幸せへのキセキ(2011年アメリカ)
We Bought A Zoo
キャメロン・クロウの映画は好きなんだけど・・・
05年の『エリザベスタウン』とほぼほぼ同じアプローチですね。『エリザベスタウン』は素晴らしいと思ったけど、
さすがに2作連続で同じような映画というのは、あまり賛同できない。とてもパーソナルな想いがあるのだろうけど・・・。
映画は妻を脳腫瘍で失いという悲劇に見舞われながらも、全財産を投じて廃園した動物園を購入し、
職員と動物たちの面倒を看る決心をして、なんとかして開園にこぎ付けたベンジャミンの姿を描いたヒューマン・ドラマ。
本作あたりからキャメロン・クロウの監督作品の扱いが悪くなった気がして、
本作の次に撮った『アロハ』がいわゆる“ホワイト・ウォッシング”のバッシングを浴びてしまい、以降は撮ってません。
個人的には“ホワイト・ウォッシング”の風潮は分からなくはないけど、あまりに一方的に排除する感じで、
どうにも好きになれない部分もあって、キャメロン・クロウにはまた映画を撮って欲しいし、頑張って欲しいんだよなぁ。
息子が14歳、娘が7歳というまだまだ母親が必要な時期に、突然の病で母親を失ってしまう。
娘の成長には母の存在が必要不可欠で、思春期を迎えた息子との関係に悩ましく、とても難しい状況になります。
父であるベンジャミンも息子にどう接したら良いか分からない部分もあって、彼もまた父として葛藤するわけです。
何とか苦しい状況から家族全員が脱するキッカケを作りたいとばかりに、引っ越しする決断をしますが、
慣れ親しんだ土地や家から離れるわけで、母を失った反動で非行に走った息子は校則違反を繰り返し退学処分。
しかし、引っ越しをすれば友人など顔馴染みがいなくなるわけで、余計に息子の気持ちはベンジャミンから離れてしまう。
これは答えはなかったと思うし、ある程度は時間が解決する部分もあったとは思うが、
ベンジャミンが良かれと思って引っ越し、しかも動物園を買うというスゴい決断をしたこと自体が、
現実問題としては一概に家族全員のためになることとは言い切れず、経済的な部分も含めてギャンブルでした。
まぁ、映画ではベンジャミンが奮闘して動物園を無事に開園させるまでを描いていて、
嫌味で無礼な保健所の検査官がいきなり視察に訪れて散々嫌味を言われて、慌ててあらゆる改善を行います。
その中で“想定外”とは言ってはいけないのかもしれませんが、グリズリーが脱走したり、目玉にしようと考えていた、
虎が寿命を迎えてしまうといった、様々なトラブルが描かれていて、ベンジャミンの経営も一筋縄にはいきません。
そんな中で、難しい関係となってしまった息子との関係修復というから、相当にエネルギーの必要なことではあります。
ただ、『エリザベスタウン』でも仕事で徹底して大失敗をしてしまった主人公が、
突然、若いCAに“付きまとわれて”、その過程で失敗したというダメージを修復していく姿を描いていたわけで、
ハッキリ言って、本作も妻を喪失して動物園の開園準備を通して、家族の絆と自分自身のマインドを修復していくという
物語をほぼ同じテンションで描いていることが、僕の中ではどうしても気になってしまって、どうにもノレなかったなぁ。
正直言って、息子との葛藤を描くのも良いんだけれども映画の主題がブレてしまうような気がして、
そうなるくらいであれば、あくまで動物園を無事に事前検査をクリアさせて、開園させるまでの苦労にフォーカスして、
ベンジャミンが資金調達したり、動物園の職員たちとの人間関係に絞った方が、映画は良くなったような気がした。
キチッとした脚本を用意して、きめ細やかに気を配った演出ができるキャメロン・クロウだからこそ、
映画全体のバランスを考えて構成することに長けているはずなのに、そういった部分が本作は上手くいっていない。
あまり動物園の飼育係には見えないけど(笑)、スカーレット・ヨハンソンは良い存在感だ。
ベンジャミンとのロマンスが個人的には少々ウザったいと感じたけど、やっぱりキーマンとして上手く機能する。
飼育係のメンバーたちの中でも若い方なのだろうけど、姉御肌な感じでいながらも、前に出過ぎないという絶妙さ。
そういう意味では、マット・デイモンにスカーレット・ヨハンソンを集めたキャスティングが勿体ないですね。
この2人の組み合わせはそれなりに話題性あったと思うのですが、日本での劇場公開もアッサリと終了しました。
日本での劇場公開も全米公開から半年経ってからのことだったので、公開前から微妙な作品だったのでしょうね・・・。
個人的にはキャメロン・クロウは応援しているディレクターなので、こういう扱いを受けてしまうのは残念。
とは言え、実際に本作の出来はあまり良くないだけに、こればっかりは映画会社の判断に文句は言えないですね。
この映画で最も印象的だったのはベンジャミンが言っていた“20秒の勇気”ですね。
ベンジャミンが亡き妻、残された子どもたちにとっての母親との馴れ初めで発揮したベンジャミンの“20秒の勇気”です。
