幸せへのキセキ(2011年アメリカ)

We Bought A Zoo

そこまで出来の悪い映画だとは思わないけど、
これが本国アメリカ含めて、世界的に公開されたにも関わらず、
ほとんど話題にならず、興行的にも全くヒットしなかったという理由はよく分かる気がする。

監督は21世紀に入る頃は、絶好調だったキャメロン・クロウで
本作も実に彼らしい丁寧なアプローチで、変な色眼鏡をかけなければ、もっと純粋に楽しめたと思う。

でも、やっぱ...これがキャメロン・クロウの監督作品として考えると、寂しい内容なんだなぁ。
僕にはどうしても、本作が彼の創作活動の中で見ると、「後退した映画」にしか見えない。
確かに僕は、酷評された05年の『エリザベスタウン』も凄く気に入ったので、似たような世界観の本作も、
十分に好きになる要素はあったと思うし、商業的にも“10年前であれば”もっと成功していたと思います。

この映画を観終わった後の純粋な感想としては、
「どうして、また似たような映画を撮るんだろう?」、この疑問がどうしても拭えなかった。

映画ファンには好意的に受け入れられなかったようですが、
正直、『エリザベスタウン』の緩い空気感は、逆に僕には新鮮に映った面もあったし、
第一、大人のメルヘンを描いた映画として考えれば、一見隙だらけの映画には見えるけど、
実に良く出来た“設計感”のある映画になっていて、僕の中では歓迎すべき映画となりましたね。

但し、本作はどうしても「二匹目のドジョウを狙いにいった」感が否めない。
大人のメルヘンの2連発はキツいですね。これはこれで、親子愛を題材にしながらも、
ある意味で大人のメルヘンに近い世界観で、劇場用映画のメガホンを取ったのは『エルザベスタウン』以来、
6年ぶりだったことを考慮すると、個人的には全然違うニュアンスを持つ映画を手掛けて欲しかったですね。

おそらくキャメロン・クロウにとって、
ベンジャミン・ミーの原作は映画化したい気持ちにさせられるほど、感銘を受けたのでしょうが、
どうしても後向きな姿勢で、前作と「同じポジションに収まろうとしている」と解釈できてしまうのですよねぇ。

映画の中盤あたりでは、強く感じたのですが、
主人公の描き方が、どうしても『ザ・エージェント』のトム・クルーズと被るんですよね。

『ザ・エージェント』では、それまでは成功続きだったスポーツ・エージェントが
とつもない挫折を味わって、再起するまでを描き、当時の大スターだったトム・クルーズが
実質的に初めて挫折を味わう役柄を演じたということで、高く評価されましたが、
本作の主演のマット・デイモンがオーバー・リアクションで悔しがる姿は、まんまトム・クルーズ(笑)。

あまりキャメロン・クロウも意識はしていなかったでしょうけど、
それでもどこか彼の中に染み付いてしまったスタイルが、悪い意味で色濃く反映されてしまいましたね。
勿論、キャメロン・クロウの持ち味そのものは否定しないですし、僕は彼の映像作家としての
持ち味は好きなのですが、どうしても本作のスタイルには迎合することはできなかったですね。

映画は命知らずの記者であったベンジャミンが、愛する妻を亡くしたことをキッカケに
遺された子供たちとの生活に躍起になりながらも、ありったけの資産を投じて、
閉園した動物園を買い取り、手探りで整備を進めて、なんとか開園しようとする姿を描いています。

どうやって集客するかに注力する映画なのかと思いきや、
とっても地味な題材なのですが、如何に法令基準に満たした動物園として整備するかがメインで、
通常の映画ではあまり触れられないようなことを中心的に語るというのは、実に珍しいと思う。

どうやら、実在のベンジャミンは06年に約1年間かけて仲間たちと整備を進めたそうですが、
脳腫瘍に侵されていた妻が生きているうちに動物園を開園させようと尽力していたそうです。
残念ながら病に侵された妻は、買い取った動物園の開園を見ずに他界してしまったそうなのですが、
この一連の出来事を08年に小説として出版し、すぐに映画化の権利が買い取られたそうです。

まぁスカーレット・ヨハンソンをキャスティングできたり、資金力もあった企画だったのでしょう。
ひょっとしたら、キャメロン・クロウがメガホンを取るということに魅力があったのかもしれません。
いずれにしても、本作はキャストからもプロダクションからも期待されていたはずなのです。

そうなだけに、個人的にもこの後退したかのような内容にガッカリしてしまいましたね。

21世紀に入る頃までのキャメロン・クロウは順調にキャリアを積み重ねていて、
01年の『バニラ・スカイ』など、規模の大きな映画も手掛けることがあったりして、
チャレンジ性の高い企画もやっていたし、『あの頃ペニー・レインと』のような優れた作品も手掛けている。

あの頃は00年代はハリウッドでもトップクラスの活躍をするだろうと思っていました。
しかし、何かプライベートな理由もあったのかもしれませんが、思ったほど伸びませんでしたねぇ。
まだまだデキるディレクターだと思えるだけに、これからでもまだまだ活躍して欲しいんだけどなぁ・・・。

凄くインパクトに残るシーンがあるわけでもなく、映画としての決定打も無い。
相変わらずトム・ペティとか、選曲は光るものはありますけど、音楽も使えばいいってもんじゃない。
本作なんかは半ばヤッツケ仕事のように音楽がチョイスされている感じで、音楽も引き立ってない。
音楽ライターとして定評があるキャメロン・クロウとは思えない、愛の感じられない使い方で残念。
出来の悪い映画ではないんだけど、全てが平均点に僅かに及ばないレヴェルといった感じで、
その水準の低さというのを、こういう音楽の使い方が象徴しているように見えてなりません。

しかし、マット・デイモンもこういう役柄が回ってくるようになったか(苦笑)。
ついこの前まで若手俳優の扱いだったような気がしていただけに、時の経過を感じるなぁ〜(笑)。

すっかり思春期の子供がいる父親の姿も板に付いている感じで、
そこまで違和感があるキャスティングではないあたりが、なんとも言えない気持ちにさせられたなぁ。
おそらくこれからは、こういう役回りも増えてくるのでしょうね。まぁ・・・まだまだ若々しくも見えますがね。

なんとかして、キャメロン・クロウには復活してもらいたいですね。
ここまで丁寧に映画を撮れる映像作家はそう多くないだけに、ホントはお手本になって欲しい存在なのに。
どちらかと言えば、寡作な映像作家でもあるだけに、勢いが落ちてしまうとどうしても苦しいですねぇ。

残念ながら、本作の次に撮った監督作品に至っては、日本では劇場未公開作扱いになりそうです・・・。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 キャメロン・クロウ
製作 ジュリー・ヨーン
    キャメロン・クロウ
    リック・ヨーン
原作 ベンジャミン・ミー
脚本 アライン・ブロッシュ・マッケンナ
    キャメロン・クロウ
撮影 ロドリゴ・プリエト
編集 マーク・リヴォルシー
音楽 ヨンシー
出演 マット・デイモン
    スカーレット・ヨハンソン
    トーマス・ヘイデン・チャーチ
    パトリック・フュギット
    エル・ファニング
    ジョン・マイケル・ヒギンズ
    コリン・フォード
    マギー・エリザベス・ジョーンズ
    アンガス・マクファーデン
    カーラ・ギャロ