ウォーターワールド(1995年アメリカ)

Waterworld

95年度のハリウッドを代表する失敗作としての烙印を押されてしまった印象が強いのですが、
褒められた出来ではないかもしれないけど、酷評するほど楽しめない映画ではないと思います。

実際に大阪のUSJでは人気アトラクションとなった元ネタなだけに、
映画自体のアトラクション性が高く、色々と入り乱れた合戦が次々と描かれており、
ケビン・レイノルズとケビン・コスナーが巨額の製作費を投じて映画化した意味はあったと思いますけどね。

ただ、この映画を製作するにあたって、どのようなマーケティングを狙っていたのかが、
よく分からない映画の世界観・内容になっていて、どこかチープというか家族向けの映画とも言い難い感じだ。
僕の中での印象は、どことなく『マッドマックス/サンダードーム』をお金をかけてやりました、みたいな映画とでして、
よくこんなにお金をかけてチープな映画を撮ったなぁと感心したくらいだ。でも、こういうの好きな人いますからねぇ。

バトル・アクションとして観たらハッキリ言って、ダメですよ、この映画。
珍しくこういうエンターテイメント作品にコミカルな演技を求められるところでデニス・ホッパーが出演しているのに、
この“スモーカーズ”という荒くれの海賊のような連中、全く強くないから、ピンチに思えない緩さですからね。

ただ、ある程度はCGで表現できる時代であったにも関わらず、
本作は大規模なセット撮影と、ハワイ沖でロケするなど巨額の予算を投じることを選択肢、
セット撮影でアナログにアクションを表現するなど、スタッフの思いがこめられた内容ではあると思う。

結果として出来上がったものは、エンターテイメント大作というよりも、
僕はどちらかと言えば、シュールな題材を描いたB級カルト映画に近い感覚なのだけれども、
こういうことをお金をかけてやるハリウッドのプロダクションの器の大きさは、僕は結構好きなんですけどね。

日本でも当時はケビン・コスナーは人気俳優でしたし、残念ながら本作あたりから
彼の人気は下降線を辿ったような記憶がありますが、ケビン・コスナーの知名度は大きかったと思いますね。
今ならこの内容じゃ、ほぼ間違いなく映画館で上映されないレヴェルのチープさですよ(笑)。

地球温暖化の影響で氷河が溶けてしまったがために海水面が大幅に上昇し、
地球上の陸地の多くが水没したことで、水上での生活を強いられることになった人類の生き残りが、
文明は退化しながらも、陸地を夢見る日々を送りながら、時折、襲ってくる“スモーカーズ”という連中に脅え、
そこに流れ着いた主人公のマリナーが“スモーカーズ”が狙っている少女と出会ったことから、映画が動き始めます。

ケビン・コスナーの主張なのか、何なのか分かりませんが、
この映画は結構、地球環境保護のメッセージが込められているような気がして、警告のようでもあります。

内容的には、男性の目線で作られた映画なので、この描かれ方に賛否はあるかもしれません。
そもそも、マリナーの船に助けられた女性ヘレンと、少女ですが、人慣れしていないマリナーを見て、
まるで自分が生贄になると言わんばかりに、いきなりヘレンが「いいのよ」と言って全裸になるという、
全く説明がつかない謎なシーンがあったり、途中でマリナーの船と接近した漂流者と“物々交換”をすることになり、
やはりヘレンを差し出すなど、男性の性(さが)に忠実に生きる姿をやたらと強調して描いています。

まぁ、こういうシチュエーションになったら、そりゃ現実にそうなのかもしれないけど、
さすがにファミリー向けの夏休み映画の中で、執拗に描くべき展開ではないですよね(苦笑)。

それでいて、悪党とのバトルは全く危機感を煽ることがない攻防なので、
アクションを楽しませる映画というよりも、大海原をバックにしたロケーションとどこか世紀末感が漂う、
世界観を楽しむタイプの映画なのでしょうね。この辺は脚本のデビッド・トゥーヒーのカラーが出ているのかもしれない。

悪党を演じたデニス・ホッパーはなんだが楽しそうに演じていますが、もっと手強い相手だったらなぁ。
そうなれば、この映画はもっと締まりのある仕上がりになったと思いますが、なんだか勿体ないですねぇ。
ひょっとしたら、違うディレクターが監督していたら、この映画の方向性は変わっていたかもしれませんがね。

