人生万歳!(2009年アメリカ)
Whatever Works
まぁ、内容的には如何にもウディ・アレンらしい映画であって、
思わずニヤリとさせられる、まるで『アニー・ホール』の後日談のような映画ではあるのですが...
もはやウディ・アレンというブランドだけで通すには、神通力が弱まっているような気がした、というのが本音。
個人的にはウディ・アレンには、こういうバ●バ●しさを求めているので面白かったんだけど、
無いものねだりをして申し訳ないが、この映画はあと10年は早く作って、ウディ・アレンが自分で主人公を演じた方が
良かったと思う。と言うのも、この映画の主人公はウディ・アレン自身の等身大とも言えるキャラクターで彼そのものだ。
実は70年代の時点で、本作の構想はあって、映画向けの脚本として具現化したのが最近とのことで、
既に映画化する意味でのフレッシュさ、というのを失っていたと言っても過言ではないような気がします。
いや、僕は本作、十分に面白かったし楽しめたんだけど、
それはウディ・アレンの映画がどんな特徴か分かっていて、且つ彼の独特なユーモアとギャグを織り交ぜて
描いたコメディが好きだから、という前提条件があるからだと思う。そうでなければ、本作は楽しめないと思う。
誰しも気軽に楽しめるというわけではなく、どちらかと言えば、「映画から観客を選ぶタイプの作品」だと感じました。
言っても仕方ないけど、かつてのウディ・アレンはそれでも押し通してしまうパワーがありましたからね。
もう本作にそんなパワーは感じられないですよ。そこはウディ・アレンも開き直っているのかもしれませんがね。
「いつも同じ調子の映画だ」と批判されてしまうこともあるウディ・アレンの映画ではありますが、
僕は私生活のウディ・アレンはともかくとして、こういう●カ●カしい喜劇を撮らせたら唯一無二の映画を撮るし、
別に洒落たセンスも期待してないし、いつまでも“進化”せずにこういう映画を撮り続けて欲しいと思っている。
それがウディ・アレンという人だとしか思えないからだ。「分かる人が分かってくれればいい」とまでは本人は
思ってないかもしれないが、そんな独特なスタイルで映画界で活躍したのだから、このスタイルが認められたわけで。
僕はそういう人は、自分の表現したいことをやり続けられる特権をもらったようなものなのだから、
彼のスタイルを理解できる人にだけ映画を撮る、という割り切りがあったっていいと思っているのですよね。
ただ、ウディ・アレンって、元々2つの側面があって、本作のようなコメディとシリアスな映画を撮ることもあるので、
僕はどちらかと言えば、ウディ・アレンのシリアスな映画が苦手なので、あまり偉そうなことも言えませんが・・・。
主演のラリー・デビッドも頑張っているし、ヒロイン役のエヴァン・レイチェル・ウッドも
おそらくはウディ・アレンなりに当時はプッシュしたかった若手女優だったのだろうと、よく分かる描き方をしていて、
時にシニカルではあるが、ラストには大円卓という感じで、とても温かいところがあるウディ・アレンの良さが溢れる。
しかし、本作は日本でもそうだけど、本国アメリカでもあまり手厚い扱いを受けておらず、
すっかり斜陽な存在で劇場公開されており、個人的には残念でありながらも、確かに本作は悪く言えば進歩がない。
映画は偏屈でリタイアしたばかりの物理学者ボリスを主人公に展開していきます。
彼は性格的に難があり、仕事をリタイアして悠々自適な生活かと思いきや、全く日常生活からワガママ言い放題。
近所の子供にチェスを教えるものの、大声で罵倒したり叱責したりして教えるという頑固さで、誰もが近寄り難い。
毎日、気の知れた古い友人たちとしか付き合わず、人間関係としても極めて狭い。長年連れ添った妻とは、
自らの自殺未遂をキッカケに離婚し、ニューヨークの家賃が安く、古く汚いアパートで孤独で閉鎖的な一人暮らし。
(かつてはノーベル賞の候補になったと自称してますが、どこまで真実なのか分かりません・・・)
そんな彼の孤独な毎日に突如として訪れたのは、故郷のアメリカ南部の田舎でミスコン荒らしをするように、
数々のミスコンに出場し、大都会での成功を夢見る若い娘メロディ。最初は「何かを食べさせて欲しい」と言い、
ボリスの部屋に強引に入り込むのですが、何故かボリスと話すうちにメロディは彼に恋をしていると言ってくる。
いつしか不思議な同棲生活が始まり、なんと結婚までしてしまいます。
映画の中では、彼らの間に恋愛感情や肉体関係があったのかは明確に描かれませんが、
メロディはメロディで、他の同年代の若い女の子たちとはチョット違った恋愛観を持っているようで、ボリスとの日々に
彼女なりに満足しているように見え、頑固で偏屈だったボリスの性格も少しずつ懐柔するように親しんでいきます。
これは若き日のウディ・アレンの映画にも共通して言えることですが、
彼が映画で描く主人公の男は独特な価値観や性格で、全く他を寄せ付けないような部分があるのですが、
何故か理由は分からないが、若く美しい女の子からモテる。まったくもって、羨ましいじゃないか(笑)。
