何がジェーンに起ったか?(1962年アメリカ)

What Ever Happened To Baby Jane?

これは強烈なインパクトある、異様な映画でもある。

さすがは名匠ロバート・アルドリッチというか、62年当時の映画界を思うと、
やはり本作が製作されたインパクトや存在感というのは、一種独特なものであったでしょう。

ハリウッドを代表するくらい、プライドが高いことで有名だった、
名女優ベティ・デービスが、まるで地を行くようなほど気難しいというか、ハッキリ言ってクレージーなキャラで、
どうやら彼女自身が行っていたらしい、ステレオタイプなほどのドギツいメークが凄まじく、
スクリーンいっぱいから伝わりまくる、異様なほどのオーラとハラスメント感がありえないぐらい強い(笑)。

実際の撮影現場でも仲が悪く険悪な関係だったと噂される、
ベティ・デービスとジョーン・クロフォードですが、この2人が延々と繰り広げる陰鬱なまでの芝居合戦。

映画製作の場外戦とばかりにベティ・デービスとジョーン・クロフォードは
お互いに攻防を繰り広げていたようですが、そんな仕事に対する気合と、執拗なまでの敵対心を
お互いに映画の中でもぶつけ合い、結果として本作に底知れぬ凄まじいエネルギーを吹き込んでいる。
2時間を超える力作ではあるのですが、映画の尺の長さをまるで感じさせない収まり具合というのも、なんだかスゴい。

映画の出来は凄く良い出来で、2時間を超える上映時間の長さを感じさせない、
良い意味での映画のテンポの良さが光っていて、これは作り手の経験値の高さをあってこそだと思う。

どうやら、本作の映画化の企画自体は、
ロバート・アルドリッチとジョーン・クロフォードが早い段階から話し合っていた企画だったようで、
ベティ・デービスの起用を考えていたようなので、ジョーン・クロフォードはすぐに後悔したかもしれませんが・・・(苦笑)。

凄まじいぐらいのハラスメント攻撃、挙句の果てには監禁という行為に至っても、
やってる本人はその異常性の認識がなく、まるで当然の報いであるとまで思っていて、
映画のクライマックスでは、それでも華麗な姿にこだわる妹の姿に、異様なまでの過去への執着が描かれる。

本作を通してロバート・アルドリッチが描き通したことは、
当時としてはかなり先進的で、理解され難い異常性であったのかもしれませんが、
現代のサイコパスの発想にかなり近い精神構造が描かれており、それを当時は既にカラー撮影ができたはずなのに、
敢えて白黒フィルムで撮影して、陰鬱な空気感漂う、“触れてはならない”異常で倒錯した世界観である。

まるで主役を気取るかのように笑顔で砂浜でダンスする妹に対して、
それを無表情で取り囲む浜辺で遊んでいたはずの若者たち。その全てがどこか違和感がある空気感であり、
当時は社会派映画という位置づけだったのかもしれませんが、これはまるでホラー映画のようだとすら思いました。
(ひょっとしたら、ホラー映画だからこそ、あのジャケット・デザインだったのかもしれませんが・・・)

白黒で分かりにくいのですが、妹ジェーンを演じたベティ・デービスは
終始、顔に白いメイクを施して深紅の口紅で撮影にのぞんでいたようで、ヴィジュアル的にも異様なインパクトがある。

そしてブランチとジェーンの姉妹が暮らす古い屋敷も、どこか閉鎖的で陰鬱な空気感が漂う。
特に象徴的なのは、姉ブランチの部屋の窓で、まるで牢獄のようなイメージで印象的だ。
まるで姉が窓から隣家へ手紙を飛ばすシーンは、獄中から必死に手紙を届けように見えて、緊迫感がある。

