おつむて・ん・て・ん・クリニック(1991年アメリカ)

What About Bob?

この映画はリチャード・ドレイファスの力が凄く大きい作品ですね。

長年、苦労してニューヨークで精神科医として成功し、
幸せな家庭を築いて、テレビ取材を含んだ1ヶ月のバカンスに出ようとしていた主人公が
病的なまでの潔癖性とパニック症候群で悩まされる、粘着質な患者ボブにつきまとわれたことから、
私生活での精神的なバランスを崩してしまい、ボブに猛烈なまでの敵意を剥き出しする様子を描いたコメディ映画。

確かに精神科医につきまとうボブを演じたビル・マーレーは見事に演じ切っていますが、
この映画はボブにつきまとわれ悩まされる主人公レオを演じたリチャード・ドレイファスが素晴らしい作品だ。

彼は70年代、ハリウッド期待の若手俳優として、
77年に『グッバイ・ガール』で当時、最年少のアカデミー主演男優賞を受賞したことによって、
彼の人生は狂ってしまったようで、コカイン中毒とアルコール依存症に陥り、不遇の80年代に突入し、
85年の『ビバリーヒルズ・バム』でカムバックするまで、幾多の苦労を経験したらしいのですが、
そんな苦労人だからこそ(?)、つきまとわれ悩まされ、精神的に混乱してしまう姿を演じるのが上手いですね。

えてして、こういう映画の場合、
ビル・マーレーが演じたような役柄の方が、映画の“おいしい部分”を持っていけることが多いのですが、
本作みたいに、リチャード・ドレイファス演じる振り回される役柄が上手いなぁと感心させられることは珍しいですね。

監督のフランク・オズはこの手のコメディ映画は数多く手がけていますが、
その中でも本作はひじょうに良く出来た作品だと思いますね。あまり日本ではヒットしなかったようですが、
個人的には90年代に製作されたコメディ映画としては、多くの人々にオススメしたい作品の第一位ですね。

映画も終盤になれば、かなりブラックな内容になっていくのですが、
ボブを演じたビル・マーレーが期待通りに、ウザったいので(笑)、作り手の狙い通りに映画が進んでいきます。
ただ、唯一、この映画の難点はボブの魅力が、映画の登場人物には感じることができるみたいなのですが、
残念ながら、この映画の観客にはボブの人間としての魅力がイマイチ伝わってこない点ですね。
確かにこれでは精神科医レオに同情が集まってしまうというのは、作り手の狙いとは外れている気がします。

とは言え、これはとっても面白い映画なんですよね。
ボブがバカンス先まで押しかけてきて、なんとかしてテレビ取材までには彼を排除しようと躍起になり、
振り払っても、なかなか振り払えないボブにレオが精神的に追い詰められてしまい、
すっかりボブを追い払うことに家族そっちのけで夢中になってしまい、ボブを精神病院にブチ込むために、
ボブをドライブに誘うシーンでレオが見せる表情は、なんとも絶妙な表情で面白かったですね。

一方で食事中に窒息したレオを、ボブがコテンパンに痛めつけながらも、
レイが喉に詰まらせた食塊を見事に吐き出させるシーンも、プロレスみたいで面白い。

そして念願のテレビ出演。
自尊心の強いレオは自分の著書、そして家族を自慢するはずだったのに、
何もかも思い通りにいかず、ボブを追い出そうにも追い出し切れず、全ての思惑は外れてしまいます。
ボブは良かれと思って、レオのことを称賛しますが、褒められれば褒められるほどレオの苛立ちは増すばかり。
この取材を受けている最中に、自分の思い通りにいかずに複雑な表情を浮かべるレオが可笑しい。

ただ、それらは第三者的に観ていられるから笑えるだけで、
これは確かにレオのような当事者になったら、たまらないでしょうね(苦笑)。
まぁレオはレオでチョット成功者として扱われた程度で、高慢な態度にでていたわけですから、
ボブのような、まるでストーカーみたいな患者につきまとわれ、ある意味で天罰のようなものなのですが、
それにしても、これだけ徹底した嫌がらせのような展開になると、レオがなんだか気の毒だ(笑)。

オマケにクライマックスの展開にいたっては、
ある意味ではトンデモなくブラックな展開であり、まぁ道義的には複雑な心境になるかも(笑)。

こういう展開をフランク・オズって、堂々と描けるというのが強みで、
思えば88年に彼が撮った『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』も内容的にはブラックでしたが、
映画がテンポ良くトントン拍子で進む、上質なコメディ映画で知られざる逸品であると思いますね。

そういう意味で本作なんかは、リチャード・ドレイファスをマイケル・ケインに、
ビル・マーレーをスティーブ・マーティンに置き換えてキャストしたら・・・と思うと、なんだかワクワクしてしまいます。

もう一つ注文を付けさせてもらうとすれば、レオの人間性をもっと理想的な形として描いて欲しかったですね。
彼が名声を得てから、開き直ったかのような商業主義に走ったり、嫌味な性格であるかのように描くのですが、
これお観た限りでは、観客にはレオがホントに有能な精神科医なのかすら、よく分からないのはネックですね。
少なくとも、彼の子育てに対するスタンスなんかも観る限り、彼が優れた精神科医というのに納得できない(笑)。

むしろジュリー・ハガティ演じるレイの妻をはじめとする、
彼の家族の方が、よっぽど精神科医らしい対応ができるというのも、強烈な皮肉ですよね。
確かに医者が、皮肉にも自分の専門とする病いにかかるという話しはよくありますが、
レオは成功者であるがゆえに、それだけいろんな部分で余裕が無かったということなのかもしれません。
(ちなみにジュリー・ハガティは80年の『フライングハイ』が懐かしい・・・と言う人は、そうとうな映画ファン)

この邦題はかなり思い切った内容で、
確かにコメディ映画が好きな人なら、思わず観たくなるようなタイトルではあるのですが、
確かにこの映画は、原題の意味では分かりづらいですから、これぐらい思い切った邦題の方が良かったのかも。

この邦題は、ある意味でビル・マーレー演じるボブとリチャード・ドレイファス演じるレオの
2人に共通して言える邦題になっているというのも、この映画のミソなんですよね。
そう考えれば、案外、映画の内容の的を射た、そう悪くはない邦題なのかもしれませんね。

あまり有名な作品ではなく、日本でも一時期、DVDとして発売されていたようですから、
観れる環境にはあるのですが、今は既にDVDも廃盤になってしまっているようです。
たぶん探すのに苦労すると思いますけど(笑)、その苦労の価値はある一作かもしれません。

(上映時間99分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 フランク・オズ
製作 ローラ・ジスキン
原作 ローラ・ジスキン
    アルビン・サージェント
脚本 トム・シュルマン
撮影 マトクル・バロウズ
    ミヒャエル・バルハウス
音楽 マイルズ・グッドマン
出演 ビル・マーレー
    リチャード・ドレイファス
    ジュリー・ハガティ
    チャーリー・コースモー
    キャスリン・アーブ
    トム・アルドリッジ