こんなことは現実にあり得ません。しかし、その前提から始まる映画ですので、やがてモテない男の夢は破れる。
ボリスもメロディとの日々を積み重ね、徐々に性格も穏やかになっていくかのように
彼女のペースに合わせるような面を見せ始めるのですが、心のどこかで彼女との生活に安住していたのだろう。
口では皮肉を言っていても、メロディがいて当たり前の生活になっていたのでしょう。観ていて面白かったのは、
あんな頑固者のボリスであっても、いざメロディから新しい恋を告げられると、チョット驚いた顔をしていることだ。
映画の序盤のボリスの性格からいけば、考えられないくらいの反応だったわけで、
どんなオッサンになってもキュンキュンする心を忘れてはならない、ということなのかもしれませんね(笑)。
ボリスとメロディの結婚生活も、ボリスの性格と全く合わないメロディの母親が突撃してきたり、
妻を裏切ったクセに堂々と娘を取り返しにきたと、メロディの父親もやって来たりと、大きく混乱させられます。
そして決定打となるのは、前述したメロディから新たな恋を告げられることなのですが、そこからは力技です(笑)。
ウディ・アレンからは、まるで「身の丈に合った、正直な恋をしなさい」と言われているような気がしますね。
(時代に合わせたような恋愛の多様性というエッセンスを入れたのは、少々ウディ・アレンの嫌味を感じたけど・・・)
ただ、さすがにラリー・デビッド演じる偏屈な爺さんに、20歳そこそこの若い女の子が近づいてきて、
いつしか結婚してしまうなんて、ありえなさ過ぎる(笑)。僕なら、絶対に何か“裏”があると思っちゃいますね(笑)。
こういう前提を堂々と恥ずかしげもなく描けてしまうのがウディ・アレンなのでしょうが、これは賛否が分かれるかな。
しかし、そのまま素直に映画を終わらせない照れ屋さんなところがウディ・アレンらしくって、
思わずニヤリとさせられるのですが、本作では決してうぬぼれたまま終わるわけではなく、少し前向きな感じはする。
でも、かつてのウディ・アレンならメロディの母とぶつかりながらも、恋してしまうくらいの離れ業を描いたかもしれない。
いつまでも実に彼らしい映画を撮り続けてくれることは嬉しいのですが、少しずつ変わってきたのかもしれません。
本作最大の難関は、まるでウディ・アレンを投影させたような主人公の偏屈な性格をどこまで許せるか?ですね。
前述したように主演のラリー・デビッドが好演ではあるのですが、キャラクター的にはまんまウディ・アレン自身。
基本、神経質だし何に対しても絡んでいくし、会話でも毒を吐きまくるので不快だと感じる人も少なくはないだろう。
オマケにキャストに意図的に観客に向かって話しかけさせる手法も賛否が分かれるだろうし、一種独特な作品だ。
ある意味で、ウディ・アレンの映画をよく分かっている、一見さんお断り≠フ感覚に近いところがあるけど、
だいたいのウディ・アレンの映画がそんな感じなので、そこは予め理解した上で本作を観た方が良いでしょうね。
しばらくニューヨークから離れていたウディ・アレンでしたが、本作では久しぶりにニューヨークを舞台にしました。
ただ、かつての映画のようにニューヨークの“表情”の一つとして人間模様や恋愛模様を描いたという感じではなく、
あまりニューヨークの街並みが強くは出てこない。まぁ、映画の中でニューヨークを描くことに意味が無くなったのか、
偶然なのかは分かりませんが、本作以降も再びニューヨークを離れましたので、何らかの心境の変化はあるのだろう。
2010年代後半に入ると、#MeToo運動でウディ・アレンはハリウッドでも居場所を失いますので、
より厳しい立場に追い込まれていると思います。年齢も年齢だし、もうかつての輝きを取り戻すことは難しいだろう。
本作はまだウディ・アレンが“干される”前の監督作品ですので、
そういったスキャンダルの影響は感じさせませんが、それでも少しずつ何かが変わりつつあった時期ですね。
やっぱり長く独特なスタイルを貫き通すにも、彼を取り巻く環境も既に大きく変わっていたのかもしれませんね。
ところでボリスが物理学の研究者だったという過去に影響されるシーンが一つだけあって、
突如として若い男とキスしてしまったメロディが、思わず「エントロピーについて考えてしまった・・・」と
驚いた表情でコメントします。後からジワジワ考えが及びましたが...何気にこの熱力学の例えが、深いですね(笑)。
(上映時間90分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
日本公開時[PG−12]
監督 ウディ・アレン
製作 レッティ・アロンソン
スティーブン・テネンバウム
脚本 ウディ・アレン
撮影 ハリス・サヴィデス
編集 アリサ・レプセルター
出演 ラリー・デビッド
エヴァン・レイチェル・ウッド
パトリシア・クラークソン
ヘンリー・カヴィル
エド・ベグリーJr
マイケル・マッキーン
コンリース・ヒル
キャロリン・マコーミック
ジョン・ギャラガーJr
ジェシカ・ヘクト