あなたが寝てる間に・・・(1995年アメリカ)

While You Were Sleeping

94年の『スピード』で大ブレイクしたサンドラ・ブロックが、初めてラブコメのヒロインに抜擢された作品。

監督は『クール・ランニング』を世界的にヒットさせたジョン・タートルトーブで、
本作以降はこういったウェルメイドな作品を多く手掛けるようになり、ヒット作も何本も撮っています。
本作も日本でも、劇場公開当時、サンドラ・ブロックが主演ということもあって話題となり、そこそこヒットしたはずです。

少々、“脇の甘さ”を感じさせる作りではあるけれども、なかなか観た後に良い気分にさせてくれる作品だと思う。
こういう作品を実にアッサリと作れてしまうところに、ハリウッドの懐の深さを感じずにはいられないのです。
やっぱり、飽和状態のラブコメの中で、観た後に良い気分にさせてくれるというのは、基本を押さえた映画だということ。

こういう作品を定期的に作れてしまえるだけのノウハウをハリウッドのプロダクションは持っているから強い。
観た後に違和感なく、観客を気分良く帰らせられるというのは、個人的には映画の原点じゃないかと思えるのですね。
いろいろと考えさせられたり、ドンヨリと心に響くものを残す終わり方だったり、そういうのは派生して出来たものです。
僕はテーマ性を持った映画というのも支持してるし、映画の本質だとは思うけど、大元は気分良くさせることだと思う。

映画はシカゴの地下鉄の駅で駅員として勤務するヒロインが、チンピラに囲まれて線路に転落してしまった、
憧れのリッチなサラリーマンを助け、ひょんなことから病院で助けた男性のフィアンセだと間違えられたことから、
意識不明に陥った男性サラリーマンの家族に温かくされ、誤解を解けないまま男性の弟と恋に落ちる様子を描きます。

まぁ、現実にこんな話しがあれば、それはそれで大変です(笑)。でも、いいんです。これは映画だから。

そら、ヒロインのルーシーはチョットした勇気さえ出せば、いつでも真実を打ち明けるチャンスはありました。
しかし、そのチョットした勇気を持てないことからズルズルと深みにハマってしまいます。ルーシーも育ってきた環境に
ここまで温かい家族というのが無かったから、逆に憧れから居心地の良さに変わっていき、打ち明けられなくなります。

ラブコメとは言え、どちらかと言えば、映画のバランスとしてはコメディ色は弱いです。
ここは賛否が分かれるでしょうね。確かにもう少し笑いを散りばめて、映画全体のバランスをとった方が良かったかな。
それには相手役が実質的にビル・プルマンになってくるので、派手にコメディが出来る感じではなくなってしまった。

ビル・プルマンは決して悪い役者ではなく、実力ある役者さんだとは思うんだけど、
本作の場合はもっとドタバタ劇が演じられて、最後ホッコリさせられるようなタイプの俳優の方が合っていたかも。
(ずっと昏睡状態の芝居を強いられたピーター・ギャラガーも、濃い雰囲気の男性ですし・・・)

現実世界の話しをすると、やっぱり線路に転落してしまった人を助ける行為は勇気のいることですが、
過去には助けようとした人が列車にはねられるという、ショッキングな事故が発生したことがありますので、
その勇気が悲劇的な結果を招くことがあることは認識しておきたいところです。この映画のルーシーも助けることが
出来たのは奇跡的な出来事として描かれており、今の設備で言えば、ホームにある非常通報ボタンを押すのが正しい。

まぁ、本作はあくまでロマンチック・コメディなので、この辺も安心して観ていられる展開ではありますが、
現実的には列車がどれくらい近づいているか、周囲に一緒に行動できる人がいるか、などで判断したいところかな。

とまぁ・・・これは映画の本筋には関係ないことではあるのですが、
結局はルーシーがあのアクシデントで助けることができたからこそ、意識不明となった男性の家族との出会いがあり、
それまでに彼女が知らなかった家族の温かさや、愛に包まれた生活の良さを知ることになるので、分岐点になっている。

やっぱり、こういう運があるようでない、あと少しのところで幸せを掴みかけるところで頑張る女性を
演じさせるとサンドラ・ブロックは見事にハマりますね。彼女の元気なキャラは、ラブコメによくマッチしますしね。
基本的に波乱がないタイプの映画ですので賛否は分かれますけど、これだけ安心して観ることができるのは良い。
これはこれでジョン・タートルトーブの功績なのでしょう。そんなに簡単に撮れる映画ではなかったでしょうしね。

ただ、「脇が甘いなぁ」と感じたところは、正直言って幾つかあって・・・

まず、肝心かなめのサンドラ・ブロックとビル・プルマン演じる意識不明になった男性の弟が
恋に落ちていくまでの過程が、あまりに唐突過ぎるように感じられ、今一つ2人の恋心が燃え上がる様子に
説得力が感じられなかった。意識不明の“フィアンセ”の近親者と恋に落ちるという設定自体が共感を得づらいので、
個人的にはまだ友人とか、他人の設定にしておいた方が無難かなぁと思っていたのですが、弟ともなると悩むはずだ。

