人生万歳!(2009年アメリカ)

Whatever Works

ホントはウディ・アレンが話しの骨格を70年代に完成していたらしく、
初版の事情で映画化が長いこと、お蔵入りになっていた企画なのですが、
ウディ・アレン、72歳になってようやっと陽の目を見た、偏屈オヤジの皮肉を描いたコメディ映画。

内容は如何にもウディ・アレンらしい、ブラック・ユーモアとペーソス溢れる、
シニカルな姿勢に満ち溢れた作品になっており、まずまず安心して観れる映画にはなっている。

しかし、少しパンチ力は衰えたかなぁ。
かつてのウディ・アレンの監督作品はもう少し、パンチ力があったような気がするのですが、
どうも本作は全体的に力強さや、演出のキレといったものは弱かったような印象が残ります。
そういう意味で、昨今のウディ・アレン監督作品としては、少し落ちる出来かもしれません。

まぁ04年の『メリンダとメリンダ』以降、しばらくイギリスなど欧州に舞台を移して、
創作活動を続けておりましたが、本作では5年ぶりにホームタウンであるニューヨークで映画を撮っています。

本作ではかつてノーベル物理学賞候補にも挙がったような能力があった物理学者が、
すっかりニューヨークで隠居状態になったものの、長年連れ添った夫人と意見の衝突の末、離婚。
そんな彼がひょんなことから出会った、家出少女が部屋に転がり込んできたことから、
不思議な同棲生活から、やがては結婚にまで至る急転直下な日常を描いています。

まるで『アニー・ホール』でウディ・アレン自身が演じた役柄の分身であるかのような、
実際に近くにいたら、如何にも面倒クサそうな爺さんが主人公なのですが、
主人公がカメラに向かって、色々と問いかける姿まで、まんま『アニー・ホール』なんですね。

ただ、一つだけ難点なのは、この主人公の偏屈さだけが強調されたことですね。
映画の中で彼が有能な物理学者であったことを垣間見れる側面は一切描かれないし、
日常の会話の中から、彼がとてつもないキレ者である側面も垣間見れない。
これではさすがに“口だけ”の爺さんが、あーでもない、こーでもないと生きる上での価値観について、
ひたすら一方的に持論を展開しているだけで、ある意味で『アニー・ホール』でウディ・アレンが演じた、
主人公アルビーよりもタチの悪い爺さんのように映ってしまったのは、とても残念ですね。

ただでさえ、ウディ・アレンの映画は好き嫌いがハッキリと分かれるとは思うのですが、
さすがにこれでは、ただの偏屈爺さんの映画というだけで、否定派の人の方が多くなりそうですね。。。

個人的には、何度でも言いますが...
ウディ・アレンの映画は、もっとバカバカしい小さなことでドタバタするような喜劇の方が
魅力的な映画になっているような気がしますがねぇ。まぁこれはこれでウディ・アレンらしい映画なんだけど。。。

ウディ・アレンは本作の企画を映画化させるのが、チョット遅すぎた気がしますね。
映画の題材としては、面白くなりそうな雰囲気はあるのですが、どうも『アニー・ホール』の頃と比べると、
ウディ・アレンの作風にパンチ力に欠けるせいか、映画の最後の最後まで盛り上げられなかった印象です。

やはりこの企画は10年ぐらい前に映画化させて、
主人公をウディ・アレン自身で演じた方が『アニー・ホール』との相関という意味で、面白くなった気がします。

そういう意味では、本作を観ていて、ずっと気になっていたのですが、
どうも“旬な”時期を過ぎてしまった企画という気がしてならないんですよね。
これが適齢期に、主人公をウディ・アレンが演じていたら、もっと映画は話題になっていたと思うんですよね。
ひょっとしたら、ヒロインを演じる女優さんが上手くキャストできなかったのかもしれませんが、
ラリー・デビッドはよく頑張っているとは言え、どうしても『アニー・ホール』と比較されてしまうとツラいですね。。。

エヴァン・レイチェル・ウッドは魅力的な女優さんですが、
できることなら、映画の序盤で彼女が最初にフレームインするカットは、もっとキレイに撮って欲しかった。
シチュエーションがシチュエーションなだけに仕方ない部分もありますが、僕はこの状況で主人公が
彼女を部屋へ入れることを容認する理由が、同情であったかのようなニュアンスになるのは納得性に欠けるかな。
(精神的に難しい状態であったはずの主人公が、あの程度で彼女に同情的になるとは思えない・・・)

ウディ・アレンは一時期、スカーレット・ヨハンソンにご執心だったようですが、
確かに本作のヒロインとするには、スカーレット・ヨハンソンは年をとり過ぎていたのかもしれません。
但し、ウディ・アレンの関心がエヴァン・レイチェル・ウッドに移ったのかというと、そういうわけではないようです。

キャスト面でも、やや“華”が少なかったせいもあり、
おそらく日本の映画会社も、興行収入面での心配があったことが拭えなかったのでしょうね。
残念ながら、本作は日本でも大きく遅れて、劇場公開に至ることとなり、不遇な扱いを受けることとなります。
本音を言えば、もっとスポットライトを当ててあげて欲しい作品なんだけど、この心配は仕方ないかなぁ〜。

ウディ・アレンの映画って、最近はオシャレなミニシアター系作品として
扱われることが多くって、『それでも恋するバルセロナ』なんかは評価も高く、ヒットしたのですが、
それでもさすがに本作の内容、出来ではおまり大きなヒットは狙えないとの予想も、的外れとは言えないかな。

前述したように、僕は『アニー・ホール』の後日談として描けば、もっと話題にできただろうと思います。
あまり『アニー・ホール』は好きな映画ではないのですが、主人公が観客に向かって語りかけたり、
主人公の偏屈さをやたらと強調したりと、『アニー・ホール』と重ね合わせ過ぎた感は残りますね。

最終的には“終わり良ければ、全て良しじゃないか”という主張に至るのは、
如何にもウディ・アレンらしいが、若き日の毒っ気が抜けて、まるで達観したような境地に至り、
まるでウディ・アレンが年老いてしまったかのような気にさせられてしまうのは、チョット寂しいかなぁ。
確かに主人公に次から次へと、皮肉を言わせているのですが、どこか表層的なのが気になるかな。
何かコメディアン、ウディ・アレンとして、違う見地から恋愛観を語っているかのような映画です。

だってさ、偏見かもしれないけど...
ウディ・アレンが「人生って、なんて素晴らしいんだぁ!」なんて、本気で言ってるなんて、信じられないでしょ(笑)。

(上映時間90分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

日本公開時[PG−12]

監督 ウディ・アレン
製作 レッティ・アロンソン
    スティーブン・テネンバウム
脚本 ウディ・アレン
撮影 ハリス・サヴィデス
編集 アリサ・レプセルター
出演 ラリー・デビッド
    エヴァン・レイチェル・ウッド
    パトリシア・クラークソン
    ヘンリー・カヴィル
    エド・ベグリーJr
    マイケル・マッキーン
    コンリース・ヒル
    キャロリン・マコーミック
    ジョン・ギャラガーJr
    ジェシカ・ヘクト