ワイルド・ワイルド・ウエスト(1999年アメリカ)

Wild Wild West

これは売り出し中、絶好調だった頃のウィル・スミスのヒット作ですが、
劇場公開当時から評判は芳しくなく、ゴールデン・ラズベリー賞を総なめしてしまう不名誉な一作。

とは言え、商業的にはそれなりにヒットしたのだから、
当時のウィル・スミスのネーム・バリューの凄さ、プロダクションのプロモーションの上手さが光ります。
映画としても歌手として活躍していたウィル・スミスにあやかって、主題歌を彼自身に歌ってもらって、
それはそれでヒットするというマネーメイキングな構図が上手くハマり、マーケティングの勝利といった具合だ。

往年の人気TVシリーズの映画化ということもあって、
それなりに期待する向きはあっただろうし、ウィル・スミスの人気だけにすがった企画というわけでもなく、
映画の中盤くらいまではトントン拍子で進む感じで、それなりに面白いと言えば、面白かった。

しかし、映画の最後まで観ると感じることですが・・・
映画が悪い意味で軽く、スタイリッシュさを楽しめと言われても、それは難しいでしょう。

個人的には行方不明になったとされるエスコバー博士の娘と称するサルマ・ハエック演じるリタを
もっとクローズアップして描いて欲しかったんなぁ。これでは完全に“添え物”としか言いようがない扱いだ。
さすがにお尻のところが破れたパジャマ姿にしただけでは、彼女に見せ場を与えたとは言い難いでしょう。
と言うか、せめて彼女が主人公コンビの珍道中に同行する意義を、もっとしっかりと描いて欲しかった。
(まぁ・・・彼女についてもカラクリがあるから、あまりハッキリとは描きにくかったのだろうけど...)

プライベートでは静けさを好む典型的なカタブツだというのに、
何故か本作のようなコメディ映画に好んで出演し、コミカルなギャグを伴うコメディ演技では
いつも頑張っちゃうケビン・クラインも、実に楽しそうに変装名人捜査官ゴードンを演じていて、
主演のウィル・スミスを盛り立てているだけに、この映画の仕上がりはなんだか勿体ないですね。

おそらく、本作のラストシーンを観るに、本作が好評だったら
『メン・イン・ブラック』に続くウィル・スミスのヒット作としてシリーズ化を目論んでいるように見えて、
作り手やプロダクションの思惑が見え隠れするのですが、結果としてそうはならなかったのが切ないですね(笑)。

やっぱり、バリー・ソネンフェルドの立場からしても、
『メン・イン・ブラック』が世界的にメガヒットしたということが逆にプレッシャーであったでしょうし、
やはり大事なのはヒット作の次の作品ということもあって、“二匹目のどじょう”を狙った部分もあったのでしょう。

結果として、これだけラジー賞(ゴールデン・ラズベリー賞)を総なめしてしまっては、
さすがに精神的に堪えたでしょうね。そこまで悪い出来の映画だったとまでは言い切れないと思うけど・・・。

そもそも機械仕掛けの西部劇という設定自体に無理があると思うのですが、
映画の方向性としてはかつての『バック・トゥ・ザ・フューチャー PARTV』のように現代技術と
西部劇の世界の融合というわけでもなく、西部劇の時代の発明家の技術ということで、
色々と奇怪な機械装置が登場しますが、さすがに時代設定含めて強引過ぎて、今一つシックリこない。

あくまで映画の表現なので、西部劇の世界での発明王がハイテク兵器を繰り出すというのは
“有り”だと思うんですが、作り手はそれなりに配慮が必要なはずで、この辺の矛盾は解消しなければなりません。
この映画に足りないのはアドベンチャー性で、機械仕掛けの装置はあくまで道具で、主人公2人が“冒険”して、
事件を解決に導くというベクトルを生かすために、もっと“移動”の感覚を表現するべきでしたね。

元々は本作、メル・ギブソン主演で立ち会がった企画だったらしいのですが、
当時のメル・ギブソンが出演していた作品としては、本作は一際、コメディ寄りな映画ですので、
微妙に当時のメル・ギブソンの俳優的志向とは異なる部分が多かったのかもしれませんね。

結果としてウィル・スミスとケビン・クラインというコンビは正解だったと思うのですが、
いかんせんバリー・ソネンフェルドがそこまで器用に映画を撮れなかったですね。

悪役ラブレスにケネス・ブラナーを起用するとは、また渋いキャスティングですが(笑)、
せっかくのケビン・クラインとケネス・ブラナーの演技派俳優同士の共演が、こんな企画だったとはフクザツ(笑)。
そういう意味では、このラブレスには良い意味でのしつこさが無く、もう少し際立たせる方策はあったと思います。
ケネス・ブラナーにとっては『ハリー・ポッター』シリーズへの序章として出演したのかもしれませんが、
彼の実力ならばもっとインパクトある存在感にはできたと思うし、本作は正直、不発だったのだろうと思います。

ちなみに映画の冒頭で登場してきて、中盤では主人公コンビが
畑のド真ん中で追い回される磁力で引き寄せられる回転刃という発想はユニークで面白い。
個人的にはこのアイテム、もっと多用しても良かったのではと思う。本来はもっと手強い凶器であるはず。

コメディ的要素で利用することも可能だったはずで、あのアイテムでもっと“引っ張れた”はずだ。
この辺は作り手も、面白いアイデアを繰り出せたし、面白い映像表現ができたのに、アッサリ手放して勿体ない。

せっかくの西部劇なんで、もっと活劇性を引き出せれば良かったのに・・・とは思いますね。
あまりにアクション・シーンに魅力が無さ過ぎます。スピード感、緊張感、いずれも大きく欠けるのが残念。
かと言って、目を見張る映像表現があるわけでもないので、どことなくコミックな世界観を楽しむしかありません。
しかし、映画の魅力が「それだけ」というのは、ハッキリ言って、かなり物足りず、あまりに寂しい気がする。

スポット的にも面白い描写もあるので、意外にもそこまで悪い映画には観えなかったが、
とは言え、この映画の“武器”となるものが、これといった大きな魅力を持つものではないというのが致命的。
この辺はバリー・ソネンフェルドももっと工夫の余地があったと思うし、その資金力もあった企画だったはずだ。
このままでは、「ウィル・スミス頼みな“典型的な”ハリウッド映画」と揶揄されても仕方がないように思える。

酷評するほど、酷い出来の映画だとは思わないけれども、
せっかくのキャスティングがこんな内容に使われてしまったとは、実に勿体ないことでした。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 バリー・ソネンフェルド
製作 バリー・ソネンフェルド
   ジョン・ピーターズ
脚本 S・S・ウィルソン
   ブレント・マドック
   ジェフリー・プライス
   ピーター・S・シーマン
   ジェームズ・E・トーマス
   ジョン・C・トーマス
撮影 ミヒャエル・バルハウス
音楽 エルマー・バーンスタイン
出演 ウィル・スミス
   ケビン・クライン
   ケネス・ブラナー
   サルマ・ハエック
   M・エメット・ウォルシュ
   テッド・レビン
   バイ・リン
   フレデック・ヴァン・ダー・ウォール

1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 受賞
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(ケビン・クライン) ノミネート
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(バリー・ソネンフェルド) 受賞
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(ケネス・ブラナー) ノミネート
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演女優賞(ケビン・クライン) ノミネート
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(S・S・ウィルソン、ブレント・マドック、ピーター・S・シーマン、ジェームズ・E・トーマス、ジョン・C・トーマス) 受賞
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主題歌賞 受賞
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・スクリーン・カップル賞(ウィル・スミス、ケビン・クライン) 受賞