ジェーンは幼い頃に父親から溺愛され、人気子役として自分をモデルにした人形が発売されるなど、
大フィーバーを経験したからこそ、大人になってからすっかり芸能界から見向きもされず、
反対に姉のブランチが大人の女優として映画界からスカウトされ交代していったからこそ、
ジェーンは精神的に屈折した部分を抱えたまま年老い、いつかは芸能界に返り咲く、自分を待っている人がいると、
ある種の妄想を抱くようになり、同時に姉のブランチへの劣等感と嫉妬心が複雑に絡み合います。

そして、私生活で負傷して半身不随になった姉ブランチの介護をすることになり、
ジェーンは悶々とした感情をブランチに向け、現代で言う介護者による虐待行為にでます。

ロバート・アルドリッチはどちらかと言えば、パワフルなタッチで男の世界を描くタイプの映画を撮っていましたが、
本作で評価されたことをキッカケに、64年に再びベティ・デービスを起用した『ふるえて眠れ』を撮ったりして、
彼なりに新境地を開拓することになったようで、“赤狩り”の時代を駆け抜けた名匠として評価が上がっていきました。

でも、本作でもロバート・アルドリッチの意地悪さといか、どこか観客に居心地の悪さを感じさせる、
雰囲気作りは素晴らしくって、終始、過去の栄光にすがりながら妄想の中に生きるジェーンの姿と、
なんとかしてこの苦境を切り抜けようとするブランチの苦闘が、見事にクロスオーヴァーしていて、
現代的な表現をすると、凄まじいほどにストレスフルな映画で、この一貫性は凄いなぁと感心させられる。

原作は読んだことがありませんが、映画のシナリオも良く書けているのでしょう。
ロバート・アルドリッチも当時としては、前衛的な内容であったにも関わらず、演出しやすかっただろうと思います。

当時としては、異例なほどに暗い内容の映画であり、
クライマックスにいたっては異様な構図で映画が終わります。まるでニューシネマのような映画ですが、
本作はアメリカン・ニューシネマの潮流の一作というよりも、ダークな社会派スリラーという様相から、
ビリー・ワイルダーが50年に製作した『サンセット大通り』からの影響を強く受けた作品という感じですね。

どちらかと言えば、ドメスティックな部分に焦点を当てながら、
これはこれで社会的な病理というか、後年に社会問題としてスポットライトが当たることになる、
介護者による虐待を精神異常を絡めて描いたというのは、もっと評価されていい先進的な作品だったと思います。

映画の設定では、ジェーンは子役としてデビューしながらも、
言わばアイコンとして人気を博していたにしかすぎず、永続的に大人の女優として活躍できるほどの
実力はないというのが周囲の評価であり、幼い頃からもてはやされたジェーン自身の境遇と彼女の成長が
上手くマッチせず、大人になってから芸能界での居場所を失ったジェーンの中で、過去に生きるようになります。

映画の中では深く言及してませんが、マネジメントしていた父親に問題があったのでしょう。
あらためて、子育ての難しさを感じさせる点で、エスカレートする恐ろしさを感じますねぇ。

しかし、本作はベティ・デービスはよくこの役を引き受けましたねぇ。
思わず感心させられます。彼女のキャリアからすれば、かなり野心的な仕事だったと思います。

(上映時間133分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ロバート・アルドリッチ
製作 ロバート・アルドリッチ
原作 ヘンリー・ファレル
脚本 ルーカス・ヘラー
撮影 アーネスト・ホーラー
音楽 フランク・デ・ヴォール
出演 ベティ・デービス
   ジョーン・クロフォード
   アンナ・リー
   ビクター・ブオノ
   メイディー・ノーマン

1962年度アカデミー主演女優賞(ベティ・デービス) ノミネート
1962年度アカデミー助演男優賞(ビクター・ブオノ) ノミネート
1962年度アカデミー撮影賞<白黒部門>(アーネスト・ホーラー) ノミネート
1962年度アカデミー衣装デザイン賞<白黒部門> 受賞
1962年度アカデミー音響賞 ノミネート