ウォーターボーイズ(2001年日本)

日本では、女性の競技という固定観念が強かったシンクロナイズドスイミングに熱中し、
高校3年生、最後の学校祭で近所の人々にチケットを販売して、演舞を見せようと奮闘する姿を
高校生の瑞々しい雰囲気を活写し、テンポ良く仕上げ、日本では大ヒットした青春コメディ映画。

後にテレビ・ドラマ化もされましたが、
確かにこれは勢いがあって、上映時間も短いせいか、最後まで一気に観れる。

映画の出来も良く、やや竹中 直人演じる水族館のオッサンのキャラは狙い過ぎな感じが気になりますが、
それでも若さを活かした、日本映画としては久々にフレッシュな魅力に溢れた映画で、出来も良いと思います。

監督は本作でのヒットが認められ、後の日本映画界ではヒットメーカーになる、
矢口 史靖で本作のヒットが無かったら、『スウィングガールズ』も『ロボジー』も無かっただろう。
本作公開当時、日本は映画産業がもう少しエンターテイメントとして活発だったので、
本作のようなハッキリ言って、小粒な作品にも十分にスポットライトが当たったのですが、
昨今の日本に於いて、本作を劇場公開しても正直、当時ほどのヒットにはならないかもしれませんね〜。

個人的には映画ファンとして、
この手の映画がヒットする時代であって欲しいと思ってて、こういう作品が評価されないと、
やはり映画産業全体が活発化せず、大きな規模の映画というのも、製作されなくなってしまうんですよね。
こういう映画がヒットするというのは、一つのバロメータみたいなものだと思ってても、間違いではないと思いますね。

シナリオの良さもあるとは思いますが、
映画のテンポも素晴らしく、コミカルな展開にしてもバランスがひじょうに良いですね。

矢口 史靖は本作の成功の後から、数多くの企画に恵まれ、ヒット作も何本か撮りましたが、
本作での構成力の高さを考えれば、まだまだ数多くの映画を撮っていてもいいと思うんですよね。

実際、この映画がクローズアップされるまで、
男性シンクロはほとんど存在しなかったのですが、本作のヒットをキッカケにして、
日本各地の高校で男子シンクロ部が創設されるなど、少なからずとも影響を与えたらしく、
やはりそれまでの固定観念に囚われず、青春時代を純粋な気持ちで、それまで女子の競技というイメージが
強かったシンクロに打ち込んで、かなり本格的に上達していくというのが、多くの人々の心に訴求したんでしょうね。

どうやら、この映画の製作の発端は、この映画のプロデューサーは99年に、
川越高校の水泳部のドキュメンタリーを観たことキッカケで、本作の企画を思いつき、
後の川越高校の水泳部の学園祭での演舞には、2万人もの来場者がいたという、記録的な出来事が起こりました。

本作には実に数多くの若手俳優が出演しており、妻夫木 聡は既に注目された存在ではありましたが、
今の芸能界で活躍する、玉木 宏や金子 貴俊、平山 綾らがブレイクしたキッカケにもなりました。

まぁそれだけ勢いのある映画だったという見方はできるのですが、
正直言って、それぞれそこまで芝居が上手かったというわけではないので、企画に恵まれたのかもしれません。
個人的には玉木 宏演じる元バスケ部の青年のキャラクターなんかは、もっと掘り下げて欲しかったですけどね。

それと、前述したように水族館の職員を演じた竹中 直人はやり過ぎかな(笑)。
バイプレイヤーとして活かしたかったのだろうけど、演じれば演じるほど、映画にマイナスでしたね。
もう少し普通に演じて欲しかったし、地味に物語上、重要なキャラクターなわけですから、
ステレオタイプなギャグのようなキャラクターで終わらせることなく、もっと機能的でいて欲しかったですね。
本来的には、もっと主人公たちに良い影響を与えていることを、ハッキリと描くべきだったと思うのです。
少なくとも、この水族館職員がいなければ、主人公たちはシンクロに打ち込むことは無かったのでしょうからねぇ。

それでも多少、破天荒なシンクロに関しては、キチッと描いており、誤魔化したりはしていません。
おそらく、そうとう練習を要したのでしょうし、経験者を多く集めたと思われるのですが、
しっかりとしたまとまりのある演舞になっていますし、中途半端なシンクロではないと思いますね。
(勿論、専門家が見たら、技術的には色々と難点はあるのでしょうが・・・)

誰が思いついたのか知りませんが(笑)、
映画のラストのシンクロのシーンで使われている、シルヴィ・ヴァルタンのIrresistiblement(あなたのとりこ)は
この映画のヒットがキッカケで、再度、日本でも注目されるようになり、某飲料水メーカーのCMでも再び使われ、
この美しいメロディは今や、日本でも数多くの人々が知っているのですが、これがあまりにピッタリで驚く(笑)。

最近でこそ、シルヴィ・ヴァルタンはあまり世界的に注目された存在ではありませんが、
60年代後半は日本でも彼女の人気は高く、来日公演を行なったりと、根強い人気がありますからねぇ。
こういう使い方もあるということを大きくアピールした結果となり、何故か夏に聴きたい楽曲になりましたねぇ。

強いて言えば、映画の前半で主人公たちが何故、
強くシンクロにこだわって粘り強く練習に打ち込むのか、その理由を明確に描くべきでしたね。
本作は上映時間が極端に短いので、何かしらエピソードを追加しても、冗長にならずに済んだはずです。
たぶん本作を観ただけでは、イマイチ彼らがシンクロにこだわる理由がよく分からないと思うんですよねぇ。
まぁそれを眞鍋 かをり演じる新任高校女性教師に求めたのだろうけど、あまりにエピソードがアッサリと
終わらせすぎたせいか、どうも彼らがシンクロに打ち込む説得力を出すには、不十分だったと思いますね。

まぁ・・・あまりにストレートな映画なので、
ストレート過ぎる青春映画が苦手な人には向かないとは思いますが(笑)、
青春期のくだらないことでも笑い合える感覚や、青春期の瑞々しさが好きな人には是非ともオススメしたい一作。

正直、90年代の日本映画界は低迷を極めていた時期だったように感じていたので、
あまり思ったようなムーブメントには至らなかったとは言え、本作のヒットは間違いなく、
日本映画界に良い意味での刺激を与えたと言っても過言ではなく、今尚、その価値は失われていません。

どうでもいいけど・・・演舞の最中にパンツが脱げたら...そりゃパニックになるわな(笑)。

(上映時間91分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 矢口 史靖
製作 宮内 正喜
    平沼 久典
    塩原 徹
企画 石丸 省一郎
    藤原 正道
    遠谷 信幸
脚本 矢口 史靖
撮影 長田 勇市
美術 清水 剛
音楽 松田 岳二
    冷水 ひとみ
    田尻 光隆
出演 妻夫木 聡
    玉木 宏
    三浦 哲郎
    近藤 公園
    金子 貴俊
    平山 綾
    眞鍋 かをり
    竹中 直人
    杉本 哲太
    谷 啓
    柄本 明
    徳井 優
    川村 貴志
    杉浦 太陽
    蛭子 能収
    近藤 芳正
    西田 尚美
    山下 真司