ホワット・ライズ・ビニース(2000年アメリカ)

What Lies Beneath

原題は“どんなウソもお見通し”という意味。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などで知られるロバート・ゼメキスが、
珍しくも夫婦関係の悪化がもたらす、心理的混乱を描いたサスペンス・スリラーで、
さり気ない部分で、贅沢にCGを使ったことでも話題となった、全米ヒット作。

映画の出来としては、正直言って、及第点レヴェル。
ロバート・ゼメキスとしては、予想以上に普通な話しだったので、意外ではありましたが(笑)、
割りと基本に忠実で、サスペンス映画の王道を行くかのような演出で、しっかりと緊張感を出せていると思います。

まるでヒッチコックに影響されたかのようなシーン演出も随所に見られ、
これまでのロバート・ゼメキスの監督作品には無かったような、新たな魅力を引き出せていると思う。

まぁ正直言って・・・色々と、ツッコミどころの多い映画ではあったのですが、
個人的には何より主人公の妻を演じたミシェル・ファイファーが、悪女風にハリソン・フォード演じる主人公を
誘惑するシーンをはじめとして、大人の女性の色気が健在であることを証明していることが嬉しいですね(笑)。
(クドいようですが...相変わらずのミシェル・ファイファーのファンなんですよね・・・)

物語はかつて交響楽団の演奏者として腕を上げたシングルマザーのクレアが、
有能な大学教授ノーマンと恋愛の末に結婚したことから始まります。ヴァーモント州のとある湖畔にそびえる、
邸宅にて暮らす幸せな毎日でしたが、クレアは周囲で起こる不可解な現象に頭を悩ませてしまいます。

隣家の心理学教授の夫婦関係も怪しむようになり、
次第に彼女の中で育まれた妄想を抑えきれなくなり、つい感情を表に出してしまいます。
結局、クレアは精神科医へ相談することになるのですが、それでも周囲で不可解な現象が相次ぎ、
友人と行なった心霊現象を呼び込む儀式の影響のあり、彼女の不安は無くなりません。

そんな中、突然、自らの記憶が途絶えている過去を思い出し、
彼女の身の回りで起こった、過去の恐るべき出来事が次第に明らかになり、彼女は恐怖と闘うことになります・・・。

まぁ映画の主題は、夫婦関係にまつわるイザコザではあるのですが、
映画の序盤はすぐにそれが分からないように、クレアが愛娘を送り出すことによって、
心に大きな穴がポッカリ空いてしまって、それをノーマンとの夫婦関係によって埋め合わせようとしたり、
いきなり物語の主題に入らないなど、ロバート・ゼメキスなりの工夫がしっかりと凝らされている。

ただ、この映画の大きな難点はクライマックスのお粗末なタネ明かしと、攻防だろう。
いくらなんでも、僕にはチョット雑な描写に感じられたし、一気に興冷めしてしまった感があります。
せっかくそれまでは良い流れだったのに、最終的に映画が及第点レヴェルに収まってしまったのは、これが原因。

映画の中盤は、クレアが隣家の夫婦のドメスティック・バイオレンス[DV]を疑ってしまって、
感情が高ぶったクレアが、大学に乗り込んでいって、隣家の亭主に殺人を叱責しに行ったり、
湖面に沈められた疑いがある女子大生の顔が、湖面に浮かんだりする描写はまずまずの出来だ。

しかし、ここからクライマックスの攻防に入ってからの描写は良くない。
突然のように、クレアが過去の出来事を思い出し、家のバスタブで全てのタネ明かしに至ってからは
あまりに低俗な映画に成り下がってしまった感が残ります。これは作り手も、もっと慎重に撮って欲しかったなぁ。
おそらくロバート・ゼメキスも、夜の橋を渡る車の全体のショットをCGで表現することに必死だったのだろう(笑)。

尺の長さも2時間を超える結果となってしまったので、
全体的には冗長な傾向にあり、もう少しスリムにする必要はあったかもしれませんね。

それと、ヒッチコックに影響を受けたようなシーン演出はあるにはありましたが、
強いて違うところを挙げれば、本作は深層心理よりも超常現象に言及しているのですが、
ヒッチコックはむしろ超常現象ではなく深層心理に言及した作品が多いような気がしますので、
映画の中身までヒッチコックの影響を受けているとは言い難いような気がしますけどね。

ベーシックなシーン演出ではありますが、クレアが隣家を覗き見していて、
隣家の亭主の居間での動きを見失って、双眼鏡をあちらこちらに向けていたところ、
たまたま向けた、部屋の窓から隣家の亭主が、覗き見するクレアを“ガン見”していたというシーンは良かった。

そういう意味では、個人的にはもう少しクレアの深層心理にあるものを描いても良かったと思う。
さすがに超常現象に安直に飛びついてしまったような印象があり、まぁロバート・ゼメキスらしいと言えば、
それはあながち間違ってはいないとは思いますが、逆に映画が安っぽくなってしまったかもしれません。

とは言え、映画の中盤までの出来は評価に値する。
特にクレアの心理状態が混沌としてきて、周囲の現象が全て気になって仕方がなく、
何でも猜疑的な視線で見てしまう心理状態に陥る過程が、キッチリと描けており、これはなかなかの出来。
ここまでロバート・ゼメキスが表現できたというのは、大きな成果だと思いますけどね。

確かにロバート・ゼメキスは85年の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で一世を風靡しましたが、
90年代に入ってからのロバート・ゼメキスの創作活動は、個人的には今一つという印象があったので、
本作は21世紀に向けて、彼の次なるステージを築いた作品として、最適な作品だと思いますね。
(でも、本作と『キャスト・アウェイ』を撮って、また沈黙の時代に入っていくんですけどね・・・)

まぁこういう言い方は申し訳ないけど・・・
ハリソン・フォードは平均的な存在で、特筆すべき点は見当たらなかったけれども、
やはりこういう映画でのミシェル・ファイファーは良い(笑)。クライマックスは半ばご都合主義ですが、
ミシェル・ファイファーはほとんど出ずっぱりで、孤軍奮闘している感じですね。
その差を論じることは難しいですが、これがニコール・キッドマンでは務まらなかった役柄という気がします。

どうでもいいけど・・・
こういう映画を観ると、ホントにロバート・ゼメキスはもっと映画を撮って欲しい...と思うんですよねぇ〜。

(上映時間129分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ロバート・ゼメキス
製作 スティーブ・スターキー
    ロバート・ゼメキス
    ジャック・ラプケ
原案 サラ・ケルノチャン
    クラーク・グレッグ
脚本 クラーク・グレッグ
撮影 ドン・バージェス
編集 アーサー・シュミット
音楽 アラン・シルベストリ
出演 ハリソン・フォード
    ミシェル・ファイファー
    ダイアナ・スカーウッド
    ジョー・モートン
    ミランダ・オットー
    アンバー・ヴァレッタ
    ジェームズ・レマー