宇宙戦争(2005年アメリカ)

War Of The Worlds

これは賛否あるのは分かるけど、僕は嫌いになれない映画。

H・G・ウェルズの名作の2度目の映画化作品であり、少しカルトな内容ではあるのですが、
スピルバーグの監督作品ということも相まって、劇場公開前から大きな話題となっていた作品でした。

まぁ、如実に「9・11」の影響を感じさせるヴィジュアル・デザインだなぁと実感させられますが、
本作は宇宙人の襲来というテーマを、地球に対するテロ攻撃として描いているのが特徴である。
タイトル通り“戦争”を描いているのだから当然と言えば当然かもしれないが、あまり無かった切り口ではあると思う。

どことなく、世紀末感も漂う映画ではあるのですが、本作でスピルバーグが強く意識したのは、
どこか非現実な宇宙人の襲来というオカルトな内容を、如何に身近な危機として表現するかということでしょう。
宇宙人の攻撃の仕方は現実的な映像表現とは言えませんが、それでも『プライベート・ライアン』あたりから
一貫してスピルバーグが実践してきている、観客に実感させる臨場感という観点から、やはり優れた映画ですね。
こういう仕事は、もはやスピルバーグのプロダクションからすると、お手のものといった感じなのでしょうね。

キャスティング的にもトム・クルーズを主演に据えたので話題性もありますが、
本作の場合は何と言っても、彼が守り続ける家族の一人である愛娘を演じたダコタ・ファニングでしょう。

まぁ、家族愛を主題に持って来るあたり、スピルバーグのダーク・サイドを垣間見る映画ではないことが
明白ではあるのですが、それでもパニックになる幼い娘を如何に守り抜くかというテーマにしっかり肉薄している。
それを堂々と演じ抜いたダコタ・ファニングは、やっぱりスゴかったと思うし、スピルバーグも良い役を作りましたねぇ。

映画は離婚した妻が、ボストンへ帰省するタイミングに2人の子供を預かることになった
ニューヨークに暮らす肉体労働者であるレイを主人公に、突如として彼らに襲いかかる宇宙人の襲来から
自宅から逃げ出て、何とかして愛する2人の子供を守り抜いて、無事に別れた妻に子供を返すために
何故か1台だけ動いた車を使って、ボストンを目指す姿を描いています。途中、宇宙人への反撃を叫び、
息子とは離れ離れになりますが、幼い娘を連れて逃げ込んだ屋敷の地下室で、元救急隊員と名乗る謎の男と知り合い、
「トライポッド」と呼ばれる宇宙人が操縦する機械について知りますが、これはそれで不穏な出来事に転じます。

まぁ・・・ニューヨークが壊滅的な被害を被り、大量虐殺にあったという設定で
あれだけ集中砲火的に攻撃を受けると、世界を代表する大都市とは言えど、甚大な被害を出すことは明白で、
逆にボストンはそこまでの被害が及んでいないということは謎ですけど、映画のラストはそこそこ充実感がある。

劇場公開当時、一部では酷評されていたと記憶していますが、
僕はそこまで悪い出来の映画だとは思わないし、そこそこ満足感の得られるエンターテイメントと思います。

とは言え、確かに少し物足りない部分はある。肝心かなめの宇宙人の攻撃が、
映画の終盤に差し掛かって、普通なら激しくなっていくのですが、本作の場合は何故か落ち着いていってしまう。
むしろ、宇宙人の攻撃に関しては、クライマックスと言ってもいいくらいの見せ場があるのは、映画の前半ですね。
前述した、ニューヨークの市街地で集中砲火的に攻撃を受けるシーン演出の方が、緊張感に満ちている。

それと、映画のクライマックスにある主人公レイが「トライポッド」に反撃するシーンですが、
あまり派手な攻防がある中で“最後の手段を打つ”という感じではないので、緊迫感に欠けたのは実に残念。
この辺はスピルバーグらしくないというか、スピルバーグ流の“しつこさ”というのを演出して欲しかったなぁ。

さすがにここまでアッサリとしてしまうと、本来、盛り上がるはずの映画の終盤が盛り上がらず、
むしろ映画の前半の方がドキドキする感じだったとなってしまっては、映画としてバランスを欠きますね。
ひょっとしたら、この辺のバランスの悪さで、印象を悪くしてしまった部分はあるのではないかと思います。

それから、宇宙人であるクリーチャーのデザインがあまりに凡庸というか...
今までの宇宙人を題材にした映画と、あまりに変わり映えのない定番化されたデザインだったのも、少々ガッカリ。