だからこそ2人の間に葛藤があることが普通ですが、そういったことがほぼ描かれていないのが残念。
安心して観ていられる作りになっている反面、この物語のポイントなるはずの面倒な部分を割愛したという印象だ。

それから、意識不明の男性の恋人の存在を、途中からチラつかせて、クライマックスに突撃してくるのですが、
このドタバタ劇も中途半端で物足りない。どうせなら、もっと混沌とするような状況にすれば良かったのに、
この本物のフィアンセの存在も中途半端に混乱させて、すぐに収束させてしまうので、映画が盛り上がらない。

作り手も変な方向で盛り上げたくはなかったのかもしれませんが、コメディ映画としての体裁は意識して欲しかった。
もっと喜劇として盛り上げることはできたと思うのですが、敢えてそういう方向には持って行かなかったのですよね。

何が言いたいって、ルーシーがついてしまったウソ...というか誤解を解くということを
もっと早めにやっておけばこうはならなかった騒動の“功罪”ってあるはずで、彼女に降りかかる困難もあるはず。
しかし、本作はそういったことをほぼ掘り下げずに終わってしまって、ルーシーがあまり困ったことにならないんですね。
勿論、弟とのロマンスに注力したかったという作り手の想いはあるのだろうが、この2人の唐突な恋愛だけではツラい。

だったら、個人的にはもう少しでいいから、コメディ・パートを拡げて楽しませてくれも良かったと思うんですよね。

事ある毎にルーシーにアドバイスする老人を演じたジャック・ウォ−デンなど、
サンダラ・ブロックを支えるサブ・キャラクターは充実している作品だっただけに、もっと良い仕上がりにはできたはずだ。
映画のヴォリューム的にも丁度良い具合だし、あとはニヤリとさせられるようなシーンがあれば・・・というところでした。

冷静に考えると、ルーシーがホントに昏睡状態に陥った男性のフィアンセだったら、
そもそも、あんなにオドオドしないと思うのですが、フィアンセが昏睡状態で看病する中、そのフィアンセの弟と
恋に落ちるというストーリー展開は、もの凄く不道徳な感じがしますね(笑)。まぁ、本作のルーシーはフィアンセに
間違えられたという設定なので、不道徳な振る舞いだとまでは言い切れないと思うのですが、フクザツな状況だ。

映画はそういったフクザツな状況を楽しむべき内容ではあるのですが、
ジョン・タートルトーブは上手い具合に不快にさせない程度に組み立てているので、観客を嫌な気持ちにさせない。
(ただ、そうであるがゆえに映画全体に物足りなさを感じる人もいるかもしれませんがね・・・)

映画の設定として、クリスマスの日に起きたことをキッカケに物語が動き始めるせいか、
妙にクリスマス時期に観たくなる作品だ。93年の『めぐり逢えたら』ほどではないにしろ、クリスマス映画ですね。
そういう意味では、この映画のクライマックスで描かれるサプライズは、ルーシーにとって最高のプレゼントだろう。
このクライマックス、改札事務所に集まった家族の表情がとっても良い表情をしていて、実に微笑ましいラストです。

欲を言えば・・・という点はあるにはあるけれども、そこそこ満足させられる作りなので及第点レヴェルでしょう。

90年代はこういうラブコメがコンスタントに作られて、ヒットしたのは勿論のこと、
出来が良い作品も多かったので、ある意味でハリウッドのプロダクションでは鉄板化されたジャンルでした。
それゆえ、批判も多かったと記憶はしてますけど、あらためて本作のような心温まる映画を観ると、実に心地良い。
最近の映画界の傾向も変わっているように感じますが、こういう映画もコンスタントにヒットする市場であって欲しい。

そういう意味では、サンドラ・ブロックやメグ・ライアン、ジュリア・ロバーツ、キャメロン・ディアスといった時代を彩った、
ラブコメを“主戦場”とした女優さんたちの活躍は、なかなか目覚ましいものがあって、今思えばスゴかったですね。

正直、今は彼女たちに匹敵するような存在のアイコンのような女優さんがいないですしね・・・。

(上映時間103分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ジョン・タートルトーブ
製作 ジョー・ロス
   ロジャー・バーンバウム
脚本 ダニエル・G・サリバン
   フレデリック・リボウ
撮影 フェドン・パパマイケル
音楽 ランディ・エデルマン
出演 サンドラ・ブロック
   ビル・プルマン
   ピーター・ギャラガー
   ピーター・ボイル
   ジャック・ウォーデン
   アリー・ウォーカー
   グリニス・ジョンズ
   ミコール・マーキュリオ
   モニカ・キーナ