水だらけの世界を描いたからこそ、皆、陸地を渇望するという気持ちはよく分かるのですが、
土が貴重な資源となり、高く売買されているというのが面白い。だから、鉢植えを持っているのは貴重なんですね。

僕は最初、何を争っているのかよく分からなかったのですが、結局は資源の奪い合いなんですね。
これは現代社会にも通じることであり、やはり豊富な資源を持っている国というのは、いろんな意味で強いですから。
物的資源、人的資源といろいろありますけど、資源があれば経済が回る仕組みになっていますからね。
そして水だらけの世界であるけれども、周りが海しかないからこそ、真水が貴重な存在となります。

映画の冒頭でいきなり登場しますが、マリナーが自分の尿を浄化して、
僅かな飲料水とする装置がありますが、僕は思わず「飲尿療法かよ!」と思ってしまいましたが、
そうではなくって、真水がゲットできないからこそ、生きるために必要な水を尿から得るという発想に至ったのでしょう。

未来を描いた映画であるはずなのに、陸地が海の底に沈んでしまったからこそ文明社会が退化し、
人々は原始的な生活を強いられたわけで、なんとも皮肉な構図である。でも、この可能性は否定できない。
だからこそ、限りある資源である地球を大切にしようという思想が生まれるのは至極当然のことなのですが、
最近の環境政策や環境保護活動には、どこかイデオロギーが強く絡んできているように見えて、複雑化してますね。

フィンランドの女の子のスピーチが有名ですけど、あの子も国際的に色々と言われていて、
ある種の環境保護のアイコンとして使われているのだったら、それを利用する大人がいるということです。
この辺のバランスをとることはとても難しいのですが、一方で何もしないと、本作のような未来を迎える可能性もある。
(まぁ・・・おそらく良識ある人々がそうはさせないように、活動するとは思いますがね・・・)

演じるケビン・コスナーの問題もあるのかもしれないけど、主人公のマリナーのキャラクターは賛否あるだろう。
イメージ的には、映画の中で終始、どこかカリカリしているような雰囲気で、やはり近寄り難いオーラが出ている。
気に食わないことがあれば露骨に怒るし、少女を海を放り投げるし、お世辞にもヒーローの立ち振る舞いではない。
良く言えば、如何にも「海の男」な感じではありますが、映画の終盤ではヒーローっぽく描くので、違和感がある。

ホントはマリナーと一緒に戦うキャラクターが欲しかったところだと思う。
ひょっとしたら、違うディレクターが監督していたら、そう選択していたかもしれない。その方がバランスはとり易いし。
そうすれば、ケビン・コスナーの独壇場みたいな映画にはならずに、マリナーだけがヒーローというよりも、
共感を得やすいキャラクターと共に映画を進めて、クライマックスはもっと盛り上がったと思うんだよなぁ。

随分と金をかけてB級アクションを撮ったものだから、劇場公開当時はかなり批判されましたけど、
個人的には酷評するほど悪い出来の映画ではないと思うし、結構、惜しいところまで頑張った作品だとは思う。

ただ、もう少し映画全体のバランスを意識して、ケビン・コスナーと対等に渡り合うキャストがいれば、
映画の印象は大きく変わったでしょう。それに、映画の世界観も幾分か世紀末感を出し過ぎましたね。
ケビン・コスナーのネーム・バリューを利用した企画ではありましたが、彼がカッコ良く見えないのは致命的でした。

繰り返しになりますが、通常のエンターテイメントをこの映画に期待してはいけません。
85年の『マッドマックス/サンダードーム』が好きな人には、是非ともオススメしたい一風変わった映画です。

(上映時間135分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ケビン・レイノルズ
製作 チャールズ・ゴードン
   ジョン・デービス
   ケビン・コスナー
   ローレンス・ゴードン
脚本 ピーター・レイダー
   デビッド・トゥーヒー
撮影 ディーン・セムラー
編集 ピーター・ボイル
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ケビン・コスナー
   ジーン・トリプルホーン
   デニス・ホッパー
   ティナ・マジョリーノ
   マイケル・ジェッター
   ゼイクス・モカエ
   ラニー・フラハーティ
   ジャック・ブラック

1995年度アカデミー音響賞 ノミネート
1995年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 ノミネート
1995年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(ケビン・コスナー) ノミネート
1995年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(デニス・ホッパー) 受賞
1995年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(ケビン・レイノルズ) ノミネート