恋人たちの予感(1989年アメリカ)

When Harry Met Sally...

シカゴからニューヨークへの旅を、“便乗”から共にした男女が、
お互いにいがみ合い、時に慰め合いながら近づいては離れるを繰り返す11年間を描いたラブ・コメディ。

ある意味で、80年代の象徴のような洗練された雰囲気のある大人な恋愛映画ですが、
正直言って、ビリー・クリスタルとメグ・ライアンというコンビは微妙なのではないかという先入観があったけど、
いざ本編を観てみると、その先入観は的外れなもので、予想外なほどに悪くないコンビではありました。

83年の『シルクウッド』で評価された女流脚本家ノーラ・エフロンが
初めてハートウォーミングなストーリーを描いた作品で、当時のアメリカでは若者たちのバイブル的な作品に
称えられるぐらいのヒット作となり、90年代に入って彼女が監督デビューするキッカケとなった気がします。

ただ、個人的には本作の出来自体は及第点レヴェルというか、
特に強く心揺さぶるものがあるわけでもなく、当時の時代性も本作のヒットを後押ししたのではないかと思います。

映画のテーマとしても、恋愛感情、肉体関係なく男女の友情は成立するのか?という
ある種、不変的な男女の関係性を扱っていますが、これは万国共通のテーマでしょう。
本作はこのテーマに、真正面からぶつかっているのですが、日本でも似たようなテレビドラマがあったはずです。
そう考えると、本作の存在はかなり先進的というか、カリスマ的作品であったと言っても過言ではありません。

ハリウッドでもそうだと思うのですが、バブル経済期のような
それまでの反体制を訴えることがトレンドから外れ、いわゆる“新世代”として21世紀に活躍する
人材として期待されていた、80年代に学生として過ごした世代における、恋愛像の総括的作品でもあったと思う。

タイミング良く、本作は80年代の終わりの夏〜冬に劇場公開されただけに、それは尚更のこと。

当時の映画ファンにも、きっとそのように映ったであろう作品で、
そろそろ中堅と言われる世代に差し掛かった世代の恋愛で、21世紀に入る頃は社会で経営者として活躍したり、
世の中のリーダー的存在として活躍するであろうと思われた世代だからこそ、彼らがどのように価値観を形成し、
家族という在り方を作っていくのか、それが一つ注目の的であったのでしょう。ましてや“新世代”ですし。

思えば、80年代半ばはハリウッドでも“ブラット・パック”と称された若手俳優たちが、
席巻した頃で数多くのヒット作が製作されましたが、それを総括するような作品はなかなか見当たりません。

別にビリー・クリスタルも、メグ・ライアンも“ブラット・パック”に該当する俳優ではありませんが、
彼らが演じた世代というのは、90年代は差し掛かる頃に30代前半という年齢層であり、
正に“ブラット・パック”、若しくは当時の“新世代”の今後を演じたということになるかと思います。

そういう意味では、ビリー・クリスタル演じるハリーは口うるさくはないが、妙に理屈っぽく、
メグ・ライアン演じるサリーは快活でアクティヴ、性に対しても大らかで抵抗感を示さない。
二人が例えて劇中よく会話していた、名作映画『カサブランカ』でハンフリー・ボガートとイングリット・バーグマンが
演じた男女のロマンスとは似ても似つかない構図なのに、お互いに自分に当てはめようとしているのが妙だ。

ただ、こういう会話自体が時代を感じさせますね(笑)。
こういう会話を洗練されたオシャレだとされていた時代こそが、30年前のトレンドっぽい(笑)。
まぁ僕には悪い意味で時代遅れだと感じるよりも、映画の空気が古びずに生き生きとしているようには感じますがね。

偶然なのか狙ったのか分かりませんが、監督のロブ・ライナーはそういった時代性に上手く乗りましたね。

とは言え、もう少し映画の終盤は上手くできなかったものかと感じています。
僕がこの映画にそこまでの思い入れが生まれず、強い感銘を受けなかったというのは、
ハリーとサリーの心の揺れ動きという観点から、クライマックスまでの持って行き方が上手くなかったからだと思う。

やはりロマンチック・コメディはストーリー的にも意外性を“売り”にすることはまずないのだから、
だからこそ映画の終わり方、そしてそのエンディングへの持って行き方が大きなポイントになってくると思います。

ロブ・ライナーは恋愛映画を何本も手掛けていますが、いつも感じるのですが、
そのエンディングへの持って行き方があまり上手くない。恋愛映画の“美味しい”部分が、作り込めていない。
やはり、恋愛映画というのは恋心が芽生えるところと、成就に至るまでの過程さえできていれば、上手くいくはずです。
この辺は作り手の経験値も大きく影響すると思うのですが、良く出来た映画とそうでない映画の差が大きいです。
往年の名作と言われる作品群から、この恋愛というのは映画で数多く描かれてきたことですからねぇ。

そういう意味では、もう少しハリーとサリーのキャラクターについては、
万人ウケする性格的な良さを表現した方が良かった気がします。2人とも、性格的にはおそらく賛否両論ですね。

特に映画の冒頭から、シカゴからニューヨークへの道中、
ハリーはひたすらサリーに絡むのですが、これが如何にも女性ウケしなさそうな絡み方で、
サリーはサリーでチャーミングなルックスではあるものの、性格的には勝ち気でどこか気も短い(笑)。

当時の年配の方々から見ると、2人の性格や行動は受け入れ難いところがあったのかもしれません。
特にサリーは、かの有名な疑似絶頂をカフェで表現するシーンなんかを見るに、嫌われるでしょう(笑)。
(でも、そんな彼女を見て年配の女性が「アタシもカノジョと同じのを」と注文する“オチ”が妙に可笑しい)

60年代までだったら考えられない男女関係ですが、
おそらく当時はこういった在り方が新しかったのでしょうし、オシャレに映ったのでしょうね。
シナリオを書いたノーラ・エフロンがどう考えていたのか分かりませんが、恋愛も肉体関係もない男女の友情が
成立するのか、というテーマに対する答えは、映画本編を観てからのお楽しみというところなのですが、
サリーとハリーの心の揺れ動きを、繊細に表現できたという点で、このシナリオは評価されるべきですね。

ちなみにメグ・ライアンは本作で注目され、90年代はハリウッドを代表する“ラブコメの女王”になります。
一方、全米では有名だったビリー・クリスタルも、映画出演が増え、アカデミー賞の司会にも複数回抜擢され、
世界的にも彼の知名度がアップするキッカケとなる作品になりました。2人にとっての出世作となりました。

(上映時間95分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ロブ・ライナー
製作 アンドリュー・シェインマン
   ロブ・ライナー
脚本 ノーラ・エフロン
撮影 バリー・ソネンフェルド
編集 ロバート・レイトン
音楽 ハリー・コニックJr
出演 ビリー・クリスタル
   メグ・ライアン
   キャリー・フィッシャー
   ブルーノ・カービー
   スティーブン・フォード
   リサ・ジェーン・パースキー
   ミシェル・ニカストロ

1989年度アカデミーオリジナル脚本賞(ノーラ・エフロン) ノミネート