とは言え、これらは映画の価値を損なうレヴェルの難点であるかと聞かれると、僕は決してそうだとは思わないし、
スピルバーグ以外のディレクターが監督したとしても、ここまでの見応えは演出できなかったことでしょう。
そういう意味では、宇宙人がハッキリと明確な意思を持って、地球を侵略して自分たちの土地にするという、
テロ攻撃であるという要素を強めて描いたという、スピルバーグの選択は正しかったのだと思います。
これこそが本作の大きな特徴であり、本作でスピルバーグが展開した新たな切り口であったはずです。

映画の中で「大阪で一台のトライポッドを破壊したらしい」という不確かな情報が語られますが、
スピルバーグ的には日本人なら、そういうことが出来そうだと思っているらしく、これはチョット面白い。

そして、何故か唯一動いた車に乗って移動する主人公家族ですが、
その車を見て、一般市民と思われる群衆が「私も乗せろ!」と銃を突き付けてアタックしてくるのも印象的だ。
往々にして、人間は有事になるとパニックを起こすというものだが、弱肉強食のような考え方になるあたりは
欧米の欧米の方々の国民性もあるのかなと思うけど、パニックになるとは言え、日本人がこういうときに
これだけ秩序のないアウトローな行動に出るほど、振り切れる人がどれだけいるかは、かなり疑問がありますね。

そう考えると、「助かるためには、どんなことでもやる」というパニック心理が働くのかもしれない。
実際、「9・11」のときの現場付近もパニック状態でスゴい状況だったようですからね。それを経験しているだけに尚更。

本作でのトム・クルーズは、やや“いつもの調子”を抑えて表現していたようだ。
決してクリーンな役柄ではないし、切羽詰まってトンデモない行動に出るなんてこともある。
映画の序盤では、典型的なダメ親父だったのが、いつの間にか頼れるオヤジに変貌していくのも悪くはない。
頼れるオヤジはともかくとして、映画の前半で演じたようなダメ親父っぷりは、トム・クルーズっぽくない意外さがある。

小さなことではあるけれども、トム・クルーズにとってもチャレンジングな企画ではあったのかもしれません。
少なくとも本作は典型的なスター映画という感じではなく、役柄としては結構泥くさいところが多いと感じます。

まぁ・・・オカルトな雰囲気を捨てて、家族愛のテーマに置き換えてしまったことが
賛否を呼んでしまった感もあるのですが、そこはトム・クルーズのダメ親父ぶりを楽しむということで勘弁して欲しい(笑)。
それよりも、映画前半の宇宙人の襲来のインパクトはそこそこ強いもので、それを最後まで観客に意識させながら、
クライマックスの「トライポッド」を撃退しに挑戦する主人公の姿まで、映画を引っ張り続けたのがスゴいと思う。

こういう強引さは、良い意味でスピルバーグらしいと僕は感じています。
と言うのも、この映画を観ていて感じたのですが、スピルバーグは最後にピークを持っていくよりも、
むしろ最初のインパクトを大事にしたいという考えの持ち主なのかも。思えば、『JAWS/ジョーズ』もそうだったし、
98年の『プライベート・ライアン』では映画の冒頭訳30分で、やりたいことを全てやり切ったように見える演出だった。

これこそが、スピルバーグのスタンスの基本にあるものという感じがして、本作でもしっかり根付いている。

これがスピルバーグを理解していることにはならないと思うが、
非現実を現実世界に持ち込むことが得意なスピルバーグですから、最初が肝心ということなのでしょう。

でもね、矛盾したことを言っちゃうかもしれませんが、僕は嫌いになれない映画ですけど、
賛否が分かれるだけに、敢えてそこまで過度な期待をかけて本作は観ない方がいいのかもしれません。
「あんまり評判良くないみたいだなぁ〜」と、少し斜に構えて観るくらいが、本作は丁度良いのかもしれません。

(上映時間116分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 スティーブン・スピルバーグ
製作 キャスリン・ケネディ
   コリン・ウィルソン
原作 H・G・ウェルズ
脚本 デビッド・コープ
   ジョシュ・フリードマン
撮影 ヤヌス・カミンスキー
編集 マイケル・カーン
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 トム・クルーズ
   ダコタ・ファニング
   ティム・ロビンス
   ジャスティン・チャットウィン
   ミランダ・オットー
   ジーン・バリー
   ダニエル・フランセーゼ
   アン・ロビンソン
   リック・ゴンザレス

2005年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート
2005年度アカデミー音響効果賞 ノミネート
2005年度アカデミー音響賞 ノミネート
2005年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(トム・クルーズ) ノミネート