オレは踊りが得意だろ!?」と言っている姿は、あまりに異様で強烈なインパクトを残している。

そう、この映画は実は完全にクィントを演じたドナルド・プレザンスの映画になっており、
このクィントというキャラクターはハリウッドの映画史に於いても、傑出した悪役キャラクターと言っていいレヴェルだ。

ハッキリ言って、この映画はドナルド・プレザンスがクィントを演じていなかったら、
もっと酷い印象で終わっていたでしょう。彼が良い意味で、映画の枠からはみ出た狂気を表現したことで、
映画が引き締まった感じにあっており、単なるチャールトン・ヘストンの漢気を体現した映画に終わらなかった。

それでいて、チャールトン・ヘストン演じる主人公が、どこか晩熟な性格で奥ゆかしい、
まるで日本人の昔気質な男のような美学を持ち合わせているかのように、奥ゆかしい判断をするものだから、
「やっぱり、この映画は他とはチョット違うなぁ」という印象になるわけです。少しずつ、どこか普通じゃないんです(笑)。

だって、主人公が守っている母子の母に対して、「実はオレもツラいんだ」とか言い出して、
思い切って彼なりの愛を言葉で伝えたら、実は母の方も主人公にウットリしていて相思相愛だと気付いてか、
家の掃除を主人公が手伝おうと、特に意味もなくモップを2人で上下させるシーンなんて、ほとんど卑猥なギャグですよ。
自分の中学生レヴェルの行き過ぎた考えかとも思いましたが、これは作り手もワザとそう指示を出したとしか思えない。

そして、前述した「メリークリスマァァァス!!」につながるものだから、映画の終盤は実に忙しい(笑)。
このクィントたちの突撃、全く前触れなく描いているので、ハッキリ言って、何故クィントたちが引き返してきたのか、
まるで説明不足で意味のよく分からない展開なので、完全に破綻していると言えば、それも否定できないのですがね。
それでも、本作のトム・グライスは力技でそんな疑問をも押し切ってしまう、がめつい部分があるのも良いですね。

ただ、もう少しこの映画には活劇性が欲しかった。そういうことがメインテーマではないのは分かるけど、
全体的にメリハリの無い展開になってしまっていて、クィントが登場しない部分は悪い意味で平坦な印象ですね。

だから、いっそのことクィントがもっと執拗に主人公を追ってくるみたいな展開の方が面白くなったかな。
作り手が描きたかったことも分かるけど、主人公と人妻の遅過ぎた出会いと、淡い恋を描くと言っても
さすがにこれだけでは物足りないし、そんな内容の割りにはクィントのキャラクターが濃過ぎてアンバランスに見える。
確かに粗野な50歳手前のカウボーイを演じるに、ぶっきらぼうで野性味溢れるチャールトン・ヘストンは適役ですが。

主人公のウィル・ペニーはまともな教育を受けていないようで字が書けない読めないことがコンプレックスで、
風呂だって年に数えられるくらいしか入らないし、女性も売春宿でしか知らない。他人から優しくされたことがなく、
ただひたすらカウボーイとしての生き方を全うしてきただけで、老年期を間近に控えて、初めて助けてもらって
優しく看病されて、自分のことを慕ってくれる母子と出会って、とても不思議でピュアな気持ちになっているのです。

しかし、思い悩んだ彼はそれでも生き方を変えられない、ある種の不器用さが先立ててしまうわけですね。
本作はそんな主人公の不器用で奥ゆかしい(?)生き方を楽しむ映画になっているので、珍しいハリウッド映画かも。

ただ、そんな中で前述したモップがけのシーンなど、なんだか普通ではない違和感があるシーンもあったりする。
監督のトム・グライスが何をどう狙っていたのかは分かりませんが、どこかチグハグさが残っている気がします。
なので、結論的にはこの映画で最も目立っているのは、クィント演じるドナルド・プレザンスということになるのです。

例えば、どこかで1つでもいいので、見応えのあるガン・ファイトがあるとか、
何か映画の中に大きな“目玉”があれば、映画の印象は変わっていたかもしれません。そこが勿体ないんですよね。
もっと上手くやれば、一風変わったアメリカン・ニューシネマとして評価されていたのかもしれないですね。

それくらいのポテンシャルが秘めた作品だったと思うし、ドナルド・プレザンスの奇跡的な怪演があまりに勿体ない。
このままでは見方によっては“悪目立ち”と捉える人もいるでしょうからね。絶賛する気になれない理由は、
作り手がこの全体的なアンバランスさを一切埋めようとしていない点で、良いものを持っているだけに、とても残念だ。

それにしても、このクィントが復讐心に燃えて主人公を執拗に追い始めるのですが、
そのキッカケとなったのが、たまたま同時に狙っていた鹿をどっちが先に手にするかでトラブルになってしまう。
よくよく見れば、食べ物が少ない厳しい季節の中で、お互いに必死になっているせいもあるけど、クィント側が銃を取り、
宗教者を名乗る割りに、分け合う気持ちを全く出さない態度と言動を見せた挙句、銃撃戦になってしまいます。
その結果、身内を殺されてクィントが激怒するわけですが、ほぼほぼ逆ギレのような感じで狂気的と言っていい。

一方で、そんな狂ったところがありながらも、寝ているウィルをリンチしたものの致命傷を負わせずに、
生きていることを分かっていながらも放置して立ち去るという、何故か慈悲深い(?)ところがある矛盾というのも謎。
(「苦しみながら死ぬがよい」と台詞もありますが、偏屈なキャラクターなので相手が死んだことを確認しないのは変)

そう思って観れば、主人公ウィルにとっては災難と言えば災難な出来事だったわけですが、
彼はどことなく朴訥な性格であり、前述したように不器用な男だ。それゆえ、初めてと言っていい恋愛が芽生え、
相手に対してどのように自分を表現したら良いのか、彼自身もよく分からず戸惑っている姿が、なんとも微笑ましい。

映画のクライマックスの攻防は大量の硫黄の粉末を手にしたウィルが、クィントらが押し入った家の煙突に
硫黄の粉末をブチ込んで家から追い出すという力技にでますが、このプロットはかなり雑なものに見えてしまう。
正直言って、このクライマックスの粗雑さは映画を壊してしまったと言っても過言ではないくらい致命的なものと思う。

しかも、普通に考えて硫黄を燃焼させると、激しく燃えて青い光を発するので、こんなんじゃないんですけどね。
酸化反応で二酸化硫黄(亜硫酸ガス)を生成して刺激臭もあるので、家の中にいた人はほぼほぼ全滅です。

この辺がトム・グライスの甘さではあったのですが、ここでインパクトあるラストできていれば・・・というところ。

やっぱり最後はドナルド・プレザンスに思う存分、暴れまくってもらって、クィントの息子も含めて、
激しい交戦があった方が良かったでしょう。ウィルの仲間が加勢するのはいいにしろ、アクションはもっと観たかった。
だって、牧場主として如何にも悪そうな(?)面構えのベン・ジョンソンも出演しているわけですからね。実に勿体ない。

まぁ、僕は傑作とまでは思いませんけど...妙に人間臭いチャールトン・ヘストンを観たい人にはオススメ。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 トム・グライス
製作 フレッド・エンジェル
   ウォルター・セルツァー
脚本 トム・グライス
撮影 ルシアン・バラード
音楽 デビッド・ラクシン
出演 チャールトン・ヘストン
   ジョーン・ハケット
   ドナルド・プレザンス
   ブルース・ダーン
   ベン・ジョンソン
   スリム・ピケンズ
   アンソニー・ザーブ
   クリフトン・ジェームズ