奇蹟の輝き(1998年アメリカ)

What Dreams May Come

先日、ロビン・ウィリアムスが他界した。

初期のパーキンソン病であるとの診断を受け、悩んでおり、
幾度となく“ためらい傷”を作った末の自殺で、おそらく自分の中でも葛藤があったのだろう。
最近は映画俳優としての活躍も少なかったように思ったし、キャリア面でも悩むことがあったのかもしれない。

僕は本作、劇場公開された頃をよく覚えています。
内容はどちらかと言えば暗いのですが、圧倒的な映像美で評論家筋にも褒められていた記憶があります。

監督のヴィンセント・ウォードはニュージーランド出身で、
92年の『エイリアン3』の製作などに参加して、ビジュアル・プロダクトに力を入れていたようで、
本作では当時の技術力を結集させて、CGによる圧倒的な映像美を見事に実現。
特に映画の序盤にある、主人公クリスの天国の世界を表現した映像の素晴らしさは、特筆に値する。

主演のロビン・ウィリアムスも、当時、97年の『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で
オスカーを受賞するなど、改めて彼の演技派俳優としての側面が再評価されていた頃で、
一つ一つの表情、台詞の間などが良いですね。この映画にとって、彼をキャストできたことは大きかったはず。

映画の中身は、出会ってすぐに結婚したアメリカ人夫妻が、
愛する2人の子供を不慮の交通事故で失い、数年後に続いて夫クリスも交通事故死してしまい、
死後の世界へやって来たクリスが、そこで出会ったアルバートという黒人青年から、
残された妻が自殺してしまったことを知り、自殺した人間が送られる違う世界へ旅立ち、
なんとかして妻を助け出そうと奮闘する姿をCGをふんだんに使用して描いたファンタジー・ロマン。

ロビン・ウィリアムスの最期を悟りながら観ただけに、
正直、この映画の内容はキツかったなぁ〜。整理のつかない心を抱えながら、観てしまった感じです。

ビジュアル・プロダクションは高い評価を得ましたが、
残念ながら全米をはじめ、興行収入面では成功を収めることができず、
結果的には収支が赤字で終わってしまったようで、当時としては“やや早過ぎた映画”だったのかもしれません。

しかし、劇場公開当時から大きな話題となった通り、
主人公の天国の世界をまるで油絵のようなタッチで表現したり、敢えて原色を映える構図にして、
色彩感覚を見事に活かした技法を駆使したアプローチで、映像的には文句のつけどころのない映画でしょう。

欲を言えば、これでもう少し中身が充実して、ビジュアル面と連動すれば、
もっと出来の良い映画に仕上がっていたはずなのですが、どうも中身は食い足りない部分が残りましたね。
この辺はヴィンセント・ウォードのディレクターとしての手腕も問題ではあるのですが、
あまり監督作品が少ない人のようですので、経験値の乏しさゆえ、仕方がないのかもしれません。

でも、これって映像だけの映画かと言われると、決してそんなことはなくって、
如何にもリチャード・マシソンの原作らしい展開ではありますが、死後の世界に行っても、
生前の愛する妻を救いたい一心で行動し、それを叶え、ホントに“永遠”という境地に達する感動や
誰もが知りえない死後の世界で、自分が生前、最も幸せだった時代、或いは思いを残した時代の家族と、
再び新たな世界を築けるというストーリーは、死後の世界の理想郷であると言ってもいいと思う。

そういう意味でこの映画は、理想の死後の世界を描いたということなのかもしれません。
死後の世界でもアドベンチャーはあって、幾多の困難を乗り越えて、理想を手にするという、
死後の世界を生きている世界と同化させるように描くというもの、決して前例が多くはないと思いますね。

あまり趣味の良い勘ぐりとは言えませんが、
パーキンソン病に悩み、精神的に上手くいかなくなってしまった俳優ロビン・ウィリアムスが
本作をどのように感じたのか、率直に知りたいなぁと思いますね。ひょっとすると、そんなことも考えられない
かなり混沌とした精神状態だったのかもしれませんが、本作を観て、僕はなんだか複雑な気持ちになりましたね。

主人公の妻を演じたアナベラ・シオラも90年代は数多くの映画に出演していたのに、
00年代に突入すると活動の中心をテレビドラマに変えましたが、最近はあまり見かけなくなりましたね。

個人的には92年の『ゆりかごを揺らす手』、93年の『最高の恋人』と
立て続けに規模の大きな映画に出演したときには、ハリウッドでもスターダムを駆け上がるのではないかと、
期待していただけに、最近はすっかり低迷してしまったかのように見えるのは、とても残念ですねぇ。

本作でも彼女は、精神的に不安定で、
すぐに崩れてしまうのではないかと心配になる繊細さを巧みに表現しており、
そこまで悪い仕事ぶりではないだけに、本作はキャスティング面でも実に恵まれたと思いますね。

ややもすると、スピルバーグの監督作品でもありそうなタイプの作品ですが、
感傷的な空気になる部分は最小化し、理想的な死後の世界を描くことに徹したのは正解で、
これは仮にスピルバーグが監督していれば、こういう内容にはなっていなかったかもしれません。
(ちなみにリチャード・マシスンはスピルバーグの初監督作『激突!』の脚本家でもある)

日本でもロビン・ウィリアムスは人気俳優であったためか、
彼の死は大きなニュースとして報じられ、今尚、そのショックは映画ファンを中心に残っているような気がします。

おそらく彼の出演作品の多くが、今、見直されているかとは思いますが、
その中で本作の価値も今一度、見直しして欲しいですね。傑作とまでは言いませんが、
「映像だけで中身が無い作品」と言われてしまい、どこか過小評価されてしまっている感があります。

ロビン・ウィリアムスが亡くなったからこそ、
この映画の内容を観ているのがツラいという気持ちも一方ではあるのですが、
人生を全うすることの尊さ、生きることの勇気について考えさせられる映画として、再評価を促したいですね。

どうでもいいけど、事故で失った子供たちが
クリスの前に別な人の姿で登場してくるのですが、この必要性って、何だったのだろうか?

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ヴィンセント・ウォード
製作 スティーブン・サイモン
    バーネット・ベイン
原作 リチャード・マシソン
脚本 ロン・バス
撮影 エドゥアルド・セラ
音楽 マイケル・ケイメン
出演 ロビン・ウィリアムス
    アナベラ・シオラ
    キューバ・グッディングJr
    マックス・フォン・シドー
    ロザリンド・チャオ
    ジェシカ・ブルックス・グラント
    ジョシュ・パドック

1998年度アカデミー美術賞 ノミネート
1998年度アカデミー視覚効果賞 受賞