つまり、大きな壁であることは間違いない“20秒の勇気”を出すことで、人生を前に勧めることができるというもの。
映画のラストにある、ベンジャミンが初めて妻を見て、衝撃を受けたカフェで出会いを再現するシーンが良いですね。
この辺がキャメロン・クロウの言葉のマジックのようで、実に彼らしい映画になっていますね。
それにしても、動物園を個人が経営するということは並大抵のことではありませんからね。
ベンジャミンが実際に経験した苦労というのは、凄まじいものであっただろうと思います。飼育員を雇用して、
読めない天候に翻弄され、猛獣までいる園の管理は大変なものだ。飼育管理にかかる費用は膨大なものであり、
素人が経営を始めたということで周囲の目は厳しく、銀行などからの資金繰りも普通に考えれば困難なことだろう。
映画の中でサラッと描かれていますが、飼育している猛獣が脱走したら、そりゃビビるのは当たり前(笑)。
映画の焦点が保健所の嫌味な検査官から、なんとかして合格をもらうということなだけに、これは致命的な出来事。
勿論、脚色されたことでしょうから、そのまんま現実で起こったことではないのでしょうが、これは唖然としますね。
本作の物足りないところは、境遇としてベンジャミンの置かれた環境はとても厳しいもので、
彼なりに当然ツラい経験であったのだろうけど、、その苦難を乗り越える感覚が弱くて、掘り下げられなかったところだ。
キャメロン・クロウのこれまでの監督作品からすると、もっとしっかりと描けたところだったと思うので、残念ですね。
実在のベンジャミンはダートムーア動物園を個人で開園させ、後に200頭もの動物を飼育することになります。
その情熱たるや並大抵のものではなく、周囲の協力や理解がない限り無理だろうし、とてつもない苦労だったでしょう。
だからこそ、映画の中でその苦難を表現して欲しかったし、やっぱり息子との葛藤に時間をかけ過ぎたように思う。
ちなみに前述した動物の脱走という点では、ダートムーア動物園が一時的に閉園を余儀なくされ、
ベンジャミンが買い取る前に、違う動物のエリアへ侵入するという事故があったようですが、これは元々の経営者が
老朽化した施設を改修せずにいることで、動物福祉や安全性の観点から問題視され警告されていたのですが、
それを修繕せずにいたことで起きた事故だったようで、これはベンジャミンに直接的な責任は無かったようです。
それにしても、仕事柄、分野は違うけど保健所の人と関わることが多いということもあってか、
動物園管理に関わる保健所の立ち位置というのを考えさせられた。正直、担当官によって言ってることも変わるし、
そのスタンスも異なるように感じるのですが、時には本作で描かれた担当官くらいの方が良い時もあるとは思う。
そもそも日本では、馴れ合いを防ぐ意味でも、公務員は定期的に転勤がありますので、
ちょいちょい担当官が替わりますが、自分もそうですけど、どうしても人なんで親しくした方がやり易いと感じちゃうもの。
さすがに法に触れることはしませんけど、フレンドリーにはしようと思っちゃいます。味方につけた方がスムーズですし。
本作で描かれたような担当官なら、行き過ぎたら憎まれちゃうけど、懐柔することは考えられないですからね。
地域の安全を確保して、適切な運営管理を行ってもらう監督責任がある保健所からすると、それは当たり前のこと。
まぁ、「ここはきっと上手くいかない」と経営者であるベンジャミンに捨て台詞を吐いていくのはどうかと思いますが、
それでもこれくらいの強い態度でいることは、ある意味で理に適っているのでしょう。少数派なのかもしれませんが・・・。
あぁ...それにしても、キャメロン・クロウがこういう映画に落ち着いてしまうのは、なんだか残念だ。
『あの頃ペニー・レインと』を観た時は、89年の『セイ・エニシング』の監督デビューから10年でここまでになったと、
更に続く10年の飛躍を期待して、『エリザベスタウン』も世評的には不評だったけど、僕には納得いく出来だっただけに
ここにきて、これまでの監督作品をなぞったような映画を監督するということ自体、僕はまったく賛同できなかった。
もう、大人のメルヘンはいいでしょう。良い企画に巡り合えなかったのかもしれませんが、
それにしても、キャメロン・クロウ...いったいどうしてしまったのか!?と心配になってしまう、一作でした・・・。
(上映時間124分)
私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点
監督 キャメロン・クロウ
製作 ジュリー・ヨーン
キャメロン・クロウ
リック・ヨーン
原作 ベンジャミン・ミー
脚本 アライン・ブロッシュ・マッケンナ
キャメロン・クロウ
撮影 ロドリゴ・プリエト
編集 マーク・リヴォルシー
音楽 ヨンシー
出演 マット・デイモン
スカーレット・ヨハンソン
トーマス・ヘイデン・チャーチ
パトリック・フュギット
エル・ファニング
ジョン・マイケル・ヒギンズ
コリン・フォード
マギー・エリザベス・ジョーンズ
アンガス・マクファーデン
カーラ・ギャロ