トラブル・イン・ハリウッド(2008年アメリカ)

What Just Happened

個人的な意見を述べさせてもらえば...
ハリウッドが自らの手で、映画界の内幕を描いた映画って、あんまり好きじゃないんですよね。。。

そりゃ別にテーマは自由だし、作っちゃいけないってわけじゃないんですが、
身内ネタで盛り上がってるだけに見えちゃうし、「ホラ、オレたちって、これだけ大変なんだぜ!」みたいな、
これ見よがしな自分たちの大変さ自慢大会みたくなっちゃって、エンターテイメントとして魅力を感じない。

で、本作は『ファイト・クラブ』などのプロデューサーとして、
ハリウッドで活躍するアート・リンソンが自らの実体験を活かして、ハリウッドで活躍する
映画プロデューサーが私生活や仕事上で遭遇する、様々なトラブルに同時進行的に悩まされ、
何とか無事に切り抜けようとする姿を描いた、ハリウッドの内幕をシニカルに描いたコメディ映画というわけ。

監督のバリー・レビンソンはかつて『ワグ・ザ・ドッグ −ウワサの真相−』で、
デ・ニーロをスキャンダルをもみ消すことに躍起になる業界人として起用した過去があり、
本作もデ・ニーロを似たような役柄で出演させ、彼以外にも実に豪華なキャストで映画化しました。

しかしながら、結論から申し上げますと、映画の出来は今一つ。
残念ながら観る前の僕の勝手な予想を、良い意味で裏切ってくれることなく、
ある意味で堅実に予想通りの内輪ネタに終始する映画以上の内容にはなっておりませんでしたね。

確かに実話に基づいて、ある意味、生々しくストーリーを構成したためか、
シニカルな笑いも、部分的には面白いシーンはあったと思うし、特に本人役でゲスト出演となった、
超ワガママなハリウッド・スターのブルース・ウィリスの扱いなんかは、映画ファンなら楽しめるネタだ。
(本人以外にとっては、どうでもいいこととしか思えない、ヒゲを巡って映画の最後まで引っ張るのが凄い・・・)

でも、やっぱり内輪ネタは内輪ネタにしかすぎないって感じですね。。。
どこまで事実に忠実に描いたのかまでは分かりませんが、映画の編集を巡るエピソードは
01年の『アメリカン・スウィートハート』と似たような部分があって、いくらなんでも飛躍し過ぎている気がする。

さすがに再編集してカンヌ国際映画祭で上映するのですから、
出資者とプロデューサーでカンヌにフィルム持って行く前にチェックするだろうと、
これだけ現実世界での出来事を意識して構成された映画なのですから、どうしてもそういうツッコミを
入れたくなってしまいます。この辺が「●●だったら、面白いよなぁ?」と身内で盛り上がっているだけのように
感じられて仕方がない部分で、僕なんかはチョット冷めた視点から、この映画を観てしまいましたね。

まぁ・・・現実には、映画のプロデューサーは大変な仕事でしょうね。
出資者からは、ほぼ間違いなく映画の企画の責任者として見られるでしょうし、
それでいながら映画の内容を司るのは、監督であり役者や脚本家、撮影監督だったりするわけで、
そんな彼らのモチベーションを持ち上げながら、映画をなんとか成功に導かなければなりません。

本作なんかはデ・ニーロ自身も製作を兼務して、ノリノリな感じで企画が動いたみたいですから、
出演者のコントロールは行い易かったでしょうが、作品によっては出演者の扱いに困ることも多々ありますし。

でも、現実世界では本作の主人公のように“調整役”に回って、
大変な目にあうなんてことは、サラリーマンの世界でも普通にあることですからねぇ。
場合によっては、もっと逼迫した過酷な立場や状況に追い込まれるなんてことも、あるでしょうね。

往々にして、“調整役”って実務者と実務者の間に挟まれることになりますからねぇ。
確かに“調整役”自身だけの力で仕事は完了できないし、だけど一方でその仕事が完了しないと、
“調整役”の仕事として評価されることはありません。まぁ“調整役”も大変は大変なんだけど、
当然、実務者同士、それぞれに大変な事情はあって、それぞれに上手くいかない障害が存在することが多い。

実務者は実務者で、それぞれの立場で“調整役”に愚痴を言い、
「できない理由」、「上手くいかない理由」を言い訳するようになりがちですが、
“調整役”はそれらを上手く扱いながら、如何に実務者に良い仕事をしてもらうかがポイントになります。

まぁ・・・そのためには、ただ「やってください」というだけではダメなんですよね。
これは会社の上司と部下の関係に於いても似ていますが、僕は“調整役”の役割とは、
実務者に如何に質の高い良い仕事をしてもらうために、如何にその環境を整えて、結果を残してもらうかが、
“調整役”の仕事の評価基準になってくると思っていて、それはそれで難しさがあると思うんですよね。

そういう意味で、本作でデ・ニーロ演じる映画プロデューサーは
何とかして新作が再編集して、カンヌ国際映画祭で上映できるようにするため、
そして何とかして次なる新作に出演するブルース・ウィリスに、ヒゲを剃ってもらうために奔走します。

そこでこの映画、僕にとっては正直言って、ラストがイマイチだったんだよなぁ。
徹底してシニカルにフィニッシュを飾りたいという作り手の意向は分かるんだけど、
少なくともこの映画のクライマックスでは、何も訴求するラストにはなっていないと思うんですよね。
まぁ不条理であるということぐらいは分かるのですが、もっと主人公が私生活も含めて、
歯車が完全に狂って、どうしようもないぐらい全てが上手くいかないことを象徴するラストにして欲しかった。

ただのハリウッドの内幕を描いた映画という殻を破るためには、
主人公の人生の一部を活写する必要があったはずで、この映画は残念ながらその殻を破れていない。

それゆえ、どうしても映画の評価を高めることができなかったと思うんですよね。
バリー・レビンソンの手腕を考えれば、もっと違う観点からのドラマを展開できたはずなのです。

たぶん、本作を観て、日本の配給会社もそうとう迷ったんだろうなぁ(笑)。
日本での劇場公開が全米での劇場公開から、1年以上も遅れて、しばらく待機してましたからね(笑)。
確かにこういう内容になってしまっていては、日本でウケるタイプの映画か、凄くビミョーなとこですからね。。。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 バリー・レビンソン
製作 ロバート・デ・ニーロ
    アート・リンソン
    ジェーン・ローゼンタール
    バリー・レビンソン
原作 アート・リンソン
脚本 アート・リンソン
撮影 ステファーヌ・フォンテーヌ
編集 ハンク・コーウィン
音楽 マーセロ・ザーヴォス
出演 ロバート・デ・ニーロ
    キャサリン・キーナー
    ジョン・タトゥーロ
    ロビン・ライト・ペン
    スタンリー・トゥッチ
    マイケル・ウィンコット
    クリステン・スチュワート
    ショーン・ペン
    ブルース・